軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百八十七話 増える国土と殴らない魔王

ヴァンダルーの体内に吸収された【魔王の欠片】達が突如魔王の復活を宣言し、その直後【魔王融合】スキルが【魔王】スキルに覚醒した出来事は、ザンタークやファーマウン達を大いに驚かせた。しかし、サムや骨人達には驚いても動揺した様子は無かった。

『坊ちゃん、また上位スキルが増えましたな。おめでとうございます』

「サム、魔王ですよ。幾らスキルでも拙いのでは?」

『主よ、そのスキルに覚醒した後身体に不都合は?』

「特には無いです」

試しに肘から先を【魔王の外骨格】で覆ったり、舌を【魔王の舌】にしてみたり、頻繁に使う【魔王の血】や【魔王の角】を使ってみるが、特に違和感は無い。

『坊ちゃん、頭の中から謎の声が聞こえたりしませんか?』

『若しくは、何もかも破壊し尽くしてやろうとか、そんな危険な衝動を覚えたりとかは?』

サリアとリタが、ありがちな展開を予想してそう尋ねてくる。ヴァンダルーはすぐには答えず、瞼を閉じて自己分析を始めた。

(声は、特に聞こえない)

初めて【魔王の血】を発動させた時のような、自分とは異なる存在の声は聞こえない。……単に口を閉じて潜んでいるだけかもしれないので、念入りに自己を見つめ直すがやはり存在しないようだ。

次に【幽体離脱】して肉体の変化が無いか自己診断したが、それも無いようだ。

最後に【魔王の副脳】を発動させてみたが、やはり魔王グドゥラニスの意思を感じる事は出来なかった。副脳はヴァンダルーが予想した通り身体の操作を司るサブの脳でしかないらしい。

ただ、使い方によってはヴァンダルー本来の脳が使えない状況になっても、【魔王の副脳】を発動させていれば活動し続ける事が出来るかもしれないが。

後は、【魔王の眼球】に取りつけると若干の自己判断能力を持つ使い魔として運用可能かもしれない。

「副脳の使い方は置いておいて……特にそう言った事は無さそうです。変な声も、欲望や衝動もありません」

『なら問題ありませんね!』

「ただ……以前と比べて欠片を発動させるのが楽になりました。本当に手足の延長、自分自身の身体の一部のように使う事が出来ます」

以前から「発動」と口に出して言わなくても【魔王の欠片】を使う事が出来たヴァンダルーだが、今までは魔術や武技と同じ感覚で使っていた。

しかし、今は手を伸ばすのと同じ感覚で欠片を使う事が出来そうだ。消費する魔力の量も減っている。常人にとっては莫大な量であるのは変わらないが。

もしかしたら、ヴァンダルーはその内無意識に【魔王の欠片】を発動させるようになるかもしれない。

『それは凄いじゃないですか! おめでとうございます!』

だがどうやら問題無いらしい。普通なら危機感を覚えてもおかしくないのではないか?

そう思ったヴァンダルーがザンタークや、最後に魔王の欠片を吸収した鬼人の始祖を見上げてみると、ほっと安堵した様子で息を吐いていた。

『■■■■■~!』

『仲間もそう言っているし、問題無いだろうってザンタークが言っているぜ。俺もそう思う。

実際、欠片を発動した時に感じたお前さんの魔力の性質はグドゥラニスとは別の物のように感じた』

かつて実際に魔王グドゥラニスと相対した『炎と破壊の戦神』ザンタークと、魔王を倒したファーマウンが保証したのは大きかったらしく、様子を見ていた魔人族の始祖や『鳥の獣王』ラファズも肩の力を抜いた。

『ファーマウン、魔王を倒した三人の中の一人として聞くが、その魔力の性質の違いとはどんなものだ? 欠片でしか魔王を知らん俺には、その違いが分からん』

ただ完全には安心できなかったのか、それとも気になったのか、魔人族の始祖はファーマウンにそう尋ねる。

『感覚的な意見で良いなら答えるが……俺が覚えている魔王グドゥラニスの魔力は攻撃的だった。相対していると突き刺さるというか、触れた場所から浸透して蝕もうとする。そんな感じだ。敵同士だったからそう感じるのも当然かもしれないが』

