軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百五十五話 人の力を利用する魔王

『ぬうおあああああああああ! フザケルナァ!』

ルヴェズフォルの怒りのブレスの直撃を受けたグドゥラニスだったが、激怒に染まった叫びと共に激流から飛び出した。ヴァンダルーの妨害と動揺から直撃を許したが、しょせんは龍の中では格下のルヴェズフォルのブレスでは、大きなダメージを与える事はできなかったようだ。

しかし、グドゥラニスのプライドは都合良く使い捨てられる飼い犬だと思っていた存在に噛まれたことで深く傷ついたらしい。

『何故封印を解いてやった我に牙を剥くっ!? 駄龍がっ、骨の髄まで飼いならされたか!?』

激怒と殺意を迸らせるグドゥラニス。その彼に向かって、ルヴェズフォルは再び【激流のブレス】を吐きながら叫び返した。

『封印を解いたからだ! お陰で真の姿に戻ってしまったではないか! 封印されていたから見逃されていたのに……この後改めて仕置きを受けたらどうしてくれる!?』

ルヴェズフォルはグドゥラニスに封印を解除してもらった事に対して、全く感謝していなかった。寧ろ、余計な事をしやがってと激怒していた。

たしかに、彼は龍の下等な子孫である竜種の中でも最下級のワイバーンから、脱却する事を望んではいた。しかし、真の姿に戻る事を本気で望んでいた訳ではないのだ。

何故なら、ルヴェズフォルは色々となあなあで済まされているが、元々はヴァンダルーの敵だった存在だ。彼からヴァンダルーに牙を剥いたのではなく、彼が境界山脈内のリザードマンの信仰をフィディルグから奪い取って君臨していた湿地帯に、ヴァンダルーが攻めてきたという経緯ではあるが。

そして、十万年前にはこの世界の神々を裏切って魔王軍に加わった裏切り者で、グドゥラニスが封印された後もヴィダ派に詫びを入れる事もなく敵対し続けていた。

それが『パウヴィナのペット』で済まされていたのは、ヴァンダルーに支配していた湿地帯を奪われた後、逃げ出す途中で遭遇した『暴虐の嵐』のシュナイダー達にズタボロにされた後封印されたからだ。……とルヴェズフォル本人は思っている。

実際、今現在ヴィダ派の龍のトップである『山妃龍神』ティアマト等から恐怖で身がすくむほどの説教は受けても、実力行使を受けずに済んだのは彼が封印されており、軽く殴っただけで死んでしまう哀れで脆弱なワイバーンに成り下がっていたからだ。

しかし、ヴァンダルー達からすると封印される前のルヴェズフォルの印象そのものが薄かった。そんなヴァンダルー達の彼に対する今の印象は、『パウヴィナのペット』である。もう憎しみとかそうした感情の対象ですらない。

一個の人格(神格)を持つ存在に対してあんまりな扱いではないか? とちょっとだけ悩んだこともある。しかし、地球にも罪を犯した神が人の従者になるという罰を受けて罪を償うという神話があったので、それと同じだと考えている。

そして、もちろんルヴェズフォルもヴァンダルーにとっては仲間である。もし封印が解けた事でルヴェズフォルに改めて危害を加えようとする者がいたら、彼はむしろ庇おうとするだろう。何故ならペットは家族なのだから。

だが、ルヴェズフォル本人はそう考えてはいなかった。何故なら、彼の認識では彼は『暴邪龍神』ルヴェズフォルだからである。だからグドゥラニスの誘いなんて、歯牙にもかけなかった。

『貴様が我の封印を解いたのも、どうせ捨て石にするためだろう!? 誰が貴様のような負け犬に再びつくか!』

『我が、ま、負け犬だと!?』

『十万年前に負けただろうが! 特大の黒星がついた上に昔ほどの強さを持たない今の貴様に、誰が従うか! この旧世界の遺物が!』

だからこそ、『パウヴィナのペット』として彼女の指示に従い、怒りと恐怖をグドゥラニスにぶつけるのだ。

「……あのワイバーン、龍だったのか」

「うん。あの姿はあたしも初めて見たけど。後でオルロックさんに、新しい首輪をもらわないとね」

「それは勘弁してやれ。それにしても、裏切るとは思わなかったのか?」

ルヴェズフォルが龍だったことを知らなかったランドルフの言葉に、パウヴィナは自信満々な様子で胸を張った。

「元に戻ってもルヴェズはルヴェズだもん。ルヴェズならヴァンの方が強いって分かるもん」

『……それと封印が解けても傷は治ってないし、自分一柱が敵に回っても戦況に影響が出るとは思えないからっスよ、きっと』

信頼と絆以上にルヴェズフォルの性根も理解しているからこそ、裏切りの可能性を考えなかったパウヴィナ。彼女の意見に、フィディルグもグドゥラニスに対して怯えるのを忘れて補足する。

