軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68.新米皇帝

王宮、謁見の広間。

玉座に座っている俺の前に、二人の皇子がいた。

第四親王、ヘンリー・アララート。

第八親王、オスカー・アララート。

二人は謁見の間に入ってきて、所定の位置につくなり、流れるような動きで俺に片膝をついた。

「臣、オスカー」

「そしてヘンリー。召喚に応じ参上いたしました」

「二人とも、顔を上げてくれ」

「はい」

「仰せのままに」

二人は頷き、言われた通り立ち上がった。

「 ヘンリー(、、、、) 、それに オスカー(、、、、) 」

俺が二人の名前を呼ぶと、ヘンリーは平然と、オスカーはほんの一瞬だけ眉間に皺を作ってから。

「「はっ」」

と、声を揃えて応じた。

「今日二人に来てもらったのは他でもない。二人に今のうちに渡したい物があってね」

「今のうち、ですか?」

ヘンリーが微かに首をかしげて聞き返した。

「ああ、今のうちだ。 余(、) の治世はこれから、様々な施策を行っていく。その前に、まだ何もしていない今のうちだ」

前提をまず二人に話した。

ヘンリーもオスカーも、いまいち要領を得ないっていう顔をしていた。

「レイドーク卿」

「はい」

水を向けると、そばで控えていたジャン=ブラッド・レイドーク――第一宰相に昇格したばかりの男が手招きして、若い宦官が現われた。

宦官の手にはそれぞれトレイのような物を持っていて、何か長い物がそのトレイの上に置かれているが、更に赤い布をその上に被せているから、何があるのか分からない。

二人の宦官はそれを持って、それぞれヘンリーとオスカーの前に立った。

そして、俺がジャンに頷き、ジャンが宦官に目配せする。

赤い布が取り払われた。

二本の、ガラスで作られた長剣が姿を見せた。

「こ、これは!」

「クリスタルソード……」

ヘンリーとオスカー、二人は顔が真っ赤になるくらい驚いた。

「そう、クリスタルソード。別命『免死の剣』だ」

皇帝は、その気になれば帝国法を完全に無視できる。

それは皇帝が帝国最高の権力者であり、つまるところ帝国とは皇帝の私有物という思想から来ている。

その皇帝の特権の一部を臣下に下賜するのが、このクリスタルソードだ。

「知っての通り、これを持っている人間は、謀反以外なら、どんな罪でも一回までは無効化――つまり免除出来る。死罪でさえもだ」

「これを私達に……?」

驚くオスカー、眉間に皺を作って、信じられないって顔で俺をみる。

それもまあそのはず。

死罪さえも免除出来るこれは、臣下に下賜する物としては最大級となるものだ。

「ああ、二人に」

「身に余る光栄ですが――なぜ私達に?」

ヘンリーが真顔で聞き返してきた。

「上皇陛下の二十人近い息子の中で、ヘンリー、そしてオスカー。二人がもっとも有能だ。余の治世では、二人の力を大いに借りたいと思っている」

「それは臣下としての本分――」

「政務によっては、ぶつかることもある」

ヘンリーの言葉を遮った。

「この『免死の剣』は、ぶつかることを、不敬を恐れずにやって欲しい、という意思表明だ」

「「……」」

「引き受けてくれるか」

二人は視線を交わしてから、改めてひざまづいて。

「「一命にかえましても」」

と受け入れてくれた。

その後、二人はクリスタルソードを受け取って、謁見の間から退出した。

「さすがでございます、陛下」

残ったジャンが、感動した目で言ってきた。

「オスカー様が感動した眼差しをしておられた。ヘンリー様も平然としておられたが、クリスタルソードを受け取った手が若干震えておりました」

「良く見ているな」

「初手から最大級の恩賞。これで両殿下も陛下の為に身を粉にして働きますな」

「そうでなくてはな」

ヘンリー、そしてオスカー。

将来、もし帝位に何かをしてくるとするならこの二人だ。

そうなる前に、二人には臣下でいることを、心の底から納得してもらわないとな。

夜、離宮の書斎。

王宮のそばの、元十三親王邸。

陛下が上皇になられて、新しい宮殿の建築が終わるまで。

王宮は上皇陛下に、俺は十三親王邸を改めた離宮で寝食をする事になった。

その書斎の中で、政務に関する書類に目を通していると。

「陛下」

声とともに、宦官のグランが入ってきた。

