軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

八話 立ちはだかっていない関門にあえて挑む

謎の外壁ゴーレム化事件でエブベジアが復興のための大型公共工事に青息吐息で取り掛かり、冒険者ギルドでは町の警備をE級冒険者の人海戦術で回し、盾国政府が高名な魔術師や冒険者に指名依頼を出して事件の捜査を進めようとする中、真犯人は馬車の旅を楽しんでいた。

荷台でクッション代わりに敷いた獣の皮の上で、虫の鳴き声を聞きながらそろそろ秋かなんて呟く。

「そういえば、旅って初めてだ」

正確に言えば、地球では修学旅行に行ったが途中でフェリーが爆破されて溺死したので、ノーカンだ。それに、いまいち楽しくなかったのを覚えている。

旅と言えば――。

「日常生活とは違う空間、新しい体験、珍しい風景、美味しい食べ物、家族や友人との語らい。

……いや、それは旅じゃなくて旅行か」

『旅と旅行って、何処が違うの?』

「行楽が目的なのが旅行、そうじゃないのが旅」

地球の辞書には、別の事が載っているだろう。

『そうだったんだ。ヴァンダルーはお母さんより物知りだね』

うふふと嬉しそうなダルシア。このやり取りだけを聞いたら、楽しげな母子の旅の一ページかもしれない。

しかし母は仄かに光る霊体に惨たらしい拷問の痕が残る、ダークエルフの霊。

そして子は真っ暗な荷台で真紅と紫紺の瞳を輝かせる、霊よりも存在感が薄い一歳のダンピール。

二人が乗る馬車は引く馬も御者も無く車輪を回す、ランク2のアンデッドモンスター、カース・キャリッジ。

上空を旋回しながら警戒するのは、骨だけに成った身体を青白く輝く霊体で包んだランク3のファントム・バード。

そして馬車の前後左右で護衛しているのは、何れもランク3のスケルトンウォーリアー、熊と大猿と狼のボーンビースト。

そんな集団が深夜に進む光景は、どう見ても魔物の行進であり、小規模だが百鬼夜行であった。

近くに冒険者が居たら切りかかるか逃げるかのどちらかしかしないだろう。

「そろそろ寝ようかな……空が白み始める前に、適当な所に隠れてね」

それが分かっているので、ヴァンダルー達は夜間に街道を移動していた。

アミッド帝国と数百年もの間戦争を繰り返しているオルバウム選王国を目指して。

当初はダルシアが生きていた時のように、彼女が生まれ育ったダークエルフの里に行く予定だったが、それはダルシア本人に止められてしまった。

『母さんの生まれ故郷には、行かない方が良いかも。私が死んでしまったから、ヴァンダルーが私の子供だって証明できないし、今の私の言葉を皆が信じてくれるか分からないの』

ヴァンダルーの肌の色は死人のように白い。耳は尖っているが、肌の色のせいで片親がダークエルフには見えないのだ。

ダルシアによると、このラムダでもエルフとダークエルフの仲はあまり良好ではないらしい。中にはダークエルフに友好的なエルフの部族もいるそうだがそれは少数派で、多くのエルフは『ヴィダによって生まれた穢れたエルフ』として嫌っているそうだ。

そして自分達を嫌っている連中にダークエルフがどんな感情を持つかと言えば、考えるまでも無いだろう。

ダルシア本人が居ればダークエルフ達も信じただろうが、残念ながら死んでいる。霊としては存在しているが、その霊の姿を見る事が出来るのはヴァンダルーを除けば霊媒師等希少なジョブに就いている者だけだ。

『それに、お父さんの事を許してくれるか分からないのよ。お父さんは、邪神を信仰していた吸血鬼の従属種だったから』

ダークエルフは女神ヴィダによって生み出された種族なので、その多くはヴィダと精霊を信仰して暮らしている。同じくヴィダが生み出した新種族達と交流しながら。

なので、当然吸血鬼とダンピールにも友好的なのだが、それはアルダや邪神悪神の類以外の神々を信じる者にはという前提が付く。

ラミアやスキュラ等魔物を片親に持つ新種族も存在するが、魔物は当時からテイマーが従魔にする等すれば共存できる存在だったので問題視されない。しかし、魔王の眷属だった邪神や悪神は現在進行形で敵だ。それを信仰する者は、たとえヴィダによって生み出された種族でも裏切り者という事だ。

