軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

八十九話 赤き夢⑦

俺は手の甲の召喚紋に魔力を込める。

連動して、ヒディム・マギメタルの掴む聖槍の輝きが増していった。

普通に投擲してもシルフェイムは回避できるだろう。

だが、リーヴァイの槍には事象の改変による必中能力がある。

いくらシルフェイムとて避けることはできない。

しかし、シルフェイムの『赤き夢』は、リーヴァイの槍同様に……いや、それ以上の事象改変能力を持つ。

ぶつけて何が起きるのかは、やってみなければわからない。

俺ももう手札がない。

リーヴァイの槍でもどうしようもないのであれば、さすがにもう打つ手がない。

シルフェイムはリーヴァイの槍を睨みながら木偶竜を追って来る。

「行くぞシルフェイム!」

俺は杖を振るい、ヒディム・マギメタルの腕を操る。

リーヴァイの槍がシルフェイムへと放たれた。

光の束と化した槍は、シルフェイムを貫かんと真っ直ぐに迫っていく。

シルフェイムはそれを、身体を大きく反らせて回避してみせた。

だが、当然シルフェイムの顔に安堵はなかった。

リーヴァイの槍の本分がここからだということを、シルフェイムも知っているのだ。

「 ভাগ্য(運命) নড়ন(歪曲) !」

俺は呪文を叫びながら杖を振るう。

六つの大きな魔法陣が浮かび上がった。

地平線の果てへと向かっていたリーヴァイの槍が消える。

シルフェイムの近くに三本の槍が現れる。

一つは頭部に、一つは腹部に、そして一つは胸の『赤き夢』へと突き立てられていた。

俺がゾロモニアを監禁して解析を進め、リーヴァイの槍の『運命歪曲』の力を悪用して編み出した攻撃方法だ。

リーヴァイの槍の『運命歪曲』は新たな事象を造り出してそれを現実に上書きする能力だが、これは三通りの『リーヴァイの槍が対象に命中した』事象を造り出し、その全てを強引に現実へ上書きしているのである。

槍はすぐに一本に戻るが、攻撃が当たったという事象は消えない。

シルフェイムは三つの目玉を見開く。

『貴様……!』

三本の槍はそのままシルフェイムの各部位を貫き、海に大穴を開けて落ちて行った。

轟音と共に海水が舞う。

高く跳ね上げられた海水は嵐となり、周囲を激しく荒らした。

無論、木偶竜の結界には入り込むことはできないし、シルフェイムもこんな嵐程度で力を落とす様な相手ではないのだが。

シルフェイムは、リーヴァイの槍の事象改変能力を『赤き夢』で掻き消すことはしなかった。

少なくとも、今の瞳の開き具合ではできないらしい。

シルフェイムが『赤き夢』の力を使いこなせていないことは明らかだ。

事象改変に事象改変で迎え撃つような器用な真似は今の段階ではできないのだ。

シルフェイムの巨体が海へと落ちた。

さすがに今のダメージはシルフェイムにとっても軽視できないはずだ。

その瞬間……視界の全てが揺らぐのを感じた。

幻覚か何かかとも思ったが……それとも少し違うように思う。

すぐに視界が揺らぐのは落ち着いたが、不快な感覚と、言い知れぬ不安感が残っていた。

『なぜだ……アベル・ベレーク……!!』

シルフェイムの姿が海を脱し、再び空へと浮上する。

僅かに貫いた痕は残っていたが、既に顔や胸、胴体に受けた外傷を再生していた。

もっとも、精霊体は削れたはずであるし、膨大な魔力も消耗しているはずだ。

それに何より、またシルフェイムからの距離も取れた。

『なぜ、私の『赤き夢』を貫いた!?』

シルフェイムの胸部の『赤き夢』の瞼が痙攣し、僅かに上がった状態で止まった。

開き具合は、三割……といったところか。

今シルフェイムは『赤き夢』の力を使っていなかったはずだが、やはり胸部への直接攻撃は『赤き夢』を叩き起こすことに繋がるらしい。

『私とて世界を消滅させるつもりはない! 貴様は世界を滅ぼすつもりか!』

「決まってるだろ? 俺はそれをよく知らないんだから、攻略しようと思ったら多少危なくても色々と試していくしかないだろ」

『な、なんだと? 何度も言うが『赤き夢』は覚醒へ向かうたびにその力を強めるが、完全に目が開いた段階であらゆる世界の全てが消滅するのだ! 私へ攻撃すること自体そうだが、当然『赤き夢』への直接攻撃は、『赤き夢』の目を覚まさせることへと繋がる! それがわからぬのか!』

「その危険物を作った奴がギャーギャー騒ぐなよ! 迷惑してるのはこっちだ! 世界諸共消えたくないなら、とっととその物騒な化け物引っ提げて安全なところに引きこもっていやがれ!」

俺は腕を掲げる。

リーヴァイの槍が、ヒディム・マギメタルの腕へと戻る。

俺は召喚紋に魔力を込める。

リーヴァイの槍が再び眩い光を纏っていく。

『貴様ァ!』

「俺はそんなもの使って脅しを掛けられたって絶対に退かないぞ! 退くのはお前の方だ!」

リーヴァイの槍を投擲する。

今回は最初から当てに行かず、海へと放り投げていた。

どうせ普通に投げたって当たるわけがないことはわかっている。

「 ভাগ্য(運命) নড়ন(歪曲) !」

再び三本の槍がシルフェイムを貫いた。

今回も一本はきっちりと『赤き夢』を貫通してやった。

『アベル・ベレークゥゥウウウ! この狂人めがああああ!』

シルフェイムが叫ぶ。

今回は海には落ちなかった。

体勢を崩しながらも強引に飛行を続け、身体を凄まじい速さで修復して飛行を維持していた。

それから……すぐにまた、アレが来た。

世界が少し歪み、すぐに元通りになった。

『赤き夢』の瞼が痙攣し、収まった頃には半分近く持ち上がっていた。

頭痛がした。俺の魔力も、底を尽きかけている。

アベルノコギリの時点でそうであるのだが、『運命湾曲』による三重攻撃も、決して日に何度も使うことを想定した魔術ではなかった。

そもそもが、オルヴィガと戦い、メビウスと戦い、ジュレム伯爵達と戦った後なのだ。

『さすがの貴様も、限界が近……』

俺は腕を掲げた。

ヒディム・マギメタルの腕に再びリーヴァイの槍が戻った。

「確かに限界は近いが……このペースなら、お前のその悪趣味な二つ目の顔を吹っ飛ばす方が遥かに早そうだな!」

リーヴァイの槍に三度目の光を宿して投擲する。

リーヴァイの槍の素晴らしいことの一つは、投げた後にすぐ手許に戻せることだ。

「 ভাগ্য(運命) নড়ন(歪曲) !」

リーヴァイの槍が、三方向からシルフェイムを挟み込む。

『図に乗るなニンゲンがぁああああああ!!』

シルフェイムの巨体が揺らいで消えた。

槍は空を貫いて飛んでいく。

リーヴァイの槍をやり過ごしてから、シルフェイムの姿が空中に戻った。

……ついに『赤き夢』の精度が上がって、リーヴァイの槍を躱せるようになったか。

事象改変を行った代償か、また僅かに瞼が持ち上がっていた。

今で……開き具合は六割といったところか。