作品タイトル不明
223.子猫に会うための外出
予想通り、両手の指が痛い朝を迎える。ヘンリック様の気遣いで、パンに野菜や肉を挟んでもらった。挟んだ具を落とさないよう齧れば、レオンも同じ物を食べている。
「おなち!」
にこにこと笑顔で告げられ、私は嬉しくなった。同じ行為をする姿は可愛いし、こうやって家族に笑顔を向けて話してくれるのも嬉しい。ヘンリック様は挟んだ菜が噛み千切れず苦戦するも、どこか楽しそうだった。結局うまく噛み切れず、葉だけ先に食べてしまったのよ。
今日はさすがに仕事を休めないらしく、あれこれ気にしながらも玄関へ向かった。レオンと手を繋いで見送りに行き、強請られて頬を寄せる。ハグをして頬を合わせるのは、この世界では一般的な挨拶だ。それでも家族ぐらい関係が近くなければ行わないけれど。
ヘンリック様は夫で家族だもの。私達の挨拶を見て、レオンは目を輝かせた。
「ぼくも!」
「もちろんよ、レオン」
抱き上げて、ヘンリック様と頬を触れさせる。それから私とレオンも行った。本当はレオンも私も屋敷にいるから、挨拶は不要なの。でも可愛いし楽しそうだから、挨拶しましょうね。手を振ってヘンリック様の馬車を送り出した。
「今日は予定がなかったはずよね」
確認のつもりで呟くと、リリーが小さな声で訂正を入れた。
「猫をお探しとのことでしたので、顔合わせを手配いたしました」
「あら、もう見つかったの? ありがとう」
使用人達が手を回して、猫を探してくれたようだ。どこかで飼い手を探す子猫がいたらと思って話したが、こんなに早く見つかるなんて。本当に有能な使用人ばかりね。
候補の猫は三匹、侍従の実家の屋根裏で猫が産まれたらしい。見せてもらうのは三匹だが、子猫の一匹は侍従の実家で飼うと聞いた。猫はネズミを駆除するため、家を守る益獣と考える家が多い。穀物庫に猫がいれば、安心だものね。
飼うことはできなかったが、シュミット伯爵家にも猫は出入りしていた。勝手に入り込み、穀物庫の近くにある窓辺で昼寝をする。少しするとどこかへ帰っていくのだ。名前も知らないあの猫は、新しい昼寝場所を見つけただろうか。
懐かしく思いながら、レオンと一緒に馬車に乗り込む。リリーとマーサも同行し、後ろに一台の馬車がつく。どうしても行きたいと双子が泣きつき、お父様が保護者として付き添った。エルヴィンはまだ体調が回復しないので、今日は離れで寝ている。
「える、ない」
「そうね、エルヴィンはお留守番よ。何かお土産を選んであげましょうね」
「うん」
お土産と留守番が紐づいたのか、すぐに頷いて足を揺らした。今日は膝の上ではなく、隣に腰掛けている。ぶらぶらと足を揺らし、ご機嫌で窓の外の景色を眺めた。途中から靴を脱がせて、座面へ足も乗せてあげた。この方が外が見やすいと思うわ。
「何か素敵なものが見える?」
「あれ」
大きな建物を指差す。タイルなのか、キラキラした壁面が珍しいようだ。綺麗ねと同意し、またレオンが教えるものを楽しみに待つ。外へ飛び出したらダメよ、とか。危ないから大人しくしていてね、とか。言いたいことはたくさんあるが呑み込んだ。
幼い子は否定する言葉を理解できない。そんな話を聞いた気がするの。だから危ないと言葉で注意するより、私が防ぐ方がいいと思う。リリーやマーサ以外にも、騎士が同行しているし……余程でなければ危ないこともないでしょう。