作品タイトル不明
二百九十五話 偽装なれど激戦
魔王の大陸沿岸での戦いは激しさを増していた。
紅い濃霧となって広がる【貪血】と、再開されたクワトロ号と偽クワトロ号の砲撃。それを掻い潜ってボティンの防衛隊である亜神達と、その先兵である魔物達の生き残りが、前に出ていたヴァンダルー達に襲い掛かる。
『倅の屍を弄んだ貴様は許さん!』
『轟雷の巨人』ブラテオが、怒号と共にヴァンダルーへ雷を落とす。
「俺達に負けて、死体を回収されたらどうなるかなんて、最初から予想がつくでしょうに」
ヴァンダルーは自分の上空に、薄い水の膜を張って雷撃を防いだ。
「まあ、深い意味などない殺し合いの場でよくある罵倒なのでしょうけれど」
『そう思うなら、返事なんてしなくていいのに』
水と土を合わせた属性をもつスキュラのゴースト、オルビアを用いた【神霊魔術】で創りだした純水の防御膜だ。
『馬鹿な!? 水で雷を防いだだと!?』
純粋な水には電気が流れない事を知らなかったブラテオが動揺したように動きを止める。……もしこれが自然現象の雷なら、純水でも高い電圧によって防御膜を突破する事ができただろう。だが、ブラテオが放っているのは魔力によって作り出された電撃であり、それを防いだのはヴァンダルーの魔力によって魔術で作り出された純水だ。
相性が悪くても、魔力のぶつかり合いでヴァンダルーに勝てるはずがない。それに気づかず驚愕に動きを鈍らせた彼の顔面に向かって、爆発的な勢いで膨張したヴァンダルーの拳が迫る。
『だが、貴様の仕業ならおかしい事ではないなぁ!』
しかし、ヴァンダルーの拳はブラテオの手を守る金色の手甲によって防がれた。それどころか、歪に歪んだ拳にブラテオのもう片方の拳がめり込んでいる。
「……動揺して見せたのは芝居ですか」
膨張した腕をすぐに戻したヴァンダルーだったが、元のサイズに戻った腕は無残に折れ曲がり、骨が皮膚を突き破って露わになっていた。
『貴様のその技、返し技に弱いと見たがその通りだったようだな!』
ヴァンダルーが、サタンジャイアントを【筋術】で倒したのを見ていたのだろう。ブラテオは今のヴァンダルー流【筋術】の弱点を見抜いていた。
爆発的な膨張力は確かに脅威だが、膨張しきった瞬間に、それも側面を攻撃されると弱いのだ。
膨張している時のヴァンダルーの四肢は、その勢いによって亜神の肉体も破壊する事が出来る。しかし、それが終わると後は萎むのを待つだけの風船のような状態になってしまう。
「文字通り、痛いところを突かれましたね」
『念願の【筋術】を修めたからと言って、調子に乗るからですよ、陛下』
【魔王の顎】で折れ曲がった腕を喰い千切りながら、ヴァンダルーはレビア王女に「返す言葉もありません」と反省した。
「【虚砲】」
そして、反省したヴァンダルーは【筋術】の実験は止めて、何時も通りの戦い方に戻す事にした。手から放たれた黒い光線に対して、ブラテオは身体を電撃で覆い、更に金色の手甲をかざして咄嗟に身を守ろうとした。
『ガアアアアアア! くっ、ルブーグの手甲を一撃で砕くとは!』
だが、結果は彼の防御魔術は容易く貫かれ、『青銅の巨人』ルブーグから譲り受けたらしい手甲が砕ける。
しかし、それだけだ。ブラテオの手の甲を貫く事は出来なかった。ルブーグの青銅の鎧をボークスが切り裂いていたが、やはりあれは鎧が脆いのではなくボークスの腕が良かったから出来た事のようだ。
『今度はこちらから行くぞ! 雷の雨に撃たれるがいい!』
「……【結界弾】」
ブラテオが放った無数の雷を、ヴァンダルーが放つ結界を球状に圧縮した同じく無数の弾が受け止めて防ぎきる。だが、その結界弾の向こうから、ブラテオの槍のような蹴りがヴァンダルーを狙った。
【危険感知:死】でそれを予感していたヴァンダルーは、その蹴りを【肉怪】を発動させた拳をぶつけて威力を相殺させる。
