軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

八十四話 山は動かない……ので人より簡単だ

前触れも無く発生した魔物の暴走を、町に被害が及ぶ前に撃退する事に成功した騎士のカールカンは、微妙な事になっていた。

「何故このタイミングで魔物の暴走、新ダンジョンの発生が重なるのだ」

彼が率いる隊には重傷者は出たが、幸いな事に死者は出なかった。それも含めて領主のニアーキ子爵からは感謝された。

しかし手柄の多くはオルバウム選王国で二人目のS級冒険者に成るだろうと噂される、【蒼炎剣】のハインツの物だ。何せ魔物が「ハインツを殺せ」と呪文のように唱えながらハインツに向かって襲い掛かって来たのだから。

それだとハインツは、魔物を呼び寄せ町に災いをもたらした男と後ろ指を指されそうなものだが、既に彼は名声を集め多くの人々に慕われている。

後ろ指を指されるどころか、「逃げずに魔物の大群を迎え撃った勇者達」とますます名声を高めている。魔物達がハインツを狙ったのも、魔王の残党である邪神悪神が彼らを狙った、つまり神にすら畏れられる英雄なのだと称えられている。

魔物の殆どを倒したのはハインツを含めた【五色の刃】のメンバーなので、賞賛を受けるのは当然だが。

だったら他の冒険者やカールカン達は何故迎撃に出たのかと思うかもしれないが……それは結果論である。魔物が本当にハインツ以外を狙わない保証が無かった。あったとしても、「じゃあ、我々は関係無いので」と知らん顔を出来るはずが無い。

そしてカールカンの隊は激戦を経験して疲弊し、ハインツ達は町の近くの森で発見された禍々しいダンジョンの攻略をしている。

そしてカールカンはこう言われた訳だ。もう次の演習をする必要はありませんね、と。

「実際、演習などしている場合ではないのは確かだ。隊の者の怪我はフロトの治癒魔術で完治しているが、軽々と動ける状況ではない」

魔物の暴走の出所はまず間違いなくあの新ダンジョンだろうが、確定ではない。ハインツ達が戻るまで、町の防衛戦力として充てにされているカールカン達が動く訳にはいかない。

ハインツ達が戻って来ても、新しいダンジョンの管理や警備体勢を整えるまで時間がかかる。それにカールカンが協力する義務は無いのだが、彼らを頼るニアーキ子爵の期待を無下に扱うと彼の立場が拙い事になる。

かと言って、期待に応えてもこれがルーカスからの評価に繋がる確証が無い。何せ、彼が担当するはずの南の開拓事業が放置されているのだから。

「動けるのは早くても冬か……」

何度目かの溜め息を吐くカールカンが居るニアーキの町には、まだナインランドの公爵城が物理的に傾いた事件や、魔術師ギルドのギルドマスターや複数の貴族が邪神派の吸血鬼と繋がっていた、オルバウム選王国を揺るがすスキャンダルが明らかに成った事件は伝わっていなかった。

【退廃】のルチリアーノ。人種のC級冒険者で、ヴァンダルーが初めて遭遇した時はミルグ盾国で活動していた。

彼はパウヴィナの元になった女のライフデッドを制作し、使い魔にしてノーブルオークのブゴガンの集落に潜入して情報を収集していた。

そしてグールとオークの戦いが終わった後、ヴァンダルーとライフデッド越しに遭遇したのだが……。

(この人、こう言う顔だったのかー。やっぱり、肉体もある状態だと印象が変わるな)

当時三歳前だったヴァンダルーは、ルチリアーノの顔を知らなかった。知っていたとしても今の彼は頬がこけて髭も伸び放題。ゴーファ達から奴隷の中にルチリアーノと言う元冒険者の人種が居ると教えてもらわなかったら気が付かなかっただろう。