「……世知辛い世の中だね、母さん」

『うん、だからオルバウム選王国に向かうのが良いと思うのよ』

オルバウム選王国は、このバーンガイア大陸をアミッド帝国と二分する大国である。

バーンガイア大陸は『ザンタークの戦鎚』と評される形、つまりTの字型をしている。その内、戦鎚の柄の部分は堕ちた勇者ザッカートが二度目の最期を迎えた場所とされ、高い山脈と無数の魔境によってその殆どが冒険者でも足を踏み入れた事の無い、人跡未踏の地と化している。

対して鎚の部分は西をアミッド帝国、東をオルバウム選王国に別れて何百年もお互いに大陸統一を巡って争っていた。

これから向かうオルバウム選王国は、五百年前台頭するアミッド帝国に対抗する為に当時まだ中小の国の集まりだった東部の国々が組んだ同盟から生まれた国だ。

ただ元は複数の国の集まりだったので、それを纏めるために選王制という選挙制度を作り、王国に加盟した国の王族を公爵としその中から国王を決めるようになった。

国王の任期は十年で、再任は一回まで可能。尤も、殆どの場合再任されるので、実際の任期は二十年という事になる。

そのため選挙で選ばれた国王の性格や方針によって政治が変わるが、敵国であるアミッド帝国の国教である法命神アルダの力は弱いはずだ。

『公爵の中には獣人や巨人種の人もいるそうだから、ダンピールのヴァンダルーでもきっと大丈夫よ』

ダルシアもオルバウム選王国に行った事が無いので確かな事は言えないが、王候補の公爵に獣人や巨人種が居るのだから、ヴィダの種族の扱いがアミッド帝国と違うのは確実だろう。

それでオルバウム選王国に向かっているのだが、真っ直ぐ最短コースという訳では無かった。タイミング悪くもうすぐアミッド帝国とオルバウム選王国の戦争が近いらしいという情報が入ったのだ。

『うへへ、これは秘密なんですけどねぇ、特別な国家機密情報なんですけどねぇ~』

っと、死んでから数か月たって良い感じに壊れてきたアミッド帝国の密偵の霊が教えてくれた。

正直信用して良いかヴァンダルーも迷ったが、信用しないでミルグ盾国とオルバウム選王国の国境まで行ったら戦争が始まっていましたでは堪らない。当然警備は厳しいだろうし、それを掻い潜って密出国出来ても密入国できるか分からない。

精神が高ぶっている兵士に敵の密偵ではないと証明するのは骨だ。そもそも兵士から見たら自分達一行はアンデッドの小集団だ。一目でそれと分かるモンスターテイマーは居ないし、「とりあえず話を聞こう」ではなく、「とりあえず討伐しよう」という対応を取られる事は間違いない。

