軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出立

学び始めたエリザベスちゃんは、マナーの違いにとてもおどろいておりまして、それがことに印象的でございました。

「お母様、この国では夜会のダンスをまずパートナーと踊らなければならないのに、帝国では違うのですって! 誰と何度踊っても良いのですって!」

目をまんまるくしてお話しするエリザベスちゃのなんと可愛らしいこと。

しかし、あくまで規則よ。と忠告することは忘れません。ずっと同じ方と踊るのは、きっと特別な関係を見せつけたいときだけでございましょう。

それから数年間、エリザベスちゃんは本当によく頑張ってお勉強を続けました。

そんなエリザベスちゃんがもうすぐ帝国へ旅立つ時、迷いがないか聞きました。最近では、お友達を呼んでお茶会を催すなどもしておりましたので、寂しくないのか、とも。

しかし杞憂でございました。屈託のない笑顔でエリザベスちゃんは言いました。

「確かに、皆様にお会いできないと寂しいわ。でも、それ以上に、帝国でしか学べないことを学んだり、大伯父様にお会いするのが楽しみなの。」

キラキラと希望に満ちたエリザベスちゃんの笑顔はこの上ない可愛さでございます。

されど、大伯父様とはどういうことでしょう。夫に叔母様はおりますけれど、伯父様がいらっしゃるというお話は聞いたことがございません。初耳でございます。

後日、夫に伺いました。

「エリザベスが口を滑らせたみたいだね? 色々あって公にしていないからね。君も秘密でね。」

簡単にお話を伺いますと、驚くことに夫の祖母は帝国の出身でございました! 全く存じ上げませんでした。

夫のおばあ様は、わたくしと夫が結婚するよりも前に亡くなっているため、お会いしたことも、まつわるお話なども聞いたこともありませんでした。

しかし、楽しみでついうっかり秘密を漏らしてしまうとは、なんて可愛らしいエリザベスちゃん。けれど、秘密の重さは後で諭しておくことと致しましょう。

ふと、疑問に思ったことを夫に伺います。

「あなたの大伯父様ではなく、エリザベスちゃんの大伯父様、なのでしょうか?」

「うん、エリザベスの大伯父であっているよ。私の父の腹違いの兄にあたる。私から見て伯父だね。」

「…それは、おばあ様は帝国でご結婚されてた、ということでございますか? そんな状況から他国まで嫁いでくるとは…複雑な事情があるのでは? お会いしてよろしいの?」

腹違いの兄弟での争いなど、よく耳にいたします。

「伯父はこちらの、祖母の事情を知っているよ。だから問題ない。身重の祖母をこの国に送り出したのは伯父らしいからね。」

細かい事情はわかりませんが、夫が問題ないというならそうなのでしょう。

「手紙を出したらエリザベスに会えると喜んでいた。一昨年にお会いしたが、高齢だけれど、とても聡明な方だったよ。」

楽しい事を思い出すように、ほんの少し目を細めた夫は続けておっしゃいます。

そうでございました。夫は一昨年に外交使節団として帝国へ行っておりました。

きっと、エリザベスちゃんが行く前に、帝国がどんなところであるかを見ておくため、何年か機会を伺って役職を得たのでしょう。

夫は、本当に娘が愛おしくて仕方がないのです。そんな方ですから、わたくしは一つ提案いたしました。

「でしたら、エリザベスちゃんの入学に会わせてあなたも一緒に帝国に行って、伯父様にご挨拶なさいましたら?」

「いや、さすがにそれは。仕事もあるし…」

「あなたがエリザベスちゃんをとても慈しんでいるのは皆様ご存じのこと。娘の入学式見たさについていっても誰もおどろきません。それに、一生に一度の娘の入学式ですのよ? 見なくてよろしいの?」

「入学式…いやしかし…」

黙り込んでしまわれました。考え込んでいらっしゃいますが答えはわかります。

わたくしはすぐに夫の旅の支度を使用人に指示いたしました。

その後、娘の入学式をしっかりと見届け、帰ってきた夫によりますところ、エリザベスちゃんは大伯父様の家から学園に通うことになったそうでございます。

エリザベスちゃんは学園の寮に入ると聞いていたので驚きました。

「伯父がエリザベスをすごく気に入ってね、寮なんかだめだ、と怒ってしまって大変だったんだ。でも、伯父の家の方が寮より安全なのは確かだし、信頼もできるからね。甘えることにした。エリザベスも伯父と気が合うみたいだったし。」

夫は言い訳のように、少し早口で経緯を話してくださいます。

「本当に、ご迷惑ではないのですね。」

「うん、なんか知らないけど使用人たちが皆、そろってすごく喜んでたよ。」

なるほど、夫の伯父様は使用人を複数抱えることができる家なのでございますね。でしたら、甘えてもよいのかもしれません。

エリザベスちゃんに付けた侍女たちもきちんと受け入れていただいたようでございますから。

何より、夫が問題ないと思ったのなら大丈夫でしょう。夫は人を見る目がございます。

わたくしは何かお礼の贈り物を考えることと致しましょう。