ランク13以上の……自分以上の強さの存在が何人もいる状況で裏切る程、ルヴェズフォルは愚かではなかった。

裏切り者は一度だけではなく二度三度と裏切ると言うが、今回ルヴェズフォルが裏切ったのはグドゥラニスの思惑だった。

もちろん、ルヴェズフォルにだけグドゥラニスへの攻撃を任せているわけではない。彼の【激流のブレス】に合わせてヴァンダルーが【冥轟雷槍】を射ち、ランドルフとダルシアも魔術を放つ。

『ぐぬううううっ! 裏切り者に期待した我が愚かだった!! 駄龍、貴様も奴らと共に葬ってやるぞ!』

だが、グドゥラニスもこれで終わる程弱体化していない。彼は両手の指を伸ばして手刀を作り、腕を高速で動かして叫んだ。

『【ミリオンスラッシュ】!』

発動した【短剣術】の武技によって、一瞬で数えきれないほど振るわれたグドゥラニスの手刀が【激流のブレス】やヴァンダルー達の魔術を切り裂き、霧散させた。

「武技で、しかも素手で発動した武技で魔術を斬って無傷だと!? 腐っても魔王は魔王か」

そう毒づくランドルフに、ダルシアは首を横に振った。

『違うわ、ランドルフさん。驚くべきなのは、武技を使った事よ』

ダルシアの指摘に、ランドルフだけではなくヴァンダルーも含めて全員がはっとした。

素手ではあるがグドゥラニスの肉体は、魔王の肉体。ヴァンダルー達が武器にしている【魔王の欠片】と同じものだ。龍のブレスや攻撃魔術を素手で払っても無傷、もしくは無傷と大差なくてもおかしくはない。

だが、グドゥラニスが【武技】を使うのはおかしい。何故なら、グドゥラニスは魔王。つまりは神の一種だ。『ラムダ』世界のステータスシステムの範囲外の存在であり、【武技】を発動させるのに必須なスキルの習得どころか、ステータスを持つことができない存在だからだ。

だからグドゥラニスに飲み込まれる前の六道聖も、魔術は使っても武技は一切使用していなかった。

「私も神だが、長い年月をかけて作り上げた依り代に入る事で、魔物の一種に偽装しステータスを得ている。だが、グドゥラニスにその時間はなかったはず」

「なるほど、エドガーの魂をそのまま飲み込んだのは、ステータスシステムを自分も利用するためでしたか」

グファドガーンの言葉を聞いて思いついた推測をヴァンダルーが口にすると、グドゥラニスは口元を笑みの形に歪めた。

『十万年前は魔物共にしか適応できず、我がベルウッド共に敗れる原因の一つとなったステータスシステム。忌々しく思っていたが、我自身も利用できるとなると評価も変わるというものだな。