「敵でない者……配下に対しても魔王グドゥラニスの魔力、存在は攻撃的に感じられたはずです。かの魔王は絶対的な力と恐怖によって君臨していたので」

元々は魔王の配下だったグファドガーンが、ファーマウンが当時覚えた感覚の正しさを保証した。

『そうか……それに対してヴァンダルーの魔力は、妙な感じなんだよな』

「妙?」

思わず聞き返したヴァンダルーに、ファーマウンは『そうなんだよ』と頷きながら答える。

『纏わりついてくるような感じだが、それが別に嫌じゃないと言うか、何と言うか』

どうやら、ヴァンダルーの魔力の性質は粘着質らしい。

因みに個人が持つ魔力の性質と言うのは二つの意味があり、一つは持ち主が持つ属性への適性や【錬金術】や【精霊魔術】への素質の有無など、才能に関する意味。

もう一つは、持ち主を判別する指紋やDNAのような意味。所有者が固定されているマジックアイテム等は、この魔力の性質で正式な所有者とそれ以外を判断しているのである。

そのため、英雄神にまで至ったファーマウンの性質が違うと言う言葉は、大きな安心材料だった。

「ヴァン~、ルヴェズが気絶しちゃった」

「ど、どうしよう!?」

ただ、パウヴィナとオニワカに宥められていた『暴邪龍神』ルヴェズフォルは、恐怖のあまり気絶してしまったようだが。

「……きっと疲れているんですよ。しばらく休ませてあげましょう」

「うん、そうだね」

よっこいしょとルヴェズフォルを持ち上げたパウヴィナが、尻尾を引きずったままサムの荷台に収納する。当人が気絶したままだが、彼のお持ち帰りが決定した瞬間である。

ザンターク達はそれに対して何も言わなかったので、別に構わないようだ。ティアマトは後で、『本来ならシュナイダーに倒された龍達同様罰せられるのが相応の者。迷惑をかける』と言いに来たが。

その彼に同情したのか、ヴァンダルーからモコモコとした毛に覆われた巨大なワームが出て来た。シープワームからランク6のグランヒュージシープワームにランクアップしたペインだ。

ペインは横たわるルヴェズフォルを優しく包み、丸くとぐろを巻く。

『そもそもヴァン君、ジョブチェンジ可能なジョブに【魔王】が出たって前に言ってたじゃない』

『だったら、スキルに出るくらいなんでも無いですよ』

「……そう言えばそうでしたね。とりあえずスキルの具体的な効果の検証は、おいおいやっていきましょう」

こうして復活したらしい魔王(二代目)の周囲は、何処かのどかな空気が流れていた。

一方、『法命神』アルダの神域では激震が走っていた。

『主よ、神殿に保存されている魔王の欠片の活動が一斉に活性化しました!』

『神々からも同様の報告がもたらされています!』

神託を受け取る才能を持つエイリークを教皇の地位に就けるため、アルダは光属性の管理に手を抜く事で皆既日食を引き起こした。

その影響は神々には前もって説明してあった。日蝕の間封印された邪神や悪神、一部の魔王の欠片が活性化し、場合によっては解放される危険性があると。

だから前もって解放される存在については、ほぼ完全に調べ上げ対策を施した。アミッド帝国やオルバウム選王国、その他の国々で起きる事件には対応できるようにしてある。

アルダ勢力の神々が把握しきれない魔大陸や境界山脈内部の場合は、何か起きてもザンタークやヴィダ派の神々が対処するはずであり、それで大きな被害が出てもアルダ達にとっては何の痛痒も無い。寧ろ、好都合だ。