「運が良ければ俺は保護してもらえるだろうけど、せっかく育てた骨人達が破壊されるのは嫌だし、母さんも見つかったら何をされるか分からない」

ヴァンダルー自身は一歳二か月の子供なので、遠くから馬車ごと攻撃魔術で吹き飛ばされたりしなければ保護してもらえるだろうが、アンデッド達は無理だろう。

ダルシアの場合は霊媒師ジョブの兵士なんていないだろうから見つかる事は無いだろうが、宿っている遺骨を取り上げられて葬られたら、今度こそ消滅してしまうかもしれない。

そういう訳でオルバウム選王国の国境に最も近いミルグ盾国北東部では無く、大陸南部の山脈や魔境と接している南東部に向かっていた。

「山脈や魔境を越えるのは大変だろうけど、人間の目を掻い潜るよりはマシ」

地球でもよく在った。一番怖いのは、生きている人間だという話が。きっと今の自分が置かれている状況もそうだろう。

因みに、今までヴァンダルーがゴーレムやゾンビ系の魔物を育てようとしなかったのも、この旅を見据えていたからだ。

ゴーレムは動きが鈍いし、それをカバーするために大きく作ると夜間でも目立つ。ゾンビもやはり同様に動きが鈍いからだ。地球の映画では陸上選手並みのダッシュ力を持つゾンビもいたが、フィクションをリアルに求めてはいけない。そう、この世界はファンタジーだが同時にリアルなのだ。

それに、ゾンビの場合山賊やオルビーの死体を材料にする事になるが、四六時中見ていたい顔じゃないという切実な理由もあった。

そんな訳でヴァンダルーの一行は骨だらけなのだ。

ヴァンダルー達の旅は、昼間動けない事を除けば順調に進んだ。

日の在る内は街道を外れた森の中などに潜み、暗くなってから移動する。夜に野営している行商人や冒険者の一団が居た時は、夜でも街道を外れて進み、街道警備隊の詰所や砦があった場合もやはり街道を外れて進み……。

順調に進んでも普通の旅人の半分以下のペースだったが、それは仕方のない事だ。

「早く堂々と街道を旅できる身分に成りたい」

何も悪い事はしていない(復讐は除く)のに、理不尽な世の中だ。

街道を外れると獣や魔物、山賊の襲撃が心配だが、それも少なかった。

獣や山賊は馬車を守る骨人や骨猿の姿を遠目に見たら、それだけで近づかないからだ。

野生の狼や熊などの獣は本能的に、明らかに自分より弱い場合を除いて魔物を恐れる。山賊だって同様だ。彼らが狙うのは商人や旅人であって、魔物では無い。

勿論魔物を倒せば素材や、ランクによっては魔石が手に入るので収入を期待できる。しかし、そもそも魔物に勝てる腕があるなら山賊では無くて冒険者になって稼いでいる。

そして骨人達と同じ魔物の場合だが、アンデッド、それも骨だけしかないスケルトン系のアンデッドを好んで襲う魔物はほぼ存在しない。

魔物が他の魔物を襲う理由はまず捕食するためだが、スケルトンには食べる所が無いからだ。

他にも縄張り争いや自衛のため等の理由も存在するが、ヴァンダルー達が自分の生息域や縄張りの奥まで入って来ないので様子見ぐらいで済んでしまう。

「ぎぎゃぁぁぁ!」

まあ、時折判断力の低い魔物が突撃をかまして来るのだが。

骨狼は虫の息で痙攣しているゴブリンを、ぽいっと馬車の車輪の前に放り出す。

するとボキバキと音を立てて、ゴブリンが潰されていった。

「最近、ゴブリン程度じゃレベルが上がらなくなって来たな」

ヴァンダルーもすぐにゴブリンの事は忘れて、そのまま放置だ。討伐証明の右耳は勿論、魔石を探しもしない。

ダルシアに聞いたところ、ランク1の魔物から魔石が見つかる可能性は百分の一らしいので、ある程度上級の冒険者はゴブリンを倒しても放置する事が多いらしい。なので、どうせ換金の当ても無いので先達に倣う事にする。

それよりも関心があるのは、アンデッド達のレベルの上がり難さだ。

ランク1の時はゴブリン一匹をみんなで殺しただけでレベルが上がったが、今では一人で何匹殺しても1レベルも上がらない。

ランク2の馬車はまだゴブリンを何匹が轢き殺せば上がるが、ランク3の骨狼達は全く上がらない。

「やっぱり山賊じゃないとダメかな? 山脈越えの前に馬車もランク3ぐらいになって欲しいんだけど」

『ヴァンダルー、普通の人達の間ではランク3って結構強いのよ? ランク2でも普通の人は何人も集まって、やっと一匹追い払えるぐらいなんだから』

ランク3だと、普通の人が何人集まっても一方的に蹂躙されるだけという脅威度だ。少なくとも一般市民の中でのケンカ自慢や、腕っぷしが強いという程度のエブベジアの警備兵レベルではどうしようもない。

