軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

88.奴隷抜擢

「そこのお前達」

茫然自失となっている二人を無視して、離れたところで跪いている兵士の一団に呼びかけた。

「は、はっ!」

兵士の隊長だと思われる男が、跪いたまま器用に足を動かして、一歩前に進み出て、俺の呼びかけに応じた。

皇帝だと身分を明かした俺に、兵士達は天上人に向ける畏怖混じりの敬意を向けてきた。

「この二人をとりあえず牢にぶち込め。それと何人かは余と一緒に来い」

「はっ。ど、どこにでありますか?」

「オルコット総督の屋敷だ」

兵士を引き連れて、デュセル総督オルコットの屋敷にやってきた。

夜であるのにもかかわらず、屋敷ははっきりと分かるくらい威容を誇っていた。

それほどの屋敷だ、当然門番はおり、

「止まれ! 何者だ!」

と、当たり前のように誰何してきた。

俺はそれに応じなかった。

既に皇帝だと身分を明かしている、連れてきた兵士が当たり前の行動をした。

有無を言わさず門番の兵士を取り押さえて、完全に無力化した。

「どうぞ」

「うむ」

正門が開かれて、俺は屋敷の中に入った。

表の騒ぎは早速中に伝わった。

屋敷に入った直後のロビーに大量の使用人と、数日前、川の上で見かけた男の姿があった。

あの、黄金をばらまいていた男。

デュセル総督、オルコット当人だ。

「何者だ。ここがどこなのか分かっての狼藉か」

「無礼な! 陛下の御前だぞ!」

「陛下、だと?」

オルコットは胡乱げなものを見る目で俺を見た。

俺の事を知らないんだろう、無理もない。

オルコットは俺が任命した総督ではなく、実際に会ったことはない。

総督であっても、長らく地方に居続けたものなら、 親王(かつての俺) と面識がなくても不思議はない。

だから俺は――。

「これで納得か?」

そう言いながら、身分を明かす為のプレッシャーを放った。

オルコットも、そして周りにいる使用人達も。

全員が一斉に血相を変えて、その場で跪いた。

「陛下直々の降臨とは知らず、失礼を――」

「そんな事はどうでもいい。それよりも――オルコット、自分の罪を分かっているな?」

「――っ!」

オルコットは跪き、頭を下げたまま、びくっと震えた。

が、そんな動揺も一瞬だけの事、オルコットはすぐに動揺で傾きかけた心を立て直した。

「なんのことでございましょう」

「認めないか。今更とぼけても遅いぞ」

「陛下が何を指しているのか分かりかねます。たしかに出迎えをしなかったことは認めますが、陛下が都を発ったという公文書はなく、お忍びである以上罪は無い――」

「あくまで認めないか。総督の俸禄は年いくらだ? 黄金をばら撒けるほど貰えてるのか?」

「はて、なんのことでございましょう」

オルコットは更にすっとぼけた。

最初こそ動揺はあったが、腹を括ったらしくて、かなり落ち着いてきた。

さて、どの証拠から突きつけてやるか――。

「あ、あの!」

「ん?」

いきなり割り込んできた若い声。

そっちに振り向くと、使用人の中から、一人の若い男が俺を見つめていた。

服装を見るに、使用人の中でも下級の使用人で、多分奴隷かなんかなのだろう。

その男は何か言いたいという目をしていたが、

「弁えろ、陛下の御前だぞ」

オルコットは、主人として当たり前の叱責をした。

身分の差というのはそういうものだ。

皇帝と総督が話している時に、使用人や奴隷が口を挟むなど言語道断。

この場で無礼打ちされても文句の言えない所業だ。

だが、

「かまわん。余に話したいことがあるのだろう? 言ってみろ」

俺――皇帝の許しがあればそれは問題にはならない。

「……」

その証拠に、オルコットも眉間をキツく寄せたが、何も言えなかった。

男はそんなオルコットを見て、息を飲んだ。

息を飲んで驚いた後、俺をじっと見て。

「ほ、本当に皇帝陛下なのですか?」

「ん? 今 証明してやった(、、、、、、、) はずだが?」

「そ、そうじゃなくて。皇帝陛下がこんなところにいるのが信じられなくて」

「なるほど?」

「本当に……本物……」

俺と若い奴隷、あまり意味があるとはいえないやりとりをした。

それを見てオルコットが不機嫌になったが――口を挟めない。

皇帝の俺が、話していい、言ってみろ、と許可を与えたのだ。

それは略式ながら、若い奴隷に直訴権を与えたということと同義だ。

皇帝自ら認めた直訴。

それを遮ってしまうのは不敬罪に当る行為。

だからオルコットは何も言えなかった。

一方で、それを理解しているのかいないのか。

若い奴隷はようやく、俺が皇帝であり、ここに出現した事に納得して。

「こ、皇帝陛下に見て欲しいものが」

「なんだ?」

「これです!」

男は衣服の前をはだけさせた。

いきなり何を――と思っていたら、服の裏地に何かが縫い込んでいるのが見えた。

男は縫い込みをビリビリと破った。

服の中から封筒を取り出して、両手で俺に差し出した。

「これは?」

「旦那様――オルコットの賄賂の証拠です」

「なっ!」

絶句するオルコット。

直後、男に飛びかかって差し出したものに手を伸ばして掴み取ろうとしたが、

