軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三十七話 これはダンジョン攻略と言えるのでしょうか?

「ギギャアアアア!」

「ギヒイ!?」

ゴブリンソルジャーの剣を避けて、そのまま脇腹を鉤爪で抉り、その後ろにいたもう一匹のゴブリンが狼狽している間に身体を駆け上がるようにして、頭を掴んで首の骨を捻って折る。

そしてそのまま更に後方にいたゴブリンアーチャー達に襲い掛かる。ちょっと矢が頬を掠るが、死にはしない。無視して突っ込む。

「……っ!」

慌てて弓から短剣に持ち替えるゴブリンアーチャーを、格闘術の武技【拳打】で打つ。鎧代わりの毛皮越しにゴキベキと肋骨が折れて肺腑にめり込む感触が気持ち良い。

すると死角から他のゴブリンアーチャーからの接射。それを【危険感知:死】で感知して、今度は【蹴打】を発動し、地面を蹴って飛び退く。

「ぎっ!?」

そして再び【蹴打】を使って、ゴブリンが二の矢を番える前に突っ込む。今に成って短剣を抜こうと滑稽な足掻きを見せるが、ヴァンダルーはゴブリンの足を蹴り折り、もんどり打って倒れたゴブリンの首を踏み折った。

「……ふぅ」

ちゃんと止めを刺したか、他に敵がいないかを確認して、ヴァンダルーは息を吐いた。

そうして呼吸を整えながら、改めて思う。

「スキルって凄い」

魔術関係のスキルは実感が湧かなかったが、【格闘術】スキルや【大工】、【料理】等を習得する度にその凄さが実感できた。

ヴァンダルーは地球とオリジン、二つの人生で戦闘に関する訓練を受けた事が無い。精々体育の授業で受けた柔道ぐらいだろうか。実戦でも魔術を使わず戦った事はほぼ無かった。

そんな彼が訓練を受けて三か月でこれだ。

敵はゴブリンソルジャーとゴブリンアーチャー。共にランク2で、そう強い相手では無い。

しかし、スキルこそ獲得していないが武器を活かした戦い方が出来、平均的な一般人よりも身体能力に優れた存在だ。

それを頬に掠り傷を一つ負っただけで、一方的に皆殺しに出来る。昨日は腕を盾にして、一匹殺すだけでやっとだったのに。

これがスキルの効果だった。

スキルを獲得したからといって、不思議なパワーで摩訶不思議に強くなる訳では無い。他の【大工】や【料理】もそうだ。意識していないのに、いい加減に作っているのに、何故か上手く作れるという訳では無い。

例えば、【格闘術】の場合。拳を繰り出す時、どうすれば速く強い拳を打てるか分かり、その通りに身体を動かせる。

蹴りを出す時、どうすれば相手の足を折れるか分かり、その通りに身体を動かせる。

相手からの攻撃をどうすれば捌けるのか、回避の方法は、どうすればカウンターを打てる体勢に持って行けるのか。

それが分かり、その通りに身体を動かす事が出来る。

【大工】の場合はどうすればより良い物が建てられるか、荷重を支えるためには何処に柱をどれくらい立てれば良いのかが、【料理】の場合はより美味い物を作るにはどうすれば良いのかが感覚的、直感的に分かるのである。

流石は神々が作ったシステムだ。仕事をする神様は実に素晴らしい。

特に素晴らしいのは、技量を数値に出来る事だ。地球やオリジンならその人物の有用性を計るのに過去の業績やらなんやらを見なければならないが、ラムダなら自分のステータスを見せれば……その分野に関するスキルだけでも見せれば、一瞬で事足りる。