「それで、何であなたがここに居るんですか?」

答えが無かったのでもう一度聞いてみるが……やはり答えが無い。黙秘を貫いている訳ではなく、どうやら気絶しているらしい。

すっとエレオノーラが脚を上げる。

「エレオノーラ、踏んだら折れそうなので止めましょう」

「はい、ヴァンダルー様」

まだ自分を抱きしめたままのエレオノーラを止めて、ヴァンダルーは爪から分泌した気付け薬を【念動】でルチリアーノの顔にかける。

「かはっ!? はぁっ! ま、待てっ、殺さないでくれっ! 殺すにしても、せめて楽に殺してくれっ! あと最後の晩餐を希望する!」

その途端、バネ仕掛けの玩具の様にルチリアーノが跳ね起き……縛られたままなのでバランスを崩して再度転がる。

「存外元気ですねー。とりあえず、その様子だと俺の事を覚えているようですね」

「だ、ダンピールなんて希少な種族を忘れる訳がないっ。だが待ってくれ、ここで遭遇してしまったのは、私の本意ではないのだ!」

「いや、本意だったらびっくりですよ」

ルチリアーノの方は、しっかりヴァンダルーの事を覚えていたようだ。「次見かけたら殺す」と脅した事も。

「ヴァンダルー様はお前が何故こんな所に居るのかと質問しているのよ、答えなさい。後、私はヴァンダルー様の母親ではなく、僕よ」

最近同じ誤解を別の相手から繰り返されているエレオノーラは、そう宣言しながらルチリアーノに返答を求めた。

「分かった、答えよう。私はあの一件の後、金を受け取ってバルチェブルグを出てオルバウム選王国に移住した。そして冒険者稼業を続けながら、アンデッドに関する研究を続けていた。だが、ある日運悪く――」

ルチリアーノの話によると、彼はベルトン公子とルーカス公子の跡目争いに巻き込まれたらしい。

あるベルトン派の貴族の三男坊が父親をルーカス派に寝返ったように工作し、自分を跡取りに指名させようとした。父親を暗殺し、ライフデッドにして傀儡にすると言う手段で。

そのライフデッドを制作するために目を付けられたのが、パーティーを組まず特定の仲間を作らないままソロで活動していたルチリアーノだった。

当然彼もそんな陰謀に関わりたくは無かったが、問答無用で拉致され脅迫されたため仕方なく表向きは従った。だがこっそり使い魔の鼠ライフデッドを使って救援を求め、その結果三男坊の陰謀は未然に防がれ関係者が捕まったのだ。

「しかし、肝心の私まで捕まってしまった。その貴族家は、事件そのものを無かった事にしたかったようでね。私は監禁場所からそのまま投獄され、犯罪奴隷としてここに送られた訳だ。奴隷の首輪の制約で、魔術も使えない。

まあ、それでも能力値は一般人よりも高いので今まで生き延びてきたが……それも今日で最後か。ああ、せめて最後に芳醇なワインと温かなスープ、瑞々しいサラダ、柔らかいパン、鮮魚を使った魚料理と、分厚い肉を使った肉料理、そしてデザートが食べたかった」

「……フルコースじゃないですか」

面長の顔が痩せこけているのでより貧相に見える容姿になったルチリアーノだが、要求は贅沢だった。意外と気が合うかもしれない。

「それでヴァンダルー様、殺すの?」

「どーしましょー」

エレオノーラの問いに、ヴァンダルーはどうしようかと悩んでいた。

ルチリアーノは、彼にとってかなり微妙な男なのだ。味方ではないし、積極的に助ける理由は存在しない。どちらかといえば敵寄りの存在だ。しかし、この状況で殺す程の相手かと言われると答えられない。

この場に居ないパウヴィナにとっては、前世の肉体が死んだ後勝手に操ってノーブルオークの慰み者にした男だが、直接彼女の前世を殺した訳でもないので生まれ変わった後に恨んでいる様子は無かった。寧ろ忘れているのではないだろうか?

だが解放するとヴァンダルー達がここで行った情報が洩れる可能性が高い。

しかし、だから殺すと言うのには抵抗がある。

凶悪犯だった犯罪奴隷とは違って、悪人と言う訳ではないし個人的な恨みも無い。奴隷になった経緯を考えれば、寧ろ同情できる点が多々ある。

「とりあえず、パウヴィナに聞いてみましょう」

一旦保留して、パウヴィナに「連れて帰っていい?」と聞いてみてからにしよう。

その後、奴隷鉱山に居た貴族や兵士達は起こした後、一纏めにする。

「手足が落ちたり頭が欠けたりするのは良いですが、万遍なく潰すのは勘弁してください。あ、でもペースト状に成るまでしてくれるならOKです」

物騒な事を言うヴァンダルーの見つめる先には、意識は取り戻したが身体が痺れて碌に動けない人達ではなく、棍棒やスコップ、鶴嘴を握る鼻息荒い解放された新タロスヘイムの住人達。

