軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七十話 空を飛ぶ舌鋒鋭い珍獣(七)

目立たず行動する事を諦めて村人のイワンの命を救った結果、ヴァンダルーは村唯一の商店、何でも屋で大歓迎されていた。

「坊主、お前のお蔭で助かった。もう少しでつまらない死に方をした挙句、二人目の子供に顔も見せてやれないところだったぜ。

さあ、食ってくれ、俺の奢りだ!」

「偉そうにするんじゃないよ、大したものじゃないだろうが!」

『いえいえ。丁度お腹が空いていましたから』

そう食べながらヴァンダルーはイワン夫妻に返事をする。今彼が食べているのは、お粥だ。

地球のインディカ米に似た長い粒の米に、独特の臭いを消すためか食べられる野草と嵩を増すために豆を加え、塩を少々加えた物だ。

本当に大した物ではない。味は素材の味が生かされて……ほぼ素材の味しかしない。

ただ、今は夏で丁度米の収穫前の時期だ。そのためこの程度の料理しか出せないのだろう。米のお粥が出るだけ、この第七開拓村は恵まれているのだ。

(荷物の中に在る干し肉や干し魚を入れたら、塩味が強くなって美味しくなりそうだな)

そう思っても、ヴァンダルーはそれを実行せずお粥を食べる。この世界には『燻製』の概念が無いらしいので、燻製の干し肉や干し魚は将来タロスヘイムの特産品に成るからだ。なので、秘密は保持するに限る。

因みに、何でも屋の酒場スペースにメニューは無い。酒は店主自作の濁り酒(雑穀がベース)、肴は炒り豆や煮豆、偶に野菜。

そして食事は常に経営者家族と同じ物しか出ない。経営者家族が多目に作った料理を出しているのだから当然だ。

そんな事で商売が成り立つのかとヴァンダルーは思ったが、逆にこうでなければ商売がこの村では成り立たないのだ。

各家庭で酒は自家用酒が作られているし、料理の腕も何でも屋夫婦と違いは無い。なので、ここで金を払ってまで飲み食いする客は、二ヶ月に一度街道を通って奴隷鉱山に行く途中の商人やその護衛、兵士、そしてカシム達三人ぐらいだ。

