軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十六歳④

結界の掛かった部屋に籠り、悶々と悩んでいた。

呻きながらベッドの上で蹲っていたら、落ちて横っ腹を打ちつけた。

悩み過ぎたストレスのせいか、謎の腹痛に襲われた。

起き上がって考えていたら、なんとなく手持無沙汰な気がして衝動のままにオーテムを重ねてタワーを作ったら自分に倒れかかってきて死にかけた。

かれこれ六時間引き籠ったのだが、何もいい手は思い浮かばなかった。

手は思いつくが、どう足掻いてもジゼルが可哀想な感じにしかならない。

なんかもう別にジゼルと結婚してもいいんじゃなかろうかと、そこまで思い始めてきた。

今は抵抗があるが、多分慣れるだろう。

世の中、そんなものだ。シビィには謝ろう。

いや、しかし……本当に、それでいいのだろうか。

今までずっと危惧していたことなのだが、ジゼルはほとんど俺に依存状態にある。

なんなら俺が自分のことが見えていないだけで、共依存の説もある。

ジゼルは生まれてからほとんど俺に付きっきりだったのだ。

今のブラコン振りも、俺以外とまともな関係を築いていなかったが故のことだろう。

だいたいマーレン族の悪習と、それに大して気を留めなかった俺が悪いが。

ひょっとしたらご先祖様が重度のシスコンだったのではないか説が俺の中で芽生え始める。

要するに、ジゼルは視野が狭かっただけなのだ。

ジゼルももっと周りに目を向けてさえいれば、他に好きな相手もできていたはずだ。

前世の記憶が残っている俺とは違い、ジゼルにとっては俺と暮らして来た十四年間がすべてなのだから、ひょっとしたら思い入れにも差異があるのかもしれない。

あまり考えたくないことではあるが。

ジゼルは、魔術引き籠りの俺以上に排他的だった。

ジゼルにとってシビィもフィロも、兄と知り合い程度の認識でしかなかったように思う。

本来ならばもっと早めに手を打つべきだったのだろうが、暢気にも俺は『俺の妹が可愛くて困る』程度にしか考えていなかった。

馬鹿だった。

もうちょっと踏み込んで考えれば、文化の違い、意識の違いにも気付ける機会はいくらでもあったはずだった。

今までなぁなぁで流されてきた俺が、今更言える立ち場でないことはわかっている。

わかってはいるが、だからこそ、それをこのまま引き延ばしておいていいものでもないだろう。

このままだとジゼルは、本格的に俺以外と関わりを持たないようになる。

長期的に見れば、絶対それはいいことにはならない。

……この集落を、出よう。

それしかない。

父は式を強行する気満々だし、マーレン族の文化を妄信しているので俺がどれほど言っても聞き入れてはくれないだろう。

おまけにジゼルも完全に乗り気だ。

元より、前々から集落の外の世界を見てみたいと思っていたのだ。

寂しくはあるが、丁度いい機会だったのかもしれない。

集落の決まりでは禁じられているが、悪いが破らせてもらおう。

俺は目を瞑って宙を切り、先祖の霊に祈った。

マーレン族の集落での悪事は、だいたいこれで許してもらえる。

我らの先祖は寛大なのだ。

俺は太いオーテムを机代わりにし、紙に字を書いた。

父と母と、それからジゼルへの置き手紙だ。

ジゼルに対して妹としての感情しか持てないことと、そのことに対する謝罪、またジゼルが俺に依存していることへの不安などを書き綴った。

そして最後に、『俺が外で結婚するか、ジゼルが結婚した知らせを聞いたら帰ってくる』と付け加えておいた。

……一旦部屋の外に出て、長旅の準備をするか。

この付近の簡単な地図も、族長の屋敷にはあったはずだ。

あれを失敬させてもらい、一番近い都市へと向かおう。

移動にはオーテムトロッコを用いればいい。

早速、保存食や金に換えられそうなものを積み込んでいかなければならない。