ゼーゾレギンが利用しようとしたのも納得だ』

グドゥラニスの言葉で、彼はエドガーが所有していたスキルを持っている事が分かった。そのため、ヴァンダルー達はグドゥラニスに対する警戒を一段階高くした。

エドガーは上位スキルにも覚醒しているS級冒険者だ。加護や【英霊降臨】は喪失しているだろうが、多くのパッシブスキルやアクティブスキルがある。

それを、身体能力では人間を遥かに凌駕しているグドゥラニスが使うのだ。威力も速さもエドガーだった頃とは段違いになるだろう。

「貴様……エドガーをなんだと思っている!?」

そして仲間の魂を弄ばれていると理解したハインツは、怒りで声を荒げ聖剣を構えた。デライザ達も身構えているので、どうやら退くつもりはなくなったらしい。

『どう思っているかだと? 便利だと思っているとも……こいつらのようにな!』

グドゥラニスがそう言うと同時に、彼の周囲に六体のゴースト達が姿を現した。

「な、なんだ、あのゴースト達は?」

その全員に対して見覚えもなく、またゴースト達がこの世界では見ない変わった格好をしているために戸惑うハインツ達。

しかし、ヴァンダルーとカナコ、レギオンは見覚えがあった。

「あれは……【バロール】のジョニー・ヤマオカに【コピー】の井口に【シャーマン】の守屋に……?」

「【アルテミス】のキャサリンに、【スレイプニール】の西鏡、それと【アレス】の杉浦……は、前にも出ていましたっけ?」

『ヴァンダルーから聞いた六道の部下達ね。ダーがいないけど、憑いてきていないのかしら?』

ゴースト達の正体は、『オリジン』でヴァンダルーやその分身であるバンダーと遭遇せずに死んだ転生者達の内ダー以外の者達だった。彼等は自らの命を奪われても、ヴァンダルーに魅了される事もなく六道聖の守護霊のように憑き、従うほど狂信していたが……。

『さあ、我のために力を使うのだ!』

『はい! 六道さん!』

しかし、今の彼等は六道を吸収したグドゥラニスの便利な手駒と化しているようだ。ヴァンダルーに導かれていないため、アンデッド……魔物と化した事でグドゥラニスに操られているのか、それとも六道とグドゥラニスの見分けがついていないのかは不明だ。

『ちょ、ちょっと! そいつは六道じゃないわよ!?』

『ふははははは! 主君と主君を吸収した者の見分けがつかないとは、笑わせてくれる!』

『まあ、体は同じだから見分けられなくても無理はない……か?』

『黙れっ、失敗作の成れの果てが! 六道さんは魔王と一体になったのだ!』

事実を指摘するレギオン達を罵倒し、グドゥラニスを六道と呼ぶ守屋のゴーストの目は白目の部分まで黒く染まり、顔は歪んでいる。その様子から彼の正気が失われているのは明らかだ。

もし仮に、グドゥラニス自身が『我は六道聖ではない』と説明しても彼らの耳にはもう届かないだろう。

『では、まずは試すとしよう。……杉浦! キャサリン! 【斬殺刃群】!』

死属性魔力の刃の群れが、今度は転生者達のチート能力を付与されて放たれる。

【アレス】の【威力倍増】で威力が倍になり、キャサリンの【アルテミス】でより正確な誘導弾となった魔術が、ヴァンダルー達に向かって数えきれないほど放たれる。

『ひぃっ!? く、来るなぁっ!』

「ルヴェズ! 後ろに下がって!」

グドゥラニスの反撃に恐れをなし、狼狽してブレスを乱射しかけたルヴェズフォルにパウヴィナが指示を出して後ろに下がらせる。舞うように飛ぶペインが【斬殺刃群】を回避し、横をすり抜ける際にパウヴィナの振るう棍棒を叩きつけて砕いていく。

しかし、砕かれるのを回避した【斬殺刃群】は逃げるルヴェズフォルを狙い続ける。他の面々に向かった刃も、【アルテミス】によって特定の誰かを狙うよう能力を使われたからだろう。先ほどのように、生あるものを無差別に狙う事はなかった。

その【斬殺刃群】に対して、カナコは先程と同じ方法で対処しようと水属性魔術を放った。しかし、黒い刃は側面から受けた水流にも耐え、砕けることなく彼女を狙い続ける。

「頑丈さも【威力倍増】されてる!?」

「いいえ。ただ先ほどよりも魔術に込められた魔力の量が増え、術の練度が高まったのでしょう」

グファドガーンが【転移門】を開いて命中しそうな【斬殺刃群】を一か所に誘導しながら、そう推測する。だが、【アルテミス】の能力が付与された【斬殺刃群】は、彼女が開いた【転移門】を奇怪な軌道で回避して狙った獲物を狙い続ける。

「くっ! 聖剣の類も手元に残しておくべきだったか!」

【斬殺刃群】を斬り払う度に刃こぼれしていく魔剣に、ランドルフは思わず舌打ちした。無神論者……神に祈らない、頼らない事を身上とする彼は、聖剣の類や神々が作り上げたとされる神話級や伝説級の魔剣を持っていなかったのだ。

