軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十二話

ゴードンは地面にぶっ刺した斧を一瞥し、鼻で笑う。

「お前みたいにひょろっちいガキ、武器なんざ使う必要ねぇなぁ。右手と左手、どっちか使わないでおいてやろうかぁ? 好きな方を選びな」

ゴードンは首を左右に倒し、ごきごきと鳴らした。

余談ではあるが、首を回して音を鳴らすのはあまりよくない。

ラジオ体操の一環でもあるが、骨の間接に負担が掛かるのだ。俺は前世で病院に運ばれたことがある。

「シカトぶっこきやがって。かっはっはぁ、ビビりすぎだろうがよぉ!」

ゴードンが右腕を大袈裟に振りかぶりながら走ってきた。

「オレはこう見えて、貧民街では一番の力持ちでなぁ。アベルよぉ、冒険者の世界は弱肉強食だってことを、先輩として叩き込んでやるぜ。二度とそれを活かせる機会は来ないかもしれないがなぁ! 悪く思うんじゃねぇぞぉ、オレがやらなきゃ他の奴がやってただけだろうからなぁ」

下手に怪我を負わせず、それでいてゴードンの戦意を削ぐにはどうすればいいか。

やっぱりなるべく大規模な魔術を使うのが手っ取り早いか。

大きいのは、強い。一目でわかりやすい。

「 মাটি(土よ) হাত(手を象れ) 」

俺が杖を振るうのと同時に、ゴードンが右腕を引いて左腕を振るった。

「右かと思ったか? オレは左利きなんだよ。素直に指定してりゃ、そっちしか使わないでおいてやったのに……おわっ!」

ゴードンは、地中から現れた土の壁に跳ね飛ばされた。

全長十メートルの土の手が、ゴードンと俺の間を遮る。

「いつつつ……テメ、やりやがっ……えっ、えっ……お、おい、なんだよ、なんだよこれ」

立ち上がりかけたゴードンが尻餅をつき、その態勢のまま後退った。

ゴードンが斧に手を掛け、そこを起点に立ち上がる。

「 মাটি(土よ) হাত(手を象れ) 」

俺はゴードンの進行を遮る側にもう一本の手を生やす。

ゴードンの動きが完全に停止した。

「どっちの手がいい? 指定があるなら指でもいいぞ」

ちゃんと丁寧に右腕と左腕の区別を作っておいた。

俺は細かいところを気にするタイプなのだ。

「うわぁぁああああああ!」

ゴードンが叫びながら斧を抱え、土の手を叩く。

ばふっと音を立て、土の手に斧が刺さる。だが、当然簡単に斬り飛ばせる太さではない。

ゴードンが土の手に足を掛けて引き抜こうとしたところで腕を大きく曲げ、ゴードンの身体を宙に跳ね上げる。

無防備状態のゴードンを、土の手の人差し指で軽く弾いた。

ゴードンは地の上を転がり、木の根に身体をぶつけた。

このくらいやっておけば大丈夫か。

ゴードンが土だらけの顔を上げる。

左頬から落ちたらしく、真っ赤に腫れている。

「モードン! 術者を射殺せぇっ! それで止まる! 早くしろぉっ!」

「に、兄ちゃん、それは……」

「早くしろっつってんだろうがぁぁぁぁっ!」

完全に頭に血が登っている。

軽く脅せればと思ったのだが、ちょっと怖がらせ過ぎたか。

「う、うう……。お、おい魔術師、止まれ! 少しでも動いたら射る。お前が強いのはわかった。だがこの状態なら、お前が魔法陣を転写している間に撃てる……悪いようにはしないから、一度、杖を捨て……」

「 বাতাস(風よ) ফলক(刃を象れ) 」

俺はモードンへと杖を振るう。

風の刃が、モードンへと飛ぶ。

「う、嘘だろ速すぎる! うあっ!」

モードンが遅れて矢を放つ。

風の刃は矢を巻き込んで地に落とし、モードンが構えている弓に直撃する。木が砕け、屑が舞った。

弓の弾けた衝撃で、モードンがどさりと仰向けに倒れる。

「ひ、な、なな……そんな」

俺は口をパクパクと開閉するモードンから目線を離し、ゴードンへと振り返る。

俺と目が合うと、ゴードンはびくりと身体を震わせた。

「二度と冒険者なんてできないくらい身体ボロボロになっちゃうのは、冒険者やってればよくあることなんだったか。覚悟がないなんて言わないよな?」

すっと杖を持ち上げ、先端の延長線上をゴードンの頭へと合わせる。

ゴードンは大口を開けたまま、杖先を見つめる。

先ほどとは打って変わって、ライオンを目前にした子犬のような目になっていた。

じわり、股の部分を中心に水が広がっていた。恐怖で失禁したらしい。

も、もう十分か。

これだけビビらせておけば、次から絡んでくることはないだろう。

俺はメアに目をやってからゴードンへと視線を戻し、杖を降ろした。

「俺達に、二度と関わってくれるな。それから今回のことは、誰にも言わな……」

「すいませんでした! すいませんでしたぁぁぁあ! 本当にすいませんでしたぁあぁ! 命だけは見逃してください! 命だけはぁ!」

「いや、だから……」

ゴードンは先ほどとは打って変わり、その場で頭を地につけた。

「だって男が実力上の女にくっ付いてるのってダサイし、腹立つし、オレじゃなくても早かれ遅かれ誰かが手を出すと思ったから! じゃあオレがって思っちゃっただけなんですぅ! 脅してみっともなく逃げるとこ晒させてやろうって思ってただけで、骨折ってやろうなんて本気で考えてなかったんですぅ! モードンに弓撃ってって言ったのも、なんか本当に殺されそうだから怖くなっちゃっただけなんですぅ! だってこんなのいるって思ってなかったから!」

か、変わり身速すぎだろ……。

「どうしても気が収まらないというのなら、オレだけで勘弁してください! モードンは、弟はオレと違って気のいい奴なんです! ちょっと主体性のないところがありますけど、オレさえいなかったらもっと他所でも上手く行けるはずなんだ! 他の奴とパーティー組んだって、弟の方は兄と違って協調性あってやりやすいのにとか、後でそんな話が耳に入ってきたりするし! だから、だからぁぁあ!」

ゴードンがガンガンと地面に頭を打ち付ける。

「い、いや、もうわかったからどっか行って……」

「に、兄ちゃん、俺のことそんなふうに……」

目に涙を溜めたモードンが、ゴードンへとよろよろと歩み寄っていく。

「ごめんよ弟よぉ! こんな最後まで駄目な兄でよぉ!」

わんわん泣き喚きながら、ゴードンとモードンは強く抱き合った。

……俺のいないところでやってくれないかな。