軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百七十六話 迷宮の邪神 グファドガーン

九十五階層、幻の恐怖の試練を、【虚王魔術】の【虚砲】による空間を歪める程の攻撃力で階層を破壊すると言う方法で突破したヴァンダルー一行は、順調に攻略を続けた。

九十六層以降の階層に配置された魔物達が怯え、ヴァンダルーが進むと我先にと逃げ出したからである。

「ダンジョンの精神支配はどうなったのかしら?」

『多分、坊ちゃんの【虚砲】の威力でダンジョンに穴が空いた衝撃で、緩んだのではないでしょうか』

『ダンジョンがどうやって魔物の精神を支配しているのか分からないので、推測ですけど』

ボロ布を引き裂くような悲鳴を上げて一目散に逃げていくデーモン達の後ろ姿を、エレオノーラ達は眺めていた。

……全てが最低でもランク10の、小国なら一匹現れるだけでほぼ滅亡する事が決まり、大国でもA級冒険者が駆け付けるまで幾つもの町や村が壊滅しかねない。そんな生物と言うよりも災害と評した存在ばかりの筈なのだが。

「魔人国の『地獄の宮殿』の時より怯えられていますね、陛下」

「そうですねー……気のせいか、逃げるデーモンが涙目に見えるのですが」

『デーモンの目に涙腺があるなんて、今まで考えた事も無かったよ』

サキュバス化した『解放の姫騎士』イリスと、ゴースト化したスキュラのオルビアに挟まれて、微妙に落ち込んだ様子のヴァンダルーは、哀しげな視線をデーモン達に向けていた。

何もそこまで怯えなくても。

『地獄の宮殿』では整列して並ぶだけだったので平気だったが、全力で逃げられるのは気分が良くないようだ。

「気に障るようなら狩ってまいりますが?」

『ベルモンドの嬢ちゃん、油断はすんなよ。奴等、坊主から離れた途端元通りになって襲い掛かって来るからな』

「普通のデーモンはそう言うものですからね」

格上相手でも恐れず、チリとなって消えるその瞬間まで遊戯に興じているかのように哂っている。それがデーモンの存在の仕方の筈だ。

ダンジョンの精神支配が乱れているからと言って、彼等が何かに怯え逃げると言う事は無いのだが。

「ふ~む、実はあの怯え方は全て演技で、坊やをからかっているだけという可能性はないかの?」

「母さん、戦士の端くれとして言わせてもらうがそれは無い。見ろ、あそこで逃げ遅れたデーモンが腹を見せて服従を表現しているぞ」

バスディアが指差した先では、ランク10のアークソードデーモンが仰向けで転がっている。

手首から先が刃と化している両腕も、ナイフのように鋭い鉤爪の生えた両足も、小さな刃が連結したような形状の尻尾も、投げ出すようにしてあられもない姿をさらしている。

それは確かに、降伏する野生動物の姿を連想させた。

『バスディア、あたしには死んだふりをしているように見えるけど』

しかし顔にある全ての穴から体液を垂らしながら横たわる姿は、オルビアには服従の姿勢では無く小動物がするような擬死に見えた。

「ピクリとも動きませんし、もしかして本当に気絶しているだけかも……」

『坊ちゃん、経験値にしますか?』

「……それはちょっと。ダンジョンの中では無く、地上だったら躊躇わないのですが」

リタの提案に、ヴァンダルーは首を横に振った。

もし地上でアークソードデーモンに遭遇した場合なら、止めを刺す事に躊躇いは無い。殺さなければ自分以外の誰かを、それも大勢殺す事が明らかだからだ。

しかしダンジョンの中では、幾ら駆除してもすぐに替わりのデーモンが補充されてしまう。増え過ぎて外に溢れ出ないよう間引かなければならないが、それはもうこれまでの階層で十二分にやってきた。

