軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六十四話 陰惨に奏で忌々しく歌え、行進曲を

「儂は一体……どうなったのだ?」

ゴルダンは困惑していた。

目も見えず、耳も聞こえず、身体は冷たい。何も分からない。

「儂は、重要な使命を……そう、神から賜った使命があったはず……」

『その通りです、我が僕ゴルダンよ』

「っ!? 貴方はっ……!」

突然聞こえた声。その声から感じる神々しさに、ゴルダンは声の主が神であると瞬時に確信する。

『しかし、お前は使命を果たす事が出来なかった』

そして次の言葉に、ゴルダンは崩れ落ちそうになった。偉大な神から下された使命を果たす事が出来なかった。その悔しさと申し訳無さに、胸が痛んだ。

『だがゴルダンよ、お前に再び戦う機会を与えましょう』

「何とっ! それは真ですか!?」

『ええ、勿論。そして俺の期待通りに戦ってくれたら、【今回の】罪は不問にしましょう』

「畏まりました、主よ! このボーマック・ゴルダン! 命ある限り主の神意代行者として戦って御覧に入れます!」

そう誓うと、ゴルダンの世界は色を取り戻した。

温もりは感じないが、身体の調子は寧ろ良くなった気さえする。

「高司祭っ! ご無事でしたか!?」

「目を覚まされたぞ! 早くポーションをかけろ!」

それと同時に、自分に群がる神の敵を確認する。

『離れんか汚らわしい!』

手近な一人に拳を叩きつけ、跳ね起きる。

「高司祭っ、何を!?」

『何をじゃと!? 貴様等を殺すために決まっているじゃろうが!』

好都合にも愛用の戦棍が近くに落ちていたので、それを足で蹴り上げ手で掴みとり、間抜けな敵に叩きつける。

「ごげぇっ!?」

濁った鶏の様な声を出し、鎧ごと肺を潰された神官戦士が吹き飛ぶ。

「高司祭っ! 俺ですっ、アルジェンです!」

『おおそうかっ! ならば死ねぃ、神の敵アルジェンよ!』

ごしゃりと、ゴルダンは次々に生前自分が教え、導いてきた神官戦士団の生き残りを次々に撲殺して行く。

『フハハハハハ! 神よぉぉぉっ! ご覧くださいぃ!』

ゾンビプリーストと化したゴルダンによって、遠征軍は遂に壊滅。

もうダメだと逃走した者も病に倒れ止めを刺され、誰一人生き残らなかった。

《【怪力】、【吸血】、【霊体】、【遠隔操作】、【並列思考】、【高速思考】、【格闘術】、【限界突破】、【同時発動】、【詠唱破棄】、【魂砕き】、【死属性魅了】スキルのレベルが上がりました!》

《【指揮】スキルを獲得しました!》

《100レベルに到達しました!》

やはり完全勝利だったなと、ヴァンダルーは結果に満足した。

元々負ける要素の無い防衛戦だったので、当然だが。

ヴァンダルー達はエレオノーラが仲間に成った直後から動き出していた。切り札をこれでもかと揃えに揃え、準備した。

敵が使うだろうトンネルを先んじて発見し、監視体制を整えた。

ゴーレムで城壁を作り、クロスボウを揃え、投石機を開発して設置した。

遠征軍しか感染発病しない病を開発した。ドラゴンゴーレムを解体して、オリハルコン製の防具や武器を作って配った。対吸血鬼用に、破壊されていた水銀鏡を修理してゴーレム化した。

そして個々の戦力を、各員の努力で向上してもらった。ランクが低い者でも4であり、しかもそこに【眷属強化】と【従属強化】スキルの効果が乗る。実質的な戦闘力はランク5相当だ。

