軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初恋の終わり

会場を抜けると、カインが気づかうように問いかけた。

「殴られたところは大丈夫か?」

「大丈夫です」

「足の方はどうだ」

「大丈夫です。今日は協力して下さってありがとうございました」

「いや、俺は大したことはしてないよ。それより君の方こそ、最後までよく頑張ったな」

カインが優しく微笑みかけると、彫刻のように端正な顔立ちが、ふわりと柔らかい印象になる。その顔、その表情を、ビアトリスは呆けたように、ただぼんやりと見上げていた。

「どうした?」

「いえ……」

「やっぱり痛むのか?」

「いいえ、そうではないんです」

ビアトリスは苦笑するように言った。

「……カインさま、私がカインさまがクリフォード殿下ではないかと思った理由を、前にお話ししましたわね」

「ああ、色々言ってたな」

市井育ちとは思えぬ所作の美しさ、深い教養、シリル・パーマーの態度。

「実はあの他にもう一つあるんです」

「もう一つ?」

「はい。私、カインさまの笑顔を見ると、いつもどこか懐かしい気がしましたの」

カインが優しくほほ笑むたびに、いつも胸が締め付けられるような、泣きたくなるような、言いようのない懐かしさを覚えていた。会って間もない彼に対する、この感情はなんなのか、最初の内は分からなかった。

「ある日ふっと気がつきましたの。カインさまの笑顔は、まだ私に優しかった頃のアーネストさまの笑顔に似ていたのです。もしかしたらお二人には血の繋がりがあるのではないかと考えて……そこからすべてが繋がったんです」

「そうか……」

「カインさま……私、アーネストさまの笑顔が好きだったんです。あの頃の優しいアーネストさまのことが、本当に、大好きだったんです……」

カインは口を開きかけたが、涙を流すビアトリスを前に、結局何も言わなかった。

本当はとうに気づいていた。

自分が恋した少年は、もうどこにもいないということに。

それなのに気づかないふりをして、アーネストの中にその面影をずっと探し続けていた。

冷たくされ、邪険にあしらわれながらも、ずっと諦めきれなかった。

あの優しい少年のことが、本当に大好きだったから。

涙は枯れることなく、あとからあとから溢れ続けた。

それは長い初恋の終わりを悼む、弔いの涙だった。