そして食べて美味しい魔物でも無い。そのためいまいちやる気に成らないヴァンダルーだった。

「じゃあ、加護についての話をするかの。坊や、本当に心当たりは無いのかの?」

『タイミング的に、この前坊ちゃんが倒れた時だと思うんですよ』

幻の恐怖の試練でヴァンダルーが倒れた直後、ザディリスやリタ達は新たな加護を獲得した。ただ奇妙な事に脳内アナウンスも無く、ステータスを確認して初めて気がついた。

そして最も奇妙なのは、加護を与えた存在の名前が読み取れない事だ。読めるのは一文字分だけで、後は隠されている。

『普通はそんな事無い筈なんだよね』

そう言うのは、『癒しの聖女』ジーナだ。

『加護は神様が信者に与えるものだから、名前を隠す意味はないし』

「ただ、伝説や逸話では前例が無い訳ではありません」

不幸が続き信仰を見失い、金の為に傭兵に身をやつして荒れた生活をしていた男。彼は幾つもの戦いを、運良く生き延びてきた。その彼が吸血鬼に攫われた姉を助けに行こうとする少年の勇敢な行動に心を打たれ、少年の代わりに剣を取る。

その時初めて自分が【アルダの加護】を得ていた事に、神は何時も見守っていてくれていた事に気がつくと言う有名な逸話である。

「……まあ、実話とは限りませんが」

以前は熱心なアルダ信者だったイリスでも、宗教的な宣伝の為の創作である可能性が大きいと感じるようだが。

「ただ全てが創作とも限らない。実話を脚色して利用する事は、『地球』でも結構ありましたからねー。宗教に限りませんけど。

けど、名前が分からなくても厄介な効果が無いのなら別に良いのでは?」

「いいえ、ヴァンダルー様。大体名前は分かっています」

「そうだぞ、読めるのは一人一文字だけだが、それぞれ読める文字が違うからな」

『おう、何人か読める文字が同じ奴もいるが、全員の読める文字を合わせると【ヴァンダルーの加護】って読めるんだぜ。どう思う?』

「ギシャアアア」

「え、ピート、文字が読めるんですか?」

「ギシャ」

電撃を放つ角を頭部に生やした大百足の魔物、ピートは何時の間にか文字が読める様になっていたようだ。彼のはしご状神経細胞は、格段の進歩を遂げているらしい。

「それは凄い。帰ったらお祝いですね」

『いや、坊主、それより加護について――』

「そっちは……心当たりが無いわけでは無いです」

幻の恐怖の試練で意識を失った後、夢の中で砕けて飛び散った自分の欠片を勿体ないので配り歩いた事をヴァンダルーは覚えていた。

それ自体は以前にもしている。『戦士の神』ガレスや『晶角龍神』のリオエン達の角や鱗を配り歩いたし、ヴィガロやパウヴィナには自分の一部を千切って渡している。

「やはりか。じゃあ、この加護はヴァンダルーの加護なんだな?」

「でも、そうとは限らないのでは? ほら、もしかしたら俺達が知らないだけでヴルンダリンとかファントルーとか、そんな名前の神様が存在していて、それが皆に別々に加護を与えて、自分の名前を隠しているとか」

「むぅ、その可能性も無いわけでは無いか」

「いや、ある訳無いでしょ。何を言っているの、ザディリス」

半眼に成ったエレオノーラにツッコミを入れられたザディリスは「しかしじゃなぁ……」と歯切れ悪く言い返した。

「確かに坊やの主張に無理があり過ぎて穴だらけなのは分かっておる。じゃが、幾ら坊やでも神でもないのに加護を与える事が出来るかと考えると、どっちが不自然か儂には分からんのじゃよ」

加護を与える。それは、【御使い降臨】等のスキルと同様神の権能である。

基本的な効果は共通しており、能力値とレベル的な成長の促進を妨げる壁を越える難易度の緩和。それに加護を与えた神が司るものに関係するジョブに就きやすくなったり、スキルの獲得やレベルが上昇しやすくなったりする。