対して遠征軍は負ける要素しかなかった。

本陣は帝国と盾国の確執で何かあればすぐに分裂する状況で、しかも総司令官が意志薄弱で吸血鬼と繋がっている国賊。副司令官も、奇跡が起こせる程有能では無かった。

何より、情報収集を怠り、タロスヘイムの状況を調べようとしなかった。

彼らはランク3の魔物なら一人で倒せる精鋭兵で構成された軍隊だったが、目的地にはランク5未満の戦闘能力の者は居なかったと言うのに。

結果、ヴァンダルー達は怪我人は居ても死人は無しと言う奇跡的な戦果を挙げたのだった。

城壁の内、全てをゴーレム化済みの王城に避難していたパウヴィナ達の無事も確認した。

「じゃあ、戦後処理に入りますね」

っとゴルダンの血を飲んで疲労を回復したヴァンダルーは遠征軍の死体を次々にゾンビにした。

その数およそ五千。数が減っているのは、倒し方のせいで死体が原型を保っていなかったり、脚が潰れて使いにくかったりするからだ。

そういった死体もヴァンダルーが【治屍】で治したり、他の死体と【手術】スキルで縫い合わせたりすれば使えなくはないが、そこまで捨石に手間をかけるつもりは無い。

そもそも五千もあれば十分なのだ。なので残りの千はアンデッド達の経験値やセメタリービーの食料に、残った骨はクノッヘンに吸収させるかイモータルエントの肥料になってもらう。霊の方は、リビングアーマーにでもなってもらう。

その作業と並行して、霊からの情報取集を行う。一番の目玉は原種吸血鬼の側近だったアイラだ。【死属性魅了】に抵抗できない彼女は、ヴァンダルーの機嫌を取ろうとどんな事でも教えてくれた。

「なるほど、やっぱりオルバウム選王国側のトンネルを崩したのは原種吸血鬼だったと。まあ、王女様達がハートナー公爵領に抜けた後だったからいいけど。

それより、そのテーネシアはトンネルを直せますか?」

『いいえ、テーネシア様……テーネシアでも不可能だと聞きました』

なら、後でミルグ盾国側のトンネルも同じように壊せば原種吸血鬼達もあのトンネルを使えなくなる。一安心だ。

他にもアイラからはテーネシア達は【悦命の邪神】に寝返り、忠誠を誓い加護を得る代わりにジョブを失ったらしい事が分かった。本格的に魔物と化したようだ。

ゾンビメイカーが新ジョブで出る訳だ。

後、現時点で邪神派に通じている人間、特にオルバウム選王国側の名前等有用な情報を聞き出す。

そして、すぐゾンビにした。テーネシア達は死んだ貴種吸血鬼の魂を呼び出し、アンデッド化させる事が出来る儀式を行えるそうなので、先にこちらでアンデッドにしておかないと情報が洩れる恐れがある。

「ヴァンダルー様、そんな事をしなくてもセルクレントのように魂を砕いてしまえばいいのに」

エレオノーラが恐ろしい事を言うが、ヴァンダルーは首を横に振った。

「別にそこまで憎くないですし」

ヴァンダルーはトラウマのせいで女性が痛めつけられ嬲られているのを見ると、反射的に殺意を覚える癖がある。しかし、彼にとってアイラは女ではなかった。

エレオノーラを殺そうとした【敵】でしかない。

しかし、敵だからって簡単に魂を砕くのは良くないのではないだろうかと言う意識も働いている。無残に殺すだけで憎むのを止めておこう。

「あ、でもこいつ等はエレオノーラの下に付けるので、嫌だったら言って。砕くから」

しかし、憎むのを止めたからと言って情が湧く訳ではない。マイナスからゼロに戻っても、プラスに成る訳ではないのだ。

『っ! わ゛だじがっ……こ……いつのっ!?』

「畏まりました、ヴァンダルー様。

分かったわね、アイラ?」

『…………はい゛、え゛れおのうら……さま……』

がっくりと項垂れるヴァンパイアゾンビに視線も向けず、ヴァンダルーは死者からの聞き取りを続けた。

へらへらと媚び諂うライリーに耐えながら、オルバウム選王国に渡ったハインツ達の事を聞いた。【五色の刃】だった時の各員の顔と名前、ジョブ、分かっているスキルを聞き出す。ただし、この内一人に関しては無駄になった。

