作品タイトル不明
どうでもいいことと、大事なこと
馬車を停められる空き地で、野営することにした。
周囲にモンスター除けの薬草を炊いた。これは、ばあさんの養鶏場の自家製だ。
「これがあるなら、一角ウサギの被害を抑えられたんじゃないのか?」
ふと疑問に思う。
「ニワトリも嫌うんだよ、この匂い」
「ルナの風魔法だったら、匂いの向きを定められるか?」
「短時間ならできるけれど、常に展開するのは無理ね。魔力切れを起こすわ」
「なんか、送風の魔道具があればいいんにゃ?」
ふと閃いた。
「風魔法で薬を撒くのは、モンスター討伐にも使えるかも」
「それ、いいわね! 冒険者ギルドでモンスターと毒の組み合わせを調べましょう」
わいわいと話ながら、野営の準備を進める。
行きと違って馬も余裕があるようで、ご機嫌で飼い葉を食べ始めた。
昨日、養鶏場でいぶした一角ウサギの燻製肉を、表面だけ軽く焼く。
乾燥させて長期保存がきくようにするといいと伝えてきた。
だけど、その手前の半生っぽい状態も美味しいんだよな。
うっかり食べ過ぎて、保存する分がなくなったりしないといいけど……あの様子だと、ちょっと怪しい。
薪に小枝をくべながら、つい弱音が出た。……夜の闇は人を心細くさせると思う。
「俺は冒険者のくせに、一人じゃトレントも倒せないよ」
「養鶏場の筋肉マッチョと自分を比べてんのかい?
トレントを倒せる者が運搬係をしているだけだ。全員が倒せるわけじゃないよ」
「そうなんにゃ」
サァラが燻製肉にかぶりつく。
「そりゃ、向き不向きがあるさ。
腕っ節が強い奴は、書類仕事が苦手だったりする。
どっちも苦手な子は、黙々とニワトリの世話をする」
三者三様だと言ってから、ネギの串焼きを手に取る。
「頭の回る子が効率を重視して、ニワトリにストレスを与えて卵の数が減ったこともあるよ。毎日変わらず手を抜かずにやれるのも、才能さ」
そういえば、厨房の下働きは、毎日同じことを繰り返せることが求められた。
「冒険者だって、波があって日によってはすごく強い奴もいるだろ。そこまで強くなくても、安定して実力を発揮できる奴もいる。
どっちが良い悪いって話じゃないはずだ」
「魔法使いも、そういうところがあるわね」
フォンが考えながら言う。
「トーマ、あんたは冒険者として生きるのが目的かい? 誰かを守りたくて、腕っ節を強くしたかったのかい?
目的と手段は別だ。守るのが目的なら、他の方法を探してもいいんだ。
目的を押さえていないと、間違うよ」
一角ウサギの燻製をほおばりながら、ばあちゃんは「美味いねぇ」と笑った。
スキルが戦闘向きじゃなかったから、逆に「冒険者になってやる」と意地になった?
誰かを見返してやりたかった?
グレタばあさんを無事に冒険者ギルドに送り届けた。
ばあさんの本名はマーガレットだって。可愛い名前でちょっと驚いた。
数日かけて、ぬいぐるみの作り方を実演し、最後の仕上げとなった段階で、痛恨のミスが判明した。
ここには、羽毛がない。
つまり、縫ったあとに詰めるもの――。
布きれを細かく裂いて詰めたが、やはり仕上がりが違った。
大急ぎで、俺たちはばあちゃんの養鶏場に走った。
「養鶏場から抜け羽を集めてこい!」
冒険者ギルドだけでなく、商業ギルドの養鶏部門も走り回った。
「藁と糞の中から羽を拾え? 馬鹿言ってんじゃねぇ」と言う家もあった。
子どもたちに選り分けさせた家では、思わぬ臨時収入に沸いたという。
欲をかいて、ニワトリを絞めて羽毛を供出した家は、数ヶ月の熱狂が落ち着いた頃に潰れた。
グレタばあさんはのちに「何が大事かわかってないと、狂乱に飲み込まれて人生を棒に振る」と子どもたちに語ったという。