作品タイトル不明
バレンタインデー再び
「ホムラ、ベリーでた?」
ペテロが聞いてくる。
「でた」
「おっけおっけ、これで全部揃った」
私の答えに今度はお茶漬からの言葉。
仕事のおかげでみんなより遅れて参加な私のために、イベントモンスターの『リア獣』を倒す手伝いをしてくれていたのだが、無事必要なアイテムがドロップした。
「こう、この敵なんとかならんか」
「運営の憎しみを感じるぜ」
私のぼやきにシンが応じる。
「このモンスター相手にクリティカル出すと、自分が『リア獣』に嫉妬しているみたいで微妙な気分になるんだが?」
「私なんか闇討ちしてるみたいでさらに微妙ですよ」
忍者スタイル暗殺者のペテロも微妙らしい。ちなみに『リア獣』は固有の魔物ではなく、フィールドで二匹でいちゃついてハートのエフェクトを飛ばしている魔物のことである。今狩っていたのはフルール鹿だ。もともと雌雄がはっきりしている魔物はカップルになりやすい……のか、『リア獣』を見つけやすい。
「わははは! 気にするな!」
「そうそう気にしたら負けです」
気にしていないレオとお茶漬。
「依頼人に届けたら、次は菊姫待ってから狩りですね」
「ほーい!」
「協力ありがとう、ありがとう」
今回のイベントには依頼人がいる。バレンタイン〜恋する乙女と勘違いする男〜とかいう副題のついたイベントで、今集めていたのは恋する乙女に納品するアイテムだ。
「本当に集めてきてくれたのね! ありがとう!!」
嬉しそうにアイテムを受け取る栗毛の女性、おとなし目の地味だが美人さん。勇気を出して告白するために思い人の心を動かす贈り物をしたいと、その材料集めが依頼だ。
「これで、これで『愛の 虜(とりこ) de奴隷』が作れるわ!」
「はい?」
今不穏な単語が飛び込んできたような……。
「ふふふvV あ、保険で作ったけどこっちは使わなくなったからあげるわ!」
そう言って走り去る恋する乙女と、私の手の中に残されたハート形のチョコレート。
「…………」
イベント進行が終わっても固まっている私の肩をたたくシン。
この後、風呂上りの菊姫と合流して『リア獣・真実』狩り。
「真実ってなんだ、真実って」
「ここの運営は世の中の恋人同士に対して嫌な思い出があるんでしね」
あの後、『勘違いする男』を助けろ! とかいうクエストが始まり『リア獣・真実』から落ちる宝珠『夢から覚めても愛せますか?』を集めている。
「アイテム名にも突っ込みどころが満載なんだが」
宝珠は全部で八色あり、私は黒しか落ちない。ペテロも黒なのでキャラクターの誕生日で割り当てられているのだろう。
「八色集めるとあの二人、くっつくらしいな!」
レオが屈託無く笑う。あのイベントを経てなお、人の幸せを喜べるレオはすごいと思う。
「ちゃんとくっつければレアドロップ率が三十分上がるアイテムがもらえるから頑張って」
お茶漬の物欲を前面に押し出した応援により頑張って宝珠を集めている。色の交換は【烈火】とすでに交渉済みとのことで面倒はないようだ。
クエストを受託する場所で会ったロイも「交換声かけろよ」と言ってくれたが、ロイの クラン(ところ) は大所帯なのでロイ自身は困らないはずなので少人数なうちのクランのために声をかけてくれたのだろう。ロイのところが大所帯になるのもわかる。――こないだ飲ませたらおっぱい魔人なことが発覚してしまったがいいヤツだ。
「ああ、私はなんて馬鹿だったのかしら。でもどうしてもあなたの心が欲しかったの……」
「そんなモノが無くても僕はあなたのもの……」
色を揃えた宝珠は『夢の現実』というアイテム名に変わり、愛を確かめ合う男女を前に絶賛プレイヤー置いてきぼりの効果を発揮中。
「ありがとう!! あなたも相手を見つけて幸せになってね! これはお礼よ」
「ボッチとは世界が違って見えます、抱きしめられる相手がいるのは幸せですよ! これはお礼です!」
なんで私に恋人がいないこと前提なんだ! いないけど! 宝珠を揃えられないまま渡すと、男から『恋する乙女』に渡す予定だった花束をプレイヤーに譲られて恋も終わるらしいのでいっそ揃えなければよかった気がする!
