作品タイトル不明
三百五十七話 旧魔王と自称人間とその仲間達の激突
赤黒い炎の体を持つマラコーダに、『五色の刃』のハインツ達は苦戦していた。
『グオオオ! ガアアアアア! ゲハハハハァ!』
炎の鉤爪や尻尾による攻撃は激しく、ハインツの聖剣かデライザの盾でなければ防ぐことができない。
さらに、マラコーダは近づく者の体から水分を奪い、脱水症状を引き起こさせる能力を持っていた。炎と死の人工精霊は、『乾き』という死をも司っていたのだ。
「【破邪一閃】!」
だが、対死属性付与魔術である【輝命】を付与したハインツの聖剣による一撃は、マラコーダが防御のために掲げた腕ごと真っ二つに切り裂いた。
『ギィーッハハハハハハ!』
しかし、マラコーダはすぐに再生し、復活してしまった。ベルウッドから受け継いだ魔王殺しの聖剣であっても、この人工精霊を殺す事は簡単ではないらしい。
「まるで、伝説の火属性の精霊だな」
「フェニックスでもここまでじゃないでしょう。でも、あのレギオン並みだとは思うけど」
マラコーダは、ハインツ達が思わず伝説に記されている不死鳥フェニックスを思い浮かべるほどの不死性を持っていた。
体を二つに両断されても数秒で元通り再生できる事から、彼らが『アルダの試練の迷宮』で戦ったレギオンのコピーも連想させられる。
「いや、『カウンター』がない分まだマシだ」
「なら、全身を一気に粉々にしてやるだけだ!」
ハインツと同じく【輝命】を付与されたジェニファーがマラコーダに拳を連続して放つ。熱を防ぐマジックアイテムをつけていても肌がヒリヒリとする。
『グハハハハハハ!』
しかし、マラコーダもやられてばかりではない。ジェニファーの拳を避け、蹴りでカウンターを狙い、口から炎を吐いて距離を取ろうとする。
いつもの彼等なら、ここでジェニファーだけでなくエドガーも加わり、攪乱してマラコーダの動きを封じてその隙にハインツが大技を決める。だが、エドガーはもういない。
それでもハインツが降ろしたベルウッドの力を一気に引き出し、強引に仕掛ければマラコーダを消滅させられるかもしれない。だが、その代償に彼は大きく消耗して残り数分しか【英雄神降臨】を維持できなくなるだろう。
(それではグドゥラニスと戦う事はできないし、奴が再び人工精霊を創りだしたら何の意味もない。それにヴァンダルー達に囲まれた状況で【英雄神降臨】が解けるのは避けたい)
共闘を期待したがそれを拒否され、六道と一緒に攻撃された今のハインツはヴァンダルーをも警戒していた。六道ごと攻撃されている彼らが、ヴァンダルー達に対して警戒するのは無理もない事だが……やはりお互いに信頼も信用もしていないのが、ここでも足を引っ張っていた。
ジェニファーとハインツは苛立ちを抑えながら、攻撃力と不死性に特化したマラコーダを倒すべくデライザとダイアナの援護を受けながら慎重に戦い続けた。
そんなハインツ達の様子をグドゥラニスと戦いながら見たヴァンダルーは、二重の意味でラッキーだと思った。
ハインツ達が人工精霊の中でも厄介そうな個体を引き付け、そしてそのまま戦い続けている。おかげでダルシア達は他の人工精霊相手に互角以上の戦いを展開している。
しかも、グドゥラニスとの戦いにハインツ達が干渉するまで時間を稼いでくれている。
ハインツ達よりグドゥラニスを倒す事を優先すると決めたヴァンダルーだが、カッとなってつい……という事は誰にだってあり得る。
敵同士で一緒に戦うなんて、しなくていいならしない方がいいのだ。
『群れなければ何もできない人間の紛い者が、たった一人で我に勝てるつもりかぁ!? 【シャイニングブロー】!』
「【柳流し】、誰が紛い者ですか、俺は立派な人間です。【螺旋舌鋒】」
『この期に及んでも戯けるか! 人間でいる事に拘るなら、何故我が肉体の【欠片】を集める!? 【炎獄死】!』
「【鬼火】、俺がお前の【欠片】を吸収した方が安全で、しかも便利だからです」
そう考えている間も、ヴァンダルーとグドゥラニスの戦いは続いている。
エドガーのスキルを使って武技を放ち、【魔王の脂肪】の代わりに【魔王の皮脂腺】から分泌した皮脂を使用してヴァンダルーの魔術を模倣し、六道のチート能力を活かして学習を行いより強くなっていくグドゥラニス。それを捌きながら、攻撃を繰り返すヴァンダルー。
「それにしても俺の攻撃をよく防御、もしくは回避しますね」
