軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

背後にいる者

ふと疑問に思う。

「あれ? 犯行現場も当時の所属もレスタール王国なのに、処罰はファルガン共和国で下されるんですか?」

「そうなんだよ。こっちに来て騒がなきゃ、元の国で済んだはずなのにな」

紙の束をばさりと置いて、ギルドマスターは死んだ魚のような目をした。

「これが、その調整のためだけの書類だ」

「いや、いろいろと愚痴を言っちまったが、感謝してるんだ。

ここで発覚していなければ、レスタール王国ではずるずると冒険者たちに不利な状態が積み重なっていっただろう」

ワイバーン討伐一つとっても、冒険者への支援は王国と共和国で差があった。本来は、どちらの冒険者も同じ待遇を受けられるべきだ。そのためのギルドなのだから。

「冒険者ギルドの支部はある程度の裁量が認められてる。

国に関しては内政干渉に当たるから、普通は外部から調査に入れない。

国と冒険者ギルドは協力し合いながら、互いに監視もするはずなのに、癒着して暴利をむさぼってた」

「じゃあ、ギルマス。もっと言い方に気をつけてよ。

トーマは見た目どおりに『気にしぃ』なんだからさ」

真面目な話をぶった切って、ルナがとんでもないことを言い出した。

「おお、すまんな」

素直に詫びを入れるギルドマスター。「そんなことないだろ」とか言わないわけ?

え、俺って、気にしすぎっぽい?

細かいとか、うるさいとか、冒険者らしくないとか……そういうこと?

フォンがルナに「もう、あなたも言い方に気をつけないと」って、俺をチラリと見て、にこりと微笑んだ。

……同意しているじゃん。

「ところで、昨日のちび達はなんだったの?」

ルナが話題を変えた。

「最近問題になっている宗教団体の二世でした。

で、フォンさんの養い親がそこに所属しているらしくて――」

控えていた職員が教えてくれた。

フォンが驚いた顔で固まる。

「――宗教団体?」

「え? それで襲ってくるってどういうことにゃ?」

サァラがフォンの手を握りながら、代わりに質問する。

「なんだか『裏切り者』とか言ってるぞ。

詳しいことは聞かされていないらしくて、団体に問い合わせをしている。あの団体は『不心得者が勝手にやった』って、トカゲの尻尾切りすることが多い。まともな回答が返ってくりゃいいんだが」

「最近、国と連携することが増えたんです。顔見知りになった騎士団の人と、宗教団体について情報交換をしますから尻尾を掴めるかもしれません」

職員が弾んだ声で言った。

ギルドマスターはため息を吐いた。

「フォンが額につけているサークレットに、盗聴の術式が刻まれてるらしい」

「え?」

フォンはますます不安そうな顔になり、サァラと繋いでいない方の手で額のサークレットに触れた。

「ああ、ここで外すな。あとで、魔術師のところに行って、慎重に外した方がいいんじゃないか」

ギルドマスターが大きな手をフォンに向けて、制止した。

「あ、何ヶ月か前にフォンが長期休暇がほしいって、活動休止したやつ。養い親っていうか、乳母に会いに行ったんだよね?

だからあたいも山の家に戻ってたん」

サァラが俺を介抱してくれた家か。時期がズレていたら、俺は今ごろ生きていないかもしれない。

「……ええ、乳母たちに呼ばれて」

「寝ている間に消耗品の魔石を交換した可能性もあるな。

風呂くらいの短時間なら外しても大丈夫なのか?」

ギルドマスターも詳しいことはわかっていないようだ。

「短時間なら外せます。でも外していると軽い頭痛が……」

「既に体に影響が出ているのか。深刻な事態なのか調べた方がいいな。

こういうときは神殿か? 医者か? 魔術師ギルドか?」

「妖精族の魔道具なので、誰に訊けばいいかというところから調べないと――」

職員が、気の毒そうにフォンを見た。

フォンの顔は真っ白になった。

「その辺の調整がついたら、声をかける。

悪いが、また警備がしっかりしている例のホテルに行ってくれるか?」

ギルドマスターからそう提案された。

「あの、今度は通りに面していない部屋でもいいですよね?

そうしたら、俺、狭くていいんで一人部屋がいいんですけど」

勇気を出して、言ってみる。

「なんでにゃ?」

「ああ、男なら一人になりたいこともあるよな」

ギルドマスターがニヤリと笑った。なんか、誤解されてる気がするぞ。

「いや、申し訳ないんだけど……俺、子どもの頃から一人で過ごしてきたから、人がいるだけでよそ行きの顔になるというか……ちょっと、そういうところがあって」

しどろもどろになってしまう。みんなが悪いとか嫌になったというわけじゃないと、伝えたいのだが。

「要するに、あたしたちといると疲れるってことか?」

ルナに訊かれた。そう誤解するよな。

違うんだって。

「ごめん。誰といても、そういうところがあって……」

「気にしなくてもいいにゃ」

サァラは、獣人でも群れるものと単独行動するものがいると言ってくれた。

「トーマは優しいから人に気を遣ってしまうのね。

逆に、あの鼠女は人に合わせる気が全くないから、人と一緒に行動したがるんだわ。

あの女の図々しさを少し見習ってもいいのよ」

フォンが珍しくトゲトゲした言葉を放った。

サークレットの衝撃で、言葉を柔らかくする余裕がなくなっているのかもしれない。

「そういう性格だから、あたいたちのパーティーに誘ったってのもあるにゃ」

サァラはルナとフォンを見て、「ね?」と同意を求めた。

「そういえば、お試し加入で図に乗った男がいたな。『俺のパーティーだ』って勘違いした野郎」

ルナが嫌な物を思い出したとばかりに、顔をしかめた。

「あいつも、ここの職員にメンバーにどうかって勧められたんじゃなかったっけ?」

職員がふいっと目を反らす。

「どっかの貴族の隠し子だったわよね」

フォンがジト目で追求した。

「ランクが上だって、連携が取れなきゃ雑魚モンスターにやられるにゃ。

あれから男に期待するのやめたよね」

弾丸女子トークに、ギルドマスター、男性職員、俺たちは無言になった。

なんとも手厳しいご意見で。

俺たち男性代表じゃないんだけど……「なんか、すんません」と言わないといけないような雰囲気になる。

こういうぶっちゃけトークを聞かされると、いたたまれない気持ちになる。だから、部屋を別にしたいってのもあるんだよな……。