「き、貴様っ! これから何をするつもりだ!?」

「公開処刑です」

「ふざけるなー!!」

無数の命乞いの中で、一際大きく高圧的な声に答えたら怒鳴られた。やや不愉快である。

しかし、これから惨たらしく処刑される彼等の最後の声なのだし、怒鳴るくらいで気を悪くするのも大人気ないだろう。ヴァンダルーはそう考え直して、振り返った。

「私はこの鉱山の運営を公爵閣下から任されたベッサー子爵である! このような不当な扱いに、断固として抗議する!!」

顔中が口に成ったかのような様子で怒鳴る子爵に、ヴァンダルーは首を傾げた。

「不当な扱いって……これで普通では?」

ヴァンダルーでも口にするのを躊躇う事をやっていた子爵と、その兵士達だ。上下の立場が入れ替わったのだから、これくらい普通だろう。

同じ事をされず、十分もせず死ねるのだから寧ろ幸運ではないだろうか?

「フザケルな! 私は貴族だぞ!」

「……いや、知ってますけど。それ関係あります?」

一応、子爵達にも状況は説明しておいたのだが。何も分からないまま殺すよりも、その方が死後強いアンデッドに出来る気がしたので。

「貴様ァ! 戦争においても貴族は出来るだけ捕虜に取り、その際も貴人として扱うのが常識なのだぞ!? そんな事も知らんのか!」

「はぁ、知りませんでした。すみません」

そうだったのかと、子爵の言葉を心のメモ帳に書き留めるヴァンダルー。冒険者になったら戦争に参加する機会があるかもしれないので、常識を今の内に知る事が出来て良かった。

「次の機会からそうします」

「違うっ、今からそうしろ! 私を殺してただで済むと思っているのか!?」

「ただで済ませようと思っています」

「済む訳がないだろう! 私は貴族だぞっ、そんな事をしたら貴様等下賤の者は皆死刑だっ! 我が選王国はその威信にかけて貴族殺しの貴様等を狩り出し、無慈悲な死を与える事だろう!」

そうベッサー子爵が叫ぶと、元奴隷達の内何割かが怖気づいたように顔を青くし、思わず後ろに下がったり手に持っている武器を降ろしかけたりする。

このラムダ世界では、平民と貴族の間にはそれほどの差がある。命は皆平等では無く、明らかに王侯貴族の命の方がそれ以外の命よりも尊い。それが常識である。

「分かったかっ!? 下賤なガキめ!」

っと、ベッサー子爵は現タロスヘイム国王のヴァンダルーを罵った。この瞬間ボークスやエレオノーラの殺気が膨れ上がるが、ヴァンダルーは手を上げてそれを宥める。

ここで問題なのは子爵に侮辱を受けた事ではなく、新しいタロスヘイム国民に力を認めて貰う事だ。あまりボークス達に頼ってばかりでは、「やっぱり着いて行けない」と言い出す者が出て来るかもしれない。それに犯罪奴隷に舐められたら後々厄介だ。

「皆来てください」

『はーいっ』

力を見せようと、ヴァンダルーはレビア達を呼び寄せ、彼女達に魔力を渡す。そして見上げるのは、無人に成った鉱山……地上から出ている部分は標高五百メートル前後の小山だ。

「……【骸炎獄滅連弾】」

無数の蛍の様な小さな炎が発生する。だが、次の瞬間それは黒い炎で出来た、無数の巨大な髑髏に姿を変える。

それは『カカカッ!』っと嗤うと、ヴァンダルーが指差した鉱山に向かって殺到した。

結果生まれたのは恐ろしい光景だった。

百以上の髑髏型の炎が岩山に齧りつき激突すると、硬いはずの岩は脆くも砕け、焼け崩れる。それが無限に繰り返され、見る見るうちに山が形を変え、抉れていく。轟音や落石が発生するが、それすらもヴァンダルーの魔術で消され、押さえつけられる。

『ぼ、坊主、山が無くなっちまうぞ』

「あ、それもそうですね」

ボークスが止めた時には、鉱山はすでに三分の二程になっていた。それほど大きな岩山ではなかったとはいえ、その威力に先程まで威勢が良かった子爵や兵士達は勿論、元奴隷達もポカンとしている。