「急に頭が良くなりましたね」
『ハリンシェブやレポビリスの犠牲は、無駄ではないと言う事だ!』
ブラテオは魔力による攻撃を放つ事で、【吸魔の結界】を圧縮して作った【結界弾】の壁をヴァンダルーに作らせ、その壁を目くらましにただの蹴りを放ったのである。……魔力を伴わない物理攻撃は、【吸魔の結界】では防げない。
もっとも、運動エネルギーを含めた全てのエネルギーを吸収する【停撃の結界】でも、止められたかは分からないが。
約百メートルの巨体を持つ亜神達は、動くだけで莫大な運動エネルギーを発生させている。ヴァンダルーでも、一度勢いを止めれば身動きが取れなくなる『貝の獣王』や『ヒトデの獣王』ならともかく、動き続けるうえに体表から雷を放つブラテオを止め続けるのは難しい。
「ヴァンダルーよ、ブラテオを倒しておくべきでは?」
【肉怪】を解除した腕を再生させるヴァンダルーに、グファドガーンがそう提案する。ブラテオ相手に苦戦しているヴァンダルーだが、【界穿滅虚砲】や、【冥極死閃】を放てば勝つ事が出来るはずだ。
それはブラテオも考えているだろうし、何か返し技を編み出しているかもしれない。それでも待機しているグファドガーンと協力すれば、対応できるはずだ。
「いえ、コイツには第二段階まで生き残ってもらわないと困ります。……こいつとマドローザを倒してしまうと、防衛隊がゴーンの下に纏まってしまいますから」
ブラテオは防衛隊の中でも強く、そしてゴーンか誰かに入れ知恵でもされたのかヴァンダルーの魔術に面倒な対策を取るようになったが……防衛隊の指揮系統を攪乱させるためには必要な敵だった。
『ブヴガガガガガガ!』
ラダテルゾンビが高速で振動しながら、生前よりも強力な雷を放ち、魔物や亜神達に撃ちつけて行く。
「ふははははは! 見たかね、私が【筋術】の原理をヒントに改造を施したラダテルゾンビの電撃は!?」
白衣の上に胸当てや肘当てなど、身を守る鎧を部分的に付けているような形状の変身装具姿のルチリアーノは、己の作品の雄姿に高笑いをあげていた。
ペリアの防衛隊との戦闘後、ぼろぼろになって戻ってきたラダテルゾンビを、ルチリアーノは自分の技術で急造のアンデッドをどれだけ強くできるのか試す為に、修復し改造を施した。
骨や筋肉を入れ替えるような大掛かりな改造は、ルチリアーノだけではできない。他の魔物のパーツと入れ替える事も、真なる巨人であるラダテルの巨体に合う魔物の素材を調達するのが難しく、不可能だった。
そのため、ルチリアーノはヴァンダルーとレギオン、そして途中から加わったオニワカがゾルコドリオから習っていた【筋術】を取り入れる事にした。
ラダテルが生まれつきの能力として発動させていた電撃を、ゾンビになった状態でも放てるようにして自身の筋肉を振動させる。それによって更に強力な電撃を発電し、放てるように改造したのだ。
『おのれ! 亡骸を弄ぶとは、やはり貴様等は邪悪だ!』
『ラダテルの亡骸を浄化し、魂を解放するのだ!』
ルチリアーノに怒りを向け、罵倒を叩きつけながらラダテルゾンビへ向かって行く亜神達。
「おお、師匠が狙った囮の効果も、順調に発揮されているようだ」
しかし、それらはルチリアーノの心に何も響かなかった。
殺した相手の身ぐるみを剥ぎ、素材を剥ぎ、利用するのは人間の得意技だ。それを指摘されても、「今更それを言うのかね?」としか思えないのだ。
ヴァンダルーとルチリアーノは、実は似た者師弟なのかもしれない。
『しかし、あのゾンビはそう長く保たないのでは?』
ルチリアーノの横でラダテルゾンビの活躍を眺めていた骨人が、そう首を傾げる。
『確かに電撃は強力。しかし、囮にもなっているので次々に亜神が近づいてくる……ヂュゥ! 今、亜神の攻撃が入った!?』