エルフの女精霊魔術師、マルティーナがとあるダンジョンで死亡したらしい。

ハインツが選王国に渡ってから挑戦した勇者ザッカートに縁のある特殊なダンジョンに挑戦し、敗れたらしい。

お蔭で仇の数が三人になってしまった。

「霊も期待できないだろうし……ダンジョン内でアンデッド化していたら面白いけど」

やれやれとため息をついて、続けた。

後はアミッド帝国側に居るS級冒険者、【迅雷】のシュナイダーについて知る事が出来た。

何でもアルダから何度も危険を知らせる神託が出される程愛される聖人で、幾多の町や村を救いランク10越えの魔物を何十匹と討伐した大英雄らしい。

ただ本人は常に女を周りに侍らし、褒美に貰った島で貴族すら羨む贅沢な暮らしをしているとか。

今回の遠征ではアイラ達吸血鬼が裏に居る事に感づかれると拙いので、参加しないよう裏工作をする予定だったが、するまでも無く「俺は酒と女の居ない所に行く気は無い」と依頼を蹴られたらしい。

「なんだかなぁ。まあ、助かったけど」

上位の冒険者が何人も遠征軍に加わっていたら、こんな楽勝には成らなかっただろう。ミハエルより強そうなS級なんてとんでもない。

後は、レベルが100に到達したので、早速ジョブチェンジしておく。今回の戦争は、経験値的にもスキル的にも美味しかった。

《選択可能ジョブ 【毒手使い】 【蟲使い】 【大敵】 【ゾンビメイカー】 【樹術士】 【屍鬼官】(NEW!) 【病魔】(NEW!) 【霊闘士】(NEW!)》

「イエェェイ、また増えたー」

嬉しいのに感動を覚えないこの新ジョブ発見の頻度の高さ。冒険者ギルドに報告したら、暫く賞金だけで食っていける気がする。

【屍鬼官】は、多分【指揮】スキルを獲得したから生えたジョブだろう。多分、【連携】とか【指揮】とか、後軍団を強化するスキルが手に入りそうだ。

【病魔】は……これはジョブか? 魔物の名前ではないだろうか? まあ、ジョブなんだろうけど。

明らかに今回の件が切掛けか。たった十二時間で無害化する病気を一つ作ったくらいで大袈裟な。

【霊闘士】は、多分【格闘術】スキルと、【魂滅士】を経験したから生えたのかな? 多分、今度こそ【格闘術】を代表する戦闘系スキルに補正がかかりそうなジョブだ。

でもこのジョブを選ぶと、星座を模した鎧を着ないとダメなのだろうか?

「とりあえず、【毒手使い】でいってみましょう」

来年には選王国にちょっと行って様子を調べ、冒険者学校について情報を聞きに行くつもりなので個人戦闘能力を上げたい。

前は「握手を拒否されそう」と思ったが、最近色々思いついた事があるので、それを試してみようと思う。【霊闘士】はまた機会があったらにしよう。

《【状態異常耐性】スキルのレベルが上がりました!》

《【毒分泌(爪牙舌)】スキルを獲得しました!》

・名前:ヴァンダルー

・種族:ダンピール(ダークエルフ)

・年齢:5歳

・二つ名:【グールキング】 【蝕王】

・ジョブ:毒手使い

・レベル:0

・ジョブ履歴:死属性魔術師、ゴーレム錬成士、アンデッドテイマー、魂滅士

・能力値

生命力:160

魔力 :328,116,728

力 :108

敏捷 :105

体力 :105

知力 :757

・パッシブスキル

怪力:2Lv(UP!)

高速治癒:3Lv

死属性魔術:5Lv

状態異常耐性:6Lv(UP!)

魔術耐性:1Lv

闇視

精神汚染:10Lv

死属性魅了:6Lv(UP!)

詠唱破棄:4Lv(UP!)

眷属強化:7Lv

魔力自動回復:3Lv

従属強化:4Lv

毒分泌(爪牙舌):1Lv(NEW!)

・アクティブスキル

吸血:6Lv(UP!)

限界突破:5Lv(UP!)

ゴーレム錬成:6Lv

無属性魔術:4Lv

魔術制御:4Lv

霊体:5Lv(UP!)

大工:4Lv

土木:3Lv

料理:3Lv

錬金術:3Lv

格闘術:4Lv(UP!)

魂砕き:4Lv(UP!)

同時発動:4Lv(UP!)

遠隔操作:4Lv(UP!)

手術:1Lv

並列思考:3Lv(UP!)

実体化:2Lv

連携:1Lv

高速思考:2Lv(UP!)