これに各神や加護の所有者によって異なる効果がつくのが普通だ。

そして加護の有用性は与えた神の力の大小によって変わる。

「確かに旦那様は神殺しではあっても、神その物では無い以上、加護のユニークスキルを他者に与える事は出来ないのが常識ではあります」

「そうである以上、俺の苦しい推測の方が……いえ、流石に無理かなと思いますので、忘れてください」

自分でも苦しすぎると思ったのか、ベルモンドの言葉に続いて口を開いたヴァンダルーが自説を撤回する。

「それに、旦那様は基本的に常識を越えると言いますか……埒外を徘徊するお方です」

更にヴァンダルーに常識は当てはまらない。それをベルモンド達は我が身で知っていた。

「なんだか別次元の生き物みたいですね、俺」

そう呟くが、彼も自覚はあるようで反論はしない。

「まあ、今のところはヴァンダルーが加護を与えているらしい事が分かれば十分じゃ。得体の知れない神によって押し付けられたと考えるより、落ち着くからの」

「そうだ。我に【霊体】と【実体化】スキルを夢で与えたのが、少し進んだだけだからな」

ザディリス達としては、誰に与えられた加護なのか確認したかったらしい。考えすぎかもしれないが、魔王軍残党の邪神悪神から妙なちょっかいをかけられた可能性もあると。

ただ加護を与えた相手がヴァンダルーらしいのなら、安心だ。

既に将来英霊以上の存在に取り立てられる事がほぼ内定しており、レギオン等の一部から信仰対象とされているので、仲間達も驚きはするが好意的に受け止められているらしい。

「じゃあ、今度夢を見た時はまた配り歩きますね」

『その時は驚かせない様に、出来るだけ人に近い姿でお邪魔するのよ。変に平べったかったり、ドロドロだったりしないようにね』

「はい、母さん」

その後ヴァンダルー達は九十七層から、順調に攻略を進めた。障害の筈のデーモンは逃げ去り、残ったのは自我の無いゴーレム等の魔術生物ばかりで、肝心の試練は何故か何も無い階層が続いた。

無人の野ならぬ、無悪魔の迷宮を往くが如くである。

「経験値的には若干物足りないのですが、速く進むのは良いですね。でもデーモンが逃げるのは慣れましたけど、何故試練が無いんでしょうか?」

「ボクはデーモンが居なくて丁度良いぐらいだけど……ね!」

プリベルはそう言いながらミスリルで出来た騎士の彫像、ランク10のミスリルスタチューの手足に触腕の先端が変化した竜の頭から、冷気のブレスを吐いて凍りつかせて動きを止める。

「【氷獣群殺到】! ……って、ダメかっ!」

そして水属性の【精霊魔術】で氷の獣の群れを創りだして放つが、ミスリルスタチューの表面を傷つけるだけで、倒すには至らなかった。

「それはそうでござろうな。【斬雨】!」

だがそこにミューゼの、エンプーサ特有の【格闘術】の武技によって、ミスリルスタチューは一抱えほどの金属塊へと切り分けられてしまった。

「ミスリルは硬度も優れているでござるが、それ以上に魔力を弾く性質で知られる金属でござる。幾らプリベルの魔術の腕が上がっていても、流石に魔術だけで倒すのは無理でござろう」

「むぅ~、その硬度も優れた金属を自前の鎌でバラバラにした人が何か言ってる」

「それは隠れて奇襲したので【暗殺術】の補正も入ったからでござるし……やはりヴァンダルー殿とリオエンのお蔭でござろうな」

そう言いながら、加護のお蔭でクリスタルエンプーサに成ったミューゼは自慢の鎌腕を掲げた。透き通った薄緑色の蟷螂の鎌は、ミスリルを切断しても刃毀れ一つしてない。

「まあ、それも敵が動けなかった故。協力の結果でござるよ。そうでござろう、ヴァンダルー殿?」

「スタチュー系のゴーレムは人型により近い形状の分耐久力が下がりますが、その分動きが速く器用に成りますからね。ミューゼの言う通りだと思いますよ」

「そっか~っ! じゃあ、ボクはミスリルのゴーレムが出て来たら動きを止める事に集中するから、止めはよろしくね♪」

気を取り直して上機嫌で答えるプリベル。触腕の先端のドラゴンの頭部も、嬉しそうにヴァンダルーを咥える。

この階層本来の難易度だと、プリベルもミューゼも第一線で活躍するにはまだ力不足だ。しかし特殊能力や魔術を駆使するデーモンが逃げ出し、残っているのが素材に使われた金属の特性を除けばただ力任せに暴れるだけのゴーレムだけなので、こうして中層の頃のようにレベリングを再開する事が出来ている。

