軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

215.非常食

ゾーイを連れて、再び歩き出した。

いきなりのアクシデントがあったが、視察としてはまだほとんどみていない。

もう少しみた回ろうと歩き出して、ゾーイは後ろについてきた。

少し歩いた先で、もめ事が見えた。

炊煙の一つで、鍋に炊き上がった白米の周りに、中年男と幼い少女がいた。

中年男は40かそこらで、少女は10になったかどうかというところだろう。

少女は縁が欠けた茶碗をもったまま、男になにかを訴えていた。

「あ、あの……これは少なくない……ですか?」

「ああん? 言いがかりをつけるってのか?」

「そ、そうじゃないですけど……もういいです……」

恫喝された少女、何かを訴えていたのだが、何かできる事もなく、すごすごと引き下がる事しか出来なかった。

少女は茶碗一杯分の、湯気立ちこめるご飯をもったまま、とぼとぼと歩き出す。

俺は早足になって、少女においつく。

ゾーイもついてきた。

「そこの娘」

「え?」

「すこしいいか?」

呼び止め、立ち止まった少女。

彼女は俺達をみて、すこしおびえた。

俺達の格好をみて怯えだした。

平民が何もしなくても、官職の人間に怯えるというのが一定数いる。

官職に権威つけしていった結果、気弱な人間であればその存在だけで怯えてしまうことがある。

この少女も特になにか悪い事をしたという事ではなく、身なりのいい官職の人間――俺をみただけで怯えたという感じだった。

「怯えるな、すこし話がききたい」

「は、はい。なんですか?」

「さっきもめていたようにみえたが、なにかあったのか?」

「あっ……えっと……」

少女は目を伏せた。

しばしまよったが、おずおずと語り出した。

「米を……代わりに炊いてもらったんです」

「代わりに?」

「はい。その、お父さんとお母さんがもういないから、ご飯の炊き方、わからなくて」

「なるほど」

後ろからゾーイの気配が変わったのを感じた。

苛立っているというか、ハラを立てているというか。そういう気配だ。

これもまた、生米を配布したからの弊害だ。

米を炊くのにも技術はいる、そして道具もいる。

道具がなければなおさら工夫がいる。

地震で親もそしておそらくは家もなくした子の少女は、さっきの子供達とちがって生米をそのまま食べないという知識はあったようだが、自分で米を炊くための知識はなかったようだ。