接近戦を始めてから、ヴァンダルーはグドゥラニスに攻撃を直撃させる事ができずにいた。
『ククク、貴様の母親の仇のステータスが役立っているからな! このように!』
そう笑いながら、グドゥラニスはヴァンダルーが、グファドガーンと連携して放った【転移門】を応用した不意打ちを避けてみせた。
『どうした、このまま攻撃を当てる事ができなければ貴様がどれほど魔力を持っていようと――』
「それだけ、俺の攻撃が怖いようですね」
得意げな様子のグドゥラニスだったが、ヴァンダルーがそう言った瞬間顔から表情が消えた。
「【危険感知:死】の効果でしょう? エドガーのスキルが使えるにしても、反応が速すぎます」
グドゥラニスは本来、素早さと技巧を重視した戦い方ができなかった。何故なら、必要がなかったからだ。どんな防具よりも強靭で、毒や病気を受け付けず、再生力旺盛な肉体を持つ彼にとって小手先の技は何の意味もなかったからだ。
それが可能になったのは本人が語った通りエドガーのステータスを手に入れたから……そのエドガーの魂を吸収して彼のスキルを利用できるようになったからだ。しかし、それでもグドゥラニスの防御と回避は優れ過ぎていた。
それはグドゥラニスの反射神経がエドガーより優れているからでも、六道のチート能力による学習の結果短期間で成長したからでもなかった。ヴァンダルーの攻撃から感じる死の気配を、【危険感知:死】によっていち早く察知して回避し、防御していたのだ。
それは、言われたところで普通なら「だからどうした?」と返されるような指摘だった。ばれたところで、何が不利になるという訳ではないのだから。
『貴様……この我がっ! 貴様のつまらぬ攻撃に死の気配を覚え、怯えていると言いたいのか!?』
だが、魔王グドゥラニスにとっては認めがたい屈辱だった。特に、魂の足りない部分を六道聖の魂で補っている今の状態の彼は、六道の影響を受けている。
『死ねェエエエエ!』
「図星を突かれると怒るのは、魔王でも同じですね。【魂格滅闘術】」
激昂したグドゥラニスが体中から腕を生やして殴りかかってくるが、ヴァンダルーは魂を実体化させて肉体に纏う【魂格滅闘術】を発動して迎え撃った。
『【スクリューブロー】! 【百烈拳】! フゴオオオオオ!』
『【極即応】、【千烈鞭打】、【消毒】』
互いの技がぶつかり合い、グドゥラニスのどす黒い血が、そしてヴァンダルーの赤黒い血が飛び散る。高速で回転する手刀の突きに、激しい拳の連打、胸部の【魔王の鼻】からの猛毒空気砲を放つグドゥラニス。
ヴァンダルーは【極即応】で反応速度を強化。関節を外して伸ばした腕で放ったグールの【格闘術】の武技を放ち、猛毒空気砲の毒を消す。
結果、【魂格滅闘術】の上からでもややダメージを受けたが、グドゥラニスにいくつか攻撃を直撃させることができた。
激昂のあまり、生存本能よりも闘争本能の方に強く影響を受けて【危険感知:死】に対する反応が遅れているのだろう。
(計算通り、というほどではありませんが、怖いぐらい思い通りに激高しましたね)
『それと、お前の【欠片】を吸収する事と俺が人間でない事の因果関係が分かりません』
人間離れしている事は認めるが、人間からちょっと離れているだけで人間以外の何かになる訳じゃない。【欠片】を吸収しても、それは変わらない。そう暗に主張するヴァンダルーに、グドゥラニスは滾らせた怒りを殺意に変えて魔術に込めて放つ。
『我が肉体を愚弄したな! 【死告絶叫】!!』
死を告げるバンシーの絶叫を参考にしたと思われる、聞くだけで生命力を奪われる魔術が迸った。
『■■■■■■―ッ!!』
しかし、同時にヴァンダルーが放った【叫喚】スキルの音波砲が、グドゥラニスの絶叫を掻き消す。声量でも、【叫喚】スキルを持つ彼にグドゥラニスは敵わない。
『クハハハハ! 余裕だな! それとも気がついていないのか!?』
新たに編み出した魔術を無効化されたグドゥラニスだったが、それで逆に冷静さを取り戻したのか、次に口から出たのは罵倒ではなく嘲笑だった。
『我が繰り出す技を捌き、我が編み出した術を無効化したところで、我を倒す事は不可能だ! だが、貴様は我と戦うために莫大な魔力を消費し続けている!』
『その通りです。【界穿滅虚砲】も、既に何回か唱えているので、『五悪の杖』を使っていても今まで経験した事がない勢いで魔力を消費しています』
