軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十七話

「……では、こちらが報酬でございます」

ガストンは受付嬢から、硬貨の詰まった袋を受け取る。

ガストンがごくりと唾を呑み込む音が俺のところにまで聞こえてきた。

ガストンは手を袋の中に入れ、一枚の金貨を摘まむ。

ゴードンに睨まれ、舌打ちしながら袋に戻していた。

ガストンは不審気な野次馬達を睨み返しながら、大股歩きで施設の外へと向かって歩く。

ガストンの横を歩くモードンが、俺に目配せしていた。

俺も付いて行った方が良さそうだな。

ガストンが施設を出てから後を追いかけようと考えていると、ガストンの取り巻きらしき連中の数が増え始めていることに気が付いた。

一、二、三……遅れて野次馬の群れの中からも一人の女が飛び出す。あっという間に七人になった。

「さっすがガストン、凄いわ!」

「ガストン兄貴はやっぱちげぇよ!」

「当然だろうが! 俺達のガストンさんだからな!」

口々に持て囃し、ガストンの機嫌を取っている。

意外と普通に人望があるのかもしれない。

実際、ガストンの横暴さは味方につければ力強い。

彼らも上にガストンに立ってもらっていると安心するのだろう。

「で、ガストンさん。とりあえず酔い倒れ亭のオッサンに話を通してきたんですが、どうせなら昼間っぱらから騒がねぇかって! オッサンもガストンさんが活躍したって聞いて喜んでましたぜ」

ガストンの顔色がさっと変わる。

ゴードンが様子を見かね、ガストンと取り巻きの間に割って入る。

「お、おいお前ら。本人の了承も得ずに……」

「ああん? 誰かと思えば、馬鹿兄弟のゴードンじゃねぇか。ただの荷物運びが調子づいてんじゃねぇよ。あのな、ガストン兄貴は、アンタみたいに器の小っちゃい男じゃないんだよ。そんなケチなこと抜かすもんか。ねぇガストン兄貴? ぱぁーっと騒ぎましょうぜ、ねぇ? 騒ぎますよね?」

取り巻き達の視線が一斉にガストンに集まる。

「あ、あ、あ……当たり前だろうが! おら、行くぞお前らぁっ!」

「さっすがぁっ! おら、わかったかゴードン!」

あ、これ駄目な奴だ。

ガストンも一瞬悩みはしたが、本当に一瞬だった。

取り巻き達の手前、威厳を保ちたかったのだろう。

あっさりと了承しやがった。

やっぱりガストンを利用するのは無理な気がしてきた。

「ちょ、ちょっと! おい! おーい! 待て、この……話が……」

ゴードンは叫び、取り巻き達と共に去って行こうとするガストンの肩を掴む。

「うるさぁい! 俺様に指図するなぁっ!」

ガストンは振り払い、よろめいたゴードンの背を掴んで床に引き倒す。

「ま、待てこの……」

ゴードンはモードンに肩を借りて立ち上がり、俺を振り返る。

顔を真っ青にしながら、目線と口の動き、手振りで『俺がどうにかします』と伝えてくれた。

責任を感じているのか、俺と戦ったときのことを思い出していたのか、思いつめた表情をしていた。

ゴードンとモードンは慌ただしく走り、ガストンの後を追っていった。

鬼の形相だった。

ま、任せて大丈夫……なのか?

あのまま使い込まれる未来しか見えないんだけど。

「あれまずくないですか? ど、どうします?」

「どうするって……」

正直、俺が乗り込んでいっても、何もできることはない。

名目上、あの金はガストンが自分の力で掴んだものなのだ。

後でガストンをボコボコにすることはできるが、その頃にはごっそりと金は減っているだろう。

それに酒場に乗り込んでいって宴会をぶち壊す度胸も、俺にはない。

なんか、本当にチンピラ紛いの連中ばっかりでぶっちゃけ怖いし。

「……大丈夫だろう。ほら、ゴードンも任せてくれって言いたげにこっちを見てたし」

「ほ、本当に大丈夫ですかね。メア、ものすごく不安なんですけど」

「ゴードンならきっとこういう揉め事にも慣れてるだろ」

毒を以て毒を制す。

荒くれ者には荒くれ者を仕向けるのが手っ取り早い、はずだ。

適材適所で行こう。

「やっぱりゴードンを引き入れておいてよかったな、うん。それよりさ、報酬金が回収できたらかなり生活資金にも余裕ができると思うんだ。せっかくだから街で色々と買っておきたいっていうか……」

「アベル、ちょっと現実逃避してませんか!? それ回収失敗されたら宿なくなりますよ!?」

結局、万が一を考えて動く、ということで買い物はまた今度にすることにした。

街の中央部にあるクゥドル教の教会に足を運び、その内部に設置されている図書館で時間を潰すことにした。

クゥドル教の教会図書館の利用に制限はなく、オープンな姿勢を取っている。

今すぐガストン達を追いかけても俺にできることはない。

とりあえず今日は調べ物をして、宿でぐっすりと休もう。

明日にはきっとゴードンがバーム鳥の報酬金の回収を行ってくれているはずだ。

クゥドル教はここディンラート王国の国教で、ごく一部の過激派を除いて他教の信者に対しても差別的な目を向ける者はいない温和な宗教だ。

ただ割とはっちゃけた神話が多く、怒り狂って罪人を喰い殺そうとする神を信者が全力で宥めるような話が多かった。

教会図書館なので聖書や賛歌などの書物が主かと思ったが、魔術指南書から冒険記、果ては恋愛小説まで幅広く置かれていた。

むしろ聖書や学術書が隅っこへと追いやられ、大衆向けの小説臭いものが前面に出されていた。

その成果あってか利用者はそこそこ多いようだが、この教会は本当にこれでいいのだろうか。

館内で修道服姿の女の人を見かけたが、机に突っ伏して爆睡していた。

頬の下に敷かれている分厚い本には涎が垂れている。クゥドル教会の聖書だった。

これでいいのかクゥドル教会。ここの神さん短気で陰険って聞いたことあるぞ。

とりあえず俺は、調べたかった錬金術や生体魔術関連の書物を片っ端からメアに机まで運んでもらった。

全部で三十冊ちょっとある。

この分野は奥が深く、調べても調べても底が見えないから困る。

運ぶ手間を考えたら立って読もうかとも考えたが、分厚過ぎて立ち読みしていたら俺の腕が負ける。

「悪いなメア、運んでもらって」

「い、いえ……このくらい……」

さすがに何度も往復したのがきつかったのか、メアは息を切らしていた。

「その……本当に今日中に読めるんですか、これ?」

机に積んだ本の山を見て、メアが若干引いていた。

館内の他の利用者からの視線も痛い。ちょっとマナーが悪かったか。

「いや、こういう本は被っている内容は軽く流して読むのが基本だから。さすがに全部は読まないって」

「そ、そうなんですか。メアにはもうよくわかんないです……」