もっと言えば、エレオノーラ達も呆然としている。髪の中のピートでさえ、頭だけ出したまま硬直していた。

今まで死属性の魔術には、物理的に対象を破壊する直接的な攻撃魔術が存在しなかった。しかし、【死霊魔術】スキルを獲得しレビア王女達を手に入れた事で、ヴァンダルーは火属性魔術と同じ事が出来るようになった。

それによって真価を発揮したヴァンダルーの魔力を、エレオノーラ達は初めて見たのだ。

『坊ちゃん、もうハートナー公爵領を侵略した方が早いのでは?』

「サム、ハインツが居るから無理です。後、それをやるとそのまま他の公爵領と、更にアミッド帝国とやり合う事になるじゃないですか」

『まあ、そうだな。坊主が幾ら強くても一人しかいネェ。一度に何か所もA級冒険者や、各国が抱えてる精鋭部隊に攻め込まれたら、流石に持ち堪えるのは無理だろうぜ』

ボークスの言う通り、この世界にはヴァンダルーがやってのけた事と同じ事が出来る存在が幾らでもいる。

「それに山は所詮山です。動きませんからね。これがB級やA級冒険者なら避けるでしょう」

人は山と違って様々なマジックアイテムで武装しているし、スキルも持っている。【骸炎獄滅連弾】の狙いは雑なので、超人なら生き延びるのは難しくないだろう。……常人なら残らず灰に成るだろうが。

『確かに俺やヴィガロ、エレオノーラの嬢ちゃん達なら何とかなるだろうが……』

ボークスは、山体が大きく抉り取られ崩壊しつつある鉱山を見上げながら答えた。普通ならさっさと逃げないと土砂が迫って来て危ないのだが、それすらヴァンダルーが片手間に防いでいる。

音まで消しているので現実感が薄まっているが、それをしていなかったら失神する者が続出しただろう。

『ところで、鉱山は壊して良かったのか?』

「問題ありません。元から鉱山はハートナー公爵領の鉱物資源を根絶やしにするために潰すつもりでしたし」

そして元奴隷達に向き直って宣言する。

「っで、何が言いたいかというと、俺は力があるので貴族からの報復を恐れる事はありません。そう思いませんか?」

問われた元奴隷達は、最初はまだ呆然としていたが、徐々に我に返って行く。

「あんな大魔術見た事無いぞ……あれが俺達の王様になるのか」

「確かに王様があんなに強いなら、もうこの国の貴族を恐れる必要なんて無いんじゃないのか?」

「そうよ、ハートナー公爵や他の公爵が、選王が軍隊を送りつけて来ても、あの山みたいに食べられて灰も残らないわよ」

「あの方が王様なら、もうアミッド帝国にも負けない……故郷を追われる事も無い」

瞳に力が戻り、下がっていた武器が再び上がる。

逆に顔色が蒼白を通り越して土気色になっているのは子爵達だ。彼らもヴァンダルーの【死霊魔術】を見た事で、彼らが知るハートナー公爵家の力で目の前の王を自称する半吸血鬼をどうにか出来るか否か、解ってしまったのだ。

「ま、待ってくれっ。わ、私達の、いや私の命だけでも助けてくれれば、望みの額を支払おう」

「し、子爵様!?」

「俺には妻と子供が居るんだっ、い、命だけは助けてくれっ!」

「俺は誰も殺してないし犯してないっ! 本当だ、信じてくれ!」

子爵が命乞いを始めたのを皮切りに、兵士達も口々に命乞いに転じる。素早い掌返しだ。

「えーっと、お金は別の方法で稼ぐので良いです。妻と子供が居るのに強姦しちゃダメでしょ、後最後の人は分かり易い嘘はつかない方が良いですよー」

しかし、どんなに柔軟な手首をしていても無駄だった。

「普通に仕事をしていただけで、不必要に奴隷を痛めつけ殺したり犯したりしてない人はもう避けてますから」

後、話し合いの結果死刑にする程ではないなと思った人も別の場所に纏めてある。

亡き妻に操を立てている老兵士に、子爵が連れてきたメイドや料理人等の使用人等、十人程だ。別に殊更善人である訳でも、奴隷達に対して慈悲深かった訳でもないが、殺すのは躊躇う人達である。