指揮:1Lv(NEW!)

・ユニークスキル

神殺し:1Lv

・呪い

前世経験値持越し不能

既存ジョブ不能

経験値自力取得不能

「え? 毒手なのに牙と舌も?」

色々な所から毒を出せるようになった。まさか文字通り「毒舌」に成るとは……

『坊ちゃん、遠征軍の物資は全て手に入れました!』

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

「ヴァンダルー様、私も付いて行っても……?」

「基本馬車の中だけど、それで良いなら」

「あたしも!」

「パウヴィナは……まあいいか」

「やったーっ!」

「では蝕王軍進軍開始」

境界山脈のトンネルを守る急造の砦を見張る平兵士は、相棒と共に夜の荒野を見ていた。

時折聞こえる恐ろしい咆哮や、遠くから聞こえる爆発音、前触れなく上がる火柱や落ちる雷と言った現象にはここ数か月ですっかり慣れてしまった。

最初は怯えていたが、魔物同士が争って数を減らしているだけだと開き直る事にした。

この辺りの魔物は、軍で雇ったC級冒険者達が狩りつくさんばかりに討伐してくれた。どうやら、余程金になる魔物がいたらしい。魔物化したハリネズミの腹の毛が、上質な毛織物の材料になるのだと話しているのを耳に挟んだ事がある。

しかし、砦の空気は妙な緊張を孕んでいた。

「なあ、噂だと……」

「黙れ」

「何だよ、まだ言ってないだろ」

「遠征軍に何かあったんじゃないかって言うつもりだろ」

「何だ、分かってるじゃないか」

遠征軍がこの砦を出発してから既に十日以上過ぎている。予定ではとっくにタロスヘイムに着いている筈なのに、伝令隊は来ないし、狼煙の類も上がらない。

他にも平兵士達には知らされていない合図や連絡手段があるらしいが、それも無いようだ。

砦の空気が緊張しているのは、そのせいだ。

「トンネルの向こうにはそろそろ補給物資を満載した補給部隊が着く頃だろ? それなのに何も無いって、おかしくないか?」

「おかしいとは思うが……そんな事隊長に聞かれてみろ、大目玉だぞ」

士気が下がるような噂を囁いたのがばれれば、当然叱責を受ける。興味が無い訳ではないが、強面の上司から受ける説教と懲罰を受けてまで話したい話題では無い。

もし上司が妙齢の美女なら考えるのだが。

「でもよぉ……ん? あれなんだ?」

「あれ?」

「ほら、あれだよ。何か光ってないか?」

相棒が指差す先に視線を走らせると、確かに何かが光っている。ゆらゆらと、青白い何かが。

「多分、魔物の目か何かだろ。距離も遠いし、無視しろ」

人間が珍しいのか、魔物が遠くからこちらを観察している事は今までも頻繁にあった。最初は遠くに光る魔物の眼光を見つける度に生きた心地がしなかったものだが、そういった行動をする魔物は頭が良いので砦に居る限り襲っては来ない事が既に周知されている。

相棒が見つけた光もそれだと思った平兵士だったが――。

「なあ、でもあの光、増えてくぜ。しかも、気のせいか近づいて来てないか?」

そう言われて視線を戻すと、確かに光が増えていた。

一つから二つ、三つから五、十から数十。どんどん増えていく!