事実なのでそう認めたヴァンダルーだったが、その事にあまり危機感を覚えていなかった。何故なら、魔力はたしかに消費しているが、同時に【魔力常時回復】スキルと【魔力回復速度上昇】スキルの効果でこうしている今も魔力は回復しているからだ。
さすがに【界穿滅虚砲】を連発し続ければいずれ底をつくが、今のように【武技】主体で戦っていれば問題はない。
『魔力を消費して余裕がないのはお前の方でしょう、グドゥラニス?』
そして、自分よりグドゥラニスの方が魔力を激しく消費しているからだった。
『何を言う!? この我が! 大神をも滅ぼしたこの魔王の魔力の底が見えたとでも!?』
『では、何故人工精霊を一度しか出さない? 『太歳』や『グノーシス』がやられて、数が減ったのに』
『フッ! 役立たずと種の割れた手品を何故再び創る必要がある!?』
『なら、代わりに他の人工精霊を創ればいいだけでしょう? 今もハインツ達を抑えているマラコーダとか』
そう言うと、グドゥラニスは表情を一転して憎々し気に歪めてヴァンダルーを睨みつけた。
『我の肉体と魂が完全な状態ならば……!!』
『それまで隠していた【魔王の脳】をわざわざ使って人工精霊を創ったから、妙だとは思っていました。脳は、魔力の制御と運用に無駄をなくすことで、消費量を抑えるために必要だったわけですか』
グドゥラニスは復活したが、肉体も魂も不完全な状態で、魂は六道の魂を吸収して補っている状態だ。そのため、魔力の保有量も回復力も本来よりもずっと下がっている。
少なくとも、ランク13以上の人工精霊のような大戦力を再び創る事を躊躇う程度には彼は追い詰められていた。
『それと、成長しているのはお前だけではありません。【斬殺刃群】』
そう言いながらヴァンダルーは、グドゥラニスが使っていた魔術を発動させた。しかし、出現した刃は一つ……それも直径十メートル以上の巨大なものだけだった。
『おや、微妙に失敗。でもまあ、別にいいか』
『貴様、そんな魔力頼みの粗術で我の真似のつもり――うおおおおお!』
ヴァンダルーが刃を放つ動作をした瞬間、巨大な刃は爆発四散し、無数の欠片となってグドゥラニスに向かって襲いかかった。
『グオオオオ! 【吸魔盾】!』
大量の魔力が込められていたとしても所詮は一つの刃、回避に専念すれば問題ないと思っていたグドゥラニスの全身に砕け散った刃の欠片が、散弾のように突き刺さり肉を抉っていく。堪らず魔力を吸収する【吸魔盾】で防御を固めるが、それは悪手だった。
その時には、ヴァンダルーは両手で輪を作って自分の口に当てて準備を終えていたのだ。
『【死告絶叫】―!!』
瞬間、指向性の音波攻撃がグドゥラニスを貫いた。
『ギヤァアアアアアアアア!?』
グドゥラニスが先ほど使った【死告絶叫】と違い音が拡散しないため、彼の肉体の芯から生命力が奪い取られ、脳髄が直接かき回されるような筆舌に尽くしがたい不快感に苦しめられた。
『攻撃を防ぐために動きを止めさせれば、お前がいくら素早くなっても無意味です。そもそも、お前の肉体を活かすなら斥候職より盾職か他の前衛職の方が良かった。吸収したのがエドガーだったのは、運が悪かったですね』
『き、貴様、何故我の魔術を模倣……いや、より強力に上回った術を使う事ができる!? 貴様に、そんな才能はないはずだ!』
『……俺が何年魔術師をしていると思っているのですか? たしかに才能は有りませんが、死属性魔術に関しては、六道より経験を積んでいます』
実際には経験は三割程度で、残りの七割はいつも通りの魔力によるごり押しだが、そこまで説明するつもりはなかった。
『最初の術を【殺刃拷惨弾】、その次のを【冥告絶狂】と名付けましょう。
それはともかく……グドゥラニス、人間の技術と創意工夫を手に入れてはしゃいでいるようですが、お前の前にいる俺も強大な存在に対して技術と創意工夫で戦う人間である事を忘れていませんか?』
『き、貴様がそれを言うのか!?』
何故か愕然とした様子で聞き返してくるグドゥラニスに対して、ヴァンダルーは偽りの心なく頷いた。寧ろ、何故そんな事を言われるのか、心当たりがない訳ではないが全力で分からない事にする。分からないから、偽りではない。
この世界に来てから十年以上、文字通り赤子から魔術をやり直し、武術も学んでいるのだからそれぐらいいいだろう。
『そして、一人というのもお前の思い違いです。というか、お前も知っているでしょうに。まさか、皆を数えるとき一人ではなく、一個二個と数えているのですか?
