軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34.後継者の条件

数日後、昼間の王宮の書斎。

書斎の主たる陛下がいて、陛下がいつも座っている机の向かいに俺と皇太子であるアルバートが並んで立っている。

三人ともものすごく真顔だ。

そんないつになく重苦しい空気の中、俺が一歩進み出て、咳払いで沈黙をやぶってから報告を始める。

「兄上――いえ、ギルバートの屋敷の捜査が終わりました。ポイニクスの酒と竜の爪を一緒に摂取したらどうなるか、という資料を地下の隠し部屋から発見致しました」

「陛下を謀殺しようとした確固たる証拠だな。隠し部屋に隠してあったのが何よりの証拠。犬にも劣る畜生めが」

アルバートは憎々しげに吐き捨てた。

一方で、陛下はこの件のせいで、まるで十歳ふけてしまったかのような、気落ちした顔で、ため息まじりに言った。

「ギルバートは?」

「ギルバートはそのまま投獄。自害を防ぐため魔法であらゆる行動を制限し、通常の三倍の看守をつけました」

俺が報告したのは、通常では考えられないほどの厳重体制だった。

皇帝の毒殺を企んだ前代未聞の大罪、陛下の決定がある前に何かあってはならない。

ここで罪をおそれてギルバートが牢の中で自殺でもすれば、看守のクビが冗談抜きで全員吹っ飛ぶことになる。

俺は、最厳重体制で――むしろ世界からギルバートを守るくらいの厳重体制を敷いて彼を守った。

「そうか……。して、処分は?」

陛下は重い口を開いて、俺を見つめる。

法務親王大臣である俺の意見を求めてきた。

「確固たる証拠があり、陛下の謀殺というまごうことなき謀反ですので、帝国法に照らし合わせて斬胴刑以外あり得ません」

「うむ……」

陛下は苦虫をかみつぶした顔をした。

それを見て、俺は一呼吸間をあけた後、更に続ける。

「ただ、今回の場合、未遂ともとれます」

陛下の眉がひくっと動いた。

「未遂だとどうなる」

「もちろん謀反には違いありませんので、斬胴刑は免れません。しかし減一等の執行猶予をつけられます。そして謀反の場合、執行猶予の実行タイミングは陛下が望む時に執行を命じる事ができます」

「そうか……」

「なんでそんなややっこしいことをするんだ?」

アルバートは俺の意見を聞いた後、不思議そうに首をかしげてきた。

「いや、さすがノアだ。法と、人情の両面から考えてくれている」

「……」

俺は無言で一礼した。

ことがことだ、あまり「うん」って言い切るのもどうかと思う。

「よく考えてくれたな、ノア」

「……?」

一方で、アルバートはやっぱり理解していないようだ。

謀殺されかけたとは言え、ギルバートは陛下の息子だ。

殺され掛かっても息子を処罰することなんてできない、という可能性も考えた。

だから俺は、法の中で、皇帝の一存で執行のタイミングを決められる執行猶予――つまりその気になれば事実上終身刑にする事ができるこのアイデアをだした。

それを陛下は理解し、ほめてくれた。

が。

「陛下、迷うことはありません。誰であろうと、陛下を毒殺しようと考えた 輩(、) は極刑に処すべきです」

アルバートは即執行を訴えた。

これはこれで正しい、が。

一瞬だけ、陛下が不快そうに眉をひそめたのが見えた。

それはしかし一瞬だけで、陛下はすぐに普通の真顔に戻って、数十秒考えた。

「……アルバート」

「はい」

「執行はお前に任せる。いってこい」

「御意」

アルバートは片膝ついて、書斎から退出した。

俺は密かに心の中でため息をついた。

「ノアよ」

「はい」

「よくやってくれた。そういう心遣いができるお前はすごいな」

「……」

「その心遣いだけで救われた気分だ」

「……」

俺は無言で、かすかに頭を下げたままただ聞いているだけでいた。

最初から重かった空気がますます重くなった――のをきらってか、陛下は咳払いして話題を変えた。

「死んだギルバートの封地は召し上げる。本当はそれをそのままお前にあてがおうと思ったが――」

「いけません」

俺はパッと顔を上げて、陛下の言葉を遮った。

「むっ?」

「今回のことは俺の密告から始まった事。いかにギルバートの自業自得とは言え、それでギルバートの封地を頂戴してしまっては、のちのち親王達の争い――いえ、足の引っ張り合いに繋がる恐れがあります」

