軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七十五話 突撃! 地元の犯罪組織

ラムダに存在する国や町には、当然だが犯罪組織が存在する。

盗品の売買や、麻薬や呪われたアイテム等の御禁制の品の密輸、違法奴隷の取引に、殺しの請負。地球のファンタジー作品に出て来る盗賊ギルドよりもずっと凶悪で、必要悪だなんてとても口に出来ない連中もいる。

ニアーキの町にも、それは存在する。

構成員数十人程の組織、『闇夜の牙』。最近のハートナー公爵領の不景気を利用して、奴隷売買や麻薬で儲ける犯罪組織だった。

その頭、『耳裂き』のザギは、若い頃敵対組織の拷問を受けて耳を引き千切られても悲鳴一つ上げなかったと恐れられる男だ。

「テメェ……何が狙いだ?」

そのザギが睨みつけるのは、赤い髪と瞳をした美女だった。

彼は、血の匂いが漂うアジトのソファに座らされていた。彼の正面には対になるソファに座っている白髪の子供と、その傍らに立つ美女がいる。

近くにいた連中は全員血を流して倒れているか、彼が酌をさせていた女達の様に部屋の隅で震えあがって座り込んでいるかのどちらかだ。

「狙いは――」

「テメェには聞いてねぇ、黙ってろクソガキ。オイ、姉ちゃん、どう言う冗談か知らねェが、このガキを主人だと思い込ませたいなら大失敗だぜ。こんなガキに、ウチの連中を瞬く間に始末するような女を使えるはずがっ!?」

大物ぶってペラペラと話していたザギは、赤毛の美女に胸ぐらを片腕で掴み上げられた。

(女の細腕で俺を持ち上げただと!?)

驚愕するザギを釣り上げた美女は、次の瞬間彼を背中から床に叩きつけた。

「げあっ!?」

床が破滅的な音を立てる中、背中を痛打したザギは呼吸が出来ずにその場で苦しみのたうつ。更に彼の腹部に美女の蹴りが加えられる。

「お゛げ……ぇ……っ!」

肺に残っていた空気を絞り出すように悲鳴を上げるザギに、美女は更に攻撃を加えようとするがそこに待ったがかかった。

「エレオノーラ、落ち着いて」

「ですがヴァンダルー様、貴方に暴言を吐く下等生物に呼吸する権利は無いわ。一刻も早くじわじわと嬲り殺すべきよ」

「言っている事が矛盾していますよー。死なれるとまだ困るので、落ち着きましょう」

「……はい。ヴァンダルー様の温情に感謝するのね、人間」

「あ、そう言う『人間』って言葉の使い方は良くないです。俺もエレオノーラもズランも皆も『人間』なんですから。ほら、皆人間」

「そ、そうだったわね。皆人間、皆人間……感謝するのね、匹夫が」

「そうそう、その調子」

呼吸がまだ出来ないザギは、頭上で手を握る二人の間で交わされる会話からどうやら本当に主導権は子供の方が持っている事に気が付いた。そして、自分を殺す気は無いようだと言う事に内心で安堵する。

先程見せられたエレオノーラの腕前だと、この場に居ない『闇夜の牙』が使っている構成員や用心棒では太刀打ちが出来ない。実際、ザギの視界の中には鳩尾を剣で貫かれた組織の中で最も腕利きの元C級冒険者のボディーガードの姿がある。

(こうなったら、旦那が来てくれるまで時間を稼ぐしかねぇ)

唯一の希望は、彼の組織の後ろ盾にしてニアーキの暗部の真の支配者である『旦那』がこの異変に駆けつけてくれることだった。『旦那』の使い魔の気配がする事に気がついた彼は、必ずここにやって来ると確信していた。

問題は、それが自分の生きている間か、殺された後かだ。

「ぐっ……それで、目的は、何だ? 金で頼まれたのか? それとも薬か? まさか、誰かの仇討なんて言わねえだろうな?」

「最後の仇討です。ただし代行ですが」

仇討と言われて沈みかけたザギだったが、その代行という答えを聞いてチャンスだと内心ニヤリと笑う。

仇討の場合、多くの復讐者は損得勘定が壊れている事が多い。金や女で転ぶような復讐者なら、最初から犯罪組織のボス相手にここまでしない。

だが、復讐の代行なら話は別だ。

「なら、何で頼まれた? 金なら、幾らでも払う。俺達の側に寝返らないか?」

「いえ、金は貴方を殺した後根こそぎ頂きます」

「なぁっ!? ちょ、ちょっと待て、目的は仇討なんだよな!?」

「そうです。そのついでに金と組織を頂こうと思います」

そう事も無げに告げるヴァンダルーに、ザギは戦慄を覚えた。しかも、言っている事が本気なら、結局自分を殺す事は確定しているらしい。訳が解らない。

「待てっ、誰の仇討で来た? 何か誤解があるんじゃないか? 俺は確かに悪人だが、理由も無く人は殺さない。生き延びるために仕方なくだ。それに、殺した相手の方がとんでもない悪党だった事だってある。裏には裏の仁義ってもんが――」