しかし日蝕から一か月以上経っている今、再び【魔王の欠片】に何かが起きている。

『主よ、これも日蝕の影響によるものなのでしょうか?』

『いや、既に一か月以上経っている。日蝕の影響とは考えにくい』

『ではアルダよ、欠片共が協力して何かを企てていると言う可能性は?』

『あり得ない事だ』

【魔王の欠片】とは勇者達によって無数に切り刻まれた魔王グドゥラニスの肉片が、それぞれが勝手に復活しようとして様々な部位に変化した物だ。

確かに元々はグドゥラニスと言う一つの存在だったが、ばらばらに封印された状態では意思を共有する事は出来ないはずだ。

『故に、何かが起こったのだ。欠片よりも上位の存在……新たな魔王、ヴァンダルーに』

アルダはそう確信しており、それは正しい。

彼等の信者が管理する【魔王の欠片】の封印が弱まったのは、魔大陸にいるヴァンダルーが【魔王】スキルに覚醒した瞬間だったのだから。

『神殿の聖域へ注ぐ力を増やし、欠片が鎮まるまで抑え込むのだ。他に神々が直接封印している欠片や、『魔王の装具』の欠片が影響を受けているか確認せよ』

アルダの命を御使い達が他の神々に伝えるために飛び立ち、そしてすぐに報告を持って戻ってくる。

『聖域に安置されている封印は抑え込むのに成功しました! 欠片の鎮静化を確認』

『神々が直接管理している欠片の封印、変化なしとの事。影響は無いようです』

『『魔王の装具』も同様。ただ、全てを確認できたわけではありません』

最後の報告にアルダは苦い思いを覚えた。【魔王の欠片】の封印を改造し欠片を封印したまま武具として活用できるようにした、忌々しい兵器。

狂気に陥った錬金術師の実験か、それとも魔王軍残党の陰謀の結果か、創り出されてしまった物だ。

アルダを含めた神々としては、『魔王の装具』は認められなかったが……装具を元の封印に戻す事が出来ず、更に暴走した【魔王の欠片】に対してオリハルコン製の武具と同等の効果があるので、毒を持って毒を制するのだと製作技術を失伝させこれ以上改造されないようにするだけで止めていた。

だがヴァンダルーとの戦いには有効とは言えない事が、先の『邪砕十五剣』の一人、『五頭蛇』のエルヴィーンと彼の戦いで分かっている。

そうである以上早急に封印したかったが、異なる国家や組織の手にあるためそう簡単にはいきそうにない。

だが、今は影響がないなら良いだろう。

『各自、封印の動向を探り、監視せよ。聖域に無い封印……神殿と名ばかりの組織や、遺跡に放置された封印は我々が直接手を出す事は出来ない。必要に応じて人間達を遣わすのだ』

再び御使いが伝令として散っていく。

これで、一先ずは対処できるはずだ。

『……キュラトス、今回の事をどう考える?』

アルダは自身に仕える従属神の中でも側近と呼べる『記録の神』キュラトスに問いかけると、彼は首を横に振った。

『申し訳ありません、アルダよ。今までにない事態です、推測を申し上げる事しか出来ません』

『それで構わん』

『では……恐らく、特定の宿主に欠片が、今までにない程大量の数が宿った結果かと』

『なるほど、欠片が求める本体とはそれか。ロドコルテに大部分の封印を押し付けた魔王の魂の事だろうと考えていたが……』

肉体の欠片が存在するこの世界に、魔王の魂を置くことは封印されていても危険と判断した当時のアルダは、魔王の魂から【魔王の記憶】等比較的重要ではない部分の封印をロドコルテに任せていた。