そのため複数の料理を出せる体制を整えると、逆にコストが増えてしまう。結果、このお粥である。

「あんまり美味くないだろう」

やはり自覚しているのか、店主がしみじみとした口調で言う。

『……そんな事ありませんよ』

「いや、良いって。俺もイワンの恩人に少しは美味いもんを食わせてやりたいが、この村で栽培してる米じゃなぁ」

「親父さん、それは言わない約束だろ。でも、確かにサウロン公爵領で育てていた米の方が美味かったなぁ。臭いも無かったし」

何でも、彼らはハートナー公爵領の北にあるサウロン領ではジャポニカ米に近い種類の米、通称サウロン米を栽培していたらしい。

しかし、逃げ延びたこのハートナー公爵領の気候と土ではサウロン米の栽培に適さなかったのだ。

それで仕方なくハートナー公爵領で一般的に栽培されているインディカ米……選王国では南部米と呼ばれる米を栽培しているそうだ。

『つまり、全て帝国が悪いと』

今日、食べ慣れたジャポニカ米に近い米が食べられないのは、全て帝国のせいなのかと口にするヴァンダルー。

「ああ、全てあの糞ったれな帝国のせいだ!」

「そうだそうだっ、全部帝国が悪いんだ!」

そしてここはアミッド帝国に故郷を追われた難民達が集められた開拓村なので、誰もが口々にヴァンダルーの言葉に賛同するのだった。

「しかし、まさか魔術が使えるなんてな」

「確かに驚いたな。てっきり【戦士】か【格闘士】かと思っていたよ」

そう言いながらヴァンダルーと同じお粥を食べているカシム達に、アルダの神官も頷いた。

「ええ、まさか君があれほどヴィダに愛されていたとは驚きました」

彼はヴァンダルーに微笑むと、胸に手を当てて言った。

「あなたがカシム達とイワンに危機が訪れた今日という日に現れたのも、きっと神々の思し召しでしょう。

アルダとヴィダ、神話では袂を分かってしまった神に祈りを捧げる私達ですが、共に手を取り合い善行に励みましょう」

相変わらずヴァンダルーには薄っぺらに見える笑みだったが、言っている事は真面なように思えた。少なくとも、ゴルダン高司祭よりは、余程聖職者らしいと。

意外と善人なのかもしれない。

『そう言っていただけると幸いです。俺は聖職に就いている訳ではありませんけど』

そう言えば、ハートナー公爵領のヴィダ神殿はどうなっているのだろう? 町に行ったら、それとなく見に行ってみよう。

「ところで……君は何故お粥を食べながら明瞭に話せるのですか?」

『……特技です』

本当は、微妙に【幽体離脱】を使っていて服の下に霊体の顔があり、その口で喋っているのだが。

「あ、お代わりお願いします」

「まだ食うのか!? いや、良いけど、もう三杯目だぞ」

「お腹が空いていまして。すみません」

ヴァンダルーは同じ年頃の子供と比べても小さく細いが、その見た目からは想像できない程食べる。それは、彼が必要とするエネルギーが既に平均的な成人男性の倍以上であるからだ。

「強さと魔術に加えて、食べっぷりまで冒険者だな」

ただ、生産系ジョブに就く一般人よりも身体能力が上昇する戦闘系ジョブに就く冒険者の間では、痩せの大食いは珍しくない。町の冒険者学校に通っていたカシム達は、店主程には驚かなかった。

「村長! 隣の第五開拓村のカインが、神官様にってうわっ!?」

「神官様っ! うちの村に来てくれ! うちの村で病がっ、流行病が、それでみんな次々に倒れてる! 早く来てくれっ!」

何でも屋に駈け込んで来た男を突き飛ばすようにして、擦り傷だらけの男が駈け込んでくる。きっと何度も転びながらここまで来たのだろう。

「流行病!?」

「何と! しかし、既に日も暮れた。今から第五開拓村に行くのは……」

この第七開拓村と第五開拓村を直接繋げる道は獣道同然の有様だ。その獣道同然の道を進んでも、歩いて四時間はかかる。しかも夜は狼や魔物が活発に活動する時間帯だ。整備されていない獣道がどれ程危険になるかは、述べるまでもないだろう。

一度街道に出て第五開拓村に進む方法もあるが、それだと丸一日はかかってしまう。

「カイン、明日の朝一番で出ましょう。それまで貴方は身体を休めなさい」

「そんなっ!? それじゃあ村の皆が、女房と娘がっ!」

「分かってください、カイン。危険な夜道を進む訳にはいかないのです。最近ゴブリンの数も増えていますし、村に辿りつく前に私達が倒れては、何の意味も――」

「ああぁ、そんな……そんな……」

肩を落とし、啜り泣くカイン。村の仲間と、そして妻と娘のために危険を冒してここまでやって来たこの平凡な男の行動に胸打たれ、手を上げた者達が居た。

「よし、俺達が護衛を――」

「じゃあ、俺がそのカインさんを乗せて飛んでいきましょう」

者達が居たが、一緒に行けるとは限らないのだった。

「星が綺麗ですねー」

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

「今夜は良い月夜ですよ」

「のうぉぉぉぉぉぉっ!」

このラムダ世界で、空を飛ぶ事が出来るのは一部の魔術師か高価なマジックアイテムを持つ富裕層、竜騎士等飛行可能な魔物をテイムしている者、後翼を持つヴィダの新種族くらいだ。

なので、一般人にとっては空を飛ぶなんて夢か妄想でしかない。

そんな貴重な経験を、カインはしていた。

ヴァンダルーはカインの身体を命綱でしっかり結んで背負い、荷物を手に持って【飛行】の魔術で空を飛んで第五開拓村に進んでいる。ただ、カインは落下の恐怖から悲鳴を上げながらヴァンダルーに抱きつくのに必死で、この貴重な経験を楽しむ余裕は無さそうだが。

「ところで、真っ直ぐで良いんですよね?」

「あ、ああっ! 途中で小さな沼があって、それが目印になると思う!」

「沼はさっき通り越したので、このままでいいみたいですね」

上空三十メートル程の高さを、ヴァンダルーとカインは飛んでいた。早さは精々馬が走る程度なのだが、カインにとっては目も開けられない恐怖らしい。尤も、目を開けていたとしても【闇視】スキルが無いカインの目では見えないだろうが。

