軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

105.彼女はまだ、理解できない

「くそがああああ!」

リーダーらしき男が、武器を振るって俺に飛びかかってきた。

得物は肉厚の大剣、本人の体格も合わさって軽々と振るっている。

リヴァイアサンの一斉攻撃で手傷を負ったが、動きには支障のないレベルでの軽傷だ。

『小癪――』

「いい、リヴァイアサン」

気配が震えるリヴァイアサンを制止して、元の姿にして、剣として握る。

リヴァイアサンで、男の斬撃を受けとめる。

剣戟音が鳴り響き、火花が飛び散った。

何もないところから現われた様に見える物々しい剣をみて男は一瞬ぎょっとした。

そのままつばぜり合い――と思いきや、男はギリッ、と歯を食いしばった後、一旦俺を競ったままで押しのけると、大剣をぶんぶんと振って斬りかかってきた。

「うおおおりゃあああ! こなくそー!!」

ぶんぶんと、気流の渦を巻き起こしそうなほどの勢いで何回も斬りかかってくる。

それを俺はリヴァイアサンで受け止めたり、受け流したりする。

男は斬撃一辺倒ではなかった。

たまに大剣を地面に突き立てて砂を巻き上げたり、流れた血を俺に飛ばして目くらましを狙ったりしてくる。

「……なるほど、いいボスだ」

「――っ!」

俺の言葉に戸惑い、驚愕する男。

「止めろリヴァイアサン、足を止めるだけで良い」

『御意』

刀身が震えるリヴァイアサン。

さっきと同じ感じで、しかし遙かに細い水の柱――水の針が一斉に飛ばされた。

男が俺の気を引きつけている間に逃げ出そうとする盗賊全員の足を止めた。

「み、見えていたのか……」

攻撃の手を止め、構えたまま俺をにらみ、顔をゆがめる男。

「不自然に動きが大きく、オーバーだったからな」

「くっ」

「どこで指示を出していた」

俺は男に聞いた。

実の所、男が俺の気を引くために攻撃して居たのだとは最初気づかなかった。

襲ってきてすぐだということもある。こんな速攻で撤退を決断する盗賊は見たことがないからだ。

「指示なんかだしてねえ」

「ほう?」

「命あっての物種だ。ダメなときはいつも逃げろって言ってある」

「なるほど。部下思いなのだな」

「部下じゃねえ、兄弟たちだ」

「ふむ」

俺は小さく頷いた。

余人には理解しがたい関係性であるようだ。

「なんで女を人質にとらなかった?」

俺は更に聞く。

ペイユとアイビーは小さく震えたが、手をかざすジェスチャーとかで安心しろと伝えたまま、男をじっと見つめる。

「そんなのでどうにかなるような力の差じゃねえだろ」

「ふむ、状況判断も素早い」

俺は男を改めてみた。

やってることがやってることだし、出会いの仕方も悪いが。

目の前にいる男は間違いなく人材だ。

俺はペイユに首だけ振り向き、肩越しに命じる。

「ペイユ、ポーションを出せ」

「え?」

「怪我の重いところから治していけ」

「は、はい!」

ペイユは一瞬戸惑ったが、それでも主である俺の命令に従い、荷物の中からポーションを取りだした。

最近開発したばかりのポーション、戦略物資にさえなる貴重な品。

リヴァイアサンの水とちがって、すぐに使えるようにつくって、現物で持ち歩いている。

それをペイユが取り出した。

そして先輩らしく、アイビーに手伝うようにいった。

アイビーは何がなんだか分からなかったが、それでもペイユの手伝いをした。

「け、怪我が一瞬で治った……!?」

ポーションを初めてみるアイビーは驚愕した。

「これ、ご主人様が作ったものだよ」

「作った?」

「そう、すごいでしょ。これをつければどんな怪我だって治っちゃうんだから」

「うそ……でも本当だ……。すごい……」

ポーションの威力に言葉を失うアイビー。

驚いてるのはアイビーだけじゃなかった。

ポーションで怪我が一瞬で治ったという実体験をした盗賊達も驚愕し、何が起きたのか分からない、ってヤツも多かった。