……まあ、逆に今現在持っているスキルだけでその人の価値が決められる危険性もあるが。

『お疲れ様、坊ちゃん』

『お見事です、主』

サリアと骨人が水を持って来てくれる。

「八十点だ、ヴァン」

そしてバスディアの無慈悲な採点。

「えーっと、減点の理由は?」

「頬の傷で十点減点、武技を多用しすぎるから更に十点減点だ。

ヴァンなら魔力切れを気にする必要は無いだろうが、あまり武技を連続して使うと頭の処理が追いつかなくなる事がある。魔術を使い過ぎた時と同じだな」

「なるほど」

これまで幾度か経験した急激な発熱。あれが戦っている最中に起こったら、禄に抵抗も出来ず殺されてしまうだろう事は想像に難くない。

精神力がどうのという問題では無く、人が脳で思考する生物である以上避けられない事なのだ。

ヴァンダルーの魔力は一億を超えるが、知力は百を超える程度だ。【限界突破】を使っても、武技を多用するのは悪手かもしれない。

「じゃあ、後は魔術と組み合わせて戦う事を覚えましょう」

元々ヴァンダルーが数ある武術の中から【格闘術】を選んだのは、今の自分にあっている事と鉤爪の利便性を活かす為だった。

ヴァンダルーの身体は小さく、手足は短い。どれ程力があっても、こればかりは仕方がない。

略奪してきた武器の多くが大きすぎる。使えそうなのは短剣、短弓、短槍、そして自前の鉤爪だ。

短剣は携帯性に優れ、暗器としても良く、いざとなったら飛び道具にもなる。しかし威力に乏しく、使いこなすには筋力よりも素早さが必要とされる。ヴァンダルーの能力値の中でも低い方である素早さが。

短弓は、きっぱりと悪手だ。短弓程度の射程距離と殺傷力なら、【魔力弾】で簡単に代用できる。

短槍は前の二つとは逆に魅力的だった。短いながらも扱うのは【槍術】スキルなので、今の内にスキルを獲得して置いて、身体が大きくなったら長い物に持ち替える事が出来る。

隠し持つのには向かないが、別に暗殺者に成る訳じゃないのでそれだけを見て決める必要は無い。

しかしヴァンダルーは鉤爪を選んだ。

何故なら鉤爪は両手足に生えている自前の武器で、猫のように出し入れ自由。リーチは短いし飛び道具にもならないが、手足を切り落とされでもしない限り無くなる事は無い。

それに父親から鉤爪を使った格闘術の才能が遺伝しているかもしれないという理由もある。

後、ダルシアも喜ぶしバスディア達グールからの受けも良いし。

『だんだん坊ちゃんがグールっぽくなって行くわね』

『その内【白いグール】なんて呼ばれたりして』

『ヂュヂュヂュ、鉤爪に【猛毒】をかけたら正にそれですな』

新しい称号の予感がする。いや、下手をすると冒険者ギルドが討伐対象に付ける通称に成るかもしれない。

ミルグ盾国のギルドで指名手配されていたら面倒だな。

「それは兎も角、基礎訓練は終了だ。後はレベルを上げながらダンジョンを攻略して行こう。

そろそろこの階層の魔物も狩り尽くしたようだし」

そして進む事暫く、地下への階段を通って地下二階へと降りた。

隊列はヴァンダルーを中心に、前に骨人とバスディア。両サイドを骨狼、骨熊、骨猿。後衛に長物から弓に持ち替えたサリアとリタ。骨鳥は上空で警戒だ。

ガランの谷は、自然の谷の様な形状をした階層が地下一階から最下層まで続く構造をしている。

そのため、岩等で分かれ道になっている箇所もあるが、それを考えても一本道と言っても過言ではない単純な作りに成っていて、罠も殆ど無い。初心者向けと評価される理由の一つでもある。

「お、キングだ!」

「よぉ、キング!」

そして初心者用なので、ブラックゴブリン達が巨人種アンデッドの教官役と一緒に実戦訓練に勤しんでいた。

「調子どうだ、キング」

生まれて半年以上過ぎ、すっかり大人になったブラガを見上げてヴァンダルーは答えた。

「スキルを身に付けて、八十点貰った」

どうだと胸を張ると、ブラガは口の両端を釣り上げて言った。

「まだ小さいのに凄い! 偉いぞ、キング!」

わしわしと頭を撫でられた。……褒められたのに何か腑に落ちないのは、何故だろう。

「これが、幼馴染が大人になって行く中、自分だけ子供のままなのを自覚すると言う事か。なんという虚しさと切なさと焦燥感」

「無理言うな、キング。俺ゴブリン、お前ダンピール」

はっとして自分の心理状態に気が付くヴァンダルーだったが、ブラガの言う通り種族と成長のスピードが違う。

それに今はブラガの方が背が高いが、ブラックゴブリンである彼の身長は大人の胸までしかない。将来はまたヴァンダルーがブラガを見下ろす事になるだろう。……なるよね?