【骸炎爪】、【黒雷爪】、【舌死氷】』
『五悪の杖』を背中に生やした触手に持ち替え、左右の鉤爪と舌にレビア王女、キンバリー、オルビアを付与してグドゥラニスに格闘戦を仕掛ける。
『くっ、【真・即応】! 【ミリオンスラッシュ】! 【大剛拳】!』
『【限界超越】、【欠片限界超越】、【神鉄裂】、【螺旋舌鋒】』
反射速度を上げたグドゥラニスは、左右の手刀で高速連撃を、背中から生やした腕でパワーを活かした大振りのパンチを振り下ろす。
ヴァンダルーはそれに対して、オリハルコンすら傷つける【魔王の欠片】による上級武技を左右の鉤爪で放ち、無限に伸びる舌でグドゥラニスの頭部を狙う。
『グオオオオオ!』
舌はグドゥラニスの側頭部を削り取ったが、手刀で切断された。左右の鉤爪はグドゥラニスが生やした【魔王の肉球】ごと【魔王の腕】を切断し、胸部の【魔王の鼻】を大きく抉った。だが新たに生えた拳によって、手首から先を砕かれてしまった。
『ぶぽぼっ!』
そして滑稽な音と共にグドゥラニスの胸部の【魔王の鼻】から黒い血が……いや、【皮脂腺】から出した皮脂を集めた脂が噴出される。
『【焼熱炎獄死】!』
その瞬間、ヴァンダルーの視界が炎に包まれた。グドゥラニスが、【炎獄死】よりも爆発力を高めた術を即興で開発し、脂を爆発させたのだ。
そして、泣き声のような叫び声が響き渡った。
『『『『『ヒィイヤアアアアアアア!?』』』』』
『【冥鎌獄虚断】』
爆炎を内側から断ち切って現れたのは、巨大な黒い鎌を振り上げたヴァンダルーだった。フィディルグの宿る『五悪の杖』を柄にした、死属性の魔力を収束させて刃を形作った大鎌が、グドゥラニスに向かって振り下ろされる。
『【幻影抜け】!』
対してグドゥラニスは、エドガーが使える中でも上位の回避用の武技を発動し、咄嗟に手刀で受け流そうとした。
だが、それは失敗した。
『『グオオオオオオオオオッ!』』
大鎌を受け流そうとした腕ごと縦に両断され、二つになった左右のグドゥラニスが絶叫を轟かせる。それを見たランドルフは、人工精霊と戦いながらも思わず「やったか!?」と期待を滲ませる。
『『う、腕よ!!』』
だが、グドゥラニスは【魔王の腕】を生やしてそれを左右でがっちりと組ませて強引に体をくっつけて見せた。
『チッ! 魂さえ砕ければ、貴様の醜い魂を砕いてやったものを!』
『お前にそれが可能だったら、そもそも【魂格滅闘術】を使いませんでしたよ。もっとも、お前は元々俺程簡単に魂を砕くことはできなかったようですが』
そして改めて対峙する二人。グドゥラニスの傷は既に再生されているが、深く消耗していた。グドゥラニスに対するヴァンダルーの全ての攻撃には、【魂喰らい】や【神喰らい】スキルが乗っており、グドゥラニスの魔力を確実に削っている。
同時に、ヴァンダルーも消耗していた。即興で編み出した【冥鎌獄虚断】の発動に、【魂格滅闘術】の維持と鎧の修復は彼の魔力の回復ペースを大きく上回っていたのだ。その証拠に魂の鎧は薄らぎ、霞のように消えていく。
『クフハハハハ! 戦う前は深海よりも底知れぬほどだったが、今の貴様の魔力はまるで湖のようだ。それでも多いが、直に底をつく。これでも余裕があると言い張るか?』
「ええ、俺はお前と違って個じゃありませんから。
皆、助けてー」
『馬鹿め、ヴィダ達は我が人工精霊の相手で手いっぱいだ。他に助けに来る者が……ほう、いたか』
ヴァンダルーの救援要請に応えて、彼の後ろに空間属性のゴースト、ジェーン・ドゥが現れた。その姿を目にしたグドゥラニスはやや警戒した様子で視線を向けるが、脅威を感じなかったらしくすぐにヴァンダルーへ視線を戻す。