一方、引いたポジションから「全体」を見ている男は、驚きつつも、状況が把握できていた。

そんな男は、驚きと警戒が半分、そんな顔で俺を見てきた。

「なんで助ける」

「脅威ではないからだ」

「なに?」

「お前は一瞬で俺にはかなわないと判断した。なら全員の怪我を治しても、それで襲いかかってくることもないだろう」

「……」

「それに人は宝だ、むやみに死なせていい道理もない」

「追い剥ぎだぞ」

「追い剥ぎに死罪はない。帝国法ではどう重く量刑しても終身刑にさえならん」

件数が重なって、数百年の禁固刑――という事もあるが、それでも終身刑や死刑とは ステージ(、、、、) が違う。

「だとしても」

男は警戒したまま俺に聞く。

「わざわざ直す(治す)理由がねえ。なにが目的だ」

「話を聞かせろ」

「なにぃ?」

「部下――ああ兄弟たちだったか。怪我を治してやれば話くらいは聞かせてくれるだろ?」

「……なにが聞きたい。天気か? それとも近いオアシスの場所か?」

「ははは、なるほど、ここでは天気の話には価値がつくのだな」

俺は楽しげに笑った。

男の語気から、「天気」というのが軽口の類ではないと感じたからだ。

確かにこの砂漠だ、この劣悪な環境での天気は場合によっては生死を分かつレベルの情報になると想像にかたくない。

それを 差しだそう(、、、、、) としてるのなら、話ができるのだと理解した。

「まずはそうだな、ありきたりだがなんでこんな稼業をしている」

「食えねえからの他になにがある」

「ふむ」

「元手のいらねえ商売なんかそんなにねえよ」

俺は小さく頷いた。

人類最古の職業は二つあると言われている。

男は傭兵、女は娼婦。

いずれも、最終的に体一つで出来るものだ。

そういう意味では、盗賊・追い剥ぎも身一つで出来る「元手いらずの商売」といえなくもない。

「傭兵になるのは考えなかったのか?」

「傭兵なんかににゃ成れねえよ。ちゃんとした武装とかねえと雇い主もまずみつからねえ。運良く見つかっても捨て駒用だ」

「ああ……そうか、そうなるのか」

俺は頷き、納得した。

その発想はなかったが、確かに雇う側からすれば、通常は戦力として武具装備もみる。

そういう意味じゃ、まともにやろうとすれば傭兵は「元手」がいる。

追い剥ぎなら最低限の武器だけでいい……なるほど。

「聞きたい話はそれだけか?」

男は苛立ちながら言ってきた。

盗賊・追い剥ぎにまで身をやつしたいきさつなんて話したくもない過去だ、と言わんばかりの顔だ。

まあ、そうだろう。

つらい過去でもなければこんな稼業に落ちてくることなんてそうそうない。

ましてや、これほどの才能を感じさせるほどの男だ。

「いや、もうひとつある」

「さっさと聞け」

「盗賊をやめる気はないか?」

「はっ!」

男は鼻で笑った。

「やめられるならとっくにやめてらあ」

「質問をよく聞け。盗賊を やめる気(、、、、) はないか?」

「……やめられるならとっくにやめてる」

男はトーンダウンした。

同じ言葉なのに、意味合いが違っていた。

最初は意地や侮蔑の意味合いがあったが、二回目はつらさの吐露……という感じになった。

「軍に入るつもりはあるか?」

「入れねえよ……あんなの、まともな出身のやつしか」

「紹介があればそうでもない」

「なに?」

「……」

男は俺を見つめた。

俺も無言で男を見つめ返して、返事をまった。

「お前……一体……」

「そんなのはどうでもいい。お前の意思を聞いている」

男の態度がさっきに比べてかなり軟化した。

まわりの「兄弟」達をみた。

ポーションで治った連中も、男と同じような困惑の色が顔にあった。

男は俺に向き直り。

「で、でも。俺達はもう札付き、こういうのをやってるって手配されてるし」

「そんなのたいしたことじゃない。正直に話せ、今までで何人殺した」

