軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19.人は宝

不日、晴れた昼さがりに、俺はシャーリーを連れてコバルト通りにやってきた。

「こ、ここは……」

栄えてる都の中でも、骨董品を取り扱っている性質上、特に金持ちや貴族が集まってくるコバルト通り。

医者すら居ない村から出てきたばかりのシャーリーは、百花繚乱な賑やかさに目を奪われて、唖然としていた。

「ぼけっとしてないで、ついてこい」

「は、はい!」

コバルト通りの入り口で馬車から飛び降りて、騎士になったばかりのシャーリーを従えて中に入る。

俺は適当にぶらつきながら宝を探す。

パッと見て目を引くものはいろいろあったが、どれもこれもパッとしない。

ここに来たのは、ヘンリー兄上のプレゼントを探すためだ。

陛下の命令とは言え、形の上では俺の代わりにアルメリアを鎮圧してくれたんだ。

なにか気持ちを示さなきゃ話にならない。

だからそのためのお宝を探しているのだが……。

「むっ、あそこは……」

「どうしたんですか殿下?」

「あの店に入るぞ」

「はい」

訝しみつつも、シャーリーは俺の後ろについて来た。

彼女を連れてとある店に入った。

前に、オスカー兄上と一緒に来た店だ。

「おお、これはこれは十三親王殿下、ようこそおいで下さいました」

「アラン・バーズリー、だっけ」

「はい。ささこちらへ」

店に入った途端、俺たちを出迎えた店主のアランは、ものすごく腰を低くしたまま俺たちを店の奥に招き入れた。

通されたそこはVIPのための部屋。

俺は上座に通され、直後に店の使用人が飲み物を持ってきた。

匂いだけで分かる、相当いい茶葉を使った紅茶だ。

ちなみにシャーリーは俺の後ろに控えて、手を後ろに組んで立っている。

主と一緒にいる時の騎士に席はない。貴族相手に商売をしているアランはもちろんその事を知っていて、シャーリーをまるで空気のように扱った。

「本日はなにかお探しでしょうか」

「兄上に感謝の気持ちで何か贈りたい、何か良いものはないか」

「第八親王殿下でしょうか」

「いや、ヘンリー兄上だ」

「第四親王殿下でしたか! 先日いくつか仕入れたばかりでございます。しばしお待ち頂けますでしょうか」

「ああ」

俺が頷くと、アランは一旦部屋を出ていった。

そのまま数分間待つと、何人かの使用人を連れて戻って来た。

使用人は一人につき一つ、何かを持っている。

それは宝石箱だったり、額縁に入った絵だったり、ワゴンに乗るほどの大きなものだったり。

多分、この店で出せるお宝をまるっと持ってきたんだろう。

そんな中、俺はとあるものに目が釘付けになった。

それはワゴンに乗せられ、上に布を被せられている。

気になったから、それを指差して、アランに聞く。

「それはなんだ? 雰囲気が明らかに他と違うぞ」

「おお、さすが十三親王殿下、一目で見抜かれましたか」

アランは商売半分、素が半分の驚き顔をした。

目配せをして、使用人に布を取らせる。

出てきたのは透明の女神の像だった。

「これは……ガラスか?」

「さようでございます」

「水晶じゃなくてガラスで女神像だと? こんなものが作れたのか」

「驚きはごもっともです。これは名工・リンジーが残したものでございます。ガラスで女神像を作れるのはこのリンジーのみ、今はもう失われた技術でございます」

「だろうな」

女神像をじっと見た。

やっぱり――ちょっと出てる。

あの魔道書と似たような感じのものが少し出てる。

それが見えたから、これを真っ先に見せろと指名した。

「リンジー自体作品がすくなく、女神像はこの世で残り二つ、と言われております」

「そうか。よし、これをもらうぞ」

「こちら一万リィーンとなりますが……」

「ほら」

懐から革袋を取り出して、アランに渡す。

「一万以上入ってる。余った分は、兄上への贈り物を持ってきたお前への褒美だ」

「ありがとうございます!」

アランは顔がくちゃくちゃになるくらい、満面の笑みで革袋を受け取った。

「その女神像、後でうちに――」

「ここにいたのかノア」

言いかけたとき、外から一人の男が入ってきた。

優しげな笑顔がトレードマークの、八番目の兄、第八親王オスカーだ。

「兄上」