「その言葉が嘘だったら酷い目に遭いますよ?」

そう言いつつも、ヴァンダルーはザギの言っている事は嘘だろうと確信していたが。殺したばかりの彼の部下から、既に色々聞いている。

「それで誰の仇を取りに来たのかですが……『緋色の夢』亭って酒場を覚えていますか?」

ザギは「……何の話だ?」と首を傾げた。『緋色の夢』という酒場に、全く覚えが無かったからだ。

「その酒場で十五年前に歌を歌っていた流れの吟遊詩人兼詐欺師が誑し込んでいた女の人の仇です」

「は、はぁっ!? 何だそりゃ!? 十五年前!? 詐欺師の情婦!? 何だってそんな下らねぇ仇を取りに来てんだ!? そんな馬鹿なはなげごお゛!?」

信じられないと目を剥いて喚くザギの脇腹を、再びエレオノーラが蹴り上げた。

「暴言は控えなさい、匹夫」

血の混じった反吐を吐きながら転がるザギに、ヴァンダルーの言葉が届いた。

「何でと言われますと、実は今日の昼間――――」

何か大きな事が起こる。

ニアーキの町で長い事占いを生業にしてきた【霊媒師】のミラン婆は、昨夜からそんな確信を持っていた。

それは彼女が就く【霊媒師】ジョブの基本的な力があれば、誰もが気づく程あからさまな予兆だった。

「来たかい。あんたのお蔭で商売あがったりだよ」

彼女の小さな店のドアを開ける途中の客に、そう声をかける。

「どう言う事ですか?」

ドアから入って来た白髪隻眼の子供、ヴァンダルーに問われたミラン婆は皺だらけの顔で笑った。

「それはあんたが来る事が前もって解っていたことかい? それとも、あたしの商売が上がったりなのがあんたのせいだって言った事かい? どっちも良く考えれば分かるだろうに。

町中の霊と言う霊を、それも鼠や蟲の霊まで持って行かれたら【霊媒師】のあたしはどうすりゃいいんだい。それに、そんな大量の霊を引きつれていれば町の外からでも気が付くさ」

【霊媒師】であるミラン婆の目には、ヴァンダルーの周囲に存在する無数の霊の姿が見えていた。百や千ではきかない数の霊が、ヴァンダルーの周囲を羽虫のように群がっている。

正直、目の前の少年がどうやって正気を保っているのか不思議でならない。

「霊の何人かから、貴女が昔の情報に詳しいと聞きまして」

「まあね。一応アタシもエルフだから、見た目通りに長生きさ」

ミラン婆がフードを降ろすと、長く先端が尖った耳が露わに成った。

「別に隠している訳じゃないんだけどね、ただのエルフの婆よりも何十年も前から居る謎の婆の方が、客受けが良くてね」

占い師の商売に雰囲気や印象が重要なのは、ファンタジーな世界でも変わらないようだ。

「それで、何が聞きたいんだい? アタシは情報屋じゃないが、昔話ぐらいなら安くしておくよ」

【霊媒師】ジョブに出来る事は、ちょっとした占いや死者の声を聞く事、霊視。殺人事件の犯人や、雑な口封じをした諜報組織の者以外には、大したことじゃない。

それは、古い霊程記憶や人格が不確かに成るからだ。生前執着していた事柄や、憎い相手以外の記憶が溶ける様に崩れ始め、最後には消えて無くなる。

短くて数日、長くても数十年と保たない。

それに生前の記憶と人格を保っていても、霊が嘘を付かない訳じゃない。過去には【霊媒師】の言葉を信用して行った犯罪捜査の結果、無実の者が処刑される悲劇が起きている。犯人が被害者の身内の場合、霊が犯人を庇う事が少なからずあるからだ。