彼らはとりあえず奴隷としてタロスヘイムに連れて行き、暫く様子を見てやって行けるようなら解放して一般市民になってもらう予定である。

ヴァンダルーは無意味な殺人は厭うし、それに足ると考える理由が無い限り殺そうとは思わない。市場で銀貨一枚巻き上げられた程度では、記憶にも残らない。

だがそれに足る意味や理由がある場合は、絶対に殺すべきだと考える。

そして子爵達は死ぬべき存在だ。

「ではタロスヘイムの【蝕王】の責任に置いて刑を執行します」

思い思いの武器を持ったゴーファ達の雄叫びと、子爵達の悲鳴が合わさって耳触りの良い合唱と成る。

悲鳴は徐々に小さくなるが、肉が潰れ骨の砕ける小気味良い音が心を和ませ、濃い血の匂いが食欲を掻きたてる。

「じゃあこの場はレビア王女達に任せて、俺達はご飯の準備でもしましょうか。皆、お腹一杯食べたいでしょうし」

『今頃サリア達が厨房で準備を終えた頃でしょう。ところで何を作るのですか?』

厨房には隊商によって補給された食料がある。今まで奴隷達は本来なら家畜の餌にするような物か、奴隷村で作った荒地でも育つカブに似た作物を食べさせられていたが、今日は兵士達が口にしていた食材を使った料理を用意するつもりだ。

その食材もヴァンダルー達からすると微妙な物だったが。

「サム達が材料を持って来てくれたので、それも使ってシチューでも」

『おお、味噌シチューか。美味いよな、あれ』

乳製品が無いので、味に深みを出すために味噌を使う味噌シチュー。今のタロスヘイムでは代表的家庭料理である。

「新鮮な、干してない肉があればバーベキューも考えたのですけどね」

「ヴァンダルー様、流石にそれはどうかと思うわ」

焼死体を見た後焼肉は辛いだろう。それに気がついたのはエレオノーラだけだった。

《【死霊魔術】、【指揮】スキルのレベルが上がりました!》

「師匠と呼ばせてください!」

「ヤダ」

【死霊魔術】を目にしたルチリアーノに、ヴァンダルーは弟子入りを懇願された。されたが、どうしろと言うのだろう。正直、彼に教えられる技術が自分に在るのかヴァンダルーは疑問だった。

「奴隷のままでも構わんっ! 君の至高の術をどうかっ!」

「中々見どころがある男ね」

しかし、エレオノーラはルチリアーノを気に入ったようだ。多分、ヴァンダルーを崇拝の眼差しで仰いだのが良かったのだろう。

『まあ、誰かに教わるだけじゃなくて教えるのも良い経験に成るもんだぜ。魔術の適性が違うから、坊主と同じ事は出来ないだろうが』

『パウヴィナちゃんも忘れていて気にしてないなら、良いんじゃないでしょうか? 最低でも文官が増えますし』

「じゃあ……一応教えますけど、俺が使っているのは生命属性魔術じゃないので、あまり期待しちゃダメですよ」

「いや、寧ろ同じ属性魔術だと言われた方が驚くが」

流石に【骸炎獄滅連弾】まで行くと、生命属性魔術だと誤魔化しようがないらしい。

兎も角、ヴァンダルーに弟子が出来た。

それからヴァンダルー達は元奴隷鉱山(地下の坑道が崩落して窪地と化したが)に二日滞在した。

その間に色々準備をしたり、ゴーファ達に体力や精を付けてもらったり、健康診断をしたりした。長年奴隷として酷使されていた彼女達は、タロスヘイムに戻るまでの距離を旅する力が無い者も居たからだ。……流石にヴァンダルーが乗せて飛ぶには重量オーバーである。

結果、ヴァンダルーが【ゴーレム錬成】で馬車や、それを引かせる馬型(地球の教科書に載っていた土偶の馬っぽい)ゴーレムを作る必要があった。

「ラムダの馬車ってサスペンションがありませんよね。サムにも無いけど、スキルのお蔭で揺れないだけで」

『坊ちゃん、何でペンションを刺すんですかー?』

当然の様に、ラムダでは『スプリング』や『バネ』が作られていなかった。

結果的に衝撃を和らげる構造になっている板や棒が組み込まれている事はあるが、金属のバネは無かったのである。

なので作って組み入れてみた。ふと思い付いた事をすぐ実験できるのだから、【ゴーレム錬成】と【大工】スキル万歳だ。

『陛下は馬車職人としての技術もお持ちなのですね。でも、私達が死んでいた二百年の間に世の中は進歩したのね』

『いや、レビア様、これはこの坊主が発明してるんだぜ』

実際にはボークスの言う様に発明している訳ではなく、地球やオリジンでの知識を流用して応用、再現しているだけなのだが。

「褒めても良いですよ」

でも褒められると嬉しいので「大した事無いですよ」と謙遜はしないヴァンダルーだった。幾ら知識があっても再現するのは彼自身のスキルや魔術によるものなので、結局は自分の手柄であると言う考え方だ。