俺は立ち上がって、オスカーに向かって軽く一礼した。

「店に入ったらノアが来てると聞いてね。何かいい宝を見つけた――の、か……」

オスカーはガラスの女神像を見て、そのまま固まった。

なにか信じられないようなものを見てしまったかのような表情をする。

「どうしたんだ兄上」

「これはリンジーの女神像。本物か?」

「ああ、おそらく」

答える俺、それだけでは足りないのか、オスカーはアランを見た。

アランは戸惑いながらも頷いた。

「は、はい。殿下に偽物をお出しするようなことはありえません……なにか拙かったでしょうか」

「はあ」

オスカーはため息ついて、近くの椅子に座った。

「参ったな、ってことは二つしかないのが二つとも出てきたってことか」

「もう一つを知っているのか?」

「持ってる」

そう言って、今度は苦笑いするオスカー。

「リンジーのガラス像だからな、二つ作られたことは知ってるが、このコバルト通りでも出てこないから、てっきり私が持っているのが世界で最後の一つだと思っていたんだ。それがまさか残ってたとはね」

「なるほど」

オスカーが嘆くのも分かる。

お宝というのは、数が少なければ少ないほど、その希少性で価値が上がるものだ。

その中でも、「一つしか無い」というのはとんでもない価値がある。

二つある時、それぞれの価値が1だとすれば、一つだけになった時の価値は十倍以上だ。

お宝――骨董品とはそういうものだ。

「兄上」

「うん、なんだ」

俺は無言でガラスの女神像に近づき、それを持ち上げて――地面に叩き割った。

「むっ」

「えええええ!?」

「し、しし、親王殿下!?」

慌てるアランに、俺は更に懐から百リィーンほど入った袋を取り出して、彼に渡した。

「安心しろ、さっきの代金はそのままくれてやる。それとこれは手間賃だ」

「て、手間賃?」

「二つめの女神像は出てきたけど、割れてしまった。それをコバルト通り内だけでいい、噂で流して欲しい」

「……さすがだな」

オスカーが感心した顔でうなずいた。

「いやすごい、すごいぞノア。お前がそれを割って、更に割った事実を流すことで、私が持っている像は確実に価値が上がる」

「お宝は早い者勝ちです。オスカー兄上の方が価値が上がればそれで」

「この方法を知っていたのも驚きだが、実際にやったのも驚きだ。さすがだ。私がこの域に達したのは、成人して封地入りした後の事だ」

オスカーは立ち上がり、ちらっと割れた女神像を一瞥だけして。

「礼はいずれする、ではな」

そういって、オスカーは店から出て行った。

アランに諸々の後始末と、次点のお宝を選んで屋敷に贈るように言いつけてから、俺もシャーリーを連れて店を出た。

「あ、あの……殿下?」

店を出た後、賑やかなコバルト通り。

シャーリーはおそるおそるって感じで俺を呼んだ。

「どうした」

「な、なぜあの様な事を?」

俺は周りを見回した。

周りは全員知らない顔、聞かれる心配がない。

「あれは所詮、物だ」

「でもすっごく高いお宝ですよ?」

「本物のお宝はあんなのじゃない」

「え?」

戸惑うシャーリー。

俺は視界の隅っこに常に見えている、俺のステータスを見た。

通常のステータスの後ろに、「+」がついてる俺だけのステータス。

俺には、これがある。

「本物のお宝というのはあんなものじゃない、人間だ」

「にんげん?」

「俺に忠誠を誓う人間だ。お前とかな」

「わ、わたし!?」

「ああ」

頷く俺。

そう、俺にとって、本当の宝は人間だ。

あんなガラスの女神像一つ割って、オスカー兄上の覚えがめでたくなるんなら安いものだ。

「……」

「どうしたシャーリー」

「感動しました! 物語に出てきた名君達と同じことを言ってます」

「そうか」

「すごいです殿下……私、一生ついて行きます!」

「ああ」

オスカーの覚えをめでたくするために割ったんだが、オマケでシャーリーの好感度も上がったようだ。

そのシャーリーを連れて、ガラクタまみれのコバルト通りを出る。

なんとなく、オスカーが言っていた言葉を思い出す。

成人になって、封地入り。

俺もいずれ、アルメリア入りする時がやってくる。

帝国では、大抵は皇族が成人する時と決まっている。

その時まで、もっと 宝(人) を集めたいと、はっきり目標が見えてきたのだった。