軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

難攻不落って誰のこと?

一週間ホテルで下働きをして、また冒険者ギルドに顔を出した。

遠い街でのワイバーン討伐は成功したらしい。死傷者は出てしまったそうだが。

顔見知りになった冒険者たちと話していたら、小麦粉で糊を作ってくれた受付嬢に、声をかけられた。

「先日はありがとうございました。

自分で仕事を探せと言われていたんですけど、どうしていいかわからなくて。すごいですね、尊敬します」

両手を組んで、キラキラした目で見つめられた。

「いや、そんな……たいしたことじゃないし。戦ってくれる冒険者たちのためだし」

「勉強になったので、また教えてほしいです。

今夜、お食事でもどうですか? お店、色々知ってます。興味あるのって、どんな感じですか」

ぐいぐい来るなぁ。ちょっと戸惑う。

「えっと……女の子と一緒じゃないと入りづらいお店とか?」

「小洒落た系ですね。勉強熱心で素敵です。

女性同士かカップルしかいないお店、ご案内します!」

「あ、じゃあ、よろしく。俺は依頼受けてくるから、仕事、頑張って」

「はい!! いってらっしゃいませ!」

……なんだかなぁ。

冒険者たちにからかわれながら、夕方には戻ってこれる近場の依頼を選んだ。

パンケーキに生クリームがどっさり乗った皿を見て、言葉を失った。見ているだけで胸焼けしそうだ。

俺はパンケーキにベーコンやスクランブルエッグが乗っているものにして、本当に良かった。

「好きな人とか、いるんですか?」

「はは、失恋したばっかりだ」

「悲しかったですよね。でも、それだったら……次の恋ですよ」

両手にナイフとフォークを握りしめ、なんかポーズを取っている。子どもなら許されるが、大人の女性の仕草じゃねぇよな。

なんか、わざとらしさを感じてしまう。

「……はは」

「ちなみに、どんな人ですか?」

「明るくて、優しくて、あったかくて……可愛い」

「ふーん、普通」

……普通だが?

「普通の家庭の暖かさ」が、俺にとっては手が届かない憧れだったが?

どんな特殊性癖を期待してんだよ。

今朝褒めてくれた先日の行動だって、糊を作って、絵を描いて、貼るだけ。特別なことじゃない。

その「普通」さえ思いつかない頭で、お嬢さんを下に見ようというのか。

俺のスキルが「下ごしらえ」だと知ったら、なんて言うんだろな。

「普通」以下だろ。ごみスキルって言われたこともある。

ギルド職員なんだから、知ってるか。もし知らないなら、「普通以下」だな。

それに、一部の天才を除いて、普通とか基礎を大事にしないと、途中で行き詰まるんだぞ。

普通を軽視して、いきなり特別な活躍をしようとするのは、無謀な、死に急ぎ野郎だ。

「普通」をバカにする彼女に、一気に冷めた。薄々、何か違うと思っていたが、心を完全に閉じてしまった。

そのあとは、当たり障りない対応をして、早々にホテルに戻ることにする。

せっかくだから冒険者ギルドの話を聞こうとする俺と、恋愛に話を持っていこうとする彼女の、無益な攻防戦。……疲れた。

それが原因で「難攻不落な男」なんて、噂をされるとは思わなかった。

あの受付嬢は人気があるらしい。

でも、こちらを気分良くさせようという会話は、レストランで見かける接待みたいだったし。

妙な上目遣いは、割引交渉をしようとする宿屋の客と同じだし。

あれだ、「あざとい」ってやつだ。

俺は週一で顔を出すだけだから、珍しさもあるのだろう。

裏で「落とせるか」と賭けの対象にされているような、嫌な予感がした。

冒険者ギルドで、積極的な女性たちからちょっかいをかけられるようになってしまう。

一方で、男たちに妬まれて、からまれる。

ほんと、面倒くさいことになった。恨むぞ、受付嬢め。

そんなときに、宿屋で俺を襲った女が現れた。

冒険者だからあちこち移動するよな。

「私たち、特別な関係だったでしょ」と、女性たちを牽制してすり寄ってくる。

ずうずうしい。気持ち悪い。生理的に無理。

俺は、レストランのレストルームへ続く廊下を思い出す。

そこでお貴族様や裕福な人たちが「脅し」をかけているのを、たまに見かけるんだ。

小声で「それを吹聴するなら、俺が気持ち悪くて吐いたことも言わないとなぁ」と言ってやった。

俺にとっても恥ずかしい記憶であることは、一旦棚に上げる。

「女として駄目」という、こいつにダメージを与える方を優先するぞ。そうしなければ。

心臓がばくばくしているが、俺は冷静を装う。

ここで負けたら、こいつに良いようにされてしまう。

案の定、女は顔を真っ赤にして、何も言えなくなった。

ここで釘を刺しておきたい。

「安っぽい脅しだな」「身の程を知れ」「男なら誰だっていいんだろう」……どれがいいか?なんと言ったら、諦めるだろうか。

――まあ、いいか。コイツのために考えるのも面倒くさくなった。

ふっと鼻で笑って、背中を向ける。

内心、後ろからナイフで襲ってきたりしないよなと警戒しながら、一歩ずつ遠ざかった。

ギルドを出て、大きく息を吐いた。

追いかけてこない。よし。

やったよな? 撃退したよな?

迷惑な嫌われ者の女を黙らせたということで、ギルド内でさらに評価が上がるとは、思いもしなかった。