軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族への提案

先日に、乙女ゲームの物語を思い出したあの時分から、わたくしは色々と考えました。その考えた内の一案についてエリザベスちゃんに話してみることといたしました。

「エリザベスちゃん、お話があるの。」

「どうされましたの? お母様。」

「あのね、大きくなったら、お隣の帝国へお勉強に行ってみない?」

わたくしはエリザベスちゃんに帝国への留学を促してみたのです。

何もしなければこの先、我が王国の学園に通うことになるのですから心配です。ですから、いっそのこと国外に出れば良いのではないか、と思い至ったのでございます。

いくつかある隣国のうち、帝国、とエリザベスちゃんに伝えたのは、わが王国から帝国への留学は前例がございますので、許可されやすいだろうと暗に考えたからでございます。

驚いているエリザベスちゃんの目がまんまるです。なんて可愛らしいのでございましょう。

「私は、この国の学園に通うのではないの?」

利口ですこと。何年も先に通う学園のことをもう知っているのです。

「もちろん、この国の学園に通っても良いのよ。でも、違う国の学園に通っても良いの。違う国に行けば、ここにはない、色々なものを見ることが出来るわ。」

「色々なもの…」

あまり良くわからないようです。それは当たり前でございましょう。見たことも聞いたこともないもの、でございますから。

「ええ。ただ、行くとしたら、行く前にお勉強はたくさんしなければならないわ。」

大変であることも伝えます。騙すようなことはしたくありません。

わたくしの言葉にエリザベスちゃんは少し考える仕草をとってから聞いてきます。なんて愛嬌のある仕草でございましょう。

「帝国語とかですか?」

なんと賢いことです。この年齢で帝国の言語がこの国と違うと知っているのです!

確かに帝国語は貴族の教養でございますから知っていてもおかしいことではありません。しかしまだ、帝国語の家庭教師はつけておりません。ですのに知っているなんて、博識です!

「そのとおり、帝国語は必要ですよ。あとは帝国のマナーや、歴史なども学ばなければなりません。」

「マナー?」

エリザベスちゃんは首をかしげて可愛らしく繰り返します。

「マナーは場所や身分、立場によってかわるのですよ。」

神妙にうなずくエリザベスちゃんも愛らしい。きっとわたくしの言葉を頭のなかで反芻しているのでございましょう。なんていじらしい。

「行くかどうかは今決めなくても良いの。今は、学びの場はひとつではないと知っておいて欲しいだけよ。」

無理強いはいたしません。選択肢があるのだと知っておいてもらえればよいのです。

エリザベスちゃんを帝国に留学させたい旨を、夫にもお話ししました。

もちろん私の夢まがいの前世の話などはいたしません。

ただ、娘の見聞を広めてあげたいこと。趣味である絵を続けてほしいこと、などと話します。

絵と言ったのは、エリザベスちゃんに帝国への留学を進める理由を、夫になんと説明したら良いのかと探しましたとき、思い至ったからです。

後付けの理由ではございますが、嘘ではありません。まだ幼いエリザベスちゃんですが、絵を描くことが大好きですし、才能があるのではないかとも思うのです。

これは、親の欲目かもしれません。

けれど、本人が望むなら学ばせてあげたいと思うのでございます。

しかし、我が王国でそれは叶いません。

この国では女性が絵を描くことを公にすることはほとんどないのです。絵は女神様に捧げるもので、無垢な子供か男性が描くものなのです。女性が描いた絵は女神の嫉妬を買うのだとか。

どうして嫉妬を買うのかわたくしには理解はできません。わたくしには崇高すぎる思想ということでございましょう。

とにかく、この国で女性が絵を学ぶなど受け入れられないでしょう。

今、エリザベスちゃんは子供ですから許されておりますが、この先も続けるのようでしたら隠さなければ社交界の醜聞となり、婚姻などは難しくなることでしょう。

ですが、帝国は異なった文化を持っているのでございます。女性の高名な画家もたくさんおりますし、絵を描くことは女性であっても、教養の一つに入るのだそうです。

わたくしの話を聞いた夫は、この国では非常識と言われることであるにもかかわらず、すんなりと了承くださいました。

本人が望むならば、留学に賛成するし、絵も、本人の意志があれば学ぶ機会をもうける、と。

夫は娘にとても甘いところがございまして、以前に、なんでも叶えてやりたいとこぼしたこともありました。

ですから、わたくしから夫になにも言わなくても、娘が行くと言えば行かせたのかもしれません。それどころか至れり尽くせり、準備を整えるまでなさったでしょう。

それでもわたくしはわたくしの不安を少しでも軽くしたくて夫に話したのです。

きっと、夫はわたくしの不安を見透かしていることと思います。ですが、その原因を探ることなく、静かに話を聞き、受け入れてくださいました。

夫は貴族の当主としては良い方向に珍しいお方でございます。

あとは、エリザベスちゃんの心を待つだけ。

待つ間、わたくしはエリザベスちゃんが帝国へ行かなかったときの対策など考えておきましょう。