ただミラン婆の場合は五百年の寿命を持つエルフであるため、彼女本人が昔の事を覚えているし、当時死んで間もない霊から聞いた話も記憶している。

「約二百年前、タロスヘイムのレビア王女達がどうなったのか教えてください」

「何でそんな事を? あんた、あの巨人種の国と関わりでもあるのかい? ……いや、聞かないでおこうかね」

「話しても構いませんが?」

「止めとくよ、あんたの周りの霊がおっかない顔をしているからね。

さて……あんたにとって不愉快な話になると思うが、あまり怒らずに聞いておくれよ」

二百数十年前、境界山脈にトンネルが発見された当時ハートナー公爵家の当主は、武闘派でヴィダの熱心な信者だった。そのため、巨人種の国でありヴィダを主に信仰していたタロスヘイムとの交易も積極的に行った。

交易はハートナー公爵領に富をもたらし、それまで無骨なイメージしかなかった公爵は経済政策でも優れていると高評価を得て、称えられるようになった。

しかし、その後を継いだ新当主はアルダの熱心な信者だった。過酷な戦場で加護を与えてくれるのは、敗者のヴィダでは無く勝者のアルダだろうという考えだ。

それでも融和派の教義ならタロスヘイムにとって何の問題も無かったのだが、新当主は融和派であるように見せかけた原理主義者だった。

だが新当主はただ狂信的な男では無く、統治者としての判断力も持ち合わせていたので利益を出している間はタロスヘイムとの交易をそのまま維持した。内心苦々しく思いながら。

そんな時に起こったのがミルグ盾国のタロスヘイム遠征だ。新当主は、遠征を利用した。タロスヘイムからの援軍の要請に対して理由を付けて返事を先延ばし、見殺しにした。助けを求めてきた第一王女レビアと、彼女が連れてきた合計五百人の避難民達を受け入れると言って騙した。

護衛の兵を毒殺し、王女に自分の殺害と公爵領を奪うクーデターを企てた濡れ衣を着せ処刑。彼女達がミルグ盾国に渡らないよう持ちだしたタロスヘイムの国宝……無限に品物が入るアイテムボックス等の貴重なマジックアイテムを手に入れた。

そして残った子供と老人ばかりだったタロスヘイムの巨人種を犯罪奴隷として奴隷鉱山に送り込んだ。

タロスヘイム交易の窓口であり、タロスヘイムの事を良く知る人々の町は放棄させた。既に交易が行えない以上、元々交易都市としてやっていけないため都合がいい。

トンネルも塞がったため、ミルグ盾国の追撃を心配する必要も無い。

結果、当時のハートナー公爵領はミルグ盾国軍相手に一兵の損失も出さず、タロスヘイムの国宝を手に入れ、数百人の労働力を手に入れた。

ミルグ盾国軍相手に援軍を送り、負けていた場合を想定すれば破格の利益だ。

「二百年前のオルバウム選王国とアミッド帝国の戦争では、タロスヘイムの事が大義名分に成ったはずですが?」

ミラン婆の話が真実なら、幾つか辻褄が合わない。少なくとも、戦争の大義名分にするには問題があるだろう。しかし、問われたミラン婆は肩を竦めるだけだ。

「坊や、あたしはただの【霊媒師】だ。死者の言葉を話すだけだよ、推理や調査は専門外、仕事じゃないね。

ただそうだね……事実を知っているのは公爵家やその側近、後当時の選王様達極一部だけ。世間には王女の替え玉を仕立てて誤魔化す。そして戦争が終わって暫くしたら病死したって事にする」

婆でも思いつく簡単な話さと、ミラン婆は言った。

巨人種は人種より少ないが、選王国にはそれなりの数が暮らしているため替え玉を仕立てる事は手間だが難しくは無い。

それにレビア王女はタロスヘイムでは誰もが知る姫様だったが、オルバウム選王国全体では顔を知っている者は限られている。

華々しい戦争とその行方ばかり注目されて、哀れな避難民は「保護された」と誰かが言うだけで誰もが納得して、実際はどうなのか確かめようとは思わない。そして数年も経てば、王女の行方も同様に誤魔化されてしまう。

複数の権力者が組めば、可能な陰謀だ。

「……それで、タロスヘイムの避難民は今も鉱山に?」

「だろうね。巨人種は丈夫だし、犯罪奴隷とは言っても実際は違法奴隷みたいなもんだから、生かさず殺さずで働かせてるはずさ。老人は兎も角、当時子供だった連中は全員じゃないだろうが生きてると思うよ。何でも、軍に管理された奴隷の村って形になっているらしい。