「でも母さん、これから行く所に普通の人なんて居ないだろうし、現状俺自身が強くなれないのでその分皆に強くなって欲しいと思うんだ」

『それもそうだね~、でもヴァンダルーならすぐゴーレムを作れるし、大丈夫よ』

この母親、死後も結構楽天家である。

アミッド帝国は遥か昔、神々に導かれてこの世界に現れた勇者ベルウッドの子孫から始まった。

勇者ベルウッドは魔王率いる魔物の軍勢に劣勢を強いられていた人々の先頭に立ち、果敢に戦った。この世界に降り立って十日でドラゴンを討伐して囚われていた姫君、後の第一夫人を救出。

一月で巨人の軍勢を後の第二夫人となる女戦士と共に退け、半年で魔王が差し向けた暗黒騎士団と後の第三夫人である高司祭を守りながら戦って勝ち――最終的には十年で後の堕ちた勇者ザッカート達を喪いつつも、魔王を倒してこの世界に平和を齎し、他の生き残った勇者と協力しその知恵で復興を助けたと言われる。

勇者の知恵の多くは失伝してしまったが、残った物が世界で使われる共通の文字、ひらがなやカタカナ、漢字等であり、そしてアミッド帝国の前身である復興の村、アミッドである。

そして何万年も経った後現れた、アミッド帝国の偉大なる初代皇帝バルシュミットこそがベルウッドの直系の子孫なのだ。

「嘘臭い上に不愉快」

ヴァンダルーは山賊達の略奪品の中に紛れ込んでいた本を閉じると、乱暴に投げた。

活版印刷の技術も無いラムダでは、本は全て写本で作っている。そのためかなりの高級品だ。

しかし、アミッド帝国の始祖である勇者ベルウッドと、初代皇帝バルシュミットの活躍について書かれた物語に、ヴァンダルーは銅貨一枚分の価値も見いだせなかった。

まず、全体的に嘘くさい。

アミッド帝国の初代皇帝が勇者の子孫って、何の証拠があるのか全く不明だ。約十万年前の先祖の事が分かるはずも無いだろう。その辺りをこの本では運命とか予知夢とか、勇者の幻影が現れて話しかけてきたとか、そんな演出で誤魔化している。

次に、羨ましすぎるから不愉快だ。

勇者ベルウッド……多分、日本では鈴木と呼ばれていた人だろう。その人はラムダに来た途端チート能力だか何かを発揮して、十日でドラゴンを倒して竜殺しの英雄になると同時にお姫様を救出。その後も一か月、半年と武勲と出会いを重ねて、十年で大英雄だ。

それに対して自分はどうだろうか? そうヴァンダルーは思わずにはいられない。

生後一年と三か月。話した異性は母さんだけ。十年経っても大英雄に成れるとは思えない。

勿論勇者鈴木には鈴木なりの苦労と苦悩があっただろうし、そもそも命がけの戦いを生き残っている。しかし、神から加護を貰えるのと加護の代わりに呪いを受けるのとでは、ここまで差があるのだと思い知らされずにはいられない。

「これも全てロドコルテが悪い」

『そうね、ロドコルテって神様のせいよね。でも母さんは少しだけ感謝しているのよ。その神様が、ヴァンダルーを私の子供にしてくれたんだもの』

「母さん……」

ささくれ立った心が癒されていく。確かに、ダルシアが母親だった事だけはロドコルテに感謝しても良いかもしれないと、ヴァンダルーは思い直した。

ただ、ロドコルテの呪いが無ければオリジンで二度目の死を迎える前と同じ水準で死属性魔術が使えていた。数え切れないほどのゴーレムを自在に使役し、数多の霊を操り、湖を全て猛毒に変える事も、猛毒を清水に浄化する事も自由自在。もしそうだったら、ダルシアを殺されずに済んだのではないか。そう思うとその感謝も消し飛ぶのだが。