それに――。

「何の音……いや、声だ、声が聞こえる」

「隊長に報告だ! あれはただの魔物じゃない!」

悲鳴染みた声を出し、非常事態を知らせる笛を吹く。すると、飛び起きたらしい隊長と、夜番の冒険者パーティーのリーダーがやって来る。

「どうし……あれはなんだ!?」

その頃には平兵士達が報告するまでも無く、青白い光は増えていた。既に百は超えている。音も、確実に大きくなっていた。

「貴殿はたしか光属性魔術が使えたな!?」

「分かった、あの青白いのが何か見える様にすればいいんだろ?」

冒険者の男は呪文を唱え、【照明弾】の魔術を放った。手の中に生じた光る球体を、思い切り空に向かって投げる。

カッ! 夜空に太陽が生じた様に、その瞬間荒野から闇が払われた。

そこに見えたのは、彼らが便りを待っていた相手の遠征軍だった。

「あ゛ぁぁぁぁ……」

「ぎいいいっ! お゛う゛え゛あ゛~!」

白目を剥き、舌を垂らし、惨たらしい傷口を晒し、臓物を引きずり、それでも尚行軍を止めない、ミルグ盾国の精鋭達の姿だった。

「ひっ、ひぃぃぃっ!?」

悲鳴を上げて後ずさった平兵士だったが、それを咎める余裕がある者は一人もいなかった。

「あれは遠征軍の旗、か? それでは遠征軍は、全滅?」

「だろうな。数千はいるぞ、生き残りが居るとは思えないな」

光によって姿を現したアンデッド化した遠征軍は、その数数千。六千人規模だった遠征軍の内これだけの数がアンデッド化しているのに生き残りが居ると考える程、何よりアンデッドがこうして姿を現した後にまだ生きていると思う程、冒険者の男は楽天家では無かった。

しかも……。

『砦ダ! 奪エ! 殺セ!』

『俺達を……よくも……こんな所に……ゴロジデヤルゥゥゥ!』

元々は人だったとは思えない形相で怨嗟の叫びを上げている。

それを確認した冒険者の男は叫んだ。

「隊長さんっ、撤退開始だ!」

その言葉に腰を抜かしかけていた平兵士すらギョッとした。

「て、撤退だと!? 馬鹿な、敵と刃も交えずそんな事が出来るか!」

「刃を交えたら全滅だ! 隊長さんよ、この砦には俺達を入れても四百も居ないんだぜ!」

砦に居る兵は三百。そこにC級冒険者が九パーティ。

C級冒険者達は一人一人がランク5、若しくは6の魔物を倒し、パーティー全員でかかればランク7の魔物だって相手に出来る。

だが砦に居る兵士は精鋭とは言い難い。一人ではランク2の魔物の相手が精々で、ランク3相手には数人でかかれば何とかと言った程度だ。

「だが、相手はゾンビ程度だろう? 君達C級冒険者ならどうにか出来るはずだ!」

「確かにランク2のゾンビ程度なら、数千匹居ても何とかなる。俺達全員でかかって、この砦が半壊しても構わないならな。

だが、聞いただろ、あいつらの声を」

「声? 聞いたが、それがどうしたのだ?」

「下級のゾンビは、意味のある言葉を話さない。獣みたいなもんだ、吠え声や金切り声だけだ。偶に単語が一つ二つ混じる程度で。

だけどあいつ等の中には、こっちを見て『砦だ』って認識したり、意味の分かる恨み言を言ったり、明らかにゾンビより頭の良いアンデッドが混じってる」

その言葉の意味を理解した隊長の顔色は蒼白に成った。

数千のゾンビの中に、ランク3以上の上位のアンデッドが交じっている。

「ランク3以上が何百匹も混じっていたら、俺達でも手に負えない。ランク3以上は生前使えた武技を使ってくる事があるからな。しかも、アンデッドだから体力に限りが無い。

数が違い過ぎるんだよ」

隊長の脳裏に、成す術も無く押し潰され皆殺しにされる未来が過ぎった。そして彼は叫んだ。

「総員撤退準備! ありったけの罠をトンネルに仕掛け、油を撒いて砦に火を放つ! 弓兵と魔術師は準備が出来るまで敵を攻撃して時間を稼げ!

君達冒険者にも協力してもらうぞ!」

「ああ、任せとけ!」

「総員撤退準備、総員撤退準備!」

彼等は慌ただしく動き出した。

トンネル前の小規模な砦を守る兵士達は、撤退に成功した。

犠牲者も無く、その上で敵アンデッドを少しでも減らす事に成功して撤退した彼等は、トンネルを必死に進んだ。

アンデッド達に追いつかれたら、無残な最期を迎える事が解っていたからだ。

そして必死にトンネルを抜け、既に出してあった早馬で事態を知ったミルグ盾国側の砦の隊長と共に万が一の事態のために雇っていた魔術師達の術でトンネルを崩壊させた。

これでアンデッドは出て来られまい。

そう安堵したが、何とアンデッド達が入口から百メートル程にかけて崩れたトンネルを掘り返しながら進んでいる事を魔術師が感知した。

「ダメだ! この砦を放棄、町まで引くぞ!」

この砦は許可を得ずに境界山脈を越えようとする冒険者や犯罪者を取り締まるための物で、トンネルから出て来る魔物に対抗できる作りではなかった。

「もう一度トンネルを崩落させられないのか!?」

「もう崩れている物をこれ以上どうしろと!? 言っておくが、百メートル以上先にこの術は届かんし。同じ事をもう一度しろと言われても無理じゃ!