「そういえば、ブラガの訓練の方は?」

「沢山スキルを覚えたぞ。短剣術、忍び足、気配感知……俺もうレベル80超えた!」

「うわ、凄い。あっという間に越されそう」

エッヘンと胸を張るブラガの頭を、【飛行】で飛んでまでお返しだと撫でるヴァンダルー。

「ブラガはブラックゴブリンだからな。普通のゴブリンやコボルトと同じで、早熟なのだろう。成長期が纏めてくるようなものだから、今が伸び盛りだ」

生まれて一年経たずに大人になるブラックゴブリン等の魔物は、成長期が短い期間に纏めて来る。だからその期間に鍛えれば鍛えるだけ強くなるらしい。

「頑張ってランクアップするんだぞ。でないと、この辺りで魔物を狩って生計を立てるのが難しくなるからな」

ブラックゴブリンのランクは2。そしてタロスヘイム周辺に出現する魔物の多くがランク3以上。狩りをする仲間の数や武装にもよるが、安定して獲物を狩るのは今のままだと難しい。

「き、厳しい。でも本当だから俺頑張る」

それが解っているのでブラガも真剣に訓練を熟しているのだ。今のままでも巨人種アンデッドやグール達の下働き、若しくは難しいが農業にでも挑戦すれば食っていく事が出来るかもしれないが彼も魔物だ、強くなりたいという本能がある。

「じゃあ、キング。ここ攻略したら、冒険!」

「うん、冒険」

ヴァンダルーと固い握手を交わし、ブラガは訓練に戻って行った。

因みに、ブラガ達ブラックゴブリンはダンジョンに出現するゴブリンを殺す事に躊躇いは感じないらしい。

「あれ、敵」

その一言が全てを表しているらしい。

地下二階から三階はブラックゴブリン達の実戦訓練が行われている為、ヴァンダルー達はほぼ敵に遭遇しなかった。元々このダンジョンの浅い階層ではランク2程度の魔物しか出て来ないので、あまり経験値的には美味しくない階層なので気にしないが。

そして地下四階は、ブラックゴブリンでは無くアヌビス達が実戦訓練を受けていた。

「ガアアアアア!」

「ガアアアアア!」

どっちがどっちの吠え声か分からないが、人間大の狒々といった感じのランク3の魔物、大狒々に槍を持ったアヌビスの青年が対峙している。

お互いに牙を剥き出しにして威嚇し合うと、戦いは避けられないと判断したのか大狒々はそそり立つ崖に四肢を使って駆け上がり、上を取ろうとする。

「ウォン!」

対するアヌビスの青年も、何と二本の足で崖を駆け上り、大狒々を片手に持った槍で迎え撃った。

「ギャアアアアアア!」

金切り声のような悲鳴を上げて大狒々が地面に背中から落ち、それを追って落ちてきたアヌビスの青年が着地と同時に大狒々の首を踏み折る。

見事な勝利だった。

「ウォゥン! キング、どうだった? 私の狩りは」

「強くなったな。ゼメドならもう同じ3ランクなら何でも狩れるだろう」

アヌビスの青年は、ブラガと同じ時期に生まれたアヌビスのゼメドだった。その姿は幼年期とはすっかり変わっている。

頭は凛々しく精悍なシェパードに似た犬の物で、首から下は引き締まった筋肉が格好良い褐色の肌をした男の物だ。背も高く、この姿だけを見ると彼がヴァンダルーより年下だとはとても思えない。