「まあ、そうだろうねぇ。私の改造で強くなったのは電撃だけで、肉体的な強度は何も変わっていないのだし。いや、高速で筋肉を振動させているせいで筋肉の劣化が凄まじい事になっているのかもしれない。
実際、目に見えて動きが悪くなっているしね」
亜神達の拳に打たれ、ブレスに焼かれ、ラダテルゾンビがあっという間に壊れて行く。ルチリアーノが言ったように筋肉が劣化しているのか、その動きは緩慢で精彩を欠いていた。
「おお、龍の尾が首に入ったか。もうダメだな、あれは」
『ヂュウ? あれは作品なのでは?』
自身の作品が負けそうになっているのに、ルチリアーノは悔しそうな様子も見せず平気な顔をしている。それを不思議に思って訊ねた骨人に、
「確かに私の作品だが、今の私の技術を試しただけの試金石だ。芸術品でも愛用品でもないのでね、壊れたとしても構わんよ。
中に入っている霊は師匠が回収するだろうし」
ルチリアーノにとっても、ラダテルゾンビはその程度の価値しかない。囮として十分役立ったのだから、それで満足なのだ。
『しかし、あの亜神達にはそうではなさそうだが』
骨人の視線の先には、龍と真なる巨人、そして獣王の三柱に破壊されるラダテルゾンビの最期があった。勿論、レポビリスの霊はすぐヴァンダルーに回収されるのだが、ラダテルの死体の残骸は龍のブレスで燃やされ、灰になりながら海に落ちて行く。
「仲間の死体をこれ以上弄ばせまいと、本来先兵であるはずの魔物を追い越し、電撃を浴びながら倒したのだからね。次は、怒りの矛先をゾンビの製作者に向けるだろうね。
そう言う訳で、前衛は頼んだよ。私は援護に徹するから」
『……ヂュウゥゥ』
ヴァンダルーの命により、最初からそのつもりでルチリアーノの近くで待機していた骨人だが、納得いかないと唸る。しかし、どうしようもない。
ルチリアーノには亜神三柱相手と戦う腕はなく、変身装具も魔術の補助よりも防御に向いた作りをしている。ここで骨人が彼の護衛を放りだしたら、死ぬか逃げ回る事しか出来ない。
『信号を。流石に三柱を一度に相手するのは困難なので、ボークス達を呼びたい』
「なるほど。では、早速打ち上げよう」
ルチリアーノは裾から信号弾……カナコやダグが実用化に成功した花火を取り出すと、火をつけて打ち上げた。
『おおおおおん!』
その直後に駆け付けたのは、ラダテルゾンビの骨を回収するために近づいていたクノッヘンだった。
砲弾の重い爆発音とは違う、ぱんっと弾けるような軽い音と赤い光が散ったのに気が付いた『剣王』ボークスは、半分しか残っていない唇の端を釣り上げた。
『悪いが、そろそろ仕舞いにするぜ』
そして、鉄の鎧を纏った真なる巨人にそう告げる。
『ま、まだだ。まだ終わらん! 行かせんぞ!』
告げられた真なる巨人は、戦意をボークスと同じくらい大きな瞳にたぎらせて彼の行く手を遮るが、その身に纏った鎧の損傷は激しく、肉体にも深い傷が刻まれていた。
『兄者の仇は、我が討つ! 討たねばならんのだ!』
今は亡き『鉄の巨人』ナバンガーの鎧を纏った『青銅の巨人』ルブーグの叫びに応じるように、彼の手甲が紅く輝く。そして、大気を焦がす程熱くなった手でボークスを焼きつぶそうと、突きを連続で放った。
『真なる巨人』を含めた亜神にとって、三メートル程の大きさしかないボークスは大きな虫やネズミ等の小動物に過ぎない。だから、人間を倒す時に使う技は存在しない。
素早く手足を振るえば、人間は容易く屠れるからだ。自然の驚異の象徴である龍と真なる巨人にとって、人間は敵でも保護対象でもない。
ただただ君臨し、畏怖を植え付け、絶滅しない程度に気にかけ、極稀に挑戦を受ける程度で丁度良い。人間を教え導くのは、神の領分なのだから。
『そうかい! そいつは結構な理由だぜ! 【龍殺し】!』
だが、ボークスはルブーグの抜き手を、余波だけで肉を焼かれ、吹き飛ばされそうな攻撃の嵐を掻い潜り、攻撃を仕掛けた。
