軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

九話

無事に魔力紋を登録し、冒険者証明書を発行してもらった。

冒険者証明書は登録者名と冒険者のランク、登録日を記しただけの、小さなカードだった。

登録してある魔力紋と同一の魔力を流せば光るため、これで本人の確認になるらしい。

俺は冒険者証明書を軽く指で弾く。そう複雑な術式は組まれてはいなさそうだ。

ちょっと分解して調べれば簡単に偽造できそうだ。

もっとも冒険者支援所でも控えのデータは取っているそうだから勝手なことをしてもすぐバレるだろうし、冒険者証明書の偽造は結構重罪で牢にぶち込まれるらしいので、そんなことはしないが。

……しかし、興味本位で一枚くらいは作ってみたい気もしないではない。

作ってからすぐ燃やせば足がつくこともないだろう。

「あの、アベル……どうして、別の名前で登録したんですか?」

「別に問題ないみたいだったから、つい出来心で……」

俺の冒険者証明書には、しっかりと『ヤマサン・マウンテン』と刻まれていた。

手続き自体は簡単だったし、ややこしい本人確認の類もなかった。

必ずしも本名で、なんてことも特に言われなかった。別に問題はないだろう、多分。

「なんだか後々面倒臭いことになりませんか、それ?」

「大丈夫大丈夫。そうそう人前で出すこともないだろうし」

せいぜい受付のお姉さんが俺の名前を山さんだと思うだけだ。

「まぁ、いいんですけど……でも……なーんか、変な名前ですね」

こうあれこれと言われると、やっぱり軽率だっただろうかと思ってしまう。

よくよく考えてみれば、俺が功績を上げれば貴族の間に山さんの名が広がるわけか。

それはそれで面白い気もするが、確かにごたごたを招きそうな気もしないでもない。

まぁ、別に貴族お抱えの魔術師になるつもりもないし大丈夫か。

借金返せて生活に困らなければそれでいい。ランクだってそう上げるつもりはない。

貴族と聞くと、傲慢で我が儘でケチで暇でドスケベなイメージがある。

こう『ぐへへへへ』とか笑ってそうだ。完全に偏見だが。

「俺の恩人の名前なんだよ、山さんは」

「そうなんですか?」

「俺が魔獣から袋叩きにされているところを助けてもらったこともある」

「アベルを袋叩きにするような魔獣から!?」

「ああ、あのままだと間違いなく死んでいたな。一瞬で俺の周囲の魔獣を焼き払い、死にかけの俺を全回復してくれたんだ」

ただし、オンラインゲームの中での話だが。

「凄い魔術師なんですね……」

「俺が世界で、いや、全次元で一番尊敬している人だ」

山さんは別世界の人間だから、世界の枠では足りない。

山さんは偉大なのだ。

「そうだったんですか……それで、名前を借りようと……納得が行きました」

それは正直ただの悪ふざけだったが、黙っておこう。

前世でちょっと変わった苗字だったこともあり、こういった場で本名を名乗ることをつい躊躇ってしまう。

確かあの頃も山さんからはよく名前をお借りしていたものだ。

もうとっくに抜けた癖だと思っていたが、まさかそれが今更顔を出すとは。

後々を考えて 本名(アベル) で再登録した方がいいのではないかとまで思ったが、魔力紋が押さえられているのでそれもできない。

魔力紋は重複登録を避けるためのものだったのだろうか。

まぁ、このままでいいか。

ちょっと楽しくなってきたし。

山さんが世界で一番有名な魔術師となるよう、日々精進しよう。

「そのヤマサンさんもマーレン族の方なんですか?」

なんだかおかしな名前になってしまった。

俺は今世では集落からは出ていないし、マーレン族だと言っておいた方が自然か。

「まぁ、そうなるよな」

「ほぇー……やっぱり、マーレン族って皆強いんですねぇ」

メアは無邪気に感心していた。

今後の計画を練るため、冒険者支援所の休憩所に移動した。

地図を机いっぱいに開き、新聞の情報と照らし合わせながら手頃な狩り場を探す。

新聞によれば、ロマーヌの街から北に位置する森林はF級、E級の魔獣が多く、新人にとって手頃な狩り場となっているらしい。

ただ最近ユニコーンの 魔獣災害(モンスターパニック) があったばかりなので、その生き残り狙いの中堅冒険者が集中しているそうだ。

金儲け狙いの連中が集まれば、それだけ揉め事も起きやすい。

しばらく新人は避けた方がいいと、そう書かれていた。

他には……廃城エルトネナ、これなんかは手頃そうだ。

廃城エルトネナはただの廃墟ではなく、ダンジョン扱いされているらしい。

洞穴や古い建物なんかに悪魔が住み付き、特異な魔獣が発生しやすくなった場所をダンジョンと呼ぶのだそうだ。

ダンジョンからは魔法具の部品、またはエネルギー源として優秀な魔石が多く取れる。

あまり市場にも出回らないような高価な魔石が見つかったりもするかもしれない。ぜひ行きたい。

ただ、廃城エルトネナへ向かうためには往復で四日は掛かりそうだ。

人と馬車を雇わなくてはならない。

金銭的に厳しい。それに金銭面をメアに依存している身としては、あまり経費の掛からない手段を取りたい。

「アベル、そこに行きたいんですか?」

俺が新聞を握り締めて皺を作っていると、メアが後ろから覗き込んできた。

「うぉっと!」

俺は新聞をさっと後ろへ隠す。

さっきまで正面に座っていたはずなのに、いつの間にか回り込まれているとは。

集中していて気付かなかった。

「い、いや、他の場所にしよう」

「お金なら気にしないでください! いざとなれば、メアの角を売れば多少の値にはなるはずです。魔法具の素材になると、そう聞いたことがありますから」

「他の場所を探そう」

額の石に続いて角まで取っ払ってどうするつもりだ。

冗談にしても笑えないぞ。

本気じゃない……よな、さすがに。

しかし、移動費が掛かるのは困ったものだ。

下手に遠出すれば、経費を差し引いたら赤字になるかもしれない。

きっちりと計算してから動かなければ。

一番近いのは森だ。ここならば、交通費は掛からない。

ただし、他の冒険者との厄介ごとを覚悟した上で挑むことになりそうだが。