全員の魔力が回復するまで、一日かかる!」

アンデッド達は休みなく動いていて、こうしている今も恐ろしいペースでトンネルを掘り返している。既に三分の一程崩落部分を掘り返しているのを、魔術師は感知していた。

やはり撤退しかない。

「開拓地はどうします!?」

「早馬を走らせ、避難させる!」

「急げっ! 総員撤退!」

早馬を町と開拓地に走らせ、兵士達は撤退した。

開拓地では魔物の襲来に怯えた開拓民たちが警備隊に守られながら町まで避難し、町では冒険者ギルドが緊急依頼を張り出し、周辺の村や町からも冒険者を呼び集めた。

同時に町を治めるバルチェス子爵も、ありったけの兵士を掻き集める。

それらが間に合うかどうか微妙な所だったが、何故か間に合った。

昼も夜も無く、休憩もとらずに進むと思われていたアンデッド達の歩みは何故か人間の軍隊よりも若干遅く、人々は避難した上に、充分ではなかったが備える事が出来た。

それでも三千のゾンビが攻め寄せたバルチェス子爵の町、バルチェブルグの防衛戦は熾烈を極めた。

『ヒャハハハハハ! 英雄様のご帰還だぜぇえぇーっ!』

『わ、我こそはぁっ! アミッド帝国はマウビット将軍なるぞおおおおおっ! かいもん! かいもぉおおおおおおおんんんっ!』

『ぐひひひゃえへへへははは! 邪悪なっ、クズ肉共お゛っ! 儂がっ、この神に仕えるボーマック・ゴルダンがあ゛っ、ほぉろぼしてっくれ゛え゛る゛うぅっ!』

英雄ミハエルの再来と称えられた【緑風槍】のライリーが、数々の武技を放って町を守る兵士が放つ矢を落とす。

煌びやかに着飾り威風堂々と遠征軍を率いていたマウビット将軍が、アンデッド化した軍勢を指揮し攻め立てる。

そして止めに、吸血鬼ハンターと名高き聖職者ボーマック・ゴルダンが、町を守る壁に棍術で豪快に穴を空けた。

「アンデッドが入ってくぎゃあっ!!」

『ヒヒヒ! 英雄様に肉と臓物を献上しやがれぇぇっ!』

『不浄なるるるるぅっ、者共め゛え゛! 死ねえ゛え゛!』

アンデッドを押しとどめようとした兵士の腹をライリーの槍が串刺しにし、他の兵士を構える盾ごとゴルダンが叩き潰して行く。

『ふはははは! 凱旋だぁぁっ! 凱旋だああああ゛あ゛あ゛ぎあがああああ!』

そしてその後ろに、ゾンビ達を引きつれたマウビットが高笑いと絶叫が混じった物を上げながら続く。

だが、アンデッド化していたために弱体化し、また生前程の連携が出来ていなかった事もありバルチェス子爵は犠牲を出しつつも、何とか非戦闘員を守り抜く事に成功し、城壁以外の町の損傷は軽微に抑えられた。

ライリーの槍や、ゴルダンの戦棍が軍の支給品に代わっていた事や、遠征軍に参加していたはずの者の内、チェザーレや黒牛騎士団等がアンデッド化していなかった事も幸いした。

いや、何よりも幸いだったのはアンデッド達の足が遅かった事だ。

ただ遠征軍に何があったのかバルチェス子爵は雇っていた【霊媒師】に調べさせようとしたが、彼女は首を横に振った。

「あのアンデッド達の霊は、一人残らず山脈に帰って行ったよ。呼び止める私の声なんて、全く聞こえちゃいなかっただろうね」

「まあ、全部わざとなんですけどね」

その頃、ヴァンダルー達は無人の開拓地で火事場泥棒と環境破壊に勤しんだ帰りだった。