赤熱した鉄の籠手の関節部を、【魔王の欠片】製の魔剣が切り裂く。
『劣った子孫だからだの、汚れた血だのなんだのよりは、余程分かり易い! 殺し合いはシンプルじゃねぇとなぁ!』
『ガアアアアア!』
猛獣のような笑みが残った半分の顔に浮かべるボークスに、ルブーグは傷つけられた腕から血を流しても攻撃を止めなかった。
滝のように流れる血が、手甲の熱で蒸発して血生臭い霧を発生させる。
『っ!?』
【貪血】と同じく、霧は闇を昼間同然に見通すアンデッドの視界も塞いでしまう。勿論、敵の姿を見失うのはルブーグも同じだが……。
『死ねぃ!』
しかし、彼には圧倒的な大きさがあった。腕を横薙ぎに振るえば、霧で隠れた面積を全て叩き潰す事が出来る。
『そんな馬鹿デカイ腕は、霧越しでも見え見えだぜ!』
だが、その分動きも、その際に発せられる音も大きい。ボークスはルブーグの腕を飛び上がって避け、彼の首を狙って間合いを詰める。
『【青銅針雨】!』
だが、ルブーグはボークスの動きを読んでいた。魔術で青銅の針の……人間から見れば槍の雨を作りだし、自分に向かって迫りくるボークスにそれを放つ。
『【極即応】! 【神鉄体】! 【柳流し】!』
ルブーグが司る青銅の槍を、武技で反射速度を強化したボークスは魔剣で逸らし、鎧で弾き落とした。
だが、それでも少なくない数の槍がボークスを貫く。鎧の隙間を貫き、彼の剥き出しになっている頭蓋骨を砕いた瞬間、ルブーグは勝利を確信した。
『おおおおおおお! 【御使い降魔】!』
だが【限界超越】に、魔剣と鎧の限界も超えさせたボークスは頭部の右半分が欠けても止まらなかった。黒いオーラを纏った彼は、遂に青銅の槍を無視して魔剣を振るった。
『【魔刃一閃】!』
ボークスが編み出した新たな【剣王術】の武技を、腕を囮に使ったルブーグは防御する事が出来なかった。
『馬鹿な……頭を砕いても、剣を止めないだと……!?』
兜を砕かれたルブーグは、そう言い残すとやはり滝のように血を流しながら海面に落下を始める。
『俺は、お前とはここの作りが違うんだよ。……中身が半分しか残ってねぇしな』
そう言いながら、ボークスは懐から取り出した干し肉……ラダテルの干し肉を齧る。【能力値強化:亜神食】のスキルを発動するために作った保存食だが、これが無ければルブーグ相手にもう少し手こずったかもしれない。
『普通のゾンビは頭を砕けば動かなくなるのにねー』
『お、ジーナ。ようやく来たか』
ルブーグの死体が回収されるのを見送ったボークスは、仲間が来た事に気が付いて四分の三しか残っていない顔で笑みを浮かべた。
『早速治して……やべ、もう治せねぇんだったか。拙いな、流石に中身が全部零れたらどうにかなっちまう』
そして早速治癒魔術をかけてもらおうとして、自分がアンデッドである事を思い出す。『癒しの聖女』の二つ名を持つジーナでも、アンデッドは癒せない。
身体を修復できるのは、ヴァンダルーの【治屍】の術とブラッドポーションだけだ。そして、残念ながらボークスが持っていたブラッドポーションは、既に飲んだ後だった。
『ボークス、もう中身が零れた後なんじゃない? こういう時のために陛下君から回復用の使い魔王を持たせてもらってるでしょ』
『おお、そういやそうだった!』
ボークスはベルトから下げていた袋から、【治屍】を使うためにだけに造られた使い魔王を取り出す。【魔王の宝珠】に触角と節足がくっついた、玉虫っぽい使い魔王は、【治屍】を発動させ、ボークスの頭部や彼の関節部分を癒した。
『よしっ! じゃあ、ルチリアーノと骨人を助けに行くぜ! ……そう言えば、サイモンとナターニャの嬢ちゃんはどうだ?』
『ザンディアとザディリスがフォローしているから大丈夫だと思うよ。エレオノーラ達もいるし』