たかが道具ではある。しかし、現役時代のランドルフが神に由来のある武器を振るっていると、その神由来の神殿関係者が何かと絡んできて面倒だったのである。

これまではそれで問題なかった。神々に関係のない経緯で鍛えられた魔剣や聖剣でも、一級品である事に違いはない。それにランドルフ自身の高い技量があれば、ほとんどの敵は苦戦する事もなく倒せた。暴走した【魔王の欠片】を封印するために戦った時も、問題はなかった。

しかし……さすがに肉体の欠片だけが暴走している状態を相手にするには十分でも、不完全とはいえ復活した魔王グドゥラニスを相手にするには不足だったようだ。

こうなれば一旦教師の矜持を棚上げして生徒達に助けてもらうかと思ったランドルフだったが、そこにアイラが割って入った。

『【千斬刑】!』

アイラの切っ先の無い黒いエクスキューショナーズソードが、間合いに収めた【斬殺刃群】を次々に断ち割っていく。

「助かった!」

『礼はいらん。……学校が再開されないと、私も困るのだ』

アイラは英雄予備校での実習で、ヴァンダルー(エリザベス達もいるが)との食事やお泊りの機会を狙っていたのだった。

『【魔王の欠片】製の武具なら、斬っても耐えられる。それに、必中といっても、避けても追ってくるが、こちらから当たれば止められるのか』

だが、真面目な思考もしていた。

『そう思ってわざと当たりに行っているのだけど……』

『いくつか『カウンター』した程度では、あまり効かないらしい』

レギオン達はアイラが試したことを、我が身で実行していた。【斬殺刃群】がレギオンの肉に食い込み、絡み合った腕や胴体や頭部を斬り飛ばす。

その度にエレシュキガルが『カウンター』を発動して、自分達が受けたダメージと同じダメージをグドゥラニスに与えている。グドゥラニスは、本気の攻撃の直後にかすり傷を負わせるなどの対策を取っていないため、黒い巨体にいくつもの切り傷が刻まれた。しかし、彼は悲鳴をあげる様子もなく体を震わせて笑うだけだ。

『ふははははっ! これも死属性魔術か!? いいぞ、いくらでも撃ってこい!』

体のあちこちが裂けて赤黒い血が飛沫をあげるが、傷口はすぐに閉じて回復してしまう。復活したグドゥラニスは魔力だけではなく、生命力もかなり高いようだ。

『【命神獣推参】!』

変身杖を振るって向かってくる【斬殺刃群】を砕き、魔術で作りだした生命属性の魔力でできた神獣を創り出して、ダルシアは『おかしいわね』と呟いた。

『エドガーって人が、魔術の腕が優れていたとは思えない。その彼のステータスを手に入れたからって、魔術の……それも死属性魔術の腕が上がるものなの? それとも、意外と【魔術制御】スキルのレベルが高かったとか?』

「それはないっ!」

ベルウッドを降ろしたハインツがいるため、グドゥラニスから放置するのも危険だと判断され【斬殺刃群】を差し向けられている『五色の刃』のデライザが、オリハルコン製の盾で刃を弾き飛ばしながら答えた。

「エドガーも魔術を齧ってはいたけど、腕は並みの魔術師よりも下だった! こんな精密な魔力の使い方は、絶対にできない!」

『そうよね。あなた達の言葉を信用するのもどうかと思うけど、実際に魔術の達人だったなんて噂は聞いていないし』

あくまでも敵からの情報提供なので完全には信じられないが、実際にエドガーが魔術の達人だったなんて情報は無かった。

ならグドゥラニスは、元々魔術に高い技巧を誇っていたのかと言うと、そうでもない。

『以前も魔術は使っていたけど、ここまで繊細な技術は持っていなかったはずよ。だいたい力技でねじ伏せる……そこだけはヴァンダルーと似ているわ』

「俺としては繊細な技術力を身につけたつもりなのですが、ザディリス達から見るとまだまだ大雑把なようですからね」

膨大な量の魔力を持つグドゥラニスや、絶大に膨大な魔力を持つヴァンダルーは、その魔力の量故に繊細な魔力のコントロールが苦手だ。巨人と人間、どちらの方が細かい作業が得意かは考えるまでもない。そして人間の魔術師から見れば、ヴィダ達大神やグドゥラニス、そしてヴァンダルーは天を衝くような背の巨人である。

