作品タイトル不明
18◇次なる戦い
「なに……?」
王都に戻ったオレのもとへ、驚きの報告が入ってきた。
「カナカス国との国境を守護していた十二魔将『剛力』のマスキュラテイン様、戦死!」
「タカアマメドウ国が国境付近で大規模な軍事演習を行うと通告!」
「エーデン国軍、侵攻! 敵軍には勇者ゼニスパーティーの姿も確認されているとのことです!」
「十二魔将『爆轟』のゼンバーグ、離反! エルフの使節団を拉致し、ぐっ、グレンスフィオール様の自刃を要求!」
……おかしい。破滅エンドを回避しようと良い四天王になろうとすればするほど、原作と異なる危機がどんどん押し寄せてくる。
しかし、文句を言っている暇はない。
対処せねば。
◇
魔王様との謁見の間にて、オレを含む四天王全員が膝をついている。
ちなみに魔王様の玉座周囲には御簾がかかっており、そのお姿を拝見することは出来ない。
グレンは幼い頃に顔を見たことがあるが……まぁ今はいいだろう。
「カナカス国境は……マグニチュルス、頼めるか」
「ハッ」
『四天王』『岩の番』マグニチュルスは、貴公子然としたイケメンだ。
クールな性格らしく口数は少ない……というのが原作から読み取れる要素。
グレンの記憶によると、後輩であるマグニチュルスに実力で追い抜かれたグレンは、心中穏やかでなかったらしい。
しかも、原作ルートではコキューリアに負けて他の四天王に敬語を使うことになったので、腸が煮えくり返る思いだったろう。
オレからすれば、同僚が有能に越したことはない。ぜひともカナカス国境を守護してほしいものだ。
「タカアマメドウ国境には、テンペスティア」
「仰せのままに~」
テンペスティアは妖艶な美女だ。やけに布面積の少ない衣装を身に纏う、緑髪の魔人である。
「本来であれば、エーデン国への対応は他の十二魔将に加えて、コキューリアとグレンスフィオールの両名に任せたかったのだが……」
「愚かなる反逆者ゼンバーグについては、私にお任せ頂きたく」
さすがに魔王様の前で『オレ』とは言えない。
「……うむ。では、そのように。コキューリア、他の者と協力し、勇者共を撃滅せよ」
「必ずや」
◇
「グレンさん」
マグニチュルスに声を掛けられた。
「……なんだ?」
今はこれ以上考え事を増やしたくないのだが。
「いえ、その……感謝をお伝えしたく」
クールな少年が、恥ずかしそうに頬を染めている。
……こんなキャラだっただろうか?
「感謝だと?」
「正直、一度は貴殿に幻滅してしまったのですが……」
「時間がない。迂遠な言い回しはよせ」
「ですね、失礼。おれも貧民窟出身なのです。貧しい出身の者から人材を発掘する試みが始まったのは、グレンさんとシンラさんという前例があったからだと聞きました。ですから、おれはお二人に感謝していたのです」
なるほど。だが実際にグレンに会ったらすぐブチ切れるクズだったので、幻滅したと。
最近それが演技だと知ったので、感謝の念が復活し、この機に伝えたわけだ。
「ならば、この先登用される者たちは、貴様に感謝するだろうな」
「――――ッ。……そうなるよう努めます」
マグニチュルスは肩を震わせると、誇らしげに微笑んだ。
「死ぬなよ」
「グレンさんも」
「……あら~、なんかあの二人、仲いいわね」
「そうですね。四天王同士の仲がよいのは素晴らしいことです」
「でもグレンくんには、シンラくんがいるのにね~」
「……あの、わたくしとは違う話をしていますか?」
女性陣が何やら話しているが、よく聞こえなかった。
◇
マグニチュルスと別れて一度執務室に向かう。
するとコキューリアが隣に並んだ。
「……随分と楽しそうでしたね」
「『氷の番』が嫉妬の炎を燃やすとは、可愛いところもあるものだ」
「……意地悪ですよ」
頬を染めながら拗ねるように言うコキューリア。
「すまん、許せ」
「許しましょう」
一瞬、二人でフッと笑う。
「……ゼニスと勇者パーティーだが、気をつけろ」
「心配してくださるのですか?」
「当たり前だ」
「……そ、そうですか」
自分から聞いておいて照れるコキューリアが愛らしい。
「聖剣は没収したが、それでもゼニスはとその仲間は充分脅威だ」
「グレン殿が既に一度倒しています。今回も問題ないでしょう」
「あの時はバーンズを失った」
ちなみに、オレがバーンズに死んでもらう予定だったことは、誰も知らない。
バーンズのエルフ狩りに乗るふりをして証拠を掴み、エルフたちを保護したのち、告発するというのが表向きの作戦だったのだ。
「そうでしたね……」
「可能な限り、直接戦闘は避けろ」
「……分かりました。砦の防衛を指揮し、魔法による支援程度に抑えます」
彼女の氷結魔法で砦を覆い、防御力をアップ。更に冷気で敵の動きも鈍らせる。
彼女の得意としているのは本来、防衛戦なのだ。
もちろん攻撃も得意なので、隙がない。
「お前が後ろを守っていると思えば、兵士たちも安心して戦えよう」
「あら、嬉しいことを言ってくれますね」
コキューリアが柔らかく微笑む。
「事実を言ったまでだ」
「……グレン殿、一つお願いをしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「次の戦いが終わったら、わたくしと王都を散策いたしましょう」
「散策? 構わんが……」
ピンときていないオレに、コキューリアが小さく頬を膨らせた。
「恋仲の二人が街を歩くとなれば、それは逢瀬以外にないでしょう?」
そう言われて、ようやくデートの誘いだと分かった。
思えば、デートらしいデートなどしたことがない。
忙しかったとはいえ、確かにこれはいかん。
「分かった。何か考えておこう」
だが同時に、死亡フラグに思えて心配が増した。
「あら、それは楽しみですね」
と笑う彼女は美しい。
「しかし、オレとの逢瀬など怖気が振るうのではなかったか?」
「うっ……あの時のことは忘れてください!」
決闘の日のことを思い出して言うと、コキューリアが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ふっ」
オレが思わず笑うと、コキューリアは涙目でオレを睨みつけてきた。
「すまん、すまん。皮肉が染み付いてしまってな」
「必要なことと理解しますが、恋人を虐めるのは悪趣味ですよ」
「気をつけるさ」
「……ミュークル殿のこと、お願いしますね?」
「あぁ、必ず助け出す」
そうだ。
転生して困ったことばかりだが、悪いことばかりではなかった。
よかったことも、確実にある。
それらを守る為にも、なんとか乗り切らねば。