っと、人目を避けて間道を進んでいた馬車が不意に止まった。

「何だろう?」

敵に囲まれたとか、強力な魔物が目の前にいるとか、そういった非常事態で無いのは【危険感知:死】の魔術で分かる。あの魔術は毒茸や毒草だけでは無く、魔物や人間が発する殺気も感知できるからだ。

なので、危険な状態ではないはずだが……っと、荷台から顔を出すとそこには地下に通じる門があった。

「門? 山賊が使っていたアジト……にしては、しっかり作られているような? 何かの遺跡かな?」

首を傾げるヴァンダルーに、門の正体を教えてくれたのはサムだった。

『ご主人様、これはダンジョンでは無いでしょうか』

「ダンジョン?」

『はい、ダンジョンです』

荷台に宿っているため姿は見えないが、サムの声はしっかりとヴァンダルーに聞こえていた。

ダンジョン。元は魔王が配下の魔物達を短期間で数を増やし個体としての力も強化するために作り上げた、特殊な飼育施設であり、後に時と術の魔神リクレントの秘術によって、人間達が修業や物資の調達に使えるようにされた物だ。

基本的に発生原理は特定の場所が長期間一定量の魔力によって汚染されると、一定の確率で発生する。形状や規模、危険度はダンジョン毎に千差万別であり、法則性は最初のダンジョンが発生して以来十万年近くが過ぎた今でも発見されていない。

普通の洞窟と見分けがつかない形状で、ゴブリンのような弱い魔物ばかりしか出ない地下一階で終わりのダンジョンもあれば、砦のような形状でA級冒険者でも苦戦するような上級モンスターがうようよしている、百階以上の広大なダンジョンも存在する。

そして、土地が魔力で汚染される事が発生条件であるためダンジョンの殆どが魔境に存在するのだが……。

「ここ、魔境だったっけ?」

『多分、違うわね。魔境だったらもっと沢山の魔物が出て来るはずだし。多分、珍しい魔境以外の場所に出来たダンジョンなのよ』

ダルシアの言うように、普通の森や草原にダンジョンが出現するケースが極稀に発生する。ただ、その場合はダンジョンの危険度はかなり低い物になるらしい。

しかし、あまり放置しておくとダンジョン内で増えた魔物が外に溢れだして、結局周囲が魔境と変わらない環境になってしまうらしい。

ラムダにはそれが何度も繰り返されて、大陸全土と周辺の海域が魔境になってしまった魔境大陸が存在しているそうだ。

「じゃあ、この中にはそれほど強くない魔物がいっぱいいると。門の前まで草が茂っているところを見ると、冒険者も暫く入っていないようだし……よし、寄って行こう」

ダンジョン。ファンタジーな響きと冒険の予感に、ヴァンダルーはワクワクしていた。

まあ、実際に冒険するのも魔物と戦うのも骨人達なのだが。

仕方ないじゃないか、まだ一歳三か月なのだから。

ヴァンダルーが初めてのダンジョンに入ろうとしていたその頃、テロウの町の冒険者ギルドではギルドマスターのデガンが三人の冒険者の睨みあいを困り顔で見つめていた。

その三人の男女は、それぞれがテロウの町ではそれなりに名の知れた冒険者パーティーのリーダーだ。

D級冒険者パーティー『風追い』のリーダー、カッシュ。同じく『鋼の翼』のリーダー、バーン。同じく『白い星』のリーダー、ミランダ。

ミルグ盾国全体で見れば無名と言っても差し支えが無いし、実力の方もD級の域を出ない程度でしかない。しかし、近くに魔境の無いただの中小商業都市のテロウでは、トップクラスの冒険者だ。

