軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二十八話 ゼシュム遺跡⑲

世界を支配しようと目論んでいたエベルハイドの野望は、ほとんど誰にも知られぬまま、ひっそりと幕を閉じた。

ウェゲナー率いる調査隊達が目を覚ました頃には、すべてが終わった後だった。

瓦礫の山と化した遺跡を見て、ウェゲナーは卒倒していた。

この人も大きな仕事だとはりきっていただけにショックが大きいのだろう。

もっとも、エベルハイドの比ではないだろうが。

ウェゲナーが落ち着いてから、メアが今回の顛末をウェゲナーに説明してくれた。

「それでですね、遺跡がぶぉーんと飛んで、ぐわーんとなって、アベルがばーっと行って、がーっと光って、どかーんばーんです! 本当にもう、遠目で見てても凄くて……もう、もう……!」

「おい、通訳を呼んで来い」

……遺跡を壊した犯人にされては敵わないので、そこだけはきっちりと説明し直しておいた。

エベルハイドが催眠魔法を使ったこと、ゴーレムで全員を運び出したこと、遺跡が飛んだこと、無事に撃ち落としたこと。

「いやはや、困りものであるな……このウェゲナーに取り入ろうと、手柄の誇張なぞ……」

……説明し直したのだが、遺跡を撃ち壊した件については、信じてもらえなかった。

当事者であるエベルハイドも残骸を見ながら虚ろな目を浮かべているばかりであったため、適当に誤魔化しておくことにした。

まぁ、下手に要塞を壊したのを信じてもらっても、そっちはそっちで後々厄介なことになっていた可能性もある。

これで良かったのだろう。

ただ……ゴーレムを持ち帰れないのは痛かった。

馬車にも乗せられないし、下手に起動すれば条例に引っ掛かるらしい。

「どこまで法螺なのかは知らぬが、私が倒れていた間にゴーレムを動かしたというのは、見逃しておいてやる。本来ならば、危険人物として牢に繋いでいたところですぞ! 私の寛大な心に感謝するがいい!」