彼は魂の扱いにかけては専門家であったし、万が一暴走しても幾ら魔王でも肉体の欠片がなければ力を発揮する事は出来ないと考えたからだ。

その魂を欠片達は「本体」と呼び、求めているのだろうと今までは思っていた。

『恐らくは。そしてそれは間違いなくヴァンダルーでしょう』

アルダ達にとって現在の世界の秩序を乱す、倒さなくてはならない存在。その力が一段と高まってしまった。

『試練を与えているハインツ達の様子は?』

『はい、現在三十階層で足踏みをしているようです。これまでは私の記録から再現したヴァンダルーの配下と同種の魔物や、魔王軍の魔物も倒してきたのですが……』

『記録の神』であるキュラトスは、アルダ勢力の神々が持つ莫大な情報を記録している。そして彼の神威は、その記録から本物を再現する事だ。

それを用いて魔物やヴィダの新種族を再現し、『試練のダンジョン』でハインツ達を鍛えるための障害としているのだ。その再現率は本物と見分けがつかないが、倒されれば幻のように消えてしまう。素材や魔石さえも残らないのは、このためだ。

そしてハインツ達が幾ら負けても無傷であるのも、このためである。ハインツ達は『街』を出る際、意識を元の肉体からキュラトスが再現した自分達の肉体に入れ替えられているからだ。

戦いで幾ら傷ついても武具が壊されても、再現された記録でしかない。本物は無傷のままだ。

『再現した肉体に意識のみを降臨させた英霊達相手に苦戦か……このままでは百八階層に到達するのは何時の事か』

『アルダよ、少々試練を緩めますか?』

『いや、このまま続けるのだ、キュラトス。手を抜いて、それで肝心な時に負けるようでは意味が無い。ハインツ達は……ハインツには、最低でもベルウッドと並んでもらわなければならない』

『畏まりました。三十一階層以後の魔王軍に率いられた魔物の再現等は、事前に決められた通り行います』

ヴァンダルー達はザンタークの神域と化していた火山地帯からほど近い場所に在る、彼等の町に足を運んだ。そこは竜人と鬼人の特徴を併せ持つ鬼竜人と、竜人と魔人の特徴を持つ魔竜人、そして少数の他のヴィダの新種族が暮らす町だった。

人口は約五万人で、境界山脈の都市国家のようにダンジョンを利用して農業や漁業を行い、鍛え抜かれた戦士達が魔物を狩る。そんな生活をしているそうだ。

境界山脈内部の魔人国と比べて、鬼竜人と魔竜人の数が随分多いが、それは『ヴィダの寝所』のように眠る事が出来る場所が無い為、彼等が全員意識を持って活動しているせいだろう。

そこでヴァンダルー達は歓待を受けた後、彼等が管理しているダンジョンの移転や、タロスヘイムに居るボークス達による魔物退治への協力、そしてオニワカの留学等について話し合った。

『迷宮の邪神』であるグファドガーンを始めとした神々がダンジョンを意図的に創った境界山脈内部と違い、魔大陸では町のダンジョン以外は全て自然発生か、魔王軍残党によって創られた。そのため雑多な場所に在り、とても管理しきれていないのが現状であるため、その改善。

更に戦力の派遣は魔大陸の安定化と、ボークス達の訓練に役立つ。

オニワカの留学は……魔大陸に鬼人の始祖がいると聞いた鬼人王テンマの思いつきである。

「ここまでしてもらうのに、儂等が何もせんのではな。オニワカ殿の留学とやらも、儂等にとっては遥か昔に分かれた同族との交流のきっかけになると考えれば、援助と変わらん」