「こ、殺したのは……十は超えてねえ……」

「この団全員でか?」

「ああ……」

「だったら話は簡単だ。その数ならそれぞれ禁固刑三十年、あるいは従軍刑三年だ」

帝国法では、量刑次第ではあるが、従軍刑は禁固刑の十分の一になることがよくある。

理由はいくつかある。

まず帝国は「戦士の国」で、常に近隣の小国と戦っていて、兵士の補充が必要だからだ。

そして従軍刑で兵士にして、数年も生き延びられるような人間なら、囚人としてではなく兵か将として登用した方がいいという考え方がある。

そもそも、兵士は「消耗品」ですぐに死ぬのだから、従軍刑の長さにさほど意味はないというのもある。

兵務省と法務省の両方にいた俺は、その事をよく理解している。

「従軍刑なら合法的に軍に入れる」

「ぜ、絶対そうなるって決まらねえだろ」

「だから紹介といった」

「――っ!」

男はハッとした。

そして俺を見つめたまま、

「お前……何者だよ……」

「お前を確実に軍に送れる程度の立場にいる人間、とだけ言っておこう」

「……本当にできるのか?」

「騙されるな兄貴! そんなの俺達を騙そうとしてるにきまってる!」

「そうだそうだ! 騙して牢に閉じ込めるつもりだ!」

揺らぐ男に、部下達が大声をだした。

それを聞いて、男は力なくため息をついた。

「俺達をここで全滅させられるような男が、なんでそんなまわりくどい事をする必要があるか?」

「うっ……」

「そ、それは……」

男の指摘に、全員が黙り込んでしまった。

男は改めて俺を見つめ。

「本当に……か?」

「ペイユ」

「はい!」

ペイユは荷物の中から紙とペン、そして小さな板を取り出した。

板を持って、即席の机にして、俺の前に立った。

俺はペンをとって、紙にさらさらと文章を書き記していく。

「印を」

「はい」

ペイユは改めて用意していた印をさしだし、俺はそれを受け取って、紙の最後――署名のそばに印を押した。

最後にもう一度文面を読み直してから、ぽかーんとしている男に渡す。

「これを代官か州長官のところにもっていけ、悪いようにはしない」

「……あんた」

「道は敷いてやった、後はお前の頑張り次第だ」

「……ありがとう、感謝する」

男は深々と頭を下げて、俺が渡した手紙を大事に握り締めた。

男たちが去った後、ペイユが聞いてきた。

「よかったんですかご主人様、あのまま逃がして」

「事実上の自首だ、問題ないだろう」

「でも、軍に入るんですよね。軍でも同じことをしてたら……」

ペイユの言いたいことはわかる。

軍にも、略奪をするというイメージがあるからだ。

「問題ない」

「も、問題ないんですか?」

「そうだ。民が盗賊行為で人を殺しても禁固刑ですむが、許可の無い略奪は軍法だと最低で死刑だ」

「そ、そうなんですか!」

「ああ」

軍の規律を守るために、普通の法律よりも軍法の方が罰が重くなってる。

もちろん罰だけじゃない、出兵の際「どこそこを落としたら何日間の略奪を認める」という飴も付け加えなきゃならないが、それを今ペイユに話す必要もない。

「あくまで道を敷いてやった。そこからどうなるかは本人次第だ」

「そっか……さすがですご主人様。形は違うけど、私の時と一緒ですね」

「そうだな」

ペイユは家として引き取り、保護した。

男達は国として引き取り、保護した。

多少形は違うが、本質的には同じこと。

それを理解したペイユもまた、賢い女なのだと、俺はちょっとだけ嬉しくなったのだった。

アイビーは戦慄していた。

ノアがした事をまったく理解できなかった。

なんで盗賊を罰さずに、治療したり解放したり、挙げ句の果てには職を斡旋したりするのだろうか。

それを理解できなかった。

人間は、自分が理解できないものを恐れる。

アイビーはまだ、ノアを理解できずに恐れている、そんな段階だったが。

「……」

それと同時に、ノアの事が前よりも気になりだしたのだった。