自分では炊けないから、それで炊ける人間に頼み込んで炊いてもらったということなのだろう。

「炊き上がったはいいが量をごまかされたということか?」

「たぶん……わからないですけど、でも、他の人は炊いたらもっと量がありましたから……」

少女はそういって、切なげに自分が持っている白米に視線を落とした。

「さっきの者に――」

「いい」

ゾーイが身を翻したが、俺はそれを呼び止めた。

ゾーイは立ち止まったまま、俺に視線を向けてくる。

「それよりも米をもらってこい、鍋もだ」

「はい」

ゾーイは何も聞かずにかけだした。

俺は周りを見回した。

少し離れたところに林があった。

「家族はいるか?」

「ううん、私だけです」

「そうか。ついてこい」

俺はそういい、少女を連れて歩き出した。

少女はご飯をもったままついてきた。

炊き出し場から離れて、林にやってきた。

林の一部に竹が生えていた。

俺はリヴァイアサンを召喚し、何本か根元から切りおとした。

「枯れている竹を集めてこい」

「は、はい!」

少女は慌てて俺の言う通りにした。

ご飯をもったまま言われた通り、片手で器用に枯れて茶色になっている竹をあつめた。

俺はその間、切りおとした青竹を加工した。

節を一つつかって、筒状にして、開閉できる蓋をきりとるように加工した。

それが出来た頃には、少女は枯れた竹を集めてきた。

「これでいいですか?」

「ああ、しっかり割れてて水分もとんでる、これなら薪になるだろう」

集めてきた竹を確認してから、その竹で火をおこした。

よく、竹を火にくべれば爆ぜると思うものがいるが、それは正しいが全てではない。

あくまで青竹の状態ならそうだということだ。

枯れて水分が抜けて、なおかつ割れている竹であれば火をつけても爆ぜることはない。

俺はその枯れた竹で火をおこし、炎に育てて行く。

脳裏でバハムートが自分の出番だと主張していたが、それをなだめて自然任せて炎を育て阿。

そうしていると、ゾーイが戻ってきた。

兵士を二人引き連れて、複数のなべとそこそこの量の米、そして水を持って戻ってきた。

「御主人様、これでよろしいでしょうか」

「ああ――今から米の炊き方を教えてやる。みて覚えろ」

「え? は、はい!」

それまで困惑していた少女だったが、米の炊き方を教える、と聞いて目を輝かせた。

一瞬だけさらに驚いた後、俺が命じた事の意味も理解して、目を輝かせ出した。

ゾーイには米をとぎ、普通の鍋でやってもらった。

俺は同じように研いだ米を竹筒の中にいれて、竹の蓋をした。

そして鍋と竹筒、両方を一緒に火にくべた。

その間も。

「水は大体今くらいだ。多い分にはさほどの問題ないはないが、少ないと焦げる。気をつけろ」

「はい!」

細かい説明をていると、なべと竹筒、両方から白い湯が吹きこぼれた。

それで更にしばらく火にかけてから、どかす。

そのまま少し蒸らしてから、鍋と竹筒、両方の蓋をかける。

湯気が立ちこめて、炊きたての白米が姿をみせた。

「わあぁ……」

「大雑把にこんな感じだ。わかったか?」

「は、はい」

「鍋があれば一番だが、見てのように竹でもやれる。鍋ではないが鎧とか兜で工夫するものもいる」

「…………あの」

「なんだ? なにか分からない事があるのか?」

「やかん……でも、大丈夫ですか?」

おそるおそる、って感じで俺に聞いてくる少女。

俺はすこし感心した。

「ああ、上手くやれば出来る。もっといえば焼き物の水がめでも出来ない事は無い。ようは燃え尽きない、かつ水漏れしない器があればどうにかなる」

「はい!」

炊き方を覚えた少女は笑顔で頷いた。

その少女に炊きたての白米をふるまってやった。

少女は自分がもっていた、中年男に炊いてもらったご飯と食べ比べた。

少女は美味しいといい、特に竹筒で炊いたご飯の方により興味をもった。

竹筒でも炊けるのか、という驚きと嬉しさがありありと見て取れた。

兵士に命じて、火の後始末と少女の多少の面倒をみるようにして、つれていったもらた。

少女は去り際、何度も何度も俺に振り向いて、頭を下げてから去っていった。

「御主人様、今のは……?」

少女を見送り、再び二人っきりに戻ったところで、ゾーイが聞いてきた。

「米の炊き方を教えてやった」

「それはわりますが……なぜ?」

「魚をやるのはわけないが、長い目で見れば釣り方をおしえてやらんとな」

「あっ……」

ゾーイはなるほど、って顔をした。

「そして……」

俺は考えた。

火を消し、手を後ろに組んで、歩き出しながら考える。

「さっきの少年たちも、あの少女も。つまるところ親からの知識や技術の伝承なく放り出されたから、ということだな」

「はい……災害時によくある事です。子供だけでもその生命力の強さでなんだかんだよ生き延びていけますが、直後はいつもあのような感じです」

「うむ」

俺は頷いた。

おそらく少年たちは多少腹を下すが死にはしないだろう。

少女もこの後大人を恨んだり人間不信になったりするかもしれないが、死にはしないだろう。

それは子供の生命力の強さから来るものだ。

「……」

「ご主人様?」

どうしたんだ? という顔で俺をのぞきこむぞーい。

「ドッソの水害の事を思い出していた」

「ドッソ、ですか? えっと、私がご主人様に仕えて間もない頃の?」

「そうだ」

頷く俺。

おそらくゾーイが俺への忠誠心を決定的なものにした、ドッソの水害。

デュランに土地の保全を命じた事もあり、その時の事は様々な報告をうけて覚えている。

「自分だけ生き残って、家にもどって地下から銭壺を掘り起こした子供がいてな。いわば親の遺産を手にしたのだが――その銭壺を炊きかかえたまま飢え死にしかけた事例があった」

「水害の直後ではいくらお金があってもどうしようもありません」

「ああ、そういうときは知識がものをいう。この知識も大抵は親から受け継がれる物だが……」

ドッソの子供、腹を下した少年たちも、量をごまかされた少女も。

いずれも、親から知識を受け継ぐことが出来なかった。

「ゾーイは」

「え?」

「樹皮の食べ方をしっているか?」

「樹皮……ですか? いえ、それは食べられるものなのでしょうか?」

「ああ、食べれるものもある。もちろんそれはナマだと生米など比ではないレベルの腹下しを起こすし、ものによっては命を落とす」

「はい……」

そうだろうな、という顔をしたゾーイ。

樹皮なんて普通は食べる発想がないし、食べれば腹はただじゃすまないというのは容易に想像が出来る。

「が、上手くやれば……災害時でとりあえず飢え死にせずにすむ」

「樹皮――木であれば水害でも地震でも残ったままでしょう……ですが、皆が皆そのやり方を出来るわけでは……」

「……」

俺は黙って歩いた。

炊き出し場から離れた。

少し歩くと、今度はゴミが山積みになっているところにやってきた。

テントを立てているものがいるように、炊き出し場にそのまま住み着く者もすくなくない。

人間が住めばゴミが出るのは当然だ。

そしてそれらの生ゴミに混じって、地震で倒壊したであろう瓦礫がある。。

俺はその中から、一枚の瓦を拾い上げた。

それをマジマジと見つめた。

「瓦がなにか?」

「仮にだが、ここに米の炊き方、樹皮の処理、その他いざという時に食べれるものやそのやり方を記されていればどうだ」

「……すごいです御主人様」

一瞬きょとんとして、それから俺の言うことを理解したゾーイ。

「瓦であれば、水害でも地震でも、更に 追いかけてくる(、、、、、、、) 火事からも残ります」

「うむ、災害時用の知識をまとめておく。それを記した瓦を新造する建物に使うように義務づけさせる」

「すごいです御主人様、その発想はありませんでした」

「文字ではなく図解でだ。わかりやすく説明出来る絵を描ける者をあつめろ」

「はい」

「それと水道もだ」

「水道、ですか?」

「ああ、帝国の水道、特に一級水道は堅牢に作られている。今までに水道が跡形もなく壊れたという記録はない。水道の構造体にも災害時の指南を仕込もう」

「鳴るほど!」

「ほかにもだ。とにかく災害時でも残って、簡単に見に行けるように知識を形にのこす。何か思いついたら進言しろ」

「かしこまりました――すごいです御主人様」

ゾーイはそういい、目を輝かせていた。