なら、グドゥラニスが利用しているのは一つだ。

「なるほど、六道の魂ですね。あいつは、チート能力のお陰で【ブレイバーズ】でもトップクラスの技巧派でしたから」

『エドガーだけでなく六道の魂も利用されているなんて、元敵の大幹部様が哀れだねぇ! 涙腺があったら思わず泣きそうになるよ!』

『よじれる腹が痛くて、だな』

グドゥラニスに魂の主導権を奪われた六道聖の末路に、思わずカナコやレギオン達が笑い出す。もしこの場にアサギでもいれば、少なくとも口では哀れんで冥福を祈ってくれただろうが……あいにく、ここにはいない。

『ふっ、奴は我の一部となる栄誉を得たという事だ!』

「そうなると、【成長制限無効】と【学習速度上昇】も有効なままかもしれませんね。……本格的にここで倒すしかない」

この場でグドゥラニスに逃げられた場合、手駒として使える魔物を量産する時間を与えるだけではない。手に入れたステータスをさらに成長させてくるに違いない。もしかしたら、エドガーのステータスを使用してジョブチェンジも可能かもしれない。

「絶対にここで滅ぼしましょう!」

「エドガーの魂を、この世界を脅かすために使わせはしない!!」

「……激しく不快ですが、今は奴らを滅ぼすよりも優先です」

刃の群れを掻い潜ってグドゥラニスに切りかかるハインツを忌々しく思いながらも、ヴァンダルーはグドゥラニスの魂を喰い滅ぼすまでは彼らを利用する事にした。

自身の復讐心を優先させた結果、グドゥラニスを逃がして反撃のチャンスを与える訳にはいかない。

『ヴァンダルーっ! 貴様、我がおめおめと尻尾を巻いて逃げるとでも思っているのか!?』

グドゥラニスはハインツの剣と手刀で切り結びながらさらに激怒して叫ぶが、ヴァンダルーはきっぱりと言い返した。

「お前の宣言を信用する根拠はありません」

そう言いながら、ヴァンダルーは自身の腕を割く。

「っ!?」

『ああっ、もったいないっ!』

傷口から迸る【魔王の血】に【魔王の粘液腺】の粘液を混ぜて粘度を増した物を、細かな網状にして広げて一気に振るう。ヴァンダルーを狙ってグドゥラニスが放った【アルテミス】の能力が込められた【斬殺刃群】は、自らその網に突っ込んで行く。何故なら、網はヴァンダルーと繋がっているヴァンダルーの一部だからだ。

慌てて網の範囲外に下がるハインツや、ヴァンダルーの血に熱い視線を向けるアイラを狙った刃も、網の範囲が広かったために絡めとられる。

『そうか、ならば信用する根拠を与えてやろう! まず駄龍を殺す事でな! 【斬殺円刃】!』

それまで放っていた【斬殺刃群】の魔力を、一つの円盤状の刃に収束させてグドゥラニスはルヴェズフォルに向かって放った。

「ルヴェズ!」

ペインが舞い、パウヴィナが棍棒を振るうが【斬殺円刃】はまるで意思があるかのようにそれらを回避する。どうやら、一つに纏めた事で上がったのは威力だけではないようだ。

『くっ、こうなれば自棄ぐぼばっ!?』

傷のために思うように動けないルヴェズフォルが、せめてもの抵抗に三度【激流のブレス】を吐こうとした瞬間、彼の全身が飲み込まれた。

『いくらコントロールが巧みになっても、全身をすっぽり包んでしまえば問題ないでしょう?』

膨張したレギオンに包み込まれたことによって。

『っ!?』

直径十メートル程の肉塊が、一瞬で全長約百メートルのルヴェズフォルの全身を包み込むほど巨大化したことに、さすがのグドゥラニスやランドルフ、ハインツも度肝を抜かれた。

そして【斬殺円刃】が城より巨大な肉塊と化したレギオンにめり込む。その瞬間、『カウンター』が発生してグドゥラニスの胸に深い傷が刻まれ、胸部の【魔王の鼻】からどす黒い鼻血が迸った。

『ぐおおおっ! 小癪な……だが、【魔術制御】と【死属性耐性】のレベルが上がったぞ! くくくっ、貴様ら人間がジョブチェンジを馬鹿のように繰り返していた理由が、理解できる日がくるとはな!』