ルチリアーノやボークス達は余裕を残して亜神達と戦っていたが、余裕のない者達も勿論いる。
「ぬううう! 【瞬撃三閃】!」
「行け、【飛剣】!」
アーサーとサイモンは、命をかけたギリギリの戦いを強いられていた。
高速の斬撃を三連続で放つアーサーの武技を受けて、双頭で前後合わせて八本の足を持つ熊の魔物が血を迸らせながら下がる。だが、サイモンが打ち出した剣を握る義肢は、前足の一振りで打ち払われてしまった。
「分離!」
だが、払われたはずの義肢は肘の部分で分かれ、肘から先だけが背後から熊の魔物の心臓を串刺しにした。
「グオオオオオオオ!」
だが熊の魔物は止まらない。サイモン達が知るのは後だが、何とこの熊の魔物は複数の心臓があったのだ。
「「ギャオン!」」
片腕のサイモンに襲いかかろうとした熊の魔物を、ファングが体当たりして押しとどめた。
「【闇矢一閃】! サイモンさん、腕で攻撃を続けてください!」
そこにボルゾフォイの魔術で【転移】したミリアムが、熊の魔物の死角から放った矢で右頭部を射ぬく。心臓と違い、複数あっても頭部を破壊されるのは痛かったのか、流石に熊の魔物の動きが止まった。そこに彼女の指揮通り、サイモンが義肢を【遠隔操作】して続けざまに突きを放つ。
そこに駆け付けたナターニャの爪の一撃に加え、カリニアとボルゾフォイの魔術が叩きつけられ、熊の魔物はやっと息絶えた。
「ふぅ、何とか倒せたか……あれでランクは幾つかね?」
「多分、11ぐらいじゃないかな。12以上は、姉さん達が助けに来てくれるはずだし」
額の汗を拭って、義肢を再び装着したサイモンが訊ねると、義肢を変形させたままのナターニャがそう推測する。
ランク11と言えば、A級冒険者でも倒せるか分からない相手だ。そしてB級冒険者のサイモン達は、冒険者ギルドが相応の相手とするのはランク7から8。常識なら、サイモン達はあの熊の魔物に一方的に蹂躙され、皆殺しにされているはずだ。
そうならなかったのは、彼等の能力値がヴァンダルーの導きによって通常より上がっており、ヴィダル魔帝国で本来ならそうそう相手に出来ない格上の相手との訓練を受け、さらに、変身装具を受け取り、御使いを身体に降ろしているからだ。
そして、連携の賜物である。
「ランク11……恐ろしい相手でした。もし一人で戦っていたらと思うと、恐ろしくなりますね」
明るい赤色のマントとプロテクターの形をした変身装具を纏ったアーサーが、畏れ知らずの荒くれ者も逃げ出しそうな顔で周囲に睨みを利かせる。魔物を倒して気が緩んでいる間に他の魔物から襲撃を受けないよう、警戒しているのだろう。
側から見たら返り血を幾度も浴びて赤黒いマントを身に纏った狂戦士が、次の獲物を探しているように見える。
「確かにのぅ。じゃが、儂等の連携とミリアムの指揮のお蔭で、誰も大きな傷を負わずに倒せたのは、僥倖じゃな」
ボルゾフォイが杖を抱えるようにして、安堵の溜め息を吐く。彼は、最初に加護を授けてくれた神である『影の神』ハムルをリスペクトし、黒いローブとマントの形状をした変身装具を身に纏っている。
やはり、どう見ても悪の魔術師である。
「わ、私の指揮は余計ですよ。何故かスキルを覚えちゃったからやっていますけど、大した作戦じゃないですし。凄いのはタイミングを合わせてくれるボルゾフォイさんや、サイモンさんです!」
ミリアムは、「これは、何故か私が凄いって事にされちゃうパターンだ!」と気がつき、慌ててそう否定する。
彼女の変身装具は、白いレオタードに、胸にはブローチとリボン、腰にはスカート状のフリルといった装飾を付け、手足には袖の長い手袋やロングタイツを着けた形状となっている。
ヴァンダルーが彼女の「普通なのが、良いです」という希望を聞いて作ったのだが、普通過ぎてアーサー達の中では浮いていた。