実際、彼らの活躍で山賊団を何度も撃退し、コボルトの大発生を乗り切った。テロウの町では英雄と言っても良い者達だ。

そんな彼らが合同ではぐれオーガの討伐依頼を受けて町に近い森を探索していたのだが、その帰りにダンジョンを発見した。

まだここに居るメンバーと町の領主とその側近しか知らないが、重大事件と町が発展する大チャンスが一度に起きたと、デガンは舞い上がった。

確かにダンジョンは危険だ。放置すれば魔物が内部から湧き出て、町に押し寄せるかもしれない。

しかし、定期的に冒険者が内部を探索して魔物を間引けば金の卵を無限に生む鶏だ。魔物が無数に湧いて出るという事は、その魔物から出る素材も無数に取れるという事で、更にダンジョンでだけ取れる貴重な植物や鉱石、更にダンジョン内に出現する宝箱から高価なマジックアイテムが手に入る事もある。

そしてそのダンジョンを目当てに冒険者が町に集まり、その冒険者が落す金を目当てに商人が集まり、そして町が発展する。

このように、ダンジョンは攻略さえできればリスクよりリターンが大きい、資源なのだ。

尤も、素材が殆ど取れないゴブリン等の外れ魔物ばかり出る上、宝箱の中身も貧相な、存在するだけで厄介なダンジョンという物もラムダには幾つかあるが。

そうした外れなのか、それとも当たりなのか。そして何より危険度を調べるためにまず冒険者を派遣しなければならないのだが、ダンジョンの発見者がその権利を得るのが暗黙の了解となっている。

勿論猟師等の冒険者以外の者が発見した場合や、冒険者でも実力に自信が無い者の場合はギルドを通して他の冒険者パーティー等に初探索の権利を買い取ってもらう事が出来る。

一度に複数の冒険者パーティーが発見した場合も金銭などで譲り合うか、いっそ合同で初探索に挑む事が多い。

「俺達『風追い』がダンジョンを探索させてもらう!」

「何を言ってる! 俺達『鋼の翼』こそが適任だ!」

「私達『白い星』に任せて、あんた達はゴブリンの耳でも集めてなさい!」

しかし、彼らが譲り合いの精神を発揮する、若しくは硬い絆で団結する事は期待できないようだ。

「困った。元から競い合う関係ではあったが……」

この三つのパーティーは、以前から町一番の冒険者パーティーの称号を奪い合っていた。ただ、冒険者としての倫理観はしっかりと持ち合わせていたため、コボルトの大発生など町の危機に対しては協力し合っていただけに過ぎない。

発見されたダンジョンは、今のところ魔物が外に出ている形跡も無かったので急いで探索しなければならないという訳ではない。それに、魔境以外の場所で出来るダンジョンは総じて危険度が低く規模も小さくなりやすい。

なので、別に協力せずに自分達だけで挑戦しても問題無い。

それどころか初探索を成功させればギルドからも高く評価されるので、上手くすればC級にランクアップできるかもしれない。他の二つのパーティーから抜きん出るチャンスだ。

「俺達『風追い』には罠の解除が得意なメンバーがいる! お前らのパーティーの盗賊は、気配を消して斥候するのが精々じゃないかっ、とてもダンジョンの探索は務まらないな」

「何だとカッシュ!? 貴様のパーティーには治癒術師が居ないじゃないか、ポーションだけに頼ってダンジョンに潜るのは危険すぎる! その点俺達『鋼の翼』は怪我も毒も病気もたちどころに治せる治癒術師が二人もいるぞ!」

「何言ってんのよ、要はバランスが悪いだけじゃない! 言っておくけど私達『白い星』は、アタッカーと盾職が一人ずつ、弓術師に盗賊に、更に治癒術師に攻撃魔術師が揃ったパーフェクトバランスパーティーなのよ。私達にこそ、初探索を任せるべきよ!」

今にも殴り合いを始めそうな権幕の三人に、ギルドマスターのデガンは眉間の皺を押えた。

「君達……この話し合い、もう三日目なんだけど」

いっそ、殴り合いを始めてもらった方が早く結論が出るのではないだろうか。デガンはその甘美な誘惑を振り払うのに忙しかった。