イベントキャラ二人は『花束』『レアドロップアップの宝珠』を残し、きゃっきゃうふふと消えていった。
「……ヤツら討伐したらもっとアイテム手に入んねぇかな?」
イベント空間からでたらシンが呟いていた。
「まあレアドロもらえたし、縁起の悪い『チョコ』と『花束』は神殿に放り込んでエフェクトもらおうか」
お茶漬はレアドロ以外に重きを置いていないらしく特に疲れた様子はない。
「このイベント色んなものが削られるんだが……っ!」
イベントは一度だけで、この後『リア獣』からは『チョコ』と『花束』、『リア獣・真実』からは『本命チョコ』『豪華な花束』がドロップするようになった。恋する乙女がくれたチョコよりも魔物のドロップの方が安心できる不思議。
菊姫から『本命チョコ』という名の義理チョコをもらい、お返しに日本酒を 強請(ゆす) ら……リクエストされた。昨年も特にホワイトデーは設けられていなかったのでこの場で渡す。
「じゃあ私も辛口で」
「じゃあ俺はステーキで」
「じゃあ俺はラーメン!」
「じゃあ僕はタンタンメン」
「ラーメンは作らんといっとろうが!!!」
義理チョコですらない料理交換チケットと化したチョコと花束をもらった。その後の夕食でラーメンは作った。イベントごとなので年に一回くらいはいいだろう、決してレオの期待の眼差しに負けたわけではない。
宴会後、クランメンツが ログアウトし(おち) たので、知り合いのところにお菓子を配る私。決して寂しくなったわけではない、わけではないのだが冒険者ギルドの受付三人がチョコを用意して待っていてくれたことに喜んだ私です。
最後に雑貨屋の様子を見に来た。今年の雑貨屋の買い物のおまけも金平糖だ、大いなるマンネリどんとこい。下手に変えると悩むことになる。
昨年の雑貨屋は受け取ったチョコを、見える場所に神殿行きと大書きした箱に笑顔で放り込むというドS集団と化したのだが本年はどうか。……すでに箱が設置済みですね。チョコより属性石! って書いたの誰だ?
雑貨屋のラインナップはいつもの薬類と、チョコレート。サクサクのバタークッキーで、溶かしたチョコレートにたっぷりの生クリームを加えたガナッシュを挟んだお菓子。小さな九種類のチョコを正方形の箱に詰め込んだもの。どっしりしたガトーショコラにチョココーティングしてローストしたナッツとドライクランベリーを乗せたケーキ。
甘いものが苦手な層向けに、チョコレート色した黒ビールの小瓶。ハート形の海老煎餅。そして去年のバレンタインイベントで神殿からもらったエフェクト。
今年はバレンタインイベントでもらえるものが違う、昨年のものは手に入らないのでバッチリ値上がりしているのだ! そして雑貨屋には昨年レーノが大量に替えてきたエフェクトが不良在庫としてたっぷりとある。実際には雑貨屋の倉庫ではかさばって邪魔だったので私の『ストレージ』に放り込んであったのだが結果オーライ。本日はエフェクトの売り出しのせいか並ぶ列も長く、ガラハドたちも手伝ってくれているので、売り上げで後でみんなで旅行へゆくか何か買おう。
ところで設置された箱にドSって落書きしに行きたくてしょうがないのだが、レーノのガードが鉄壁すぎて衝立の向うに行くスキが見つからない。
諦めて交代で休憩に入る店員さん&臨時店員さんにホットチョコレートを振る舞う。チョコレートを温めミルクで溶かし、生クリームを浮かべてもいいが、バレンタインということでハート形のマシュマロを浮かせた甘い飲み物。
「ホムラ、今日は異邦人の間でチョコを贈る日でしょう? これ私から」
「ありがとう」
カミラから綺麗に包装されたチョコレートを貰った。称号やスキルの仕業だとはいえ、二人きりで美人からチョコです。
「ふふ。ホムラ……」
「ホムラ〜! 俺も休憩! おやつくれ、おやつ!」
カミラが何か言いかけた時、ガラハドとイーグルが入ってきた。
「ホムラ、いつも食事感謝する」
そう言ってチョコを渡してくるイーグル。
「おっと今日は俺も用意したんだった」
ガラハドも。
というか雑貨屋酒屋在住の全員から次々にチョコを貰った。完全にお菓子交換日と勘違いされている様子、日本型バレンタインデーもかなり特殊なので間違えて伝わっていても文句も言えない。まあ、異邦人は幼女同士で交換してるし誤解は解けそうもない。
いつか膝枕で耳かきをしたりされたりする恋人が欲しい……。いや、まてこの世界に耳かき自体が無かった! 【生活魔法】が便利すぎるのも問題だ。やっぱり便利さでなくロマンも必要だと思う。
もちろん雑貨屋に集まった他のチョコレートや花束は神殿行きになった。