「もう沼を通り過ぎたのか!?」

「はい。ところで首が微妙に絞まるんですけど」

ヴァンダルーの【飛行】の速度が人の脚と比べて早い事もあるが、空を飛ぶことで地形を無視して目的地まで直線距離を移動できるのが大きい。

恐らく、十分もしないで村まで着くだろう。

その代わり魔力の消費が大きいのだが。

(【魔力自動回復】スキルのお蔭で、俺と荷物だけなら消費量と回復量がトントンなんですけど、カインさんの体重分が……俺も修行が足りないなぁ

いや、それより病気について聞いておこう)

「それで、流行病ですけど……どんな病気なのか、もう一度聞かせてください」

ヴァンダルーが気になっていたのが、カインの言う流行病についてだ。既に簡単に話は聞いていたのだが、それがどうにも不自然に思えたのだ。

「それは、俺が猟から戻ると皆がバタバタと倒れていて、熱があって、吐き気もあって、それで朦朧と……後血を吐いた奴も……」

「カインさん以外に、元気な人は居ましたか?」

「俺以外には……いや、確かジョゼフ爺さんはまだマシだったな。あと、赤ん坊はまだ病気には成っていなかった」

「そのジョゼフさんっていうのは?」

「木こりの爺さんだ。昨日から風邪が酷くて、俺が帰るまで寝込んでいたらしい。今は、村の皆の看病のために無理をさせちまってる」

「その人は流行病では無い?」

「ああ、多分な。熱はあるし鼻も出てたが、吐き気は無かったし、血も吐かなかった。だから看病を頼んだ。幾ら動けても風邪の爺さんを隣村まで走らせるわけにはいかなかったし、病じゃなくても赤ん坊を半日も放っておけないからな」

(つまり、猟に出ていて村を留守にしていたカインさん以外ずっと寝ていた老人と赤ん坊を残して村人全員が同じ症状の病気で倒れていた。そして……カインさんは健康体と)

何でも屋に飛び込んで来た時から、カインには死相は見えなかった。とても危険な流行病に感染しているとは思えない。

念のために、彼がパニックを起こし自分を抱きしめている間にこっそり彼の身体を【霊体化】で調べたが、カインは健康体だ。イワンよりもずっと長生きしそう。

一応流行病と聞いて第七開拓村を出る前に、村から有害な菌やウィルスを【殺菌】してきたのだが……これは病気ではなく毒ではないだろうか?

しかし、一人二人なら兎も角、ほぼ全員の村人に毒を盛る手段とは? そもそも動機は?

「今日、何か変わった事ってありました?」

そう尋ねると、カインは「いや、何時も通りで、精々行商人が来る日だったくらいだな」と答えた。

「行商人?」

「ああ、何でも自分の店を潰しちまって、行商からやり直して再起しようって頑張ってる見上げた奴さ。何にしても、街道から離れたこんな小さな村まで来てくれて助かっていたんだが……そう言えば、村に居なかったな。

村を出た後で倒れてなけりゃあいいが……」

(その人が犯人だろうなー。まあ、動機は不明だけど)

しかし、今は推理より人命救助だ。

「あれが村かな?」

夜の闇も真昼のように見通す事が出来る【闇視】スキル持ちのヴァンダルーは、開けた土地に建つ複数の木の家を見つけた。

「た、多分そうだ! 頼む、病人は――」

「じゃあ、ここから一気に治療しますね」

「えっ?」

「村があそこからここまでか。まあ、三千万も使えば良いかな? 【無毒化】【消毒】」

黒い霞の波のようなものが、村に広がった。

「あんたぁぁぁっ 生きてたんだねぇ!」

「父ちゃぁぁぁんっ!」

「良かったっ! 治ったんだなっ、良かった!」

ヴァンダルーにとっては若干既視感を覚える光景だが、村中でカイン達の様な喜びと感動のシーンが起こっていた。

村人達が苦しんでいると、前触れも無く熱も吐き気も無くなり、朦朧としていた意識もはっきりとした。

そして家族も同時に病気が治っていた。喜んでいると、外から声がする。そこには、青白い炎に照らされたカインが居た。

最初、カインの亡霊が奇跡を起してくれたのだと思い込んだ村人達だったが、誤解はすぐ解けてこの感動の渦となった。

「……ふぅ、これで一安心か」

大人一人を抱えて(抱えられて)の【飛行】は、やはり魔力を大量に消費した。元々効率の悪い術なので仕方がないが。

お蔭で魔力を七千万近く使った。しかも夜遅いので眠い。健康的な児童としてそろそろ眠りたいのだが、今から第七開拓村に戻らなければダメだろうか?

