作品タイトル不明
女冒険者たちのぶっちゃけトーク
ボビーをクビにして、数日後に同郷の後輩が入ってきた。
新人の指導もあるから、しばらくは冒険者ギルドに行くのを控えている。
まあ、三か月くらいで新人が動けるようになるといいな、という感じだ。
教えるのに時間は取られるけれど、やる気がある。隙あらばサボろうというボビーにイライラしているのに比べたら、快適だ。
冒険者ギルドに行くときは、一日不在にしても問題ないように、その前後は計画的に仕事を片付けていた。
それをやらないことで時間に余裕が出てきて、宿泊客の荷物の梱包というオプションサービスを始めてみた。まずは期間限定サービスで、様子を見る。
空間魔法が付与されたマジックバックはとても高価なので、普通の商人や冒険者は持っていない。だから、梱包技術は予想以上に好評だった。
困るのは常連の女性冒険者たちが、下着を見て照れる俺をからかおうとしてくることだ。
私的な時間ならうろたえるが、仕事中なら「ただの布」だと思える。思えるはずだ。俺ならできる。
「つまんな~い」じゃない。宿屋の従業員を舐めるなよ?
「重い物を下に、念のために持っていく物は奥に、よく使う物を手前に……聞いてます?」
「じゃあ、パンツは手前だね~」
豹獣人がニヤニヤと笑いながら、布をひらひらさせる。尻尾の分の穴も開いてるんだ……って、じろじろ見ないの、俺。
さっと受け取り、パパッとたためば、ただの布。仕舞うべき場所に納める。
「このあたりに仕舞いますよ。宿を出たら自分たちで管理するんですから、覚えておいてくださいね」
一人分の荷物が終わったので、次の荷物に取りかかる。
「ねえさんたち、俺をからかうよりも……あいつならすぐに応じたんじゃねぇの?」
ボビーなら簡単に誘いに乗りそうだったのにスルーして、わざわざ俺に粉をかけてくるのがわからん。
「え~、あのクビになったヤツ? 勘弁してよ。にちゃっとして、鼻息荒くて、気持ち悪い」
女魔道士が「うげ~」と舌を出した。
「一度やったら、『俺の女』扱いしてきそう」槍使いが大鎌を磨きながら吐き捨てた。
「図に乗るね、絶対」豹獣人が、断言する。
「え、それのどこが駄目? そういう関係なら恋人前提に考えてもおかしくない……って、俺の頭が堅いのか?」
ヤリ捨ての方が駄目だと思うんだが?
「えっとね、あたしたちを人間として見ているか、メス穴としか見ていないか、なんとなくわかるんだなぁ、これが。
人間として恋人扱いなら大歓迎よ。メス穴としてキープというか、無料の娼婦扱いはふざけんな。
その違いだよ」
豹獣人の尻尾が激しく左右に揺れた。
「そうそう。おっぱいの大きさと穴具合しか頭にないヤツは、すっごい値踏みしてくるからね。市場で買い物するのに吟味してるのと同じ目つき。商品じゃねぇっつの」
槍使いが大鎌をぶんぶん振る。周りに人はいないけど、危ないなぁ。
「たぶん、体のつくりからして違うのよね。
男はその場で気持ちよければいいんでしょうけど、女は少なくともそのあと十ヶ月は相手のこと好きじゃないとやってられないでしょう?
見る目が厳しくなって当然じゃない」
魔道士が説明してくれた。
なるほど?
「それに加えておっぱいをあげる期間を考えたら、自分勝手で独りよがりなヤツはお呼びじゃないわけ。代わりに食料を調達してくれるくらいの甲斐性は必須」
豹獣人が楽しそうに条件を挙げていく。
「女がしょっちゅう「好き」「愛してる」って聞きたがるのは、「責任取る気あんだろうな?」って言う代わりよ。その方がロマンチックでしょ」
魔道士が「この魔法石は予備なの」と指さしながら言う。
予備は奥に仕舞うか、すぐ出せる手前か迷うな。
「身も蓋もない……。まあ、『責任』って言われたら、腰が引けるかも」
俺が男代表という訳ではないが、苦笑するしかない。
でも、「責任を取る自信があるか」って訊かれて、即答できる男がいいのか?
そういう人は本当に実力と自信がある人か、全然考えていない口先だけのヤツか……。どっちもいると思うぞ。
「でしょ? ロマンチックな言葉で確認するのは、女側からの気遣い。優しさだって」
豹獣人がにかっと笑う。
ちょっと訊いてみたくなった。
「あの、『友達ならいいんだけど』って言われて、失恋した人がいるんですよね。
すごく責任感あって、頼りになるいい男です。
それと矛盾してません?」
同郷の先輩が、「僕はいつもお友達どまりだ」ってやけ酒を飲んでいた。
「……あ~、ぶっちゃけ、ちょっとはトキメキもほしいじゃん?」
槍使いが大鎌をこちらに向けた。
「ええ~? 無理難題すぎる……」
男に対する要望が多すぎる。両立しないだろ。
「その点、君は評価高いよ」
槍使いがようやく大鎌に革のカバーをはめ込み、紐でしっかり縛った。
「単純な男社会では、地味スキルって評価低いかもしれないけど。それで腐ったりしないで、コツコツと夢に向かっているのもいい。
仕事をちゃんとやって、気が効いて、清潔感があるのって、もう奇跡的」
「すごく『普通』と念を押されている気がする」
褒めているのだろうが、手放しで喜べない。
「あとさぁ、あたしたちを『好き者』みたいに言うけど、あたしたちは誘うだけで強要してないでしょ?
えげつないオバサンたちと一緒にしないでよね」
豹獣人の目が光った。
「世の中には、自分は客なんだから従業員は言うことを聞けってヤツだって、いるのよ?」
「この宿はオヤジさんがいるから、そういう居丈高な客が寄りつかないだけ」
「そうよ、あたしたち 質(たち) のいい冒険者なんだからね」
口々に姦しい。
自分で言うなって。
「それからね、こうやって会話のキャッチボールができるのも大事。ひとりの人間として大事に扱われている感じがいいのよ」
魔道士がにこりと笑みを見せた。
そういうもんかね。
「はい。荷造り終わりです。会計につけておきますからね」
「ありがとね」魔道士が荷物をポンと叩いた。
三人はこれから明日の出発に向けて、打ち合わせを始めるらしい。
オヤジさんに食堂のテーブルを使う許可を得ていた。
発言はチャラいけど、何年も冒険者としてやってきた人たちだ。
今はD級で、もう少しでC級にあがれると張り切っている。
俺はまだE級の、初級ランクだ。
宿で働くのも面白いし、冒険者への夢も捨てきれない。
将来とか責任とか、ピンとこないなぁ。
とりあえず、薪を割りに行くか。