軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62.族長の娘

レイド通りの、キースの店。

店の中で、アリーチェがいつもの如くハープを奏でながら歌っている。

それを一番良い席で、陛下が聞きいっている。

時には真っ直ぐ見つめて、時には目を閉じて体を揺らしながらリズムを合わせて。

陛下は、アリーチェの歌を堪能していた。

その陛下の背後で、俺とクルーズが控えるように立っていた。

俺は、アポピスを使いこなした。

店でしか歌わない、誰かの屋敷に行っての独演会はしないというアリーチェのこだわりに合わせて、陛下はお忍びでキースにやってきた。

当然、周りにかなりの客がいる。

よほどのことでもない限り、俺が一緒に居るんだから、陛下に危害を加えられるものはいない。

だが、空気を読まない連中が陛下の楽しんでいる気分を害する可能性が大いにある。

そうならないように、アポピスで対策した。

薬と毒は紙一重だ。

人間に効く薬は、大抵は毒性を弱めた毒でしかない。

俺はアポピスを使って、店の中の客を全員眠らせた。

いびきをかかれても困るから、そうならないようにある程度マヒさせて、体の自由も奪った。

ここに来ているのは全員ただの客。誰一人としてアポピスの毒に対抗出来ず――するそぶりもなく俺に眠らされた。

結果、陛下の鑑賞会は物静かな中、無事に執り行われていく。

それでも俺は念のためにと、周りを見回して警戒した。

ふと、同じように控えているクルーズと目があった。

――さすがでございます。

彼は唇だけを動かして、声を出さずに 言ってきた(、、、、、) 。

簡単な言葉だったから、唇の形で分かった。

気付かれたか。

宦官という人種は、貴顕に仕えるのが仕事だ。

ただの使用人とは違って、宦官は去勢したから、もはや宦官しか出来ず、その結果仕える能力――貴顕を気持ち良く過ごさせるスキルに特化していく。

クルーズはその中でも更に突出して、「皇帝」に仕え続けた宦官。

ただの貴族よりも遥かに権力を持つ皇帝、それに仕えるクルーズはよりそのスキルに長けている。

そのクルーズが「さすが」と言ってるのなら、陛下に楽しんでもらうためのこの行為は正しいというわけだ。

俺はそのまま、アポピスを使役し続けて、陛下の鑑賞環境を維持し続けた。

幕間になって、アリーチェが一旦舞台裏に引っ込んだ。

直前に客全員の眠りとマヒを解いたので、店の中は拍手に包まれた。

ほとんどの客は狐につままれた顔をしていたが、それでも周りに流されて拍手をした。

「そうだ、ノアよ」

「なんでしょうか」

「南方の、サエイ族との戦いが一段落したと聞く」

「サエイ族、ですか」

なんで今そんな話を、とちょっとだけ思った。

帝国は戦士の国、国境のどこかで、常に戦争や反乱の鎮圧が行われている。

南方では最近、サエイ族という、森に住み帝国に恭順しない一族との戦いが行われていた。

「論功行賞をしているのだが、ジェリー・アイゼンという男が特に働いたと報告があった」

「ジェリー……へえ」

あの盗賊団の男か。

俺が捕まえて、従軍刑という形で軍に送ったんだが、意外と早く頭角を現わしてきたな。

「局地戦で負けた後、そのジェリーなる男が残存兵をまとめ上げて、敵を押し返したという。まさに獅子奮迅の活躍だったらしいぞ」

「そうでしたか」

「その者が言うには、ノア、お前の恩義に報いたいそうだ」

「俺の恩義、ですか?」

「新しい、希望の見える第二の人生をくれた。いわば父のような存在だ」

「父」

俺は半分棒読みで呟いた。

ジェリーという男に含みはないが、あんな男に父親呼ばわりされるのは妙な気分だ。

そもそも、年齢でいえば向こうは俺の倍はあるだろうに。

「さすがだ、ノア」

陛下は上機嫌な顔で言った。

「盗賊だった男が使える兵になった。しかも兵をまとめ上げ、手足の如く動かしたとなれば将才もあろう」

そりゃそうだ。

もともとが盗賊団のリーダーだった男だ、兵をまとめる力はもともとあると分かっていた。

「その男を見い出し、しかるべき場所に送り込んだ。相変わらずすごいな、ノアは」

「人は宝、そして可能性です。陛下」