「どうした――その服にあっているじゃないか」

「え? あっ、ありがとうございます」

グランは照れくさそうに笑った。

俺が皇帝になったのとほぼ同時に行った二つの人事。

一つはジャンを第一宰相に、もう一つはグランを宦官頭にすることだ。

父上(、、) にクルーズがいたように、俺にも腹心が必要だ。

グランは物覚えが良く、こっちの立場に立って物事を考える事も出来るから、まずは取り立ててみた。

そのグランが、宦官頭を意味する服に着替えていた。

「まさかこんなすごい地位になれるとは思ってもいなかったです」

「ちゃんと 余(、) に仕えていれば、更に出世もさせてやる」

「はい!」

「で、なんなんだ?」

「あっ、そうでした。これです」

グランはそう言って、書斎に入ってきた時からずっと大事そうに持っていたトレイを俺の目の前に差し出してきた。

トレイの上には精巧な人形が二つあって、うつ伏せに置かれている。

その背中には、それぞれオードリーとアーニャの名前が書かれている。

皇后オードリー、そして庶妃アーニャ。

「本日の夜伽の方を選んでください」

「ん」

皇帝になっていくつか起きた変化の一つが、これだ。

毎晩、宦官が「今晩の相手」を聞きに来るのだ。

こうして、「今日相手できる」妃たちの人形を差し出して、皇帝が気に入った相手のをひっくり返して仰向けにする。

すると、宦官たちが素っ裸にしたその相手を簀巻き(ものすごい高価な布で)にして、皇帝の部屋に届けてくる。

皇帝の一番重要な仕事は世継ぎを作ることだ、といわんばかりにシステム化されている。

ちなみに毎晩選んだ相手はしっかりと内務省によって記録される。

調べて驚いたのだが、父上はあの歳で未だに「毎晩」なのだ。

そりゃあ兄弟だけでも二十人近く、姉妹も入れて百人近くにもなる。

ちなみに、男が少ないのは常識だ。

帝位相続権をもつ男子は、「なぜか」夭折が多いからだ。

まあそれはともかく。

俺は人形をちらっと見てから。

「今日はいい。二人にはもう休んでもらえ」

「いいんですか!?」

驚くグラン。

「なんだ、どっちかから褒美でももらって、薦めるように頼まれたか」

「そんなことはしません!」

グランは慌てながらもきっぱりと否定した。

まあ、そういうこともあるってだけだ。

宦官が妃から金をもらって、人形を目のつきやすいポジションに置いたり、そもそもライバルの人形を外したりするという事もよく行われている。

女には月の物がある、当然毎日がいいという訳にはいかないから、そういう小細工がしやすいのだ。

「ふっ、冗談だ」

「そうじゃなくて、 しない(、、、) でいいんですか?」

「ああ、今はこっちの方が重要だ」

俺は手元にある、グランが入ってくる前からみていた書類をさした。

「それは……?」

「騎士選抜だ。新しい皇帝が即位する時は大々的にやるのが伝統だからな」

戦士の国だった時からの伝統だ。

戦士の国の皇帝は良く親征する、そして時には戦場で死ぬこともある。

皇帝が死ぬような事態は、その部下も大勢死んでいるという事でもある。

そのため、新しい皇帝の為に新しい騎士を大量に選ばなくてはいけない――という時代から残された伝統だ。

それとは関係なく。

人は宝、そして可能性だ。

最大規模の騎士選抜を、適当に済ますわけにはいかない。

「 夜(、) よりも仕事優先なんて……さすが陛下」

「そういうわけだ、今夜はいい。それよりも濃いめの茶を淹れてきてくれ」

「分かりました!」

ちなみに、望めば簀巻きにした妃をここに呼んで、「終わった後」に返してそのまま政務を再開することも出来る。

父上は、それをよくやっていたらしい。

数日後、王宮の中の大広間。

謁見の間とほとんど同じ作りで、真ん中の玉座だけ、通常の二階建てくらいの高さにある広間。

純粋に執務じゃなくて、権威を強調したい時に使う広間だ。

俺はゆっくりと玉座の階段を上っていき、一番上に辿りつき、振り向く。

同時に、ヘンリー、そしてオスカーを含む1000人を超す人間が一斉に跪いた。

一番前の二人から、まるで水面に広がった波紋の如く、綺麗に跪くのが広まっていく。

1000人以上が揃って、一人に跪く。

胸にえも言われぬ高揚感が沸き上がる。

これが、貴族――いや。

皇帝にだけ許された楽しみだ。