軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二十七話 ゼシュム遺跡⑱

俺はエベルハイドを追いかけるため、マイゼンと共に獣型ゴーレムへと跨っていた。

顔を上げれば、遺跡が浮遊して真っ直ぐにロマーヌの街へと向かっているのが見える。

最初は単独で行くつもりだったのだが『どうしても見届けたい』とマイゼンに頭を下げられ、彼も連れて行くことになった。

ロマーヌの街には、マイゼンと喧嘩別れした二人組がいる。

彼らのことが気掛かりなのだろう。

「アベル、もっとスピードは出せないのか! このままだと、追いつく頃には街につくんじゃ……」

「む、無理だ……」

俺は口を押さえながら、ゆっくりと首を振る。

「そ、そうか……そう、だよな」

マイゼンががっくりと首を項垂れさせる。

「これ以上スピード出すと、吐きそう……等速運動を崩したくない……」

「じゃあ大丈夫じゃないか! た、頼む、アベル! あれが、あれが街に行ったら……。なんなら吐いてもいいから! 僕が手で受け止めてやるから!」

それで何が解決するんだ。

損する人間が増えるだけだぞ。

俺は自分の側頭部を叩き、喉を撫でる。

ちょっとは落ち着いてきた。そろそろ再加速しても大丈夫か。

これ以上スピードを出すのは獣型ゴーレムにも負荷が掛かりそうだが……どの道、ヒディム・マギメタルが分散すれば壊れる宿命だ。

その点に関しては惜しくない。

「……しっかり捕まっといてくれよ」

「わかった」

俺が杖を前方へと振るうと、獣型ゴーレムが一気に加速した。

みるみるうちに空を飛ぶ要塞との距離が縮まって行く。

俺とマイゼンは背を前傾に倒し、獣型ゴーレムの背に貼り付いた。

「す、すごい! このペースなら、すぐに追いつ……」

向かい風に、俺の手が浮く。杖が飛んでいきそうになった。

慌てて手を伸ばし、なんとかその後を追って上体を起こし、掴む。

ほっとしたのも束の間、今度は俺の身体が浮いた。

「アベルゥゥウウッ!?」

マイゼンがどうにか、飛行中の俺の手を握って喰い止めてくれた。

しかし風にもみくちゃにされ、前後上下がまったくわからない。減速の指示を出す猶予もない。

どうにかマイゼンが引き上げ、獣型ゴーレムの背に叩き付けてくれた。

「あ、ありがとう……本気で死ぬかと思った」

「僕も、本気でもう駄目かと思ったよ……」

落ち着いたときには、すでに要塞がほとんど真上にあった。

追い抜かないよう、獣型ゴーレムを減速させる。

「 তুরপুন(錬成せよ) 」

俺は杖を振るい、詠唱する。

空気からヒディム・マギメタルの金属球を生み出した。

屋外なら、規模を制限する必要はない。

獣型ゴーレムに叩き込んだときの倍の直径にしてやった。

自重なしで思いっきり飛ばし、浮上要塞へぶち込んだ。

金属球は要塞に当たる直前で、透明色の何かに当たった。

自動展開型の結界だ。

だが、問題はない。

すぐに空間に罅が入り、結界が崩壊する。そのまま金属球が要塞に衝突した。

結界に攻撃が通るか少し不安だったが、この様子ならばどうとでもなりそうだ。

「や、やったんじゃないのか?」

「……あの結界、自己修復型か」

俺の呟きに、マイゼンが息を呑む。

「自己修復? 僕にはよくわからないんだけど……それ、まずいのか?」

いらない不安を与えてしまったようだ。

きっちりと説明しておかなければ。

「ああ、大丈夫だ。あのペースなら、結界が完全修復までのスパンは十五秒といったところか」

「た、たったの十五秒!? そんな……」

「そうだ。十五秒も掛かるのなら、今の状況だとないのと一緒だな」

「え!? そ、そうなのか?」

「そりゃだって、戦闘中に十五秒間武器と防具捨てて棒立ちでいたら、間違いなく死ぬだろ。多分あの修復機能は、戦闘中に回復することを目的としてないんじゃないのかな」

「そ、そういうもの……なのか? 僕は魔術に詳しくないからよくわからないんだが、それでも絶対に違う気がするんだが。だって……十五秒……」

何が引っ掛かっているのか、マイゼンは頭を押さえてぶつぶつと呟いていた。

俺が首を捻ると、マイゼンは何も言わなくなった。

とりあえずは納得してくれたようだ。

連続的な自己修復を売りにするのならば、数発の攻撃では破れない強度か、連続的な攻撃をすべて防げる程度の修復速度がなければ意味がないだろう。

実戦経験のない俺でも、その程度のことはわかる。

あの要塞なら、金属球を撃ち続ければ落ちる。

他の魔導要塞なんて見たことがないから何とも言えないが……案外、戦闘用ではないのかもしれない。

要塞に何か動きはあるかと観察していると、屋上にエベルハイドがいるのが目に見えた。

向こうもこちらを睨んでおり、目が合った。

「エベルハイド、降りてこいっ!」

叫んだが、反応はない。

