作品タイトル不明
七十一話 太古の破壊者メビウス①
俺は木偶竜で移動しながら、オルヴィガをオーテムで囲んで尋問を始めることにした。
腐ってもハイエルフの王だ。
今は素直に従ってこそいるが、どこまで本気なのかはわからない。
途中で裏切ってくる可能性だって充分にある。警戒するに越したことはない。
オルヴィガは床に正座しながら首を回し、自身を取り囲むオーテムを眺めてから俺へと視線を戻した。
「……余に神託について聞きたいことがあるという話だったな。しかし、有益な情報が得られるとは期待せんことだ。シルフェイム様の神託というのは、余らハイエルフの一部にシルフェイム様の思念より齎される予言のようなものである。だが、断片的で抽象的なものであり、余らもその全貌を掴めているわけではないのだよ。わかるか?」
「前置きはいい、その神託で何を聞いたのかを教えろ」
「マーレン族の小僧が 天空の国(アルフヘイム) に入り込まないように気をつけろ、と……それだけだ。貴様の期待する様なものは何もない。さぁ、わかったならば早く余を解放するがいい。無駄に余を連れ回せば、それだけ 天空の国(アルフヘイム) から憎しみを買うことになると思え……」
オルヴィガが淡々と言う。
「そのオーテム、嘘発見器にもできるんだが、試してみるか? 判別方法が少々過激で、お前の顔の形が変わるかもしれないが」
「……そういえば、『人の姿を借りた精霊がドゥーム族の女を連れて現れるので、それを国内に招き入れよ』という神託もくだっていたな。あ、後は『終わらない 月祭(ディンメイ) が始まり、ハイエルフは地上を克服する。戦争の準備を進めろ』といったものもあった」
滅茶苦茶具体的じゃないか……。
こいつ、誤魔化せそうならシラ切って通すつもりだったな。
……しかし、恐らく空神シルフェイムの神託というのも、ジュレム伯爵のでっち上げではないだろうか。
神を偽称して民を支配するのも、戦争を引き起こそうとするのも、偽リーヴァイのときと完全に同じ流れだ。
「さ、さぁ、正直に話したぞ! 余を解放しろ!」
「……その精霊とドゥーム族の女の子は、神託通りにこの地を訪れたのか?」
「あ、ああ、そうだ。余の前にも姿を現した。精霊は背の低い女で……向こうから正体を明かすまでは精霊だとは気づけなかったがな。ドゥーム族の女は意識がないようであったがな」
背の低い、女……。
ジュレム伯爵一派の中で当てはまるのは、俺を騙してメアを誘拐し、俺の封印したシムを持ち逃げしたシェイムだけだ。
……あいつとも決着をつけるときが来たらしい。
「で、その精霊はどこへ向かったんだ」
「そ、それは……すぐに消えたので、どこに向かったのかは把握できていない。しかし、何か手掛かりがあったような……」
俺は杖を掲げた。
オーテム達がオルヴィガへとにじり寄る。
「し、神託! 神託では、魔法樹アルベリュートの許へ向かうと!」
魔法樹アルベリュート…… 天空の国(アルフヘイム) の象徴ともいえる、あの馬鹿でかい樹のことか。
そこへ向かってみるしかないか。
あまりにオルヴィガが頼りないので、ジュレム伯爵のフェイクではないかという疑いもあるが……現状では他に手もない。
しかし、できれば情報に裏付けが欲しいな。
「魔法樹アルベリュートは大きすぎる。あれの、どこにいるんだ? そして、魔法樹アルベリュートに向かったのは何のためにだ? 何か意図があるはずだろ?」
「え、えっと……そこまでは……」
俺が杖を掲げようとすると、オルヴィガは短い悲鳴を上げて身を縮めた。
「し、知らないものは知らない! そうだ! その木偶人形の嘘発見器で確かめればよいではないか! 余が、精霊が魔法樹アルベリュートに向かう目的を本当に知っているのかどうか!」
「いいかオルヴィガ、オーテムにそんな便利な機能はない」
「貴様この余を謀ったか! 余を侮辱するのも大概にせよ!」
オルヴィガが顔を赤くして床を殴った。
俺はオルヴィガを杖先に捉える。
オルヴィガは素早く手を隠すように引っ込めた後に、諂う様な笑みを浮かべた。
必死か。
「知らないなら考えろ! 一万年間生きて来た知識があるんだろうが!」
「なんという傲慢な! 許してくれ……余は一万年の大半を、玉座に胡坐を掻いて美女と戯れて来たのだ……。よくよく考えろマーレン、そんな余に何を期待する?」
きゅ、急に卑屈になりやがった。
こいつ、とことんプライドがないのか。
本当にハイエルフなのか?
そのとき、遥か空から耳障りな轟音が響いて来た。
目を向ければ、 月(ディン) が信じられないほど大きくなっている。
空の一角を占めていた。このまま地上へと落ちてきかねないのではないか、と錯覚させられてしまう。
「デ、 月(ディン) は、ここまで近づくのか……?」
俺が見上げていると、オルヴィガがはっと表情を変えた。
「こ、この感じ、星々をこの地へ呼び寄せる、シルフェイム様の魔術に違いない! 恐らくあの精霊が……シルフェイム様の命令を受けて、 月(ディン) に最も近い魔法樹アルベリュートの頂上付近にて魔術を行使しているのだ! そ、そうだ、そうに違いない!」
……さっきの、オルヴィガが隕石を落とした魔術か。
「となれば、魔法樹アルベリュートにある旧大神殿に違いない! 頂上に向かえば、すぐに見えて来るはずだ!」
「魔法樹の上に、そんな建物があるのか。さすが馬鹿みたいに大きいだけはあるな」
「さあ、今度こそ余の知っている有益なことは全て話したはずだ! 余を解放しろ!」
俺は首を振った。
「駄目だ、悪いがこのままついて来てもらう」
「な、なんだと!」
「お前、杖も今持ってないだろ? わざわざお前を地上に降ろしてやるだけの時間は俺にはない。叩き落してもいいならすぐにでもそうしてやるけど……」
「余が下に出てやれば調子づきおって! この短命種の下等生物めが! さすがの余も我慢の限界というものだ!」
オルヴィガが握り拳を作って立ち上がる。
俺はオルヴィガに杖を向けた。
「しかし、もうちょっとだけ我慢してやろう!」
オルヴィガは大人しくその場へと座った。