……マラコーダと戦っている最中のハインツ達が、無数のマルティーナの姿をした霊の集合体であるジェーンに気がつき、驚愕のあまり隙を作ってデライザごとハインツが吹っ飛ばされるという出来事があったが、ヴァンダルーにとっては些細な事だ。
『その程度のゴースト如きが、貴様の援軍か? 舐められたものだな!』
両断された体は繋がったのか、グドゥラニスがヴァンダルーに向かって手刀を構えて襲い掛かる。ジェーンを無視してまずヴァンダルーを攻め続けて殺し、【欠片】を取り戻すつもりだろう。
『【転移門】を、【体内世界】へ』
しかし、ヴァンダルーにとっての援軍はジェーンではなかった。虚空に開いた【転移門】から、無数のデーモンが飛び出し、グドゥラニスに向かって飛び掛かった。
『ガアアアアアア!』
『コロセェエエエエエ!』
『ヒハハハハ! ギハハハハハハ!』
ヤギの頭部をもつレッサーデーモンから、上位のグレーターデーモンやアークデーモン。悪魔の魔術師であるデーモンメイジ、カラスの頭部と翼をもつクロウデーモン、炎を纏ったフレイムデーモン、悪魔の将軍であるデーモンジェネラル。邪神に匹敵するエンシェントアークデーモン。
ヴァンダルーが【デーモンルーラー】ジョブに就いた事で【体内世界】の一つにあふれた無数のデーモン達がグドゥラニスに襲い掛かる。
『デーモン!? だが、この程度がどうした!?』
しかし、いくら数が多くてもランク5や6、そして7のデーモン達がグドゥラニスの敵になるはずがない。ランク12のエンシェントアークデーモンであっても、彼にとってはちょっと強いだけの雑魚でしかない。
事実、グドゥラニスが手刀を振るう度にデーモン達は体を両断され、地面に向かって落ちていった。
そのデーモン達の体に、今までに飛び散ったが【群体操作】スキルで空中に留まっていたヴァンダルーの血や肉片が吸い付く。
『グオオオオオオオッ! 我々ハ、う゛ぁんだるーヨリ創造サレシ者!』
その瞬間、デーモン達が復活する。下半身の無い死体からは下半身が生え、上半身がない死体からは上半身が生える。五体バラバラの死体は、それぞれから足りない部分が生える。
『なんだと!? 馬鹿な、デーモンを支配しているのではなく、デーモンを――』
驚愕に目を見開きながらも、再び襲い掛かってくるデーモン達に猛毒空気砲を放って吹き飛ばす。しかし、飛び散った肉片から新たなデーモンが創られ復活。そして再びグドゥラニスに向かっていく。
『ヴァンダルーが存在する限り、我らは不滅!』
『我らは死ぬっ! そして生まれる!』
『サア、殺スガイイ! 何度デモ! 貴様ガう゛ぁんだるーヲ傷ツケタダケ、我ラハ輪廻スル!』
【デーモンルーラー】とは、デーモンを支配するだけのジョブでも創るだけのジョブでもない。自身の肉体と魔力でデーモンを創る事ができるようになるジョブであり、デーモンの支配者である創造主……発生源である事を表すジョブである。
つまり、デーモンだけだが輪廻転生を自動で行う……システムを創りあげるジョブである。
『キサマアアアア! この我が成し遂げ、今もこの世界を蝕み続ける偉業すら模倣したというのか!?』
魔物が輪廻転生するためのシステムをロドコルテの輪廻転生システムから模倣して作りあげたグドゥラニスが絶叫するが、そのあたりの事を知らないヴァンダルーは「何のことでしょう?」と首を傾げただけだ。
『オノレェェェ!』