この距離だ。聞こえるわけなど、元よりない。

浮上要塞のあちこちが開き、大砲が出て来る。

一面にずらりと砲台が並ぶ様はなかなか圧巻だ。

完全に、攻撃態勢に入った。

要塞の頂上に立つエベルハイドが、俺に手を向ける。

全ての大砲が、俺に狙いを定めた。

俺は説得を諦め、ヒディム・マギメタルを錬金するために十の魔法陣を浮かべる。

「 তুরপুন(錬成せよ) 」

俺が一発目の金属球を放ったのと同時に、浮上要塞の砲台から光の弾が放たれる。

金属球は光の弾を打ち消しながら突き進み、修復されたばかりの結界を叩き割った。

次の自己修復が完了するまでの十五秒で、一気にケリをつけてやる。

残る九の金属球を撃ち出し、新たな魔法陣を浮かべる。

撃ち出すのに狙いは特につけていない。

金属球は浮上要塞の壁にめり込み、貫通する。大砲を次々に拉げさせていった。

要塞のあちこちから煙が上がる。

こちらに弾は飛んでこない。

ヒディム・マギメタルは、すぐ作れてすぐ消える金属だ。

毎度毎度用意しなければいけない代わりに、その時々に合わせて性質をある程度変えることができる。

今回のヒディム・マギメタルは、魔力を引き寄せる性質を持っている。

その結果、浮上要塞の放った魔力の弾丸はヒディム・マギメタルに引き寄せられて衝突し、すべて分散している。

そこまで強い吸引力を持っているわけではないのだが、向こうがこっちを狙っている状況であることも手伝い、効果は抜群だ。

浮上要塞の頂上にいたエベルハイドの姿が見えないと思ったら、腰を抜かしたのか倒れ込んでいるらしく、縁に乗せている手の端だけ確認することができた。

浮上要塞を壊しきれなかったときの策も幾つか練っておいたのだが、いらない心配だったか。

思ったよりあっさりと片付きそうだ。

「アベル……キミは、どこまで……」

マイゼンは口を半開きにしたまま崩れていく浮上要塞を見上げていた。

そろそろ浮上要塞が落ちてきそうだなと考えていると、突如、辺り一帯の空気が変わった。

浮上要塞の下部が裂け、巨大な水晶が姿を現した。

水晶が怪しげな紫の光を放ち始めると、ビキビキと甲高い音が鳴った。

「あ、あれはいったい……」

「……俺も初めて聞いたけど、精霊が力を使い果たしたときに出す音じゃないか。本来は人間には拾えない小さな音だけど……夥しい数の精霊が同時に崩壊を起こしたら、ああいう音が鳴っても不思議じゃない」

恐らく、あれが神の矢の発射台だ。

巨大な水晶からレーザー状の魔力の塊を撃ち出すのだろう。

あれは金属球では壊せない。

操縦者であるエベルハイドを止めれば……いや、要塞の構造によっては、一度命令が出されてしまえば、操縦者の意識を奪っても止まらない可能性がある。

俺は魔法陣を浮かべた後、杖を投げ捨てて空へ手を翳す。

「お、おい、アベル! 杖がないと……」

元より、杖は精度を高めるためのものだ。

威力だけを重視するのならば、ない方がいい。

「 শিখা(炎よ) এই হাত(球を象れ) 」

俺の手に大きな炎が浮かび上がり、それがどんどん圧縮されていく。

小さくなったらまた炎を足し、圧縮する。やがて真っ白な、光の塊になった。

俺が風邪を引いて頭痛に魘され世界を本気で恨んだとき、知識を総動員させ、何かに掻き立てられるように編み出した魔法陣だ。

理論上、これで何でも壊せる。正直、一生使うことはないだろうと思っていた。

これが多分、現時点で俺の出せる本当の最大威力になる。

空へ向け、真っ直ぐに撃ち出した。

俺が放ったのと同時に、神の矢の発射台である巨大水晶が、カッと強く光った。

視界が眩い光に覆われ、何も見えなくなる。

大きな爆音が響き、大地が揺れる。

巨大水晶が粉々になり、浮上要塞が罅だらけになり、砕け散った。

「 প্রেত(光よ) আঁকা(描け) 」

杖を放り投げてしまったので、魔法陣を描くための呪文から唱えなければならない。

「 বায়ু(風よ) বহন(運べ) 」

風の塊を天に撃ち出し、瓦礫を掻き分けさせ、自分達の上に落ちてこないようにした。

そのまま落下中のエベルハイドを回収し、獣型ゴーレムの後ろに優しく乗せた。

「お、おい! こいつを生かしておくのか!」

「……これからエベルハイドをどうするかは、街の方に委ねる」

エベルハイドがどう思っていたのかは知らない。

それでも俺は、エベルハイドのことを魔術について語り合える友だと、そう思っている。

自分の手で殺す気にはなれなかった。

「生かしておいたら、また何か悪いこと……は、確かに出来そうには見えないが……」

エベルハイドはぐったりとしており、生気のない目で浮上要塞の残骸を見つめていた。

あれが、彼の全てだったのだろう。

俺は間違ったことをしたとは思わない。

あのままだったら、ロマーヌの街は消滅していただろう。

それでもエベルハイドの憔悴しきった顔を見ていると、少し心が痛む。