あんたの周りにいる霊の一人から聞いた事だよ」

「……レビア王女と護衛の巨人種達は何処に葬られましたか?」

「さてね。流石にこんな辺境の町まで機密を知っている霊が流れて来る事は滅多にないさ。でも、そう言う後ろ暗い過去を葬るなら、うってつけの地下墓地がある。

その昔、勇者の一人が魔王の一部を封じたって伝説がある。そのお蔭で、今も邪悪な存在は外に出る事が出来ないんだとか」

「それは何処です?」

「公爵の城の地下の何処かさ。気を付けるんだね」

「気を付ける? まるで、俺がそこに行く事を知っている様な言い方ですね」

ミラン婆はやれやれと息を吐いた。

「見た目通り長く商売をしてるんだ。アンタが怒り狂う寸前だってのは、周りの霊を見てれば分かるよ」

ミラン婆が指摘した通り、ヴァンダルーは激高する寸前だった。周囲の霊も、それに当てられて恐れ戦いている。

今彼女から聞いた話が本当だとしたら、何故怒らずにいられるのだろうか? 呪わずにいられるだろうか?

今すぐにでも表に出て、目につく生き物を無差別に引き裂いてやりたい。そんな殺人衝動すら覚える。

しかし、そんな事は喜ばれないし無意味だとヴァンダルーの冷静な部分が説く。

確かにハートナー公爵領の人々は、タロスヘイムの避難民が搾取されているのを放置している。助けるべきだと訴えるような事は、目の前のエルフの老婆も含めてしていない。

だがオルバウム選王国も封建国家だ。政治的な訴えを行う様な発想は中々一般市民からは出ない。そもそも、二百年前の顛末を知っている者も今ではほぼ居ないだろう。ラムダにはネットも無ければジャーナリストも居ない。情報伝達の手段が少なく、人の行き来も限られる。

それにタロスヘイムの、ヌアザやボークス、ズラン達の懲罰感情は『親の罪は子に問わず』だ。それはヴァンダルーも正しいと思う。

だから、今を生きている人々に二百年前の出来事の罪を問うのは間違っている。

そう、『二百年前の』罪は。

「ふぅ……質問ですが、奴隷鉱山が襲撃されて奴隷が全員どこかに消えるような事になったら、あなたは事件を捜査をしている人達に情報を売りますか?」

だから罪を問うよりも、報復を行うよりも、先に行うべきは奴隷にされた巨人種達の解放だ。この領の法律なんて知った事では無い。

ただ解放するだけでは無い。巨人種達の心を動かし、タロスヘイムに来てもらわなければ。そのための力と助力を得て、過剰なまでの戦力で攻め込み、災禍でハートナー公爵達の目を欺くのだ。

「……いいや。小銭よりも命が惜しいからね。ただ老婆心で言っておくけど、復讐は……いや、止めておこう。あたしも、この言葉が綺麗事だってのは霊が見える様になってすぐ分かったからね」

死者は何も望まないとか、生きている人の幸せだけを願っているとか、そんな事は酷く愚かな妄想でしかない。

綺麗事通りの霊も存在するが、生前恨みを抱いていた者の破滅を心から喜び、嗤う。そんな霊も当たり前の様に存在する事をミラン婆は知っているからだ。

特にヴァンダルーに対してその手の綺麗事を口にする事は、失笑に値する。

「明日中には俺はこの町を出ますが、何か希望する報酬は在りますか?」

そして怒りを押し込んで何事も無かったようにミラン婆に質問する。

「情報料かい? これでも蓄えはあるからね。引退しても寿命で逝くまで十分暮らせるんだが……そうだね、一つ頼まれちゃくれないかい?」

町中の霊がヴァンダルーの周囲にいる以上、【霊媒師】としての商売は上がったりだ。だからミラン婆は暫く休業するつもりだった。場合によっては、この町から他の町に行く事も考えていた。

だから記憶の片隅に残っていた心残りを口に出す事にした。

「実は、十五年前の事なんだけどね、あたしの客の一人が『緋色の夢』って酒場で歌っていた吟遊詩人に入れ込んでね。あの男は詐欺師だから止めときなってあたしは忠告して、その子も別れるって言っていたんだけどね――」

「三日後その女の人の悲しそうな顔をした霊が現れ、すぐに消えてしまったそうです。その真相を知りたいと。

それで、ある確かな筋から情報を手に入れましてあなたがやったのだろうなと」

淡々としたヴァンダルーの説明に、ザギは冷や汗が止まらなかった。

(つまり、目の前の正体不明のガキはこれからこの公爵領でとんでもない事をやらかす。そのついでに俺達を皆殺しにしようってのか!?)

「いや、結構生きていますよ。貴方のボディーガード以外死んでるのは数人だけで、他はちょっと血が出ているだけで、心臓は動いてますし」

(こいつ心を読んだのか!?)