そう言い出したのは、この町の纏め役の一人、鬼竜人の老人である。

この魔大陸でそれぞれの始祖とティアマトが交わって生まれたヴィダの新種族、鬼竜人と魔竜人は独立した種族では無く、それぞれ鬼人と魔人族の一種であるらしい。

「しかし金銀財宝を差し出すにしても要らぬと言うし、嫁を何人かと言ってもティアマト様の誘いを断る程身持ちがしっかりしておられるなら、断られるであろうしな」

そしてそう続けたのは、同じくまとめ役の一人である魔竜人の男性だ。どうやら、魔大陸でティアマトの誘いを受ける事は、名誉な事とされているらしい。

ティアマトの誘いを断ったからには、余程の美女でなければ相手にしないだろうと判断される程に。

「勘違いされているけど、暫くそのままにしておいた方が良いよね」

「そうだな、身持ちは堅くないな」

パウヴィナとオニワカの囁きを聞き流しながら、「気にしないでください。機会があったら助けて貰う事になると思いますし」と纏め役達を説得するヴァンダルー。

「機会があったら、我々が助けるか……それはまあ当然ではあるな。我が種族に長年誕生していない女王もタロスヘイムにはいると聞く。寧ろ、喜んで参じよう」

一見すると年齢に不似合いな威厳を漂わせた少女にみえる、グールアマゾネスの纏め役がそう言って頷く。

十万年前にザンタークと逃げ延びた数人のグールが、ティアマトの保護を受けた結果力と引き換えに女性しか生まれない一族になり、現在に至るそうだ。

「一族の若い娘達は、この大陸では絶滅してしまったグールの男に興味津々であるし。女王であるバスディア様と、話に聞いたヴィガロ殿は何時来てくださるのだ?」

「まあ、それはおいおい」

ヴィガロをそのままにすると、またバスディアの異母弟妹が増えるかもしれないので言葉を濁すヴァンダルー。とりあえず、他のグールの男性陣に声をかけてみよう。

「交流は兎も角……やはり?」

「うむ、既にお許しは頂いておる」

「ならばそれ以外の選択肢はありませんな」

十人の纏め役達は頷き合うと、揃って席を立つとヴァンダルーに向かって一礼した。

「では、我等は今後ヴァンダルー・ザッカート殿を皇帝としてその帝国に加わると言う事で」

「今よりこの町は陛下の領地、我等は陛下の民。陛下は我等の皇帝」

「どうぞ良しなに」

「……いや、ちょっと待ちましょうよ。良いんですか、そんな簡単に決めて? 町の他の人達の意見を聞いたり、色々話し合ったり、せめてタロスヘイムを視察してからの方が良くないですか?」

慌てて纏め役達を制止するヴァンダルーだが、彼等は「いえ、不満に思う者はいないでしょう」と答えた。

この町は魔大陸で唯一の人間のコミュニティだ。そのため「他国」と言う存在が十万年前から一度も存在しなかった。

町では魔竜人や鬼竜人やグール等、複数の種族が存在するが、魔竜人と鬼竜人はどちらも親にティアマトを持つ兄弟であり、グール達は女性しか存在しないため他の種族との混血によって種族を繋いできた。

そのため種族間の対立も、無い訳では無かったがとても緩やかだった。

しかも町の外には百年前まで……ヴィダの新種族達にとってはちょっと昔まで、『解放の悪神』ラヴォヴィファード率いる高ランクの魔物の群れと言う、強力な外敵が存在した。だから彼等は基本的に団結して戦う事で生き残ってきたのである。

「それに、元より我等はセイジやマツリゴトは分からん」

「今まで一度も王を頂いた事も無かったので」

そしてこの宴に集まっている町側の者が「纏め役」止まりで、長や町長等の役職の者がいないのは最初から存在しないからだった。

「我々は今まで神々の方針に従って町を運営してきたのだ。勿論全てにおいて指示を仰いでいた訳ではないが、町全体に関わる事には常にそうしてきた」

そしてこの町は境界山脈内部の国々を超える宗教国家……いや、ある意味神治国家とすら言える。

境界山脈内部の国々では一応王や女王を任命し、それを国の守護神に仕える者とする事で国を維持してきた。

しかしこの町を守護するザンターク達は、今も地上に存在し続けている。これはザンタークの周囲が半ば彼の神域と化しているからだ。その為多少暑い事を我慢すれば誰でも神を訪ねて、言葉を直接交わす事が可能だ。