「うむ、まさしく可能性が実をつけた瞬間だな」

陛下は嬉しそうに笑った。

「これからも励めよ」

「はい」

演奏が終わった後、もう少し街を見て回りたい、と陛下が言い出したから、俺は護衛も兼ねて同行した。

レイド通りを出て、ホース通りにやってくる。

帝都で一番賑やかなホース通り。

巨大な広場があることもあって、出征の儀典とか、大祭りとか。

大きなイベントがここで行われることが多く、普段からもかなり賑わっている所だ。

「むぅ? あれはなんだ? 何かの売り物か?」

陛下は広場の真ん中にある露店に興味を示した。

ぱっと見露店という形だが、商品が普通ではない。

口を紐で結んだだけの、巨大な麻袋がいくつも並んでいるだけの、シンプルな露店だ。

「あれは奴隷商でございます」

「奴隷?」

「はい、ちゃんとした、認可を受けている奴隷商でしょう」

俺はそう言いながら、露店の商人に近づいた。

陛下とクルーズがついてきているのを横目で確認してから、商人に聞いた。

「これはどこからの奴隷なんだ?」

「入荷したての、サエイ族の奴隷でございます。はい」

「サエイ族との戦いに勝ったんだ」

俺はすっとぼけて、しかしこういう時にする当たり前の話をした。

帝国は常にどこかで戦っている、刑罰の中に従軍刑なんてものがあるのもその為だ。

そして、帝国は常に勝ってきた。その都度大量の捕虜を獲得してきた。

捕虜の大半は、認可された奴隷商に流れる。

どうでもいい身分の奴隷は、こうして麻袋に詰められて、文字通り一山幾らかっていう売られ方をする。

「なるほど、奴隷の売り買いはこうやってされるのか」

背後から、陛下が面白そうだ、って感じで呟いた。

俺は振り向き、陛下に軽く頭を下げて。

「はい、旦那様。何人か買って行かれますか?」

「これでいくらだ?」

「 一袋(・・) 10リィーンでございます」

商人は営業用のスマイルを浮かべながら答えた。

「それは安いのか? 高いのか?」

陛下が更に聞くと、今度は俺が答えた。

「10リィーンですと、袋に絶対服従の魔法が掛かっているタイプでしょう」

「魔法?」

「はい、袋を開けて、最初に見た人間を主として、いかなる命令も絶対に遵守する魔法です」

「まるで雛鳥のような話だな」

「この袋はそういう意味合いもあります」

「なるほど」

陛下は興味津々に麻袋を眺めた。

もしかしたら買っていくかもしれない。

絶対服従の魔法が掛かっているので大丈夫だが、俺は念のため、袋の上から触って、何か武器とか隠してないかとチェックをした。

「むっ?」

「どうした、ノア」

「いかがなさいましたかお客様」

「この袋……」

袋にふれたままじっと見つめる。

やっぱり、間違いない。

俺は懐から10リィーンを取り出して、商人に放り投げた。

「これをもらうぞ」

「はい、毎度あり」

「どういう事だノア」

「しばしお待ちください」

俺は袋を縛っている紐を解いた、中から一人の女が姿を見せた。

ぼさぼさの頭に、ぼろ布のような奴隷服。

ありがちな格好だが、俺が見てるのはそこじゃない。

視界にある、俺のステータスだ。

――――――――――――

名前:ノア・アララート

法務親王大臣

性別:男

レベル:15/∞

HP C+D 火 E+A

MP E+D 水 C+S

力 C+A 風 E+F

体力 D+E 地 E+D

知性 E+D 光 E+C

精神 E+D 闇 E+C

速さ E+E

器用 E+D

運 E+D

―――――――――――

袋に入った少女に触れた瞬間、俺のMPの「+」が一段階あがった。

ただの奴隷ではこうはならない。

間違いなく「何者か」だ。

それを確認するために、俺は商人に金を払って彼女を買って、袋を開けて絶対服従の魔法を活性化させた。

そして、聞く。

「お前の名前は? 何者だ?」

少女は眉をひそめて、口を貝のように閉ざそうとしたが、そこは絶対服従の魔法。

「ロウ・ペイユ。サエイ族族長の娘だ――えっ」

自分の意志に反して答えたことに彼女自身驚いたが、俺たちも驚いた。

「族長の娘……紛れ込んでいたのか」

「なんと! それを見抜いたのかノア」

「さすがでございます」

陛下も、クルーズも驚いていた。