軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

偶然ではなく、故意。

『先日はご親切にありがとうございました。

あなたの願いは叶うでしょう』

花の贈り主はレナルディア卿だ。

このメッセージカードの意味するところは、陛下から返答があった、ということだろう。

私のお願い──

【クラレンスとの離縁を認めてもらう】ことを承諾いただいたのだ。

「この辺りは、恋人がよく逢瀬に使うので私たちは足を運ばないのですよ」

大聖堂で顔見知りの女性からそれとなく聞き込みをする。

怪しまれてはいけない。

何せ、ここはエムケル領だ。

今まで、このエムケル大聖堂はエムケル伯爵から多大な援助を受けてきただろう。この大聖堂は、伯爵に不利になる真似はまずしない。

私は慎重に、気付かれない程度に、会話の糸口を伸ばしてふたりの逢瀬の頻度を突き止めた。

「あの辺りは、時折男女が逢瀬を交わしておりますね」

「人目を忍ぶように逢瀬を重ねる男女なら見たことがありますね。何だか、怪しげな関係だと思っているんです。ああ、ここだけのお話ですよ?」

「週に一回くらい、高貴な男女を見ますよ」

これらは全て別々のひとからの証言だ。

(エムケル領に来てから、大聖堂に通い詰めていた甲斐があったわ……!)

私は達成感を覚えていた。

大聖堂に来る教徒は、基本的に顔見知りなので私が声をかけても怪しまれることはない。

それとなく情報を探るのは神経を使ったけれど、こういったことは社交界で慣れている。

得意分野ではないけれど。

大聖堂に通う信者にさりげなく聞き込みをして得た情報では、エウラインとクラレンスは週に一回逢瀬を交わしているようだった。

(……確かエウラインは、最後に会ったのはいつだったかしら?みたいなことを言ってたわよね!?)

先週会ってるんじゃないの!

つい最近の話じゃない!!

付き合いたての恋人かしら!?

どれだけ愛し合っているのかは分からないけれど、そんなに相思相愛なら……俄然、私のやる気も出るというものだわ。

(待っていて、エウライン、クラレンス。今後は嫌っていうほど、一緒にいさせてあげるから)

前回ふたりが会っていたのは、週の半ば。

大体週半ばにふたりは会っているらしい。

その情報が正しければ、来週も同じ日に約束をしているはず。

約束の日(Xday) の前日。

私は、エムケル大神官様から声をかけられた。

「ミレイユ。あなたにお客様がいらっしゃっています」

お客様──それは、私が来ていただくよう手紙を出した方、だろう。

だけど、まさかエムケル大神官様に案内していただくことになるとは思っていなかったわ。

(……お時間があったのかしら?)

エムケル大神官様は、この大聖堂の責任者だ。

ここを初めて訪ねた時に一度だけ挨拶をしたことがある。

とてもお忙しい方だと思っていたのだけど……珍しいこともあるものだわ。

驚きは、すぐに霧散した。

(ひとまず、間に合って良かった)

日数を考えるに、厳しいかもしれないと思っていたのだ。

私が手紙でご相談という名目で呼び出したのは、私の生家──ミューテンバルト伯爵領の大聖堂の大神官様だ。

私が幼い頃からの知り合いで、よく可愛がっていただいた。

ミューテンバルト大神官様は以前、中央大聖堂の神官長を務めていた。

中央の大聖堂は、聖堂の中枢。本拠地にあたる。

彼はお年で引退召されて、故郷のミューテンバルト大聖堂に戻ってきたのだ。

そういった経緯もあり、彼の影響力は馬鹿にできない。王族に匹敵する発言力を持っている。

私は彼に協力を仰いで、エウラインとクラレンスの逢瀬を暴いてもらうことにしたのだった。

名付けて

【偶然見ちゃったので騒ぎにしてしまおう!】

大作戦である。ネーミングセンスは絶望的だけれど分かりやすさ最優先なので構わない。

けれどこの作戦を決行するにあたり、一点だけ難点があった。

それは、ミューテンバルト領とエムケル領はまあまあ離れている事だ。

前世のような車とかバイクとかもないので、急ぎと言っても、ひたすら馬車をカポカポ走らせる他ないのである。

ミューテンバルト大神官様に急いでもらったとしても、ゆうに数日はかかるだろう。

だから、間に合わなければ決行日は来週にずらすしかない、と思っていたのだけれど。

そのミューテンバルト大神官様が、たった今、このエムケル大聖堂に到着されたのだ。

かなり無理を言ってしまった。

お会いしたらまずは感謝と謝罪の言葉をお伝えしなければならないわ。

そう思いながらエムケル大神官様の後を追う。向かった先は、告解室だ。

エムケル大神官様が扉をノックし、開ける。

ご無沙汰しております──と、挨拶を口にしようとした私の前に現れたのは、ミューテンバルト大神官様では、なかった。

「おお!久しぶりだね。こんにちは、レディ・ミレイユ」

そこには、告解室の木の長椅子にちょこんと座る、金髪碧眼の幼い少年がいた。

「…………えっ?」

大神官様……縮んだ!?

一瞬混乱するも、すぐさまハッと我に返る。

この方はミューテンバルト大神官様ではない。縮んでしまわれたわけでもない。

この方は──

「お……王太子殿下……!?」

どうしてここに!?という言葉は、言わずとも伝わったらしい。

彼はにっこりと微笑んだ。

彼は、ユニークスキルで常に容姿を変えていると言われている──王太子殿下、そのひとだ。

確か、年齢は四十手前だと記憶している。

(なぜ彼がここに!?あっ、そうね!?陛下!陛下ね!?

陛下経由で私とクラレンスの話を聞いたのかしらね!)

エムケル伯爵に嫌疑がかかっているのは、なんと言ってもこの国の三大神器の窃盗・紛失。

私が調査に加わることは既に陛下もご存知。

だからこそ、王太子殿下は足を運んだのだろう。

今後の話をするためか、あるいは私を見定めるためか。

王太子殿下はニコニコと笑って言った。

「この近辺に用があって訪ねたんだ。そうしたら、ぐうぜん、レディ・ミレイユもここで療養していると聞いてね。とても驚いたよ!だから挨拶がてら呼んでもらったんだ。……でしょう?エムケル大神官?」

「ええ。おっしゃる通りです」

王太子殿下の言葉に、エムケル大神官が恭しく答える。

その姿を見て、私はようやく納得がいった。

(……どうりで!!)

ミューテンバルト大神官様相手にしては、妙にエムケル大神官様が緊張されていると思ったのよ……!

相手が王太子殿下だったのなら、納得がいく。

大神官様が告解室を後にすると、王太子殿下が穏やかに尋ねてきた。

「それで……レディ・ミレイユ?こんなことになって大変だったね」

「お気遣いいただき、ありがとうございます」

本来告解室は、罪を告白するための部屋だ。

とうぜん、私たちの話し声は隣室にも聞こえている。

ここでは話せない話がある、ということなのだろう。王太子殿下が含みのある笑みを見せた。

「さて、このエムケル大聖堂の近くには、有名な庭園迷路があるんだって?良かったら案内してくれないかな?」

「……ええ、ぜひ。とっておきの場所がございますのよ」

王太子殿下の訪問理由を察した私は、彼同様、にこりと微笑んで見せた。