流石にオリハルコン製のゴーレムには敵わないだろうが、今のところミスリルやアダマンタイト製までしか出現していない。

「そう言えば、試練に関してだけど……多分グファドガーンが出すのを止めた試練が幾つかあるんじゃないかな? ただ力を試すだけの階層が何階層も続くのは不自然だもん」

気を取り直したプリベルは、そう推測を口にした。

普通なら「それは無いんじゃないか」と言われる類の考えだったが、ヴァンダルーやミューゼはすぐ受け入れた。

「なるほど……あり得ますね。ちょっとやり過ぎましたか」

何せ、普通なら破壊不可能なダンジョンの天井をぶち抜いている。引き換えにヴァンダルーも魔力の枯渇によって一時間ほど意識を失ったが、逆に言うとその程度のリスクでダンジョンの階層を破壊できるのだ。一日で二十個以上、ダンジョンに大穴を空けられる事に成る。

そんな事を繰り返されたら、グファドガーンとしては堪った物では無いだろう。

「……ダンジョンに崩落されたら俺達も困るので、繰り返すつもりは無いんですけどね」

「しかしグファドガーンの立場でヴァンダルー殿が自重する事を信じる、甘える訳にはいかないでござろう。そう考えると、この階層に入った時に起きたあれは試練を途中で中断した結果なのかもしれないでござるな」

「ああ、一瞬気が遠くなったあれの事?」

この百階層に入った瞬間、ヴァンダルー達全員が一瞬眩暈にも似た感覚を覚えた。しかし、それはすぐに終わり今では何事も無い。

気のせいや、ただの眩暈にしては全員が同時になったのが不自然だったので、暫く警戒していたのだが、本当に何事も起きていなかった。

「かもしれませんね」

ヴァンダルーも曖昧に頷くが、実はミューゼの推測が真実を言い当てていた。

試練の内容は、特殊な空間に精神のみを強制的に転移させられ、そこで人間の精神に巣食う特殊な魔物であるマインドデーモンと精神力のみで戦うというものだ。

だが、その試練は開始された直後ヴァンダルーの精神を目にしたマインドデーモン達が戦意を喪失した事で、終了していたのである。

精神生命体のマインドデーモン達が覚えた恐怖は、今逃げ回っているデーモン達の比では無かったようだ。

『ところで坊ちゃん、そろそろジョブチェンジしては如何でしょうか?』

次の階層へ続く出口が見えた頃、サムがそうヴァンダルーを促した。実は彼は既に100レベルに到達していたのだが、自分がサムの中に設置したジョブチェンジ部屋に入ったら、逃げていたデーモン達が今だと身を翻すのではないか。そう考えて様子を見ていたのだ。

しかし、ここまでくればその心配もなさそうだ。

「そうですね、じゃあジョブチェンジしてきます」

慣れた仕草でサムの荷台に乗り込むと、ジョブチェンジ部屋に入る。

「多分、【虚王魔術師】とかそんなジョブが増えていると思うのですが……」

そんな予想をしながら水晶に触れた。

《選択可能ジョブ 【病魔】 【霊闘士】 【鞭舌禍】 【怨狂士】 【死霊魔術師】 【冥医】 【魔砲士】 【冥王魔術師】 【神敵】 【堕武者】 【蟲忍】 【滅導士】 【付与片士】 【ダンジョンマスター】 【魔王】 【混導士】 【虚王魔術師】(NEW!) 【蝕呪士】(NEW!) 【弦術士】(NEW!)》

脳内に表示された情報に予想通り【虚王魔術師】が増えた事と、予想しなかったジョブが増えた事を知る。

「しょくじゅし、げんじゅつしと読むのかな? まあ、とりあえず今回選択するのは【冥医】ですが。

【冥医】を選択」

もうすぐダルシアが復活する。その際不慮の事態が起きないように医療に関するジョブ効果やスキルが欲しい。【虚王魔術】と【冥王魔術】はジョブに就かなくてもスキルの修行は出来るのだし。

《【高速再生】、【毒分泌(爪牙舌)】、【糸精製】、【魔力回復速度上昇】、【限界超越】、【錬金術】、【手術】、【並列思考】、【高速思考】スキルのレベルが上がりました!》

・名前:ヴァンダルー

・種族:ダンピール(ダークエルフ)

・年齢:10歳

・二つ名:【グールエンペラー】 【蝕帝】 【開拓地の守護者】 【ヴィダの御子】 【鱗帝】 【触帝】 【勇者】 【魔王】 【鬼帝】

・ジョブ:冥医

・レベル:0

・ジョブ履歴:死属性魔術師 ゴーレム錬成士 アンデッドテイマー 魂滅士 毒手使い 蟲使い 樹術士 魔導士 大敵 ゾンビメイカー ゴーレム創成師 屍鬼官 魔王使い 冥導士 迷宮創造者 創導士

・能力値

生命力:10,799

魔力 :3,517,672,074+(1,758,836,037)

力 :2,107

敏捷 :1,687

体力 :2,292

知力 :4,337

・パッシブスキル

怪力:8Lv

高速再生:4Lv(UP!)