「いや、まだまだだ。それにこの辺りではランク3のままだと、やはり弱い。皆と力を合わせて狩りをするにしても、もっと強くなっておきたい」

力の弱い者が団結によって力を合わせれば、強い獲物でも狩れる。

しかし、出来るなら力の強い者同士で協力してもっと強い獲物を狩れた方が良いのは当然だ。ゼメドの目標意識は高いようだ。

「それより、相談したい事がある。メメディガの事で」

「彼女に何かあったんですか?」

ゼメドやブラガと同様に、すっかり大人になった彼の双子の妹、メメディガの事で悩んでいるらしい。何でも、最近様子がおかしいのだとか。

「誰に貰ったのか魔物の骨や牙で作った首飾りを付けていたり、休憩時間に話をしようとしたら先に何処かに消えていたり……最近ではベルグの奴とばかりいる」

「……お年頃なんじゃないですか?」

どうやら、メメディガは同じアヌビスのベルグ君と交際を始めたらしい。年下の男の子相手にやりますな、まあ実際には一か月ぐらいしか違わないのだけど。

女の子の方がマセているというのは、本当のようだ。おめでとうございます。

「何っ!? メメディガはベルグの子を産むつもりなのか!?」

交際イコール子作りはちょっと思考が飛躍しすぎているような……いや、そうでもないか。この世界で、魔物だし。

「まだ早い! 俺達は半人前なんだぞ!」

ヴァンダルーも、地球で育った日本人としての感覚ではゼメドと同感なのだが――。

『そんな事ありませんよ。成人即結婚なんて、人間社会じゃ珍しくありませんよ』

『それにまだ早いって言っても、子供じゃないんだし。そんな事言ってると、婚期を逃すのよ』

っと、リビングアーマー姉妹。

この世界の結婚観は、若い内に結婚して早く子供を産むに尽きる。医療が未発達で、代わりに魔術があるが貴族か裕福な商人や高位の冒険者でもなければ魔術師に代金が払えないから。

昔の日本や外国でも似たようなものだったらしいし、これぐらいは普通だろう。

「そうだぞ。女にとって重要なのは、誰の子を産みたいかだ。メメディガがベルグの子を産みたいと思うのなら、お前は彼女の力になるべきだ」

そしてバスディアの語るグールの男女観はこの調子である。子は女が産み、集落で育てる。現代日本の常識で考えると重いのか軽いのか。

父親としての責任は要求されないが、集落の一員である限り自分の食い扶持以上に獲物を狩らなければならないので、ヒモにはなれないのがグールの社会である。

……戦えないと厳しいかもしれない。

『ぢゅぅ……』

『アオーン』

尚、骨人達は関係無いとばかりに周囲を警戒していた。まあ、助言を求めても動物の常識で答えそうなので、そのままにするのが吉だろう。

「そ、そうなのか……」

「まあ、ベルグが獲物を狩れるようになるまで待てって言うのが精々では?」

この世界は生きていく事だけでは無く、シスコンにも厳しいかもしれない。

そんなこんなで地下四階も平和に過ぎた。因みに、大狒々は肝臓や腎臓がポーションの材料になるらしい。……残念な事に、薬剤師ジョブの人がいないので活用できないが。

そして地下五階では、残りのアヌビスとまだランク3のグールが合同訓練を行っていた。

「ガアアア!」

「グルルルル!」

戦闘言語が飛び交い、瞬く間に岩を数珠繋ぎにしたような姿のロックパイソンを傷つけて行く。

岩のような防御力を誇る巨大なヘビも、彼らの連携の前にはただの獲物に過ぎない。魔術で作りだされた粘着力の強い泥で動きを止めた隙に、表皮の隙間に槍や剣、爪が捻じ込まれて止めになった。

尚、岩のような見た目にも関わらず肉は熱を通すと柔らかく、ササミに似た味がする。

「キング! どう、私の土属性魔術!」

っと、首から上がシェパードの女アヌビス、メメディガが杖を振りながらやって来た。ロックパイソンの動きを止めた粘着性の泥は、彼女の魔術によるものだった。

「うん、とても上手だった」

地味だけど堅実に戦いの役に立つ魔術。土属性にはそういう魔術が多い。火山を噴火させたり、溶岩を手足の如く操ったり、地割れを起して敵を飲み込んだりする大魔術を使えるのは極一部で、多くの術者は落とし穴を掘ったり、地面に硬い棘を生やしたりと、そういう術を得意としている。