とりあえず、レムルースを作って、何時の間にか消えていた犯人の行商人を探してみよう。この辺りの地理に詳しくないので、街道から外れて間道に入られたら見つけられない可能性が高いけど。

行商人を犯人と決め付けているが、【無毒化】で村人が回復した以上確実に病気では無い。そして行商人本人が居ないのだから、状況証拠はばっちりだ。

「ああ、皆さん。毒は消えましたけど、体力は戻っていませんからあまり興奮しないで。安静にしてください」

「あんた、この子は?」

「この子がお前達の病気を治してくれたんだ、村の恩人だ! ありがとうっ、ありがとう!」

うっかり口にした毒と言う言葉は聞き流されたらしい。カインは涙と鼻水でぐしゃぐしゃに成った顔で、抱き上げる。

「何だってっ!?」

「おお、村の救世主だ!」

「御使い様だ。アル――」

「そこはヴィダで」

「ヴィダの、女神ヴィダの御使い様だ!」

凄まじく不愉快な事を言われそうになったので、そこだけは断固拒否する。

「いや、そうじゃなくて安静に――」

はっと我に返るが、その時にはヴァンダルーは村人にもみくちゃにされていた。明日動けなくても知らないぞと、ヴァンダルーは内心思いながら、とりあえず今日はこの村に泊まりかなと呟いた。

レムルースでの捜索は失敗し、問題の行商人には逃げられてしまった。死者でも出ていれば何とかなったかもしれないが、カインの頑張りとヴァンダルーの治療の結果村人は誰も死なずに済んだため、手掛かりは無かった。

村人達の話によると、あの日は行商人が信仰している聞いた事も無い(実在するか疑わしい)神の祝日だと言うので、皆に振る舞ってくれたそうで、彼が差し入れてくれたお茶と菓子を頂いたらしい。

カインの妻子が猟で留守の彼のためにと残しておいた菓子に毒が入っていたので、それが原因だろう。行商人はすぐ悪くなるので今いる人達だけで食べてくださいと言っていたようだが、証拠が残った訳だ。

まあ、毒はもう魔術で消してしまったので証拠能力があるか疑問だが。ヴァンダルー以外に死属性魔術で毒を消した痕跡を見つけられる者が居るとは思えない。

こんな事をした行商人が、ご丁寧に商業ギルドに登録しているとは思えないし。

まあ、村人を皆殺しにしたと思い込んで、間抜けにも一番近い町に向かった可能性もあるが。

そして信頼していた行商人に裏切られた事に気が付いてショックを受けた村人を宥めつつ、村に一泊したヴァンダルーは村の周囲に見張りのレムルースを残して何をしているのかと言うと……。

「かーれーらは、ぜーんいん」

平坦な歌を歌いながら、空を飛んでいた。

昨日の行商人が他の開拓村でも何かしていないか、見て回るためだ。

勿論無視して町に行き、目的の冒険者登録を済ませる事を優先しても良いのだが、もし第五開拓村のように毒を盛られて死に瀕している村があったら寝覚めが悪くなる。

(袖振り合うも他生の縁と言いますし、情けは他人の為ならずとも言うし)

報酬は、お金を貰うのは気が引けたので村にヴィダの祠を作ってもらう事にした。祠と言っても、アルダの祠同様に、適当な大きさの石に 聖印(ハートマーク) を刻んで、簡単な屋根を設置しただけのものだ。だが、その簡単さ故に、頼みやすい。

