軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三話

がたごとと、荷馬車が揺れる。

俺は麻袋の山の上で、周りの景色を見回していた。

「いいな、馬って。俺もなんか、馬車がほしくなってきたわ」

長い鬣、整備された毛並み。

ずっしりと長い脚。

前世では、テレビで適当にチャンネルを回しているときにたまたま競馬で見るくらいだった。

そのときは馬刺しを喰ってみたいなくらいの感想だったが、実際に見るとやっぱり憧れる。

来世は馬がいいかもしれない。

ぼうっと馬を眺めていると、背に何かがぶつかった。

振り返ってみると、メアが両手に麻袋を掴んでいた。

多分、俺に麻袋を投げたのだろう。

そろそろジェームが泣くぞ。

「その髪と目、マーレン族ですよね? なんであんなところに?」

「えっと……まぁ、家出だな。ちょっと風習と価値観が噛みあわなくて」

「へぇ、メアと一緒ですね。メアも家出して来た口でして」

「なんだずっとジェームさんと二人旅してたのかと」

まさか道中で家出仲間ができるとは思わなかった。

この辺りで家出ブームでも起きようとしているのかもしれない。

「いえいえ、メアがジェームさんと会ったのはつい一週間ほど前ですよ。メアの村にたまたま来てたので、そのまま泣きついて連れてってもらったんです」

メアが手に掴んだ麻袋を振りながら、そう答える。

そろそろそれ手から降ろせよ。こっちに投げる気じゃないだろうな。

「やっぱり村の風習が合わなかったとかか?」

「うーん、なんといいますか。ほら、ここ」

メアは右手の麻袋を降ろし、自らの額を指で示す。

「メアはドゥーム族の生まれなんですけど、なんか額に魔力結晶ついてないとマズいらしいんですよ」

思い出した。

ドゥーム族、本で読んだことがある。

二本の角を持っており、額にクリスタルがついているのが特徴だ。

その性質は極めて厄介で、魔力が高く、好戦的で加減を知らない残虐な種族だと本には書かれていた。

つまりは、好奇心旺盛で調子乗りが多いということだ。

本にはちょっと印象が悪めに書かれていたが、それは恐らく、ドゥーム族が王都に攻め入ろうとした時期の書物だった。

五百年前、ドゥーム族は大胆不敵に宣戦布告を行ってから少人数で王都に突撃しようとし、道中でトップの首が取られて無事に騒ぎが治まったとされている。

要するに、調子乗りのアホだ。多分、その認識で間違いない。

なかなか何の種族だったか思い出せなかったが、額の魔力結晶がなかったせいで特徴が一致しなかったせいだろう。

「で、デコについてるはずの奴はどこにやったんだ?」

「母親が妊娠中に転んだそうなので、多分そのときに剥がれたのでしょう」

「そんなもんで剥がれるのか!?」

「割と簡単に。瘡蓋くらい簡単に剥がれますから、あれ。ドゥーム族の誇りなんで、自発的に剥がす人はいませんけど。一度剥がしたら、もう一生生えてきません。メアは生まれながらにして誇りを奪われていたわけですよ」

冗談かと思っていたが、顔がマジだ。

よくわからないが、ドゥーム族の額の結晶はクワイの芽みたいなものらしい。

別にあったからどうだってものでもないし取れやすいけど、やっぱ縁起悪いよね、みたいな。

「それでまぁ、メアはなかなかぞんざいな扱いを受けてきたわけですよ。他所からだけならまだしも、父も母も兄も、メアのことを石無しだと。もう、あんたが産んだんですよって言い返してやりたくなりますよ」

言いながら、メアは手の中の麻袋をグーで殴る。

ぼふっぼふっと音が鳴る。

ちょっとジェームさん、止めてやってくださいこの人。

その内麻袋破れますよ。

「……で、通りかかったジェームさんの荷馬車に転がり込んで逃げることにしたのか?」

「端折って言うとそんなところですかね。なんかメアの生まれたタイミングもちょっと悪かったそうで、あんまりずっとここにいたらヤバそうかなって。そんで母親のへそくり掴んで逃げてきてやったんですよ」

メアは自分の足許から小袋を指で示す。あれが母親のへそくりらしい。

生まれたときから村ぐるみで嫌がらせを受けていた割には飄々とした奴だ。

「…………」

当人はさほど気に掛けていなさそうな表情ではあるが、やっぱりこう、ちょっと気を遣ってしまう。

なんと返せばいいものか。

少なくとも、このタイミングで『妹と結婚させられそうになって逃げてきたら乗り物壊されてた』なんて言える気がしない。

なんだか自分が小さく思えてきた。

メアはぽりぽりと頭を掻く。

「……ん、なんか、重い感じになっちゃいましたね。もう終わったことですよ終わったこと。これからメアは母親のへそくりで街で豪遊してやると決めているので、むしろ明るい話ですよコレ」

メアは手に持っていた麻袋をこっちへ放り投げてきた。

避けるわけにもいかないので、俺は手で受け止める。

「ほら、ほらっ! 投げ返してきてくださいよ」

少し躊躇ったが、メアなりに重くなった空気を払拭しようと考えているのかもしれない。

ここは乗っておこう。

俺は麻袋を投げ返した。

「おっ、ナイスボールです。ところで、アベルはどうして家出を?」

またメアが投げてくる。

俺はキャッチし、投げ返す。ちょっと楽しくなってきたぞ。

「いや、まぁ、だから価値観の違いというかな」

また投げられてきた麻袋を掴む。

投げ返そうとしたところで、また次の麻袋が飛んできた。

俺は手を翳して魔力を加え、麻袋の勢いを殺して前に落とす。

「まぁ、言いたくなければ仕方ありません。マーレン族がたった一人で村を出るなんて、よほどのことがなければあり得ないそうですからね」

段々とメアの投げてくる麻袋の速度が上がってきた。

俺はなんとか魔力で勢いを殺し、手前に落としていく。

「なんだ、他所様からはそんなに内向的に見えるのか俺の民族は」

「いえ、マーレン族は基本的に神経が細くて適応能力がないので、単独で集落を離れるとホームシックで最悪死ぬと噂されていましたから」

「えっ」

風邪にもホームシックにも弱いのか。

マーレン族、ちょっと心身ともに弱すぎないか。

「それ、隙ありっ!」

戸惑っている俺に対し、メアが振りかぶって麻袋を投げつけてきた。

「あ! 卑怯、ちょっと……」

麻袋は俺の顔に当たり、そのまま後ろへと飛んでいった。

地味に痛かった。

「やりやがったな。ここからは戦争だぞ。本気で行かしてもらうからな」

俺は懐から杖を取り出す。

風魔法で飛ばせば、麻袋で時速300kmを叩き出せる自信があるぞ。

「どーぞどーぞ。望むところです」

がたり、荷馬車が止まった。

ジェームが冷たい目でこっちを振り返っていた。

す、すいません、ちょっと調子乗ってました。

今すぐ取ってきます。