「そんな事ないわ、ミリー。私達の事を誰よりも理解してくれている、あなただからこそ呼吸を合わせられるのよ。やっぱり、私達のリーダーはあなた以外にはいないわ」
パターンから逃れようとしたミリアムを、カリニアの裏表無い素直な賞賛が阻む。
彼女の変身装具は、「ミリアムと同じ……でも明るい色は恥ずかしいから、地味な……いえ、ゼルゼリアが司る夜空のような色でお願いします」という本人の希望により、濃い青と紫を基調にしている。
そしてミリアムと違い、神官戦士でもある彼女は場合によっては前に出るので、フリルになる分を装甲に回した。
結果、ボディースーツの上に胸部や手足を守る鎧を着こんだような、ミリアムとは全く別の形状の変身装具となっていた。
そこに彼女の目つきの悪さが加わった結果、悪の女幹部(戦闘形態)にしか見えないのだった。
「そ、そんな事ありませんよ! ねえ、そうですよね、サイモンさん、ナターニャさん!?」
ミリアムは何とかパターンから抜け出そうと、『ハート戦士団』ではない二人に縋るように質問した。
「いやぁ、見事なもんだと思いますぜ」
「うん、オレも助かったよ」
しかし、二人は縋られている事に気がつかず、率直にミリアムを褒めた。
ちなみに、サイモンの変身装具である義肢は漆黒。そのため、今の彼は暗黒の戦士っぽく見える。更に、義肢が獣の四肢のように変形しているナターニャは、近づかなければ女の頭部を持つ魔物にも見える。
「な、なんでそうなるんですかー!?」
「「グルルル」」
叫ぶミリアムを、同情したファングが頭をこすり付けて慰める。
ミリアムは悪役っぽい善人に好かれる運命にあるのかもしれない。勿論、彼女の指揮が彼等の勝利に貢献している事は、間違いないのだが。
――――――――――――――――――――
・名前:アーサー
・種族:人種
・年齢:24
・二つ名:無し
・ジョブ:聖剣士
・レベル:85
・ジョブ履歴:猟師見習い、猟師、猟師名人、魔物狩人、亜鬼人狩人、見習い戦士、戦士、魔剣使い、魔剣士
・パッシブスキル
筋力増強:7Lv(UP!)
敏捷強化:6Lv(UP!)
気配感知:5Lv(UP!)
直感:5Lv(UP!)
精神耐性:4Lv(UP!)
病毒耐性:5Lv(UP!)
弓装備時命中力強化:中
剣装備時攻撃力強化:極大(UP!)
能力値強化:導き:3Lv(NEW!)
暗視(NEW!)
・アクティブスキル
解体:5Lv
忍び足:7Lv(UP!)
罠:6Lv(UP!)
弓術:4Lv(UP!)
短剣術:2Lv(UP!)
皮革職人:1Lv
格闘術:6Lv(UP!)
剣術:9Lv(UP!)
声帯模写:鳥獣魔物:4Lv
限界突破:10Lv(UP!)
家事:2Lv(UP!)
鎧術:5Lv(UP!)
魔剣限界突破:3Lv(NEW!)
御使い降臨:2Lv(NEW!)
・ユニークスキル
闘争の才能
バシャスの加護
ヴァンダルーの加護
ヴィダの加護(NEW!)
・名前:カリニア
・種族:人種
・年齢:20
・二つ名:無し
・ジョブ:高司祭
・レベル:45
・ジョブ履歴:見習い神官、神官、薬師、聖職者、神官戦士、魔女、司祭、神聖魔女
・パッシブスキル
精神耐性:5Lv(UP!)
盾装備時防御力増強:小(盾装備時防御力強化から覚醒!)
能力値強化:夜:6Lv(UP!)
能力値強化:導き:3Lv(NEW!)
魔力増大:1Lv(NEW!)
暗視(NEW!)
色香:1Lv(NEW!)
・アクティブスキル
聖職者:5Lv
薬師:5Lv
家事:4Lv
無属性魔術:3Lv(UP!)
生命属性魔術:7Lv(UP!)
水属性魔術:7Lv(UP!)
魔術制御:7Lv(UP!)
盾術:3Lv(UP!)
棍術:2Lv(UP!)
御使い降臨:2Lv(UP!)
限界突破:1Lv(NEW!)
連携:2Lv(NEW!)