「ぐわっ!」

レヴィアタンの軽い威嚇で、へたり込んでまったく動けなくなった。

オルコットを止めてから、改めて男に聞いた。

「なんで証拠を持っている」

「お、俺、両親と妹をオルコットのせいで殺されたんです」

「復讐の為に潜入したわけか」

「はい! それで証拠を手に入れたはいいけど、信用できる人が見つからなくて。それに」

「それに」

「下手に出すと揉消されてしまうから、ずっと隠して、使い時を待っていたんです」

「……ほう」

俺は感心した。

「お前、名前は」

「え? フ、フィル・モームっていいます」

「フィルか」

俺は自分でも分かるくらい、称賛の籠もった目でフィルを見つめた。

家族の復讐の為に奴隷に身をやつす事は珍しい話ではない。

潜入して、証拠を掴むことはそこまで難しいことでもない。

一番難しいのは、手に入れた切り札を、ずっと持ったまま、かつ効果的だと思った時に切れることだ。

さっきの無駄話、俺を皇帝なのかと念入りに確認した意味が分かった。

帝国皇帝、最高権力者だと念押ししてから、切り札を切ったのだ。

フィル・モーム。

この男は――。

「それを見せろ」

「ど、どうぞ」

俺は証拠の書類を受け取って、パラパラと眺めた。

「フィル・モーム」

「は、はい!」

「よくやった。今からお前が総督を引き継げ」

「「「……………………」」」

おれが言った瞬間、その場にいる全員が固まった。

当然だろうな。

だが。

「どうした、嫌なのか?」

「い、いえ。えっと……ありがとうございます!」

フィルは慌てて頭を下げた。

慌てすぎたからか、あるいは知識が無いからか。

フィルは作法もへったくれもない返事をした。

それだけではない。

――――――――――――

名前:ノア・アララート

帝国皇帝

性別:男

レベル:17+1/∞

HP C+B 火 E+S+S

MP D+C 水 C+SS

力 C+S 風 E+C

体力 D+C 地 E+C

知性 D+B 光 E+B

精神 E+C 闇 E+B

速さ E+C

器用 E+C

運 D+C

―――――――――――

視界の隅っこに見えているHPの能力、その「+」があがった。

フィルは、まだまだ磨かれてない、才能の原石なんだと、俺は思った。

次の日の午後、「元」オルコットの屋敷。

オルコットが罷免され、この屋敷はひとまず俺の 行宮(かりみや) として使うことにした。

そこの書斎で、俺は呼び戻したゾーイと向き合っていた。

「凄いです陛下」

昨夜の事を知ったゾーイは、めちゃくちゃ目を輝かせた。

「人材だと分かるやいなやの抜擢。さすが陛下です」

「あの勝負勘? は天性のもの、得がたいものだ。上手く育てたいものだ」

「陛下ならきっと大丈夫です!」

「それより、連中の財産没収はどうなってる」

「あっ、はい」

ゾーイは慌てて、手元の書類に視線を落とした。

オルコットを始めとする、今回の塩税に関わって投獄する連中の財産は没収する事にした。

それを早速やらせて、ゾーイに仕切らせてる。

「アシュリー――えっと、小生意気な方の男の家なんですが、ちょっとしたトラブルがあって」

「なんだ?」

「実は庭から人骨が発掘されまして、殺人の容疑もあるかも知れないと」

「……ふっ」

俺は笑った。

「ふっ……って、陛下?」

「よくある話だな」

「え?」

「財産没収するとき、兵士が行って監視したり、集計したりするだろう?」

「は、はい」

「それでな、大抵の場合、こそっと対象者の資産をポケットに入れて持ち帰るんだ。まあ、ちょっとした不正だ。そしてそれは結構邪魔される」

「邪魔、ですか?」

「ああ、対象の妻や妾などにだ。ああいう手合いは、例えこういう時でも、感情剥き出しのままで泣きわめくからな。こんなのおかしい、なんで私達だけ。ってな」

「あ……」

「で、それが暴走して、兵士達の『小遣い稼ぎ』を邪魔すると、嫌がらせをされる。今回だと、人骨埋めて殺人容疑の冤罪をふっかけられたってわけだ」

「なるほど、さすがです陛下」

「ん?」

「さすが」が早くないか? って不思議になってゾーイを見た。

「もう冤罪だって分かってます。出てきた人骨が、肋骨とか骨盤で見ると男と女の混合みたいで、掘り出した場所も、水を染みこませてみたら最近掘り返した場所だってわかりました」

「なるほど」

現場では早速バレてるってわけだ。

「やっぱり陛下は凄い。報告する前にすぐに分かってしまうなんて」

俺は再び、ふっ、と笑った。

かつて法務親王大臣をやっていた俺だ。

罪人の財産没収を多く実行してきたから、その手口はよく分かる。

それだけの話だ。

「さて……概算でいい、どれくらいになるんだ」

「えっと……あっ」

ゾーイは書類を見て、息を飲んだ。

「どうした」

「その……2000万リィーンは下らないだろう、って」

「かなり溜め込んだな」

ある意味尊敬するよ、と思いつつ。

「2000万か……」

今の国庫は500万もない。

それが一気に2000万増だ。

そのうえ更に、塩税の正常化も望める。

これだけの金があれば、結構な事ができるぞ、と俺は思ったのだった。