俺が言った後、陛下は今日初めて、嬉しそうに笑顔を見せた。

「早まるな、余は『本当は』といったぞ」

「あっ……」

「そしてよくいってくれた。さすがだ。そう、その恐れがある。争いまでならいい、しかし足の引っ張り合いは容認できん。だからこの件でノアには何も褒美はやらない」

「ありがたき幸せ」

俺はその場で片膝をついて礼をいった。

「代わりに当然のことをする。ノア、お前もそろそろ封地いりが見えてきた。正室を迎えることを考える時期だな」

「はい」

顔を上げて、頷く。

今の俺は十二歳だが、それで結婚はけっして早いとは言えない。

皇族の初婚、つまり正室は100%政略がらみで、最低でも家柄が釣り合う相手でなきゃならない。

そういうのもかんがえたら、十二歳では遅いくらいだ。

「余の叔父上――雷親王の孫娘はどうだ?」

「異論はありません」

俺は当たり前の返事をした。

「そうか。実は事前に相性の占いをさせてみたが、ノアとその娘なら五割以上で結構賢い子供が生まれると出た。1%くらいの確率でお前以上の才覚で産まれるとでたぞ」

占いというのは、未来であればあるほど見えづらく、つまりは外れるものだ。

十二歳で結婚するのは早くないが、だからといってすぐに子供を産むと言うわけでは無い。

俺の子供は、順当にいって最低でも後五年くらいは待たないといけない。

五年後のことをそこまで見通せる占いなど存在しない、高確率で外れるだろう。

それでも。

「そんな方をいただけるなんて、この上ない幸せです」

「そうか、ならその娘との縁談を進める」

「ありがたき幸せ」

最後に一礼をして、陛下からは何もないと確認してから、ゆっくりと書斎をでた。

ノアが退出した後、代わりに第一宰相が書斎に入ってきた。

「いやあ、さすがノア様ですな。相手がどんな娘なのかどころか、名前すら聞かなかった」

「それが皇族、親王というものだ」

「とはいえ、それを貫けるお方があまりいないのも事実。男子たるもの、妻となる人間に多少なりとも興味が湧くものです。ノア様はそのお歳でそこまでできる、さすがという他ありますまい」

第一宰相が感心して、皇帝も満足げに頷いた。

あそこでノアが相手のことを聞くのは限り無く不敬罪に当る。

主君が部下の婚姻を斡旋することはままある、それが皇帝と親王に規模を拡大しても同じだ。

そして、皇帝の下賜品を必ずもらわなくてはいけない。

相手の名前や人となりを聞くというのは、相手次第では断る、という意味を孕んでしまう。

それは貴族――皇帝と親王の間ではあり得ない事だ。

「しかし、さすがのノア様でも、 これ(、、) には気づきませんでしたな」

第一宰相は刻みの深い皺を更に寄せて、楽しげに笑った。

「そなたのその話、聞いた時は鼻白んだが……」

「悪い提案ではございますまい」

長年臣従しているからこそ、第一宰相は割と皇帝にはフランクな態度で接した――あくまで他に比べてだが。

それを皇帝も悪い気はしていないようで。

「ああ。盲点だが、確かにいい案だ。孫、か」

「孫で後継者を選べ。良き孫は三代渡っての繁栄を確約する」

第一宰相は、しばらく前に皇帝に上奏した言葉をもう一度繰り返した。

「実際の所どうなんだ? 余を超える可能性のある孫は」

「今のところ、可能性はノア様のみでございますな。ノア様の才覚が上手く御子に伝われば」

「そうか……期待、するしかないか」

皇帝と第一宰相は、ノアが出ていった後の扉を、真剣な顔で見つめ続けたのだった。