軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

九十八話 事の顛末③

「ジュレム伯爵は死んだとして……後の問題は、ジュレム伯爵の起こそうとしていた世界戦争の後始末なのよね」

シルフェイム戦の俺視点の説明は終わり、話題は世界戦争へと移っていた。

……ジュレム伯爵連中は四大国の上層部に入り込んで、あれやこれやと嗾けてくれてたみたいだからな。

本人が不在になっても、完全に毒は抜けきってはいないだろう。

……血生臭い話にはあまり関わりたくないのだが、俺もここまで来て知らない振りはできないかもしれない。

ペテロは俺の表情を見て、俺の考えを否定する様に手を軽く振った。

「いえ、実はこっちの方はどうにかなりそうなのよ」

「あれ……解決しそうなんですか?」

ペテロの説明を聞き、俺は首を傾げた。

正直、もっと長く尾を引くのではないかと考えていた。

確かにジェームとシェイムはクゥドルから身を隠すために、これ以上大国の動向には干渉できなくなったはずだ。

これまでは国の重鎮に分霊を紛れ込ませていたはずだが、その肝心の分霊ももう二体しか残っていない上に、露骨に動けばクゥドルの襲撃を受けて殺されるのはわかっているはずだ。

それに無理にリスクを取って戦争を引き起こしたとしても、決め手がないのでクゥドルの精霊体や魔力を削ることができるとは思えない。

しかしそれでも、これまでジュレム伯爵達はいつでもディンラート王国を中心に戦争を引きこせるように準備を進めていたはずである。

連中がいなくなったとしても、話が簡単に片付くとはどうにも思えなかった。

「リーヴァラス教国は元々アベルちゃんのお陰でメドの支配から脱していたから、既にジュレム伯爵の息は掛かっていないはずなのよ。一応スパイは入れてるけど、妙な動きはないわ。今はサーテリア教皇がトップだけれど、あの子がこっちにちょっかいを掛けて来るとも思えないわ。隣国を安定させるために、サーテリア教皇の統治に、ディンラート王国が力を貸す話だって出ているくらいだもの。それにあの子、アベルちゃんのこと大好きだしね」

ペテロがうんざりした様に言う。

「ははは……」

俺も自身の顔が引き攣るのを感じていた。

サーテリアは偽神メド騒動によってバラバラになったリーヴァラス国民達を纏めるべく、俺をモデルにしたリーヴァイの使徒をでっち上げて新たな教派を示すことで国を纏めることに成功している。

その一環としてか、どうしても俺をリーヴァラス教国に招き入れようとしているらしく、あの手この手で俺へとお誘いの手紙を送りつけて来るのだ。

国を纏め上げるのには協力してあげたいが……あの国内の異様な神聖視には俺は耐えきれる気がしない。

悪いが知らない振りを決め込ませてもらう。

「アベル……絶対、あの国は行っちゃダメですよ。多分サーテリアさん、国のためだけじゃなくて絶対本気でアベルに好意持ってますもん! メアにはわかります」

メアに横からぎゅっと手首を掴まれた。

「……というより、サーテリアちゃんはリーヴァラス教国が大好きで、アベルちゃんのことを本気で国の希望として見ている節があるのよ。サーテリアちゃん、国のためなら何でもやる割には、政略結婚だけは退けてるみたいなの」

「え……それって、どういうことですか?」

「メドの騒動の際にも、強引にアベルちゃんを教皇にしようとしていたことがあったでしょ? 多分アベルちゃんがのこのこリーヴァラス教国に向かったら、なし崩しに結婚させられて、教皇の夫としてそのまま国の重鎮に仕立て上げられかねないわよ」

ペテロが淡々ととんでもないことを口にする。

「さ、さすがのサーテリアさんでも、そこまではしないでしょう……」

「するわよ。ぶっちゃけ、アベルちゃん抱え込んだ国が勝ちみたいなところあるもの。自国の権力者と結婚させるのが一番奪うのに手っ取り早いんだから、サーテリアちゃんなら絶対そう考えてるわよ」

……い、いくらなんでも、過大評価が過ぎるのではなかろうか?

「話を戻すけれど……ワタシは各国の権力者に顔が利くから、裏のルートを使ってマハラウン王国やガルシャード王国の上層部にも連絡を取って、戦争の要因になりそうなものを取り除いていたのよ」

ペテロはそう言って、マハラウン王国とガルシャード王国の現状について語り始めた。

ペテロの話によれば、マハラウン王国は国トップである五大老の一人に、シルフェイムの分霊であるジームが紛れ込んでいたようだ。

ジームはペテロと繋がっていた五大老のリムドを地下牢に幽閉し、他の五大老を脅迫して実質的なマハラウン王国の支配者となっていたらしい。

ペテロはシルフェイムの死後に、どうにか逃げ出していたらしいリムドと連絡を取ることに成功し、他の五大老にもシルフェイム騒動についての説明を行っている段階であるようだ。

今の段階では、シルフェイムの影響でディンラート王国との戦争が起こる心配はないそうだ。

そしてガルシャード王国は、ジェームが教会を支配して大々的に魔術研究を行っていたらしい。

俺の様な転生魔術師の研究だけでなく、他にも危険な魔術を色々と開発していたようだ。

ジェームが行方不明になった後も彼の計画に便乗して戦争を引き起そうとしていた勢力がいるようであり、中で平和派と戦争派が内部争いを起こしているのだそうだ。

ただ、あまり戦争派の数は多くないらしい。

ペテロは裏で情報を集めながら自分の抱えている組織の魔術師を使って介入しており、まだ完全には終わっていないが、概ね問題は片付いていると思っていい状況にあるようだ。

……あれから一週間だというのに、行動が恐ろしく早い。

正直、俺はペテロのことを少し舐めていたかもしれない。

ディンラート王国の影の支配者というだけのことはある。

相手がジュレム伯爵でさえなければ、他国の上層部に介入して引っ掻き回すくらいのことはお手の物らしい。

「……ただ、その関連で接触した際に、どこから嗅ぎつけて来たのか、リムドの奴も、ガルシャード王国の重鎮も、マーレン族の魔術師とやらに会わせて欲しいって手紙で送ってきやがったのよ。アベルちゃん、しばらく隠れておいた方がいいかもしれないわね」

「マ、マジですか……」

……ひょっとして俺、今、結構危ない位置にいたりするんだろうか。

「物やお金に釣られて、他国にふらふら誘われて行っちゃダメよ。雁字搦めにされて、二度とそこの国から動けなくされるでしょうね」

「気を付けておきます……」

……何にせよペテロの暗躍もあり、四大国の内のリーヴァラス教国、マハラウン王国、ガルシャード王国の三国が、シルフェイムの影響でディンラート王国へと攻撃を仕掛けて来る危険性はかなり薄くなったのだろう。

「そして 天空の国(アルフヘイム) は、 月(ディン) の損壊や王の交代で、ディンラート王国にちょっかいを掛けている場合ではない、と……」

「でしょうね……アベルちゃんがハイエルフの王を連れて帰って来たときには、本当にワタシ、びっくりしたわよ。意味がわからなかったというか、今でも意味がわからないもの」

……そう、俺はハイエルフのクーデター騒動の際、結局オルヴィガを連れ帰ってやったのだ。

あんまりに憐れだったので助けてやったが、正直ちょっと後悔している。

俺が筋肉痛で寝込んでいる間にファージ領で我儘放題を尽くし、酒場で調子に乗って収集家に半殺しにされたと聞いている。

近い内にファージ領からも追い出されるのではなかろうか。