軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

答え合わせ

アーネストが語った内容に、ビアトリスはしばし言葉を失っていた。

陥れるための婚約者。

王宮図書館での密談。

そして宰相のアメリア王妃に対する恋心。

(アーネスト殿下もフェリシアさまも、とんでもない状況にいらっしゃったのね……)

噴水前におけるフェリシアの敵意。今思えば、あれは「自分がこんな境遇に陥ったのはビアトリスが婚約解消したせいなのに、なにを親切面しているのだろう」という感情の発露だったのかもしれない。ビアトリスにしてみれば、なんとも理不尽な話だが、気持ちとしては分からなくもない。

「――それで母の幽閉に関わることですから、兄上にもお伝えした方がいいと思ってこちらにお邪魔しました」

アーネストは淡々と言葉を続けた。

「それに宰相とミルボーン侯爵が母の幽閉の件で俺に敵意を持っているなら、兄上やビアトリス嬢に対しても矛先が向かう恐れがあります。最近、なにか周囲に変わったことはありませんでしたか?」

変わったこと。その言葉に、ビアトリスとカインは視線を交わした。

「カインさま、私からお話ししてもいいでしょうか」

「ああ、もちろん」

「何かあったのか? ビアトリス嬢」

アーネストが心配顔で問いかける。

「はい。その件と関係があるかは分からないのですが――」

ビアトリスが首飾りと「閣下」の一件を説明すると、今度はアーネストが「そんなことが」と絶句する番だった。

「それで色々調べた結果、パーマー宰相とペンファーザー公爵の二人にまで絞り込めたんですの。そのうちどちらなのかについて、二人で話し合っているところでした」

「そうか……。その二人のうちのどちらかなら、おそらくパーマー宰相だ。ペンファーザー公爵ではないと思う」

アーネストが見解を述べた。

「やっぱり、そうでしょうか」

「ああ。ペンファーザー公爵が婚約解消の一件で、君たちに反感を持っている可能性は低い。あの件については、『みっともない真似をして王家の権威を汚した』と言って、むしろ俺に対して呆れている様子だったからな。金に困っているということもなさそうだし、首飾りを盗む動機がない。しかしパーマー宰相は、俺と同じくらい君たちのことも恨んでいるはずだ。機会があれば、それくらいの嫌がらせはやりかねない」

「それじゃやっぱりパーマー宰相がグレアムの『旦那さま』だったのですね……」

今までパーマー宰相の動機としては、「パーマー夫人の嫌がらせに加担している」くらいしか思いつかなかったため、堅物の宰相がそんな真似をするのかと疑問に思っていたのだが、彼が王妃に対する長年の恋に狂っているなら、事情はまるで異なってくる。

「宰相は母に首飾りを贈ったそうだ。もしかしたら君の月華石かもしれない」

「まさか、そんな酷いことを」

「酷い話だが、その可能性はあると思う。君と兄上に対する復讐としては最高だからな」

そのとき二人のやり取りを、カインの落ち着いた声が遮った。

「――待ってくれ。俺は違うんじゃないかと思う」

「何か今の話で不自然な点がありましたか?」

アーネストが怪訝そうに問いかける。

「ある。王家に対する罪で幽閉中の人間を脱走させるというのは、王家に対する重大な反逆行為だ。いくら人のいない時間帯とはいえ、そんなことを王宮図書館で話し合うだろうか」

「しかし現に俺はこの耳で聞いたんです。ミルボーン侯爵は宰相に対して、姉は貴方のもとに行くのを楽しみにしているとはっきり言っていました。第一、聞かれたらまずい内容だからこそ、俺から隠そうとしたのではありませんか?」

「いや、それは内容自体がどうというより、単にお前には聞かせたくない内容だったのかもしれない」

「俺には?」

「ああ」

カインはどこか気まずそうに目を伏せた。

「とにかく、密談の件はいったんおいておこう。それよりも、フェリシア嬢にそんなことをさせようとした黒幕は誰か、という方に焦点を絞るべきだと思う」

「ですからそれは、ミルボーン侯爵とパーマー宰相が結託していると見るのが自然でしょう。弱みを握って相手を操るのは昔からミルボーン家の得意とするところですし、王宮内の人事を取り仕切っているのはパーマー宰相なんですから」

「確かに、貴族家系の弱みを握って脅すのは昔からミルボーン家の常套手段だ」

カインはそう同意した。

「あのグレイス・ガーランドやナイジェル・ラングレーの例もあるし、アンナ夫人が脅されているのなら、真っ先に疑うべきはジョシュア・ミルボーンだろう。……しかし、本当に脅されているのか?」

「フェリシアは嘘をついているようには見えませんでした。あれが演技なら大したものです」

アーネストがむっとしたように言い返す。

「俺もフェリシア嬢は嘘をついていないと思う。しかしその母親は? お前の話だと、フェリシア嬢はアンナ夫人からあまり大切にされていない様子なんだろう?」

「それは……」

「アンナ夫人が息子を溺愛して、娘をないがしろにするタイプの母親だとしたら、陰謀に加担する理由は単に『息子の出世につながるから』というだけで十分だろう。しかしまさかフェリシア嬢に面と向かって『兄のために犠牲になれ』とも言いづらい。だからアンナ夫人は娘にとって抵抗が少ないように、『弱みを握られて脅されている、逆らったら家族全員ただではすまない』と言ったんじゃないかな。……それから王宮人事についてだが、二人とも大事なことを忘れてるぞ」

「まあ、大事なことってなんですの?」

ビアトリスが驚いて問いかける。

「本来なら王宮人事は国王の専権事項ということだよ。今のように国王が丸投げしている状況では、実質的に仕切っているのはパーマー宰相だとしても、王座にある者がその気になりさえすれば、いつだって人事に介入することができるんだ」