軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六十一話 火の国からの来訪者⑪(side:収集家)

収集家は息を荒げ、肩を上下させていた。

目に掛かった血を拭い、そうしてジームへと歯を剥いて笑う。

「……どうした? 終わりか、下級精霊」

ジームはしばらくそのまま静かに横たわっていたが、唐突に身体が痙攣し始め、奇怪な動きで起き上がった。

精霊であるジームにとって、容姿や身体の構造など、人間を模して造ったものに過ぎない。

力の源である精霊体の損傷が激しくなれば、人間らしく振る舞う余裕もなくなる。

立ち上がったジームの身体中に浮かぶ瞳が、収集家を睨んだ。

「ニンゲン如きが、舐めてくれるな。私は、まだまだ動けるぞ。お前はもう、虫の息のようだがな」

ジームの言葉通り、収集家も既に限界であった。

アムリタの摂取によって得た再生能力も、さすがに底をついている。

魔力も『 王神竜の咆哮(バハムートロア) 』の連射でほとんど残っていない。

「わ、私もいるんだから、あまり舐めてくれないことね!」

アルタミアはジームへと接近し、十の炎球を宙へと浮かす。

ジームはそれを、身体中の目で退屈そうに眺める。

「音はこっちだ! 警戒しろ!」

女の声が響く。

団長のユーリスに続き、軽装の鎧を纏った、ラルクの私兵団が姿を現した。

「シュ、シュウさん!」

私兵団の間を潜り抜け、一人の少女が前に出ようとする。

私兵達が慌てて彼女を止めていた。

「こ、こら! ついて来るなと言っただろうが!」

「でも、私、シュウさんに謝らないと……! シュウさんっ!」

少女は酒場『小人の隠れ家』の看板娘、エーラであった。

兵士と押し合いながら、収集家へと必死に声を掛けようとする。

「エ、エーラか……? バカが、何をしておるのだ!」

「村の私兵か。雑魚が、何人来ようとも……」

続いて、オーテムを手にした錬金術師団の面子が現れる。

「リノアさん、本当にこれ、意味あるんですか!」

「アベル団長が彫った奴だから、扱えなくてもハッタリにはなる……はず……」

アルタミアに押し出され、副団長から一般団員に落とされたリノアが、他の団員を指揮していた。

オーテムを見たジームの顔が曇る。

錬金術師団の前に、長身の男が立った。

顔の上半分は仮面に隠れており、長い髪は背へと垂れている。

「これはこれは……原型はほとんどないけれど、ワタシの目は誤魔化せないわよ。マハラウン王国の、ジーム五大老じゃないの。国のトップが、汚らわしい精霊だと知れたら、大事になるわねぇ。ところで、何をしにきたのかしら?」

「ペテロまでおるのか」

ジームは鬱陶しそうに口にする。

「全員殺してやってもよいのだが……本来、ここまで力を使う予定ではなかったのでな。止めだ、収集家如きを相手に、粘られ過ぎたわい」

精霊は高位のものほど、魔力の回復が人間よりも遥かに遅いのだ。

ジームは本来、とっとと収集家を片付けて塔の情報を回収するつもりであった。

しかし、収集家が予想外の耐久力を見せたために、引き際を見誤ってしまっていた。

「またジレメイム殿に皮肉を言われてしまうの。今回は、引いてやろう。だが……この私相手に、上手く凌ぎ切ったなどと思わんことだ」

「逃げるのか? 強がりを……」

「強がり、などではない」

ジームが大きく口を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべる。

「近い内に、マハラウン王国の全兵力を以て、ファージ領を焦土へと変えてくれるわい。こんな土地……ひっそりと兵器だけ回収できればどうでもよかったのだが、既にそういうわけにはいかんようだな。少し前倒しになるが、世界戦争を再来させようではないか」

「生ける者は全て蹂躙され尽し、命も尊厳も全てを奪われる。その最初の舞台が、ここファージ領となるのだ。収集家……お前がなまじ私を退けたからこそ、そうなるのだぞ? 貴様らの言う通り、私は精霊だが……リムド五大老を監禁し、マグラ王を傀儡とした私には、世界戦争を引き起こすだけの権力がある。後悔するがいいぞ、収集家よ」

ペテロが前に出て、ジームへと指を突きつける。

「残念ねぇ……こっちの地には、アナタの狙っていたアベルちゃんの遺産に、クゥドル神だってついているのよ! マハラウン王国如き、叩き潰してやるわ! 相手を見てから喧嘩を売ることね!」

ペテロは前のめりになり、ジームを挑発する。

彼の側近のミュンヒはそれを止め、庇う様に前に出る。

「落ち着いてくださいペテロ様! それに、アベル様は死んではいません!」

「死んだようなものよあのドクズ! 一番大事な時にどこ逃げやがったのよ!」

ペテロがその場で地団駄を踏む。

ジームの身体中に開いた目が閉じ、根の様に身体中に張った筋が薄れて、四本の腕が彼の身体に戻る様に消えて行った。

「私が何の準備もしていないとでも思ったか? マハラウン王国では、対クゥドル用人工精霊を何体も用意しておる。せいぜい、余生を悔いのなきように過ごすことだ!」

ジームは笑い、地面を蹴って大きく飛び、その場を去った。

ペテロは彼が去った先を、顔を真っ青にして睨んでいた。

「リムドの奴……あれだけ大口叩いておいて、監禁されやがったのね。五大老の座に精霊が入り込んでいたなんて、ワタシも思いもよらなかったけれど……」

収集家はジームの姿が見えなくなった後に、剣を落とし、その場に膝を突いた。

それを見たエーラが、私兵の合間を潜って収集家へと駆ける。

「シュウさん! い、いや、死なないで……!」

エーラは収集家の肩を抱き着くように支える。

収集家は彼女の様子を数秒ほど呆けた様に見ていたが、すぐに不機嫌な顰め顔を作る。

「纏わりつくでない、鬱陶しい! 血がつくぞ!」

「す、すぐ、村に戻って治療しないと……!」

「この程度の傷は、唾でもつけておればすぐ治るわ! それに我は、村に戻る気は……!」

そこまで言い、収集家の頭にジームの言葉が過ぎった。

ジームは近い内にファージ領へマハラウン王国の戦力をぶつけると、宣言している。

収集家は守るために戦ったに過ぎないが、このままでは結果として被害が大きくなることも容易に想像がついた。

「仕方あるまい……もう少しだけ、村におるしかないか」

収集家は小さく、そう零した。

「早く戻ってラルク男爵に伝えなさい! あいつらは、やるって言ったら本気でやるわよ! ワタシも、王家や繋がりのある貴族に連絡を取って、できる準備を進めるわ! こうなった以上、返り討ちにしてやるのよ!」

ペテロがヒステリックに叫んだ。