なのでメメディガの魔術は、土属性の特性を考慮すると良い使い方をしているという事になる。大体の生き物は大地と無関係ではいられないのだから、とても有効な術だ。

それとは別にヴァンダルーは彼女を見上げて思う。

輝く瞳、ピンと伸びた耳、湿った鼻、白い牙、艶やかな毛並み、それと同じくらい綺麗な肌、膨らんだ胸にしまった腰と、嬉しそうに左右に振っている尻尾。

小さかった頃も可愛かったが、美人になったものだ。幼馴染に美人が居ると何となく誇らしい気分になると聞いた事があったが、メメディガを見ると覚える感情はそれだろうと推測できる。

ボーイフレンドが出来るのも納得だ。

「どうしたの、キング?」

「いや、何でも。そういえば地下四階でゼメドにあったけど、最近上手く行ってないの?」

「そうなのよ。聞いて、兄さんったらいちいちウルサイのよっ」

その後、「あー、それ思春期には良くあるよねー」な愚痴を聞かされる事十分。

「でも、兄さんが心配してくれてるっていうのは分かるのよ。だけどもう少し信頼してくれても良いんじゃないって思うの」

「あー……うん……一度話し合ってみたらいいんじゃないかな。二人だけだと熱くなるかもしれないから、誰か間に入れて」

「そうね、じゃあベルグに――」

「ベルグ以外で」

それはただの修羅場です。

尚、普通のゴブリンやコボルトが人の言葉を話さないのに、メメディガやブラガ達がペラペラと話せるのは、グールやヴァンダルーから言葉を教わったからである。

これは特別な事では無く、他にもテイマーにテイムされているある程度知能が高い魔物は、言葉を覚える事が多い。流石に会話できるのは人型の魔物を除けば極限られるようだが。

そしてメメディガの相談への応対を終えたら、地下五階もあまり戦闘せずに階段を下る。

そして地下六階、ここからがガランの谷の本番だ……産業的な意味で。

『切り出せーっ!』

「うおおおっ! 【石斬り】!」

巨人種アンデッド達が、生き生きと白い岸壁から四角く石を切り出していた。彼らはタロスヘイムの石工職人である。

ガランの谷の地下六階の壁や岩からは、白い石材が取れる。それは地球の大理石に似ていて、ダンジョンから取れる為か魔力を含み、通常よりも高級な石材になるらしい。

何でも加工する時秘伝の技法を施す事で、通常の大理石よりも硬く丈夫で摩耗にも強い品が出来上がるのだとか。

オルバウム選王国のハートナー公爵領と交易を始めた時、想像以上の高値で売れて当時の巨人種達は驚いたらしい。

しかし、今はその交易もとっくに途絶えているし、王城も街も城壁も全てヴァンダルーが元通り修理し終えている。だから石材の需要はあまり無いはずなのだが。

「これはこれは、ダンジョンでの修練ですか御子よ」

そこに、金属鎧に円形の盾を持ち、人の頭を卵のように叩き潰せそうなメイスを下げたリッチにあるまじき恰好をしたヌアザが居た。

「はい。ヌアザ達はどうしたんですか?」

「少々石材が要りようになりまして」

ヴァンダルーの【ゴーレム錬成】は砕けた破片を合成して石材を作る等、リサイクルは出来る。しかし、何も無いところから新しい石材を作る事は出来ない。

しかし、新しい石材が何故必要なのだろうか?

「まさか、俺がリバーシを作りすぎたから?」

皆喜ぶから、調子に乗って百セット作ったのはやりすぎだっただろうか?