舞踏:1Lv(NEW!)
歌唱:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
ゼルゼリアの加護
ヴァンダルーの加護
ヴィダの加護(NEW!)
・名前:ボルゾフォイ
・種族:ドワーフ
・年齢:27
・二つ名:無し
・ジョブ:マジカルハンター
・レベル:70
・ジョブ履歴:魔術師見習い、魔術師、猟師、光属性魔術師、時属性魔術師、空間属性魔術師、杖術士、時空間魔術師、光次元魔術師
・パッシブスキル
闇視
精神耐性:4Lv(UP!)
病毒耐性:1Lv(NEW!)
杖装備時魔術攻撃力強化:中(NEW!)
能力値強化:導き:3Lv(NEW!)
魔力増大:2Lv(NEW!)
・アクティブスキル
無属性魔術:5Lv(UP!)
魔術制御:8Lv(UP!)
時間属性魔術:8Lv(UP!)
空間属性魔術:8Lv(UP!)
土属性魔術:4Lv(UP!)
火属性魔術:3Lv(UP!)
光属性魔術:8Lv(UP!)
武具職人:2Lv
皮革職人:2Lv
杖術:3Lv(UP!)
限界突破:3Lv(UP!)
御使い降臨:3Lv(NEW!)
連携:3Lv(NEW!)
恐怖のオーラ:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
ハムルの加護
ヴァンダルーの加護
リクレントの加護(NEW!)
ズルワーンの加護(NEW!)
・名前:ミリアム
・種族:人種
・年齢:15歳
・二つ名:【魔王の友人】
・ジョブ:魔聖弓士
・レベル:65
・ジョブ履歴:見習い盗賊、盗賊、弓術士、魔弓使い、暗弓士、魔弓士、聖弓士
・パッシブスキル
気配感知:5Lv(UP!)
弓装備時命中力増強:中(弓装備時命中力強化から覚醒!)
非金属鎧装備時敏捷増強:小(非金属鎧装備時敏捷強化から覚醒!)
精神耐性:5Lv(UP!)
暗視(NEW!)
能力値強化:導き:3Lv(NEW!)
病毒耐性:2Lv(NEW!)
・アクティブスキル
農業:1Lv
家事:1Lv
短剣術:3Lv(UP!)
弓術:8Lv(UP!)
鍵開け:5Lv(UP!)
罠:5Lv(UP!)
限界突破:7Lv(UP!)
鎧術:5Lv(UP!)
魔弓限界突破:5Lv(UP!)
暗殺術:3Lv(NEW!)
御使い降魔:2Lv(NEW!)
連携:5Lv(NEW!)
指揮:1Lv(NEW!)
舞踏:1Lv(NEW!)
歌唱:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
ヴァンダルーの加護
バシャスの加護
ゼルゼリアの加護
ハムルの加護
ヴィダの加護(NEW!)
○スキル解説:能力値強化:亜神食 ルチリアーノ著
ラダテルのハツ(心臓)を食べて暫く経った後、ボークスが獲得したスキル。効果自体は、条件を満たすと能力値が一時的に強化される【能力値強化】と同じだが、条件が普通ならかなり厳しい。亜神の肉なんて、普通は出回っていないからね。……我が魔帝国では、最近かなり豊富に出回っているのだがね。
私もラダテルを改造する際要らない部分を市場に流したり、バーベキューの食材にしたり、活用したし。
ちなみに、【能力値強化】や【自己強化】で能力値が強化される時間は、満たさなければならない条件が厳しい程長くなる事が知られている。この条件に関する判定はスキルを持つ個人ではなく、世間一般を対象に判定しているのだと思われる。
剣を持つだけでいいなら、剣を手放した次の瞬間には切れる。特定の儀式(戦闘の前に踊りを踊る等)なら、十分ぐらいは保つ。亜神の肉を食べなければならない場合は……ボークスに聞いたところ、数日効果が持続するそうだ。
○スキル解説:舞踏&歌唱 ルチリアーノ著
最近我が魔帝国の女性陣の必修スキルとなりつつあるスキル。名称通り、踊りや歌に関するスキルである。
ちなみに、ミリアムとカリニアが覚えているのは、ミリアムが「これならカリニアさんも明るく朗らかで快活な女の子になれるのでは!?」と、誘ったかららしい。