作品タイトル不明
気付いてはいけない
ついに、ダンジョンに来た!
自然発生したダンジョンを、冒険者ギルドが管理している。
難易度の低い、塔を登るタイプのダンジョンを選んだ。入り口で入場料を支払う。
入った者の名前と滞在予定日数を管理しているので、その手続きもした。
「予定日を過ぎたら捜索隊を出すんですか?」
つい、気になって受付の職員に訊いた。
「普通はしないな。
大量に戻ってこなかった場合には、異変が起きたかもしれないので調査隊を組むんだ」
そっか。まあ、冒険者は自己責任だよな。
第一階層は弱いモンスターが単体で出現するので、初心者向けだ。
俺の練習がてら、三人は眺めているだけ。手も口も出さない。
「うん、基礎はできてるんだね」
ルナの評価が嬉しい。
第二階層は、弱いモンスターの群れか普通のモンスターが出る。
群れは三人で倒してもらって、どう連携をとっているのか観察させてもらった。
前衛は剣士のルナ。敵の一撃を反らし、防御しながら敵を削るアタッカー。
後衛が風の魔法使いのフォン。支援と範囲攻撃、位置取りを操作している。
猫獣人で格闘家のサァラが、素早さで撹乱し、側面や背後から不意打ち。
ランクが低い階層だが、油断せずに戦っている。
安心して見ていられるパーティーだな。
「本当に、ドロップするんですね」
知識はあったが、倒したモンスターの死体が消え、討伐証明部位や素材だけが残された。
食用になるモンスターも、血抜きや解体をしないで済むのは楽でいい。
ドロップ品を拾いながら、胸の内には暗雲が立ちこめていた。
そう、冒険者にとって都合が良すぎる――。
第三階層に上がると、少し人数が減ってきた。
ここで、俺は実験を始める。
ある地点ではフォンに、左右に同じ力で風魔法を放ってもらった。
別の地点ではサァラに、左右の壁を交互に登ってもらった。
さらに別の場所で、ルナに同じモンスターを――半月刀とギルドの剣でそれぞれ斬ってもらった。
二日目は第一、第二階層を素通りした。第三階層で前日と同じ実験をして、第四階層に挑む。
三日目も実験をした。第四階層では、俺が前日に失敗した技を練習して、今度は成功した。
アイディアを出しあい、成功を喜び、和気あいあいと過ごせたと思う。
前のパーティーを追い出されてからずっと、俺は暗い気持ちを引きずっていたみたいだ。ここで挑戦して、笑って――体が軽くなるのを感じた。
三日目にダンジョンを出て、俺たちは宿の一階の食堂で祝勝会をすることにした。
食事の前に風呂に入り、着替えてすっきりしている。
麦酒で、三日間のダンジョン訓練を労った。
ぐびぐびと飲み、爽快感を味わう。
「あたいはトーマなら、一緒にやっていけると思う」
サァラはニコニコしながら、肉をかじった。
「そうね。お昼のお弁当が美味しかったのも、高評価だわ」
フォンも賛成する。
……あれ? 冒険者ギルドが調査している間だけ同行する、「仮預かり」かと思っていた。
といっても、他に行く当てはないんだけどな。
「ありがとう。
でも、ほしい戦力は回復役や、力が強い盾役か重戦士じゃないか?」
率直に、疑問をぶつけてみた。
構成のバランスはいいので、敢えて言うなら……というところだが。
三人が「あ~」と、すでに承知しているという顔をした。
「役割も重要だけど、相性の方が問題なんだよね。
回復はポーションでカバーできるし、力が強い男はマウントしてくると言うか……」
ルナが言いにくそうにして、頭をかいた。
「あからさまにエッチ目的で近寄られてもねん」
サァラがぶっちゃける。
あー、はい。理解しました。
……ここでパーティーに誘われている俺は、喜んでいいのか。男扱いされていないのか。
まあ、いいか。
ちょっと話題を変えよう。
「ダンジョンに出てくるモンスターを観察した結果を、話していいかな?」
フォンが「楽しみだわ」と微笑んだ。
「森や平原に出る魔物は、体格や爪の長さ、毛並みやウロコもバラバラだ。
なのに、ダンジョン内の連中は……まるで同じ設計図から作られたみたいに、個体差がない」
「え?」
ルナがフォークを落とした。皿とぶつかり、ガチャンと音を立てる。
次の瞬間、フォンがトーマの腕を強く掴み、そのままトーマの部屋へ駆け込んだ。
「あんな場所で口にしていい話じゃないわ」
扉が閉まると同時に、彼女は低く言った。
「……あなたが短期間で、そこに辿り着くとは、計算外だわ。私のミスね。」
フォンは両手で顔を覆ってしまった。
フォンは大きく息を吐いてから、顔を上げた。
「どうしてその結論に至ったか、教えてくれる?」
とても真剣な眼差し。
俺は緊張し、酔いが吹き飛ぶのを感じた。
「ダンジョンは、こちらの戦い方を学習しているのだと思います」
トーマは唾を飲み込んでから、さらに続けた。
「百年前の大戦で、国は金属を独占しました。
そのせいで冒険者の武器は粗悪品ばかりになり……同じ時期に、ダンジョンの質も落ちています」
「つまり、こちらの攻撃力に合わせて、ダンジョンの側が『調整』しているんじゃないかと?」
フォンの言葉に、俺はうなずく。
「三日間、同じ場所に同じ攻撃をしてもらいました。
右と左で壁の硬さ少しずつ変わって、攻撃が通りやすくなる側と、通りにくくなる側ができました。
ダンジョンが進ませたい方向と進ませたくない方向があって、誘導しているかのように――」
まるで、ダンジョンが意思を持っているように思えた。俺の考えに、フォンが息を呑んだ。
「人間が多いエリアにダンジョンがないのは、獣人ほどパワーがなく、ドワーフほど武器がなく、エルフほど俊敏でもないからでは?
そう仮定すると……」
フォンが「それ以上は言っちゃ駄目」と人差し指を俺の唇にあてた。
どぎまぎしたが、これは放置してはいけない問題なのでは?
「でも、魔族が、魔王が……」
口を塞がれた。
唇で。
「黙って。もう何も考えないで」
そう、耳元で囁かれた……。