そのため王等の代表者を任命する必要が無く、町の人々にとって為政者と神が同一の存在である状態が続いていた。

「その神が構わないと言うのだから、良いのです」

そう言う事だ。

「そしてその神に勇者として信頼されている師匠は、既に信用に値していると言う事か」

『おめでとうございます坊ちゃん、国土と国民が増えましたぞ!』

『交流も上手くいきますね、坊ちゃん』

そう考察するルチリアーノと、口々に祝福するサム達。実際、ヴァンダルーに拒否する理由は無かった。

元々色々と援助する予定であったし、タロスへイムから離れているが、ダンジョンを利用した【転移】やレギオンやグファドガーンがいれば瞬時に移動する事が可能だ。

そしてこの町は深刻な問題や負債を抱えている訳では無い。同じヴィダの新種族の国だし、骨人達アンデッドには最初は驚いていたが、すぐに慣れるだろう。

「では、この町の住民を俺の国の国民として迎えます。こちらこそ末永くよろしくお願いします」

こうしてタロスヘイムの国土と国民が増えたのだった。

そしてタロスヘイムに戻る少し前、ヴァンダルーの姿は再びザンターク達神々の前にあった。

『やはり妾達では加護を与えられなんだか。こう見えても妾は残った龍達の中では、トップクラスなのじゃがな』

『ティアマトが無理なら、私も無理だな。最低でも、大神でなければ無理だろう』

加護を与えようとしていたティアマトやディアナが無理だと理解して、残念そうに離れる。

『■■■■■■!』

代わりにザンタークが声を張り上げ、腕を振るった。

《【ザンタークの加護】を獲得しました!》

すると脳内アナウンスが流れ、ザンタークの加護を受け取った事を知らせる。

『儂の加護を受け取る事は出来たか?』

そしてその途端、これまで金切り声や唸り声としか認識できなかったザンタークの言葉が、理解できるようになった。まだノイズのような物が混じっていて聞き取り難いが、言葉の意味は分かる。

『あー、ザンタークは――』

「あ、いえ。加護を受け取る事が出来ました。後、言葉も大体わかります」

『おおっ、本当か!? 今までザンタークの加護を授かった者は何人もいたが、言葉が分かる者はいなかったと言うのに』

驚く神々の中で『なら、そろそろだな』とファーマウンが進み出た。

『シュナイダー達から聞いていると思うが、改めて頼む。すまないが俺を殴るのはアルダとの戦いが終わるまで待ってほしい』

ザンタークに通訳が必要無くなった事で、頃合いだと思ったのだろう。彼はそう切り出した。

「休戦の代わりに百回殴っても良いと言う話なら、お断りします」

『そこを何とか、頼む! 俺はまだ、消滅する訳にはいかないんだ』

生前は勇者であった英雄神であるファーマウンはギュバルゾーよりもずっと高位の神だ。だから簡単には滅ぼされない自信はある。

しかし、防御のみで回避もせずに百回もヴァンダルーの本気の攻撃を受け続けたら危うい。彼が本気になれば、【死砲】や【虚砲】で百回攻撃できるからだ。魔力と反動を受けた肉体を癒す時間は、たっぷりある。何せこの条件では制限時間が設けられていないのだから。

それに耐えぬいて消滅を免れたとしても、深刻なダメージを受けているだろう。

だから頼むと頭を下げるファーマウンに、ヴァンダルーは首を横に振った。

「いえ、ですから俺は貴方を殴る気が無いんです。勿論、アルダ勢力との戦いに共闘してくれるならですが」

だがヴァンダルーには、ファーマウンを攻撃する意思は無かった。

『何? 良いのか、俺は生前お前達……ザッカート達を信じず、結果的に見殺しにしてしまった。その上、十万年前の戦いでは俺のせいで大きな被害が出たはずだ。俺があの戦いに加わっていなければ、今頃ヴィダ派は今よりもずっと良い状態だっただろう。