冥王魔術:3Lv

状態異常耐性:10Lv

魔術耐性:7Lv

闇視

冥魔創道誘引:5Lv(UP!)

詠唱破棄:6Lv

導き:冥魔創道:6Lv(UP!)

魔力自動回復:10Lv

従属強化:8Lv

毒分泌(爪牙舌):9Lv(UP!)

敏捷強化:5Lv

身体伸縮(舌):7Lv

無手時攻撃力強化:大

身体強化(髪爪舌牙):8Lv

糸精製:6Lv(UP!)

魔力増大:5Lv

魔力回復速度上昇:4Lv(UP!)

・アクティブスキル

業血:4Lv

限界超越:3Lv(UP!)

ゴーレム創成:4Lv

虚王魔術:1Lv(無属性魔術から覚醒!)

魔術制御:8Lv

霊体:10Lv

料理:7Lv

錬金術:10Lv(UP!)

格闘術:9Lv

同時発動:8Lv

遠隔操作:10Lv(UP!)

手術:8Lv(UP!)

並列思考:10Lv(UP!)

実体化:8Lv(UP!)

連携:8Lv

高速思考:10Lv(UP!)

指揮:8Lv

操糸術:6Lv

投擲術:6Lv

叫喚:5Lv(UP!)

死霊魔術:7Lv

砲術:8Lv

鎧術:4Lv

盾術:4Lv

装群術:3Lv

欠片限界突破:3Lv

・ユニークスキル

神喰らい:3Lv

異貌魂魄(異形精神から覚醒!)

精神侵食:8Lv(UP!)

迷宮創造:1Lv

魔王融合:9Lv

深淵:5Lv

神敵

魂喰らい:3Lv

ヴィダの加護

地球の冥神の加護

・魔王の欠片

血、角、吸盤、墨袋、甲羅、臭腺、発光器官、脂肪、顎、眼球、口吻、体毛、外骨格、節足、触角

・呪い

前世経験値持越し不能

既存ジョブ不能

経験値自力取得不能

予想通り【手術】スキルのレベルが上がった事に、ヴァンダルーは満足気に頷いた。

「他の【錬金術】や【毒分泌(爪牙舌)】等のレベルが上がったのは薬品的な関係からですかね」

他にも【限界超越】や【高速思考】等のレベルも上がったが、丁度レベルが上がる頃合いだったのだろう。もしかしたら医療に携わる者には、限界を超越する必要があるとかそんな解釈なのかもしれない。

そう独り言を呟きながらサムの外に出て、次の階層に向かった。

そこで目にしたのは……旗を掲げるデーモンの大群だった。

『ザッカートの試練』百八層。そこで待ち受けるのは意地の悪い試練でも、複雑怪奇な迷宮でも、多種多様な魔物の群れでも無い。

草木一本生えていない荒野に待ち受けるのは、巨大な岩石や金属で組み上げた山のような、しかしたった一体の巨人だった。だが、ただの巨大ゴーレムでは無い。

『我は『迷宮の邪神』グファドガーンの力の現身。挑戦者達よ、ザッカートを継ぐ資格を示せ』

恐らく自らが創りだしたダンジョンの内部という条件が整って、初めて可能になる力の現身の具現化。その迫力は、ブギータスの肉体を乗っ取って降臨した『解放の悪神』ラヴォヴィファードとは比べ物にならない。