……結局、領主権限で押し切られ、ゴーレムは、ウェゲナーが日数を掛けてすべて回収することに落ち着いた。

領主から任されていたのに遺跡が粉砕、手柄がなしではウェゲナーの立場も危ういのだろう。

エベルハイドもかなり財政的な支援を受けていたようではあったし。

ただこっちもあれだけあってリターンなしというのは辛いので、ウェゲナーの目を盗み、遺跡の残骸から有用そうな鉱石やらをこそこそといただいておくことにした。

ウェゲナーの気を逸らすのは、調査隊員のアレンが手伝ってくれた。

数日掛けてロマーヌの街へと帰還した俺達は、冒険者支援所へと向かった。

遺跡や道中で討伐した魔獣の部位を換金してもらうためだ。

俺達が持って来たものは、ハウンドの毛皮、スーフィーの尾、ホブゴブリンの耳だ。

スーフィーやホブゴブリンを倒したのは主に調査隊員だったが、ウェゲナーに隠れてこちらにすべて譲ってくれた。

グリフォンも遺跡から運び出しておくべきだったなと、今更ながらに思う。

あれはもう、瓦礫の下敷きだ。

危険度B級の魔獣は桁違いの報酬がもらえたそうなので、惜しい。

「討伐報告書はパーティーリーダーが書くのが普通なんだが、どうする? アベルが書きたいのなら譲るが……」

「よくわからないし、マイゼンが好きにやってくれ」

討伐部位を換金してもらうためには、レポートを書く必要があるそうだ。

冒険者にはスラム育ちも多いため、字が書けない人相手に指導したり、代筆したりで小銭を稼ぐ人もいるのだとか。

「いいのかい? 報告書の内容によって、冒険者の昇級を左右するんだよ。審査の緩い、下位級だと特にね」

マイゼンの話によれば、パーティーリーダーが自分優位に好き勝手書くのが割と定石らしい。

E級、F級の寄せ集めではリーダーがいないと成り立たないようなパーティも多いらしいので、リーダー絶対になりがちなのだろう。

「別に、今のところF級で問題ないからなぁ……。具体的な目標ができたら、そのときに上げようかな」

「……軽く言ってくれるね。確かにキミなら、どうとでもなりそうだけどさ。じゃあ僕が書くから、チェックだけ頼むよ」

「はいはい! メアが! メアが書きます! こういうの、なんだか憧れてたんです! 字はちょっと怪しいですけど、代筆してくれたら……!」

「それじゃあ任せたぞマイゼン」

悪いが、メアの表現力不足は確認済みだ。

任せていたらレポートの半分が擬音語で埋まりかねない。

素材として使えるのがハウンドの毛皮程度で、スーフィーの尾やゴブリンの耳は、討伐の証明以上の意味合いはほとんどないらしい。

報酬が出るのも、魔獣を減らすことで直接治安を良くする……というよりも、冒険者の支援を行い、人数を維持するため……というのが主目的のようだ。

今回狩った魔獣は、特に討伐要請が出ていたわけでもない。

領主からの特別報酬も期待できない。

調査隊の頭であったウェゲナーも、あまり俺達にいい印象を持っている様子はなかった。

一つ一つはさした値にはならないかもしれないが、数は多いため、とりあえず元は取れた、といった程度だった。

休憩所で、取り分について話し合った。

報酬金から食糧や馬車代などの経費を引き、その額を三等分することで落ち着いた。

ひとり頭、十万Gちょっとといったところだ。

調査隊がホブゴブリンの耳をこっちに流してくれなければ大赤字だった。

ただ討伐に関しては俺もメアもほとんど何もしていないので、思うところはあったが……マイゼンに押し切られる形で受け取った。

正直、助かった。これだけあれば、とりあえずしばらくは安泰だ。

「それじゃあ、メアの分はアベルに渡しておきますね。メア、何もしてませんし」

マイゼンと別れてから、メアが金の入った小袋を俺に渡そうとしてきた。

「いや、むしろ借金分あるから、俺の分の報酬回収しといてほしいくらいなんだけど……」

「あれは別に返さなくていいですよ? ほら、これは共同財産だとでも思って、アベルが管理してくれれば……」

メアはにこにこと笑みを浮かべながら、小袋を突っ返そうとする俺の手首を掴んだ。

意外と力が強い。

「でも……ほら……」

「そんな焦って清算しようとしなくたっていいじゃないですか。メア、お金の使い方とかよくわかりませんから、アベルが持っておいてください。ね? ね?」

「そ、そうか……」

目が笑っていない。

やだ、この娘ちょっと怖い……。

今度あの行商人、ジェームと会ったら、相談してみた方がいいかもしれない。

配分がひと段落ついたところで、背後で話している男女の声が耳に入ってきた。

「なぁ、聞いたか? ほら、あの結界遺跡の話」

「んーあんまし知らない。なぁーんか、爆発したんだっけ?」

柄の悪そうな二人組が、ゼシュム遺跡の話をしていた。

つい口を止め、声の方へと聴き耳を立てる。

「領主の雇ったエルフが遺跡を独り占めしようとした挙句、盛大に自爆したんだってよ。今、牢獄だって。馬鹿だよな」

「うっわー……欲掻いた挙句に誰も得しないって最悪な奴じゃん……。エルフってもっと賢いイメージあったんだけどなぁ」

……聞いていていたたまれなくなったので、俺はそっと意識から外した。

エベルハイドの一件は、強欲エルフの暴走として処理された。

そのおかげでエベルハイドは死刑を免れたようだったが……どちらが良かったのかは、正直わからない。

恐らく、エベルハイドが死ぬまでこの風評はついて回る。

種族に誇りを持っているエベルハイドが、これに耐えられるのだろうか。