お蔭でますますヴィダの御使いの化身扱いが強まったが、別にいいや。

「にくいんだー……おや?」

今は、第六開拓村に向かっている最中だった。その途中で、地上に十数人程の人影がある事に気がついた。

見てみると、使い古した革製の鎧を着て武装した薄汚れた雰囲気の男達が、第六開拓村に続く獣道を進んでいる。

カインに木の皮に描いてもらった地図を取り出して確認するが、間違いない。

男達の背に憑いていた霊を呼んでみて話を聞くと、男達は山賊であるらしい。それを何度か他の霊に繰り返しても同じ答えが返って来たので、どうやら本当に山賊の様だ。

始末しよう。

「いいか野郎共、村に着いたら男は皆殺し、女も愉しんだ後殺せっ! だが売れそうな見目の良い奴には傷一つつけるんじゃねぇぞ! いいな!?」

「悪いです」

「何だと!? テメェ、俺に逆らあっ!? 誰だこのガキ!?」

ギョッとして山賊の頭らしい男が振り返る先に、ヴァンダルーは居た。音も無く宙に浮かんで。

「か、頭、こいつ化け物だ!」

「急に上から落ちて来て……きっと幽霊か何かだぜ!」

腰が引けている山賊達に、ヴァンダルーは答える。

「いいえ、ただの通りすがりの空飛ぶ七歳児です」

この世界でただの七歳児は空を飛ばない。

「ちぃっ、ナメやがって! カインっ、テメェの怪力でこいつを始末しろ!」

そう頭が命令すると、ニヤニヤ笑いながら山賊達の中で最も体格に優れたスキンヘッドの男が前に出て来る。

「頭ぁ、殺す前に遊んでいいかぁ?」

「相変わらずガキが好きだな……好きにしやがれっ!」

「ひひっ、お許しが出たぜぇ!」

カインは嬉しそうに叫ぶと、期待に目をギラつかせながら両手持ちのウォーハンマーをこれ見よがしに振って見せる。

「頭、これから村を襲うんじゃ?」

「問題ねぇよ。カインならあんなガキ、すぐ壊しちまうに決まってる」

「それもそうか」

「おいガキィ、大人しくしてるなら、手足を圧し折った後遊んでやるだけでいいぞぉ。でも、抵抗するなら手足を圧し折った後玩具にしてやるぅっ!」

「……うわ、馬鹿だ」

「何だとぉぉ!? 俺は馬鹿だって言われるのが一番嫌いなんだぞ! 知らねぇのか!?」

「知る訳ないでしょう」

「畜生っ! 馬鹿にしやがって!」

怒りで赤くなり、茹でタコのようになった山賊のカインはウォーハンマーをヴァンダルーに突きつけた。

「お前みたいなガキ、このウォーハンマーの一振りで十分だ!」

(いや、十分じゃない奴が居たらお前じゃ何も出来ませんよね? 見るからにただ力任せに振っているだけで、【棍術】スキルを持ってない人の動きだし)

そうツッコミを入れる代わりに、ヴァンダルーは舌をチロリと出して見せた。

「お前みたいな雑魚、この舌だけで十分です」

「このガ――」

何かカインが叫ぶ前に、ヴァンダルーの頬がぷくりと膨らんだ。そうすると彼の無表情にも、若干の可愛げを認める事が出来る。

しかし、何かを吐き出す「ぷっ」と言う小さな音と共に頬が平らに戻った。

そしてカインはビクリと硬直すると、そのまま後ろに向かって朽木のように倒れた。その左の眼窩にはギラギラと血走っていた瞳は無く、ただの紅い血溜まりと化している。

「えっ?」

「か、カイン? どうした?」

山賊達が呆然としていると、カインの左目から、ぬるりとした赤い蛇のようなものが出て来た。

「ひぃい!?」

腰を抜かす山賊の見ている前で、赤い蛇はカインの眼窩から這いずり出ると、血を滴らせながら空に浮かびあがり、そのままヴァンダルーの口の中に入った。

「……オリジナル武技、【舌鋒】。猛毒を分泌させながら撃つと、中々の威力ですね。欠点は、一度使うと舌を回収するか生やすかしないと、喋れない事か」

【毒分泌(爪牙舌)】の効果を活かし、根本だけ【霊体化】させて切り離した舌を、【遠隔操作】スキルも併用しながら射出して攻撃する、【格闘術】スキルの武技だ。

勿論、こんな技を考えついて実行する人間はヴァンダルーぐらいだろう。

「まあ、奥の手としてなら使えるかな?」

「な、何なんだお前はっ!?」

「とりあえず、これでカインは善良な猟師のカインだけになったので、後は普通に処理しましょう」

「に、逃げろぉっ! このガキ、本当に化けも……な、何だ、足が動かない……!?」

「お、俺も手足が震えて……な、何で、何で動かねぇんだよぉぉぉ!?」

必死にもがく山賊達に、ヴァンダルーは空中を滑る様に飛びながら近づいて行く。その小さな手の先端には、山賊達の喉を掻き斬るには十分すぎる鉤爪が伸びつつあった。

「普通に毒を撒きました。俺が風上から声をかけたのに気が付きませんでしたか?

じゃあ、俺の質問に答えてくださいね? 殺した後にもう一度聞きますけど」