「いえ、流石にそこまでではありません御子よ。でも出来たら後百セット、都合の良い時にお願いします」

現在タロスヘイムではヴァンダルーが作ったリバーシとジェンガ、フリスビーが流行している。皆娯楽に飢えている事に気がつかない程、娯楽が無い事が日常になっていた事も要因の一つだが、どれもルールが単純で、すぐに遊べる気軽さがウケているのだ。

なので現在リバーシやジェンガを持っている事は、ちょっとしたステータスになっていた。ブームがやや過熱しすぎなのではないかと、心配になるぐらいだ。

別に代金を貰っている訳でも無いし作る手間もかからないので、考えてみれば問題無いかとヴァンダルーは放置しているが。

「後、出来ましたらジェンガとフリスビーもお願いします」

「……それは俺に頼まなくてもいいのでは?」

どちらも作ろうと思えば、出来るはずだ。

「いえ、御子の手によって作られる事に意味があるのです」

どうやらヴァンダルー手製の玩具には、アンデッド達にとって勲章に似た意味があるらしい。そこまで大した品じゃないのに。

いつの間にかブランド的な価値が出来上がっていたのだろうか。

「分かりました」

でもそんなに喜んでもらえるなら沢山作ろう。考えてみれば、巨人種アンデッドやグールの皆に給料を払っている訳でも無いので、これぐらいサービスしても良いだろう。

「それで、その石材は何に使うんですか?」

「これは王城の前の広場がガランとしているでしょう? そこに石像を建てようという話になりまして」

「石像を。それは良いですね」

芸術は心を豊かにする。特にアンデッドは肉体よりも精神に比重が傾いている場合が多いので、精神の安定は重要だ。

「はい、次の春までには御子の石像が完成する予定です」

「……マジですか」

「マジです。御子は神託だけでなく、予言の御子なのですから。我々のように女神ヴィダの復権を望む者達にとって、御子は信仰の対象なのです」

「……やや外に出るのが嫌になりました」

好意的に接してもらって悪い気は勿論しないが、それをすっ飛ばして信仰の対象まで行くとどうすればいいのやら。

まあ、顔に「神託の御子です」と文字が浮き出ている訳でも無いのだから、選王国に出たら黙っておけばいいか。

『坊ちゃん、楽しみですね』

『貴族は自分の自画像や石像を一つは持っているものだから、そんなに嫌がらなくても』

「王城の前の広場に石像を建てられる貴族って、居るんですか?」

リタとサリアが、そういわれた途端視線をあさっての方向に反らしたのが、何となく気配でわかった。頭部も何も無いのに、表情豊かな姉妹である。

『おおおっ、っと言う事は居ないのですな? つまりこの世で主のみ! ぢゅううっ、おめでとうございます!』

骨人が全力で祝ってくれた。

まあ、良いか。別にタロスヘイムに誰か来る訳でも無いし。見るのは巨人種アンデッドとグール、新種のみんなぐらいだろう。

「では、我々はあの石材を運び出しますので失礼します」

そう言ってヌアザ達は石材を運び出す作業に取り掛かり始めた。これからトン単位の石材を襲い掛かって来る魔物に破壊されない様護衛しながら、地上を目指すのだ。

魔物は別に石材を狙う訳ではないが、偶然攻撃が当たって石材に罅が入る事もあるからだ。

「フゴフゴ」

「キングの石像の材料、守る」

「だから俺達にもリバーシ」

そしてその護衛をゴーバ達オーカスが担当している。彼らはアヌビスやブラックゴブリンと違って、まだ大人になっている訳ではないが、ランク3ぐらいの敵なら既にどうにかなるスキルと身体能力を身に付けている。これくらい丁度良い訓練と言う事だ。

「ここを出たら作りますね。そういえば石材を階段で運ぶのは大変なのでは?」

『安心しな! ノウハウってもんがあるからよ!』

何でも階段をスロープにするためのマジックアイテムだとか、色々な物があるらしい。それにアンデッド化して疲労の概念が無くなった巨人種に、まだ子供だがオーカスにと、怪力揃いだ。心配するだけ無駄だろう。

ヌアザ達と別れて進むが、きっと石材を切り出す邪魔をされないようにと前もって魔物を狩ったのだろう、地下六階には殆ど魔物が出現しなかった。

「俺達、何でここに潜ったんでしたっけ? 視察の為だったかな」

「気持ちは分かるが、きっと下にはまだまだ魔物が居るはずだ。進むぞ、ヴァン」