神本体が降臨しているのと違い、力の何割かをコピーしただけで判断力も思考力も限られる木偶人形に等しい存在だが、その分戦闘能力は高い筈だ。

「ランクにすれば、どれくらいでしょうね?」

「神本体にはランクは無いそうじゃからな。じゃが、その化身や現身なら……ここまで大物じゃと、ラヴォヴィファードより上だとしか分からん」

ヴァンダルー達は階層の入り口でグファドガーンの現身を見上げ、様子を見ていた。

何故なら、彼等は結界に阻まれ現身の攻撃を受けない代わりに戦闘に参加する事が出来ないからだ。

この結界を通り抜ける事が出来るのは、ジョブに就けない存在……魔物のみだ。

この階層の試練は、ザッカートの偉業の中でも最も有名なもの……魔王軍の邪神悪神を多数寝返らせた事に由来している。

ザッカートの後継者にならんとする者なら、本来敵である魔物を味方につけるぐらい当然出来なければならないと言う事だ。

恐らく、グファドガーンの主観では世界で最も偉大なテイマーはシザリオンの勇者ナインロードでは無く、ザッカートなのだろう。

因みに、最初から魔物をテイムしていなかったり、この階層に至るまでに魔物をテイムできなかったりする場合は、試練を受ける事も出来ない。

だが当然ヴァンダルー達にとっては簡単な試練だ。

『うおおおおっ! 【龍殺し】!』

先頭に立って飛び込んだランク12、ゾンビフォークロアヒーローの『剣王』ボークスの魔剣が、グファドガーンの現身に深々と傷を刻む。

『はっはぁっ! オリハルコンゴーレム以上の強敵が出るとは良い所だぜ、『ザッカートの試練』は!』

神の力を前にして、ボークスの顔には鬼気迫る戦意しか浮かんでいなかった。

『テメェ等も続けぇっ!』

だがその背後に続く者達は、一様に恐怖に塗れていた。

「「「GAAAAAAAA!」」」

「GYUOOOOO!」

アークキャスターデーモン達が咆哮のような呪文を唱え、アークソードデーモン達が悲鳴に似た鬨の声を上げてボークスに続く。

それ以外にも数百匹のデーモンの軍勢が、現身に波状攻撃を仕掛ける。それらは全てこの『ザッカートの試練』によって生成された魔物であり、彼等が行っているのは創造主への反抗に等しい。

何より、本来なら魔人族以外デーモンをテイムする事は出来ない。

だがヴァンダルーがダンジョンを一部破壊した事で精神支配を乱されたデーモンは、本来彼等が覚えるはずの無い感情に支配されていた。

それは、根源的な恐怖である。

食事も睡眠も生殖も必要としない、生命体として必要不可欠な行為全てが娯楽でしかないデーモンには、生命体としての本能が欠如している。

故に全ての命の価値を軽んじ、自らの死ですら娯楽の一部でしかない。彼等は魔王式輪廻転生システムによって、すぐ別のデーモンとして何処かに転生するからだ。

ランクアップを何度も果たした上位のデーモンならやり直す手間を面倒がって、多少命を惜しむがそれぐらいだ。

彼等に本当の意味の恐怖は理解できない。魂を砕き、彼等に真の消滅を与える事が出来る魔王グドゥラニス以外には。

だがヴァンダルーは魂を砕く事が出来て、『法命神』アルダ公認の次代の魔王にして、数々の【魔王の欠片】と融合している存在だ。

当然デーモン達はそのランクに関わりなく、歪な魂の芯から震え上がった。それをダンジョンの精神支配が無理矢理押さえ込んでいたのだが……それが力を失った今、彼等の心は一つだった。

どんな死に様でも構わないが滅ぼされるのだけは嫌だ、と。

そして彼等は掲げたのだ、降伏の白旗を。

「……そこまで怖がらなくても良いのに」

ヴァンダルー当人は輪廻転生システム云々の仕組みを知らないので、相変わらずデーモン達の怯える様子に納得していなかったが。

『ウオオオオォォォ……渦潮よ、押し流せ! マグマよ、飲み込め! 瘴気よ、蝕め!』

現身はボークス達の攻撃に対して、空間を歪め『ザッカートの試練』の各階層と繋いだゲートを複数出現させ、そこに存在する渦潮やマグマ、猛毒の瘴気を召喚する。

恐らく、これが空間属性の邪神であるグファドガーンの戦い方なのだろう。

『変身! 【時間逆行】!』

『皆っ、凍りつかせるよ!』

『変身っ……出来ないけど【大浄化】!』

だが、変身杖の試作品でメタリックに変身した『小さき天才』ザンディアの時間属性魔術が、渦潮が飛び出ようとしたゲートを発動する前まで時間を逆行させて消し、マグマの奔流はダークブロードゴーストのオルビアやウェンディゴ達の射出や水属性魔術、冷気のブレスによって固められた。