しかし、グドゥラニスはヴァンダルーと戦いながら、既存のスキルのレベルアップと新たなスキルの獲得を果たしていた。

『次は守屋っ! 貴様だ! 現れよ、我が魔力によって生まれし死の精霊た――』

「【界穿滅虚砲】」

「【神命極生砲】!」

グドゥラニスの呪文の詠唱によって生まれつつあった人工精霊ごと、ヴァンダルーとダルシアの魔術が炸裂した。

膨大な無属性の魔力と、生命属性の魔力を収束させた奔流がグドゥラニスの体を大きく抉る。

『がああああっ! ぬぐぉおっ!!』

しかし、グドゥラニスは故意にダルシアの【神命極生砲】に身を晒して、ヴァンダルーの【界穿滅虚砲】から身を守った。

何故なら、彼はエドガーの【全属性耐性】スキルを持っている。そのため、属性の無い【界穿滅虚砲】は無理でも生命属性の【神命極生砲】の威力をスキルによって耐える事ができるからだ。

『詠唱する時間はないか……ならば、奥の手の一つを切るしかあるまい!』

左半身が肩から腹にかけて大きく抉られ、右腕を消し飛ばされたグドゥラニスがそう叫ぶ。すると、彼の頭部が不気味な音を立てて膨張した。

顔はそのままに、額から後頭部まで膨張した脳がむき出しになっているかのように不気味な形状に巨大化したグドゥラニスの頭部を見てヴァンダルーは思わず尋ねた。

「それは、【魔王の脳】?」

『正解だ……六道はこれを使う事で我が【本能】や【記憶】を刺激すると思い込んで温存していたようだが……これを使う事でより魔術を精巧に、そして詠唱を省略して唱える事ができるのだ!』

グドゥラニスはその言葉を証明するかのように、彼の周りに複数の人工精霊を発生させた。

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名前:エドガー

種族:人種(?)

年齢:33(外見年齢:27)

二つ名:【灰刃】 【闇を切り裂く者】 【聖母殺し】 【ヴィダの仇敵】 【英雄神を解放せし者達】

ジョブ:聖刃使い

レベル:0

ジョブ履歴:見習い盗賊 盗賊 弓使い 短剣使い 弓術士 短剣術士 探索者 追跡者 暗殺者 暗殺術士 暗弓士 暗闘士 断罪者 刎頸士 不死殺し 聖弓 アンデッドスレイヤー

・パッシブスキル

直感:5Lv

全能力値増大:中

状態異常耐性:10Lv

気配感知:10Lv

全属性耐性:7Lv

弓装備時攻撃力増強:極大

短剣装備時攻撃力増大:極大

非金属鎧装備時敏捷増大:極大

能力値強化:導き:10Lv

魔力増大:1Lv

死属性耐性:1Lv

・アクティブスキル

格闘術:7Lv

断罪神刃術:1Lv

忍び足:10Lv

影弓術:8Lv

鍵開け:10Lv

解体:8Lv

影鎧術:10Lv

限界超越:10Lv

料理:1Lv

魔剣限界超越:10Lv

魔鎧限界超越:7Lv

断罪殺術:7Lv

魔闘術:5Lv

無属性魔術:1Lv

魔術制御:3Lv

光属性魔術:3Lv

御使い降臨:10Lv

・ユニークスキル

ニルタークの加護

英霊化

グドゥラニスに吸収される寸前のステータス。吸収後は【御使い降臨】、【ニルタークの加護】、【英霊化】のスキルを失っている。

また、スキルの所有者がグドゥラニスになった事で、使えなくなったスキルがいくつかある。(【光属性魔術】等)

【断罪神刃術】は【短剣術】から二回覚醒した上位スキル。また、【影弓術】は【弓術】から一回覚醒したスキル。

【英霊化】は魂に埋め込まれたニルタークの英霊ルークの魂の欠片を起動する事で、【英霊降臨】を使用した時と同じ効果を発揮するスキル。通常の【英霊降臨】よりも反動が大きく、使用後の消耗が長続きする。

エドガーの魂を吸収しているグドゥラニスがこのスキルを使えない理由は、彼にとって遥かに格下の存在である英霊の魂を起動したところで、何の意味もないからである。

また、六道の【学習速度上昇】と【成長制限無効】のチート能力の効果によって戦闘中に【魔術制御】等いくつかのスキルのレベルが上がっている。