それに良かれと思って創った冒険者ギルドも、ヴィダ派にとってもお前さん個人にとっても、良い組織とは言い難い筈だ。俺を殴る理由は、飽きる程あるはずだ』

ファーマウンの告白を聞いていた神々の何人かは頷き、ザンタークは眉間に皺を寄せた。そしてヴァンダルーも「まあ、そうですね」と頷く。

「でも俺はザッカート達の魂の欠片から創られた魂を持っているだけで、当時の記憶も何もありません。なので直接の恨みは持てません。

冒険者ギルドに関しても、あなたは遥か昔の創立者でしかありません。死んでから何千、何万年も経った後の組織の責任を問うのはどうかと思いますし」

創立者で英雄神であるファーマウンだが、冒険者ギルドを指揮監督している訳では無い。各支部には小さな彼の神像や、聖印が描かれたタペストリー等が飾られているが、ギルドの職員全員が信者である訳でも無い。

そのためヴァンダルーが今まで経験した事の責任をファーマウンに問うのは適当では無い。

「それでも、一発ぐらいはと思っていたのですけどね。ドルトンから話を聞いた時は」

『なら、何でその気も無くなったんだ?』

「いや、今の貴方の周囲からの扱いを見ると……ちょっと」

そう、ヴァンダルーは魔大陸に来てから見たファーマウンの現状に、同情し憐れみを覚えていたのだ。

それに気がついて思わず魔人族の始祖が……最もファーマウンを責めていた神が小さく呻いた。

「でも、特に弁護はしませんよ。境界山脈南部の神様達、ゼルクスやムブブジェンゲ、ゾゾガンテ。そしてヴィダがあなたを殴りたいなら止めようとは思いませんし」

ヴァンダルーはファーマウンに同情し、哀れに思い攻撃する意思を失っただけだ。彼は悪くないとか、許すべきだとか、そう言う事はあまり考えていない。

だから彼に直接恨みを持っている神々が復讐すると言うのなら、宥めるつもりは特にない。

『そうか……それで十分すぎる。ありがとう、そしてこれは自己満足に過ぎないんだろうが……すまん』

ファーマウンはそう言うと、最後に再びヴァンダルーに向かって頭を下げた。だが彼が実際に頭を下げているのは、ヴァンダルーの魂の一部となった戦友たちに対してだ。

その後ろ姿を魔人族の始祖や鬼人の始祖は渋い顔で見つめるが、不意に溜め息を吐いた。

『鬼人の……アルダが動き出した今、昔の遺恨は一旦棚に上げないか?』

『魔人の、儂もそう思っていたところだ。勇者殿と同じく、弁護まではしてやらんがな』

ファーマウンが魔大陸に来て以来ずっと憎み続けてきた二柱だったが、何時しか本当に憎んでいるのか、憎み続けるために罵声を叩きつけているのか、分からなくなっていた。

忘れて許すにはファーマウンは十万年前、あまりに多くのものを奪った。しかし憎み続けるには、今の態度は殊勝すぎる。

そのためどちらにも徹せず中途半端な心境のままだったが、ようやく区切りをつけたようだ。

『すまねぇ……』

背中を向けたまま魔人族と鬼人の始祖に謝るファーマウン。会ったばかりの神々の胸の内を察する事が出来ないヴァンダルーは、何となく話が纏まりそうなので良かったと思っていた。

こうしてヴァンダルー達は留学する事になったオニワカを残し、一旦タロスヘイムに戻るのだった。

・スキル解説:魔王

【魔王融合】の上位スキル。一定数以上の【魔王の欠片】を吸収し、それを繰り返し発動させる事で覚醒するスキル。

主な効果は、【魔王の欠片】を自分自身の肉体と同じ感覚で発動させる事が出来るようになる事。目のすぐ前で手を叩かれると反射的に瞼を閉じてしまうのと同様に、反射的に【魔王の欠片】を発動できる。

他にも効果があると考えられるが、現段階では不明。

また副作用として対【魔王の欠片】用アーティファクトの効果が、スキルの所有者の肉体にも及ぶようになる。

このスキルは【魔王侵食度】スキルのレベルが上限に達しても覚醒する事は出来ない。