作品タイトル不明
226.父親の役目 ***SIDE公爵
仕事に行かなくてはならない。わかっていても辛い。可能なら、アマーリアやレオンと一緒にいたかった。特に今はレオンを傷つけられた直後だ。それでも大人しく王宮へ向かう理由があった。
ティール侯爵家から、謝罪に伺いたいと連絡が入っている。屋敷に足を踏み入れさせたくなかった。傷ついたレオンは屋敷の中で、笑顔を見せる。それは安心できる場所だと知っているからだろう。その大切な場所に、奴らを呼びたくないのが一つ。
お茶会ほど着飾っていなくても、美しい妻を見せたくないのが一つだ。公爵夫人の社交時より柔らかな笑みを浮かべる彼女を知れば、誰もが見惚れる。自慢したいくらい誇らしく、勝手に見るなと腹立たしくなった。
モヤモヤした気持ちを相談したら、フランクに困惑した顔を向けられた。わかっている、きちんとアマーリアと話し合えと言うのだろう。契約婚とはっきり伝えていないが、結婚当初の扱いから察している家令はアマーリアの味方だった。
考えながら馬車を降り、執務室へ入る。すぐに来客が告げられ、隣の応接室で対応した。ティール現侯爵と先代侯爵が、直立不動で待っている。侯爵夫人は寝込んで外出できないらしい。
先に腰掛け、軽く指先で促した。途端に彼らは揃って腰を深く折って詫びる。
「この度は誠に申し訳ございませんでした」
「ケンプフェルト公爵家を軽んじる気はなく、あの子には厳しい教育を受けさせる予定で……」
まだ続きそうな謝罪を、俺は指先で遮る。コンコンと音をさせて机を爪で叩いた。その音にこちらを見た二人へ、座れと無言で合図を送る。顔を見合わせた後、親子はゆっくり座った。
「謝罪は聞いた。だが受け入れるかどうかを決めるのは、我が息子レオンだ」
謝罪は受け入れられて初めて価値がある。そう示し、続けようとした言葉を呑み込んだ。罰は妻アマーリアが決めるだろう。口に出さず、心の中に留めたのは……彼女の名を聞かせたくないから。
不思議な感情だった。公爵夫人の名前は貴族名鑑で確認できる。それなのに、妻アマーリアと表現することへの抵抗感があった。俺の妻だが、彼女は俺をどう思っているか。契約で親切にするだけの男か? レオンの父親だから隣に立つことを許されているのでは?
湧き上がった不安と、奇妙な胸のざわつき。どちらもアマーリア絡みの感情だった。八つ当たりは見苦しいと、深呼吸して感情を抑え込む。大丈夫だ、こういう 訓(・) 練(・) は受けている。
「ご子息様の様子はいかがですか」
「想像の通りだ」
元気ではないし、寝込んでもいない。どちらとも取れる曖昧な言い方をして、俺は二人の様子を窺った。外交の手腕は王妃殿下の方が上だが、俺もそれなりにできるぞ。小さな仕草を目で拾いながら、ティール侯爵家への対応を考える。
次男への教育を厳しくすると言ったが、あの性格では反発するだけだろう。子供の対応はアマーリアが得意だ。知恵を借りるとしよう。レオンを守る父親としての役目は果たせたと思う。