瘴気の奔流も、『癒しの聖女』ジーナの【命王魔術】によって浄化された。変身杖の試作品が足りなかったので、変身はしていないが。

攻撃を全て無力化された現身の動きが目に見えて鈍る。恐らく、与えられた判断力を越えた事態に次の手が思いつかないのだろう。

その現身に無数の羽音が迫る。

「ギギギッ!」

「キリキリキリ」

その姿は一見すると、蜂をモチーフにした女性用の鎧を纏った女兵士達に見えるだろう。しかし鎧に見えるのは外骨格で、目に当たる部分にあるのは複眼である。

「行け、娘達よ。関節を狙え」

『ザッカートの試練』に入ってから蛹から羽化して成虫に成ったゲヘナビー達は、女王であるクインの命に従って現身の関節部分に武器である槍や毒針を突き刺していく。

外見からして無機物的な構造をしている現身に毒は効かないだろう。しかし彼女達の一撃に込められた威力は削岩機を越えている。

「ギシャアアアアア!」

『ぶぐるるるる』

雷を纏ったピートの角が現身の爪先を削り、スライムのキュールが脚の表面を這い上りながら徐々に溶かしていく。

『吸い尽くしてやるよぉぉぉ』

更にアイゼンが背中から伸ばした枝、では無く根を現身の身体の隙間に突き入れ、根を張りながら【精気吸収】で少しずつダメージを与える。

だがそれらは現身にとって痛手ではなく、掠り傷でしかない。逆に停止していた判断力が僅かだがダメージを受けた事で再始動したのか、咆哮を上げて腕を振り上げる。

『ウオォォォォォ!』

そのまま力任せに自らに群がる敵を薙ぎ払おうとする。その攻撃を受ければ、ランク10未満の者は一溜りも無いだろう。

だがその頭部に、高速で撃ち出された何かが連続で打ちこまれた。

『ウオォォォォっ!?』

堪らず悲鳴を上げ、攻撃を中止し振り上げた両手で頭部を守る現身。その両腕に、黒い角や甲羅が衝突して轟音を立てる。

「うーん、流石に神の現身。見るからに頑丈そうなのもあるのでしょうけど、一撃必殺とはいきませんね」

結界の向こうにいるヴァンダルーの【砲術】による支援である。

……本来なら彼は結界に阻まれ戦闘に直接参加できない。しかし彼と融合している【魔王の欠片】はあらゆる結界を貫く事が出来る。

だから遠慮無く【魔王の血】製の砲身で撃ち込む事で結界に穴をあけ、援護射撃と言うには高威力過ぎる攻撃を行っていた。

「ヴァン、何で最初からしないの?」

「不意を突いて行った方が、相手の動揺を誘えるかと思いまして。実際、攻撃の出鼻を挫けましたし」

結界が破られる事をグファドガーンは想定していない。そのため、現身は結界の向こうにいるヴァンダルー達を攻撃するための思考が、プログラムが組まれていない。

両腕の隙間から見える現身の顔にも、何処か愕然とした様子が見てとれた。

『胴体が留守だ!』

『集中攻撃~!』

『あっしの攻撃、効いてるんですかね?』

その隙にアイラが魔剣で現身の腹部に当たる部分を一閃して離脱。すかさず、レビア王女やオルビア、キンバリー達ゴーストの火炎や氷、雷撃の集中攻撃が叩きつけられる。

それに対応するために現身が動き出そうとしたが、すかさずヴァンダルーの射撃が現身を穿つ。

この繰り返しによって、驚異的な耐久力を誇っていた現身は徐々に削られ効果的な反撃も出来ないまま無数の破片に砕かれてしまったのだった。

現身を倒した後、ヴァンダルーはその背後にあった扉から階段を下りる前に装備できる仲間を全て装備して、出来ない者は階段の途中に残して下に向かった。

これまでとは異なる存在を……邪神悪神の本体が顕現している気配を感じ取ったからだ。

【危険感知:死】に反応は無いが、現身や化身ならともかく神本体を直視すると精神的なダメージを受ける恐れがある。

そのためヴァンダルーは単身向かったのだ。

そして予想通り、グファドガーンが待ち受けていた。

『ようこそ、最後の挑戦者よ。この百九階層が『ザッカートの試練』の最奥……本来なら最後の試練を執り行う場所に成ります』

グファドガーンの姿は大柄な男性ほどにまで縮めた以外は現身とほぼ同じだった。だが、その存在感は現身を更に上回っている。

