作品タイトル不明
百話 事の顛末⑤
クゥドル、ペテロとの対談が終わった翌日、俺は早速ファージ領を出て、マーレン族の集落へと向かうことにした。
ラルクや錬金術師団にしばらくの別れを告げ、メアと共に村の広場へと移動する。
既にエリアの馬車が待っていた。
見送りには村の人間が大勢出て来てくれた。
ただ、そこにペテロの姿はなかった。
既にファージ領にいないのかもしれない。
ペテロは世界戦争の後始末で忙しいようだし、自身の引退のこともあり、何かとやることが多いのだろう。
もう会うことはないかもしれないと思うと少し寂しくもある。
「いや、アベル君、しばらく寂しくなるね……。でも、いつかまた帰って来てくれるんだよね? いつでも錬金術師団の団長の席は空けておくよ」
「ありがとうございます、ラルクさん」
俺はラルクと握手を交わす。
マーレン族の集落とファージ領を、気軽に行き来できる方法があるといいんだけどな……。
あんまり頻繁に、大型兵器である木偶竜を飛ばすわけにもいかないし……。
ペテロも他領の貴族や王家を挑発することになりかねないのでなるべくやめて欲しいと言っていた。
転移魔術も、あまりの長距離は現実的ではない。
ふむ……何か、いい手があればいいのだが。
また考えておくとしようか。
来てくれた人達の方を眺めていると、大男の姿があった。
収集家である。
酒場『小人の隠れ家』のエプロンをつけていた。
傍らには酒場の看板娘、エーラが笑顔で立っていた。
「い、いたのか……」
「メアも絶対来ないと思ってました……」
俺達が二人して意外そうに見つめていると、収集家がムッと眉を顰めて睨み返して来た。
「来ては悪いか? 貴様の顔など見たくなかったが、エーラがどうしても見送りたいと言っていたのでな」
収集家がワシワシとエーラの頭を撫でる。
「ちょ、ちょっとシュウさん、力強いです! 髪も乱れるからやめてください!」
エーラが顔を赤くして、バタバタと手を振り回した。
……仲が良さそうで何よりだよ。
というか、ゴロツキから従業員に出世していたのか。
あのムキムキの身体絶対無駄だろ……。
人間の範囲なら、間違いなくフィジカル最強だろうに。
「アベル君、名残惜しいけれど……そろそろ向かった方がいいよ。今は他の団員が研究所に引き付けてくれているけれど、アルタさんもすぐ嗅ぎつけて来るだろうから」
「……そうですね」
俺はラルクの言葉に頷く。
俺が帰ると知れば煩いだろうと思い、アルタミアには俺の帰郷は黙っているのだ。
「待ちなさいアベルゥウウウ! どこ行くつもりよ!」
……そのとき、丁度遠くからアルタミアの怒声が聞こえてきた。
俺は驚いて肩を上下させた後、ラルクと皆に小さく頭を下げる。
メアに腕を引かれて慌ただしく馬車へと乗り込んだ。
「エリアさん、すぐ出発してください!」
馬車が動き始める。
俺がそっと馬車から顔を出すと、アルタミアが地面のスレスレを浮いて後ろから追い掛けて来ていた。
アイツ、自分が人工精霊だって隠すつもりあるのか!?
アルタミアは涙目で手にした 魔導携帯電話(マギフォン) を振り回す。
「待ちなさいよおおおおお! どうするのよっ! 魔力波塔と 魔導携帯電話(マギフォン) !」
「そ、その内、その内また帰ってくるから! そのときに何とかするから!」
「楽しみにしてたのに! 完成楽しみにしてたのに! せめて魔力波塔を簡易でも完成させてから行きなさいよおおお! そうしたら連絡も取りやすくなるのに!」
「無茶言わないでくれ! 魔力波塔はぶっ壊れちゃったんだから! 作り直すには滅茶苦茶時間が掛かる上に、資材も資金も足りてないんだよ。気長に待ってくれ」
「やだああああああああっ!」
……そう、魔力波塔はアベル砲を放った際に壊れてしまったのだ。
残念なことに。
確認した俺もびっくりした。
正に木っ端微塵になっており、魔力波塔の一部らしきものも全く別の物質へと変質していた。
あの一発のために魔力波塔が代償になったと思うと、正直コスパが悪すぎて俺も引く。
後から追い掛けて来た錬金術師団の面子が、アルタミアへと背後より飛び掛かって彼女の身体を押さえ付けた。
「な、何するの! 放してよ、放してよおおおお!」
アルタミアが子供の様にジタバタと足掻いている。
残念ながら、人望があったのは俺の方だったらしいなアルタミア。
団長の地位は伊達ではないということだ。
「許してくださいアルタさん……! せっかく団長さんがしばらく帰郷して不在になってくれるんです!」
「俺達もゆっくりやっていきたいんです!」
「正直、魔力波塔建設の重労働をもう一度手伝うのは厳しいです! せめて時間を空けてください!」
団員達はアルタミアへと謝りながら、そんなことを口にしていた。
「……んん? 何か違うくない?」
……もっとこう、あるのではなかろうか。
団長の里帰りを邪魔したくない、とか、こう……。
俺は馬車から身を乗り出し、アルタミアの泣き喚く姿が遠くなっていくのをぼうっと眺めていた。
アルタミアの姿が見えなくなってから俺は馬車へと頭を引っ込める。
「……ちょっと可哀想でしたね、アルタミアさん。余裕ができたら、きっとまた作ってあげてくださいね。メアも国内中と連絡の取れる 魔導携帯電話(マギフォン) を楽しみにしていますから」
メアが苦笑いしながら言う。
俺は「そうだな」と言いつつ首を傾げ、ふと呟いた。
「しかし……なんで魔力波塔が吹っ飛んだのに、アベル砲はきっちり作動したんだろうな?」
「え……?」
メアの表情が凍り付いた。
「いや、正直成功したのに壊れてる意味がわからないんだよ。魔力波塔が壊れてるなら、失敗していて然るべきなんだが。なんで正確にシルフェイムの『赤き夢』を穿てたんだ? なんで世界は無事なんだ?」
俺は顎に手を当てて考える。
しかし、答えは全く見えてこない。
「は、反動とかじゃないんですか?」
「そんな単純な問題じゃないんだよ。おかしいな? 魔力波塔だけ綺麗に粉々になっていたんだぞ? 反動みたいなのなら、最低でもディンラート王国が沈んでいないと辻褄が合わない。本当に理由がさっぱりわからないんだ」
「そ、その話……ペテロさんとクゥドルさんには内緒ですよ?」