数を増すデーモン達に【魔王の腕】を振り回して蹴散らしながら、ヴァンダルーとの距離を詰めるグドゥラニス。だが、ヴァンダルーの援軍はデーモン達だけではなかった。
「【剛斧】!」
「【極日照砲】」
デーモン達に遮られてグドゥラニスは気がつかなかったが、地上からヴァンダルーの仲間が駆けつけてきていたのだ。
「これが伝説の魔王グドゥラニスか……全身鼻だらけだな」
「見た目に惑わされるでないぞ、バスディア」
変身装具を発動し、それぞれ武技と魔術で自身を攻撃したグールの母娘をグドゥラニスは忌々し気に睨みつけた。
彼の腕の一本は半ば切断され、また他の腕は焼けただれていたが、すぐに元通りに再生してしまう。
『この程度の傷をつける事しかできない貴様ら如きで、時間が稼げると思っているのか?』
「時間稼ぎはできる。お前が絶対に死なない、しかし邪魔ができる程度の攻撃を繰り返す事でな!」
【御使い降魔】によって体に降ろしたヴァンダルーの分身から指示された作戦を口にしながら、バスディアが斧を構えて、デーモン達と共にグドゥラニスに肉薄する。
『小賢しい真似を!』
【危険感知:死】によってヴァンダルーの攻撃の多くを回避し、防御してきたグドゥラニスだが、彼は人間ではなく魔王だ。だから、人間にあるはずの急所が存在しない。生命活動に必要な臓器などないし、血が全てなくなっても実は問題ない。
だから、魂を喰らう事ができるヴァンダルー以外の攻撃では、それこそかつて彼を倒したベルウッドをその身に降ろしその聖剣を振るうハインツの攻撃だったとしても、死なない。実際、約十万年前破れた時も、グドゥラニスは封印されただけで死んではいないのだ。
だから、バスディアの攻撃をグドゥラニスは【危険感知:死】では察知できない。もちろん、グドゥラニス自身の反射速度、そしてエドガーの技量があれば大抵の攻撃は捌く事ができる。
「【怨投】」
『ガアアアアッ! どこまでも小賢しい真似を!』
だからこそ、ヴァンダルーもデーモンやバスディア達の間を縫って散発的に攻撃を続けている。【魔王の角】や【骨】で作ったナイフや槍を投げ、時折怪光線を放つ。グドゥラニスは、その攻撃に【危険感知:死】の反応を覚え、注意がバスディア達から逸れてしまう。
「ぬぅ! 後れを取ったか!」
「バスディア、我も混ぜろぉぉぉ!」
『うおおおおっ! 【真・龍殺し】ィ!』
『ヂュオオオオオ!』
しかも、援軍はバスディアとザディリスだけではない。グドゥラニス相手にもある程度戦える実力者であるゴドウィン、ヴィガロ、ボークス、骨人が次々に地上から自前の能力やマジックアイテムで飛び上がってきた。
エドガーの技量を上回る、しかしグドゥラニスに死を与える事はできない攻撃の数々に、ヴァンダルーとの戦いで消耗しているグドゥラニスは思うように動けなくなった。
そして、ヴァンダルーはその間に魔力の回復を促進させるための手段を実行する。
「坊や、なんなら今すぐダルシアと交代してくるか? まあ、ちょっと今手が離せない様子じゃが……それともベルモンドが来るまで待つという手も……」
「ザディリスが嫌なら、そうしましょうか?」
「……ええいっ! つまらん気の迷いじゃ! さっさと吸え!」
頬を赤らめていたザディリスだったが、覚悟を決めて首筋をヴァンダルーの前に晒す。
「では、いただきます」
ヴァンダルーはその細い首の灰褐色の肌に、牙……ではなく【口吻】と化した舌をすっと刺した。暖かなザディリスの血が、ヴァンダルーの舌の管から喉にゆっくりと流れ込み……魔力の回復ペースが一気に上昇した。