「最後? それに本来なら?」

内心身構えていたヴァンダルーが聞き直すと、グファドガーンは答えた。

『はい、最後の試練とは挑戦者がアルダの信者である場合やザッカートの真実を知らぬ場合、我が訴えを聞き入れ、心を入れ替えられるか否か。

故に、次代のザッカートよ、あなたには必要の無い試練です。そしてこのダンジョンが次の挑戦者を必要とする事は無い』

そう答えるとグファドガーンはその場に膝を突き、ヴァンダルーに向かって頭を垂れた。

『次代のザッカートよ、これまでの数々の無礼をお許しください。いかなる罰もお受けいたします』

「いえいえいえ、頭を上げましょうよ、罰とか無いですから。無礼については寧ろ俺達が怒られるのではないかと思っていたぐらいですし」

『いいえ、あなたを試すためとはいえ課した試練の数々は僕として決して許されないものばかり。頭を上げる事等できませぬ』

「いえいえ、元からそう言うダンジョンだと分かったうえで挑戦したのですから文句をつけるのは筋違いというものです。それについカッっとしてダンジョンを破壊しちゃいましたし」

幻を見せられた時は頭に来ていたヴァンダルーだが、あれからもう数日過ぎている。それにダンジョンを一部壊した影響で、魔物に対する精神支配が疎かに成り試練も殆ど行われなくなってしまった。

そのため怒りはかなり冷めていた。苦情を言って、謝罪があれば忘れようと思うぐらいには。

だがその前にグファドガーンが神とは思えない腰の低さと丁寧さで謝罪したので、ヴァンダルーは慌てていた。

『それは砕かれるダンジョンを創造した私の落ち度です』

そしてグファドガーンは、数々の裏技や裏回答で試練を攻略したヴァンダルーに心から謝罪していた。

試練を課した自らの想定の斜め上を行く事は、グファドガーンにとって喜びであった。そうでなくても迷宮の形式で試練を課した以上、挑戦者が試練の穴を探そうとするのは当然だと解釈していた。

それに、命がけの試練を課しておいて全力を出すなと言うのはただの理不尽だ。その全力の結果ダンジョンが破壊されたとしても、それは自分の落ち度であるとも考えていた。

「む……じゃあ、謝罪を受け入れる事にしますからとりあえず頭を上げてください」

『畏まりました。我がダンジョン『ザッカートの試練』の攻略者にして、新たなる我が主よ』

《【試練の攻略者】の二つ名を獲得しました!》

《名前がヴァンダルーから、ヴァンダルー・ザッカートに変更されました!》

グファドガーンがそう言って頭を上げた瞬間に、ヴァンダルーの脳内にアナウンスが響く。

「……では、ザッカートの遺産について説明をお願いします。死者の復活に関する物があるなら、最優先で」

名前まで変わったとか、それによって今後境界山脈外で活動する時色々問題が起こりそうだとか、そういった事は脇に置いて、ヴァンダルーは母であるダルシアの復活を可能にするはずの遺産を求めた。

『死者の復活……畏まりました。こちらです』

そしてグファドガーンは事情の説明を求めようとはせず、ヴァンダルー達を十万年以上守って来たザッカートの遺産が保存されている宝物庫に誘った。

・ジョブ解説:創導士

魔力、そして生命力や力、体力等が上がりやすい。

そしてジョブに就いた者の「創造」に関する事全般に補正効果がかかり、また創りだした物や技術に関する者達を導く事が出来るジョブ。

本来なら生産系勇者に相応しい、創りだした武具や衣服、装飾品を装備した者達や、料理を食べ、日用品を利用する者達。そして技術を伝授された多くの弟子達を導いたと思われる。

しかしヴァンダルーがこのジョブに就いた事で、ジョブの意味合いが大きく変化した。

創造物の中に魔王の欠片製の武具や製品、分泌した毒物や薬品、【ゴーレム創成】で作られたゴーレム、そして死属性の魔力によって創られたアンデッドや他の魔物も含まれるようになったのだ。

その結果ヴァンダルーの創道は、魔道や冥道と同じ常人には決して先導できない道と化している。