軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

188.不自然

馬車に揺られながら資料と書類に目を通していると、ゆっくりと速度が落ちていくのを感じた。

乗っている俺にほとんど慣性を感じさせない、かつ馬にもほとんどいななかせない停車。

相変わらずだが腕のいい御者だと思った。

「着いたのね……あれはアゴリスの街?」

「はい、ご命令通りぎりぎり目視できる距離で止めました」

「ご苦労」

馬車の外からシンディーと御者のやり取りが聞こえてきた。小声でのやり取りだ。

前の時と同じように、街から少し離れた所で降りて徒歩で入るように指示してあり、シンディーと御者はそれを守ってくれた。

着いたから呼びに来る、そう思って横に置いた上着をとって羽織ってそれを待った――が。

「……」

「……」

呼びにくると思っていたシンディーは来なかった。

どうしたんだろうか――と、思ったのは俺だけではなかった。

「シンディー様? お声を掛けなくてよろしいんですか?」

「 あのお方(、、、、) は昨夜も徹夜して指示を出しておられた。もう少し休んでいただきましょう」

「わかりました」

馬車の向こうで御者が動いた気配がした。

その気配を探ると、どうやら馬に何かをしているみたいだ。

それが気になったから、俺は馬車を降りた。

御者をみて、納得した。

「なるほど、馬を鳴かせないようにしてくれたのか」

「あっ!?」

「も、申し訳ございません」

俺が自ら馬車を降りたことで、シンディと御者は一斉にあわてだした。

「怯えるな、自分でおきた」

「は、はい……もう少し休まれた方が」

「仮眠は取れている。行くぞ」

「は、はい」

シンディを連れて、馬車と御者をその場において歩き出した。

道の向こうに街のシルエットがうっすらと見える。

「……すごいです」

「うん? なにがだ」

「ここ数日、ほとんどお休みになっていないはずなのに、それを全く感じさせないほど元気でいらっしゃいます」

「非常時はこんなものだ。アポピスにも手伝ってもらってる」

「何度かうかがってますが……その、アポピス様のお手伝いというのは……?」

「眠気覚ましに濃いコーヒーを飲むことがあるだろ?」

「はい」

「あれを更に倍くらいの濃いコーヒーを飲んだような状況になる」

「そ、それはお体に触るのでは?」

「非常時だ」

俺はそうとだけ言った。

ある程度(、、、、) 無理をしているのは見てて分かることだ。

無理をしてるんじゃないか、無理をしたらダメだ。

そういった類の言葉には全て「非常時」で押し切ることにした。

そのままシンディーを連れて、アゴリスに入った。

エンリル州に入って、徐々に震源地に近づいて来たからか、近づいて見えるようになる街並みは倒壊している建物が目立つ様になってきた。

「ここも……火災があったみたいですね」

「そのようだな」

「やはり水道が……?」

「……」

俺はこたえなかった。

俺もそう推測したが、できればそうじゃないことを祈りたかった。

どっちにしろ自分の目で確認しなければ。

そう思い街に入った。

街に入ると、妙に騒がしい事に気づいた。

「……様子がおかしい」

「はい」

「俺の側から離れるな」

「は、はい!」

そういってシンディーを側に近づけさせ、何が起きても守れるようにした。

彼女を守りつつ、まずは誰か捕まえて話を聞こうと思った――が。

それは向こうからやってきた。

大人の男の太ももくらいはある角材を持った中年男が向こうから走ってきた。

最初はまったく別の所を見ていたのだが、俺と目が合うと方向転換してこっちに向かった。

角材の男は俺達の前で止まった。

「あんたら旅人か?」

「ああ。なにかあったのか?」

「説明してる暇はない。悪い事は言わない、いったん街を出て明日くらいにまた来てくれ」

「……そうか。忠告感謝する」

「おう、じゃあな」

言いたい事は言った、とばかりに、角材の男は満足した顔で再びかけだしていった。

それを見送った俺はシンディーにいう。

「後を追うぞ」

「え?」

驚くシンディー。

「で、でも、いま危ないからと」

「問題ない、俺の側にいろ」

「……はい!」

シンディーを連れて、少し遅れるようにして角材の男の後をつけた。

すぐに気づかれない様に――気づかれても大丈夫だが、問答を避けるためすぐに気づかれない様にしてついて行く。

しばらくついて行くと、その男に他の街の住民が合流しだした。

男が角材を持っているのと同じように、他の住民達も同じように棒きれやらなにやらもっていた。

一人だけだとはっきりしないが、集団になって全員がそういったものを持っていると。

「武器……でしょうか」

「そう見えるな」

シンディーの言葉に頷き、更に近づく。

何があってもすぐに反撃・対処できる様に身構える。

追いかけていくと、徐々に物騒な物音が聞こえてくる。

物音が徐々に大きくなって、はっきりと聞こえる用になって。

俺達は住民に先導されるような形でそこにたどりついた。

それは立派な構えの店だった。

まわりでちらほらと焼け落ちている建物があるなか、そこはほとんど無傷だった。

無傷ということもあって、営業しているその店の前に街の住人が集まった。

「米屋……でしょうか」

「そのようだな」

「一体何を――あっ!」

シンディーの訝しみが瞬時にして驚愕に早変わりした。

なんと、住民達がまるで暴動を起こしたかのように店を襲いだした。

角材をはじめ、様々な「武器」をもって、店を壊しだした。

最初は店のものが止めようとしたが、既に十数人集まっていて、その上さらに集まってくる街の住民の集団にかなうはずもなかった。

それで抵抗をやめて、半ば逃げ出すように店から遠ざかると、街の住民達もそれを追いかけず、「一心不乱」という表現が似合いそうな勢いで店だけをターゲットにして壊し続けた。

店が壊され、商品の米がぶちまけられた。

「略奪……でしょうか」

シンディーが顔を強ばらせて、つぶやく。

商家で育った彼女は目の前の光景に感情移入したようだ。

被災した土地で商店が襲われる。

よくあるとまでは言わないが、珍しいというほどでもない話。

治安が悪くなっているな、と、そのためになにをすればいいのか、どういう施策をしたらいいのかと俺が頭をフル回転させている時。

目を疑う光景が目の前に現われた。

なんと、店を壊すだけ壊して、商品の米を盛大にぶちまけたあと、住民達はあらかじめ用意してたらしき汚水を米にぶっかけた。

地面にぶちまけられた米が汚水に浸されて、まったく売り物にならない状態になった。

「次行くぞつぎ」

「「「おおお!!」」」

だれかが号令を掛けると、住民達は駆けだしてどこかに行ってしまった。

「お、終わったのね」

「……アレを調べるぞ」

「え? ど、どうしてですか?」

「あれは略奪ではない。法的には略奪で裁くことになるだろうが、略奪とは違う」

「……あっ」

俺の指摘を受け、シンディーはハッとした。

俺は頷き、更に続けた。

「そう、ここは被災地。なのに食糧を奪わずに汚水をかけて――台無しにした。どう考えても不自然だ」

「確かにその通りです! 話を聞いてきます!」