出るのは早い方がいい。

時間が経てば決心が揺らぎかねないし、父に勘付かれたら板に縛って固定されかねない。

それにジゼルに泣きつかれたら、多分俺は折れる。

机の中に手紙を隠し、俺は部屋を出た。

「兄様、ようやく出てこられましたね! だ、大丈夫ですか? やはり顔色があまり……」

部屋の前には、ジゼルがいた。

入ったのは六時間以上前だったはずだが、ずっと扉の前で張っていたのだろうか。

以前ならば愛らしいで済ませられたが、やっぱりこれはよくない。絶対よくない兆候だ。

「ちょ、ちょっと、族長のところへ行ってくる」

「でしたら、私も付き添います!」

「……いや、複雑な話でな。俺一人で行かせてくれ」

「え……」

ジゼルの表情が凍り付く。

しまったか。

今までジゼルに聞かれて不味い話など何もなかったので、わざわざ外させたことなど一度もなかった。

せいぜいこの間、ジゼルについて父に相談しようとしたときくらいである。

「……実は、最近の父に、少し思うところがあってな。それについて、族長と話をしたいんだ。ジゼルがいると、族長もやり辛いかもしれない」

「父様の……?」

「ああ、そうだ。 香煙葉(ピィープ) の件でな。族長はカルコ家の好き勝手に振り回されていたらしいから、資産によって一つの家に権力が集中するのを怖がっているんだ。……実はこの間、たまたま父の良くない噂を耳に挟んでな。ただの噂……だとは思うが、後ろ暗いことがないからこそ、早い内にしっかりと報告しておく必要がある」

「そう、ですか……こんな、大事な時期なのに……」

ジゼルも心当たりはあったのだろう。

ジゼルはぎゅっと服の裾を掴み、唇を噛む。

……一応は納得してくれたようだった。

罪悪感は凄いが、上手く誤魔化せた。

父を典型的な小悪党に仕立て上げてしまったが、仕方がない。

後になれば、ジゼルもすぐ誤解だったとわかるだろう。

多分あの人は、急に大金が流れてきて周囲にも褒められ始めたので、ちょっといい気になって浮かれているだけだ。

別にそこまで気にするようなことは何もない。

「悪いな」

俺はジゼルの肩に手を置き、その横を通り抜けていく。

「兄様」

数歩ほど離れたところで、呼び止められた。

「なんだ?」

俺は足を止め、振り返る。

落ち着け、俺。ジゼルに勘繰られるようなことはないはずだ。

「だから兄様は……最近、思い悩んでおられたのですね?」

「えっ? あ、ああ……」

まるで確認するような物言いに驚き、思わず舌を噛んでしまった。

大丈夫だ。慌てるな。

後ろめたいことがあるから、なんてことのない言葉ひとつに動揺してしまうのだ。

幽霊の正体、見たり枯れ尾花とは前世でもよく言ったものだ。

脅えていると、なんでも意味を持って見えてしまう。

俺は軽く咳き込み、あれ喉がおかしいな、というふうに動作を取る。

別に後ろ暗いことがあったから言葉に詰まったわけではないというアピールだ。

「…………あ、あ、うん……そう、だぞ……」

「父様が潔白だといいのですが……。では私は、帰りをお待ちしていますね。体調が優れないのは確かなのですから、途中で倒れないよう、お気をつけて。無理はせず、しんどかったらすぐ引き返してくださいね?」

「…………お、おう、おう。心配を掛けて悪いな」

俺は身を翻し、家の外へと出て族長の屋敷へと向かう。

良かった、上手く凌げた。

やっぱり疑いを持たれていたわけではなさそうだ。

それにしても、嘘と演技が通ってよかった。

目を合わせられなかったのでもう駄目かと思ったが、ジゼルは気に留めてはいなさそうだった。

気になるのもその点くらいだ。

こういった駆け引きの得手は前世の経験の差なのかもしれない。

都会に行ったら、名役者を目指してみるのも悪くないか。

こっちの世界にそういった文化がどの程度の地位を持っているのかが気になるところではあるが。