地球やオリジンの特許はラムダでは意味が無いのだし。

「ゴムタイヤがあれば完璧なんだけど……あれはゴムを固めるだけで出来たっけ?」

あれば色々便利なので、帰ったら作ってみよう。

そしてゴーファ達巨人種を、健康診断と言いながら若返らせていく。二百年も人生を浪費させられたのだから、これからの人生を過去に負けず生きてもらうためのサービスだ。

遠まわしにだが、意思確認はとったので問題無いだろう。

「このマッサージを受けると若返りますけど受けます? 百歳くらい若返りますよ、マジで」

こんな感じで。

流石に二日で全てを終える事は出来ないので、道すがら続ける予定だ。ヴァンダルーの魔力増強の修行も出来て一石二鳥である。

そしてボークス達が運んできた魔物の骨で、擬装用のアンデッドを作成。

「巨人種や人種の骨格は知り尽くしています。魔物の骨を【ゴーレム錬成】で形を変えて、巨人種スケルトンに擬装する事なんて、俺にかかればただの重労働です」

「重労働なの!?」

「だって沢山作らないといけませんから、只管面倒で」

因みに、無残な子爵達の死体は【腐敗】で骨だけになるまで腐らせた後、ばらばらに砕けた骨をくっつけて、スケルトンにしてある。これでハートナー公爵領の連中が奴隷鉱山の異変に気がついても、奴隷鉱山は何者かによって皆殺しにされ、兵士も奴隷も全てスケルトンと化したと誤認する。

奴隷が連れ出されたとは思うまい。

そして全ての準備を終えた彼らは、タロスヘイムに向かうのだった。

《二つ名【ヴィダの御子】を獲得しました!》

《【大工】スキルのレベルが上がりました!》

・名前:エレオノーラ

・ランク:9

・種族:ヴァンパイアバイカウント (貴種吸血鬼子爵)

・レベル:47

・ジョブ:隷属戦姫

・ジョブレベル:27

・ジョブ履歴:奴隷、使用人、見習い魔術師、見習い戦士、魔術師、魔眼使い、隷属戦士

・年齢:10歳(吸血鬼化当時の年齢 20歳 合計30歳)

・パッシブスキル

闇視

自己強化:隷属:6Lv(UP!)

怪力:6Lv

高速再生:4Lv(UP!)

状態異常耐性:6Lv

直感:4Lv(UP!)

精神汚染:3Lv

魔力自動回復:5Lv(UP!)

気配感知:4Lv(UP!)

日光耐性:4Lv(UP!)

色香:1Lv(NEW!)

・アクティブスキル

採掘:1Lv

時間属性魔術:5Lv

生命属性魔術:5Lv

無属性魔術:2Lv

魔術制御:3Lv

吸血:4Lv(NEW!)

剣術:4Lv(UP!)

格闘術3Lv(UP!)

忍び足:4Lv

盗む:1Lv

家事:3Lv(UP!)

盾術:3Lv(UP!)

鎧術:3Lv(UP!)

限界突破:3Lv(UP!)

詠唱破棄:2Lv(UP!)

・ユニークスキル

魅了の魔眼:7Lv

ジョブ解説:隷属戦姫

女性でかつては高貴な生まれ若しくはある程度の地位にあったが、しかし現在は他者に隷属している状態にあると就く事が出来るジョブ。

国によってはこのジョブに就いている女性戦士を所有する事は大きなステータスであり、王侯貴族が高値で取引する事も珍しくないらしい。大きな後宮には、警備のためにこのジョブに就く(就かされる)女奴隷が複数存在する事が多い。

戦闘系スキルに補正を受けるが、他に【色香】や【枕事】、【房中術】等のスキルにも補正を受ける。

エレオノーラの場合は貴種吸血鬼である事が「高貴な生まれ」の条件を満たしている。