驚愕に声も出ないザギだが、実は彼のボディーガードだった男の霊が、『こいつ、今こんなこと考えてるぜ。バカだよな~』と陽気に説明してくれているだけだ。

「それで、覚えはありますか?」

問われたザギは答えなかったが、実際には身に覚えがあった。正確に言えば、話を聞かされている内に思い出したのだ。

あれは十五年前、まだザギが組織の下端でしか無かった頃だ。その頃から彼は凶悪さと犯罪の上手さと運に恵まれ、当時のボスの覚えも良かった。

そのザギが任された仕事の一つが、上納金も納めず詐欺で稼いでいる流れの吟遊詩人気取りの男への制裁だった。

しかし、ザギは詐欺師をもう少しの差で逃がしてしまった。その失態を隠すために、当時詐欺師がカモにしていた女を攫い、惨たらしい方法で殺して死体を詐欺師が使っていた部屋に捨てた。

彼が女を殺し、詐欺師の男がそれに怯えて逃げた様に偽装したのだ。

他の仲間は買収した。詐欺師が持ち逃げし損ねた女の金を、詐欺師が差し出した詫び料と偽ってボスに上納して、その件は終わったはずだった。

(そ、そんな事正直に話そうもんなら殺されちまうっ! 畜生、あんなどうでもいい女如きのために死んでたまるか!)

「知らねェ、多分俺以外の……そこで死んでる俺のボディーガードの仕業だろ。あいつは女を殺すのが大好きな、イカれた野郎だったからな」

『嘘だね~! 俺は五人くらい殺してるけど、全員男だったぜ!』

ザギは生き残るために色々と努力していたが、霊が見えるヴァンダルーには無駄で滑稽な試みでしかなかった。

(クソっ、まだか、旦那はまだなのかよ!? はっ!)

バンっと音を立てて扉が外から開いた。そこから赤い瞳に青白い肌の男が、黒い覆面で顔を隠した巨人種と数人の小柄な者達を引きつれて入って来た。

「旦那! 良く来てくれたっ」

先頭に立つ吸血鬼の男、【悦命の邪神】ヒヒリュシュカカを奉じる原種吸血鬼から派遣された常駐の工作員。それこそがザギの後ろ盾だった。

吸血鬼の走狗と成る事で、ザギは他の組織の台頭を許さずこの一万人の小都市で裏の大物ぶる事が出来たのだ。

後ろに連れている巨人種や小男達は見た事が無かったが、従属種吸血鬼だろう。ザギはそう思った。

「さぁ、旦那! このクソガキとクソ女を殺してくれっ! この恩は必ず返すからよぉっ!」

『ザギぃぃ……お前は私によく仕えてくれる忠実な男だ。私はお前を評価していたよぉ……』

吸血鬼はザギの求めに応じる様に、彼に向かって足を進める。そのままヴァンダルーの横もエレオノーラの横も素通りして、彼を見下ろす。

『だと言うのにこのクソ駄犬がぁぁぁぁっ! この方々に暴言を吐くなぁぁぁ!』

そして硬い踵でザギの胸を蹴ると、そのまま踏み躙る!

「ぐあああっ!? だ、旦那、何を!?」

自分の肋骨が軋む音を聞きながら叫ぶザギは気がついた、彼が旦那と呼ぶ男の服が赤黒く汚れている事に。

「まだ用があるのでその辺で」

『はい……ご主人様』

恭しくヴァンダルーに頭を下げ、そのまま足に口づけする吸血鬼の男を見て、ザギは全てを察した。

先ほどヴァンダルーが口にした確かな筋とは、この吸血鬼だったアンデッドの事なのだと。

ザギの頼みの綱は、彼が襲撃を受ける前に始末されていたのだ。

「こ、こんな、こんな事が……あんな、どうでもいい、何処にでもいる女を殺したからって、それだけで、俺の組織が、俺が……」

希望が潰え、死人よりも死人らしい顔で呟くザギに対して、ヴァンダルーは首を傾げて言った。

「あなたにとって彼女が、何処にでもいる殺しても別に構わない女であるように、俺にとっては何処にでもいる、殺しても別に構わない悪党があなただった。それだけじゃないですか」

こうして『闇夜の牙』のボス、ザギは死んだ。だが、翌日には傷一つない姿で何時も通り手下に指図する姿が見られた。

妙に陽気になったザギは、今までと違いとても穏健に裏社会を支配した。その彼が実はアンデッドである事が、ある冒険者の活躍で判明するのは暫く後の事だ。

「キングっ、遂に恋人が出来た!」

「えっ、何時の間に?」