軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五十六話 火の国からの来訪者⑥(side:収集家)

収集家はアルタミアを押さえつける矮躯の老人――ジーム――へと接近し、剣の大振りをお見舞いする。

ジームは素早く起き上がり、身体を極端に反らして大振りを回避し、回り込む様に収集家へと肉薄して拳を構える。

「ヒホホホホ……見えすいた剣であるな、おお、あまりに不格好……速度はなかなかだが、技量が未熟すぎる。所詮は、ただの人間といったところか。宝なき今、リムド殿の方がまだマシか」

ジームが下品に笑いながら、収集家の胸部へと腕を伸ばす。

だが、それが届くより先に、収集家の掌底が彼の顔面へと到達していた。

「な……!」

「バカめが、誘い手に乗りおって!」

凄まじい破裂音が響き、ジームの小柄な身体が宙を舞った。

顔面が、収集家の掌の形に大きく凹んでいた。

ジームは宙で身体を回し、離れたところで着地する。

「魔女め、たかだかマハラウン王国の偵察兵などに後れを取りおって」

収集家が退屈そうに零す。

アルタミアは身体を起こしながら、彼へと忠告する。

「アイツ、精霊よ! それも、生半可な奴じゃないわ! 自身の精霊体を自在に動かして、受けた衝撃をどこへでも逃がすことができるのよ! 今のが当たったのも、アイツが戦闘態勢に入ってなかったからよ!」

ジームは自身の顔に手を翳す。

顔面の窪みが、綺麗になくなっていた。

「ほう、確かに人間ではないらしい」

収集家に向けられたジームの瞳には、先程までの嘲弄の色が消えていた。

殺気と苛立ちを乗せた視線を収集家へと向けていた。

「まさか、お前が出張ってくるとは思わんかったぞ。自分に利がなければ動かん男であったはずだが……」

「利ならある。貴様らが、不愉快なのでな。全員潰しておいてやろうと、先程決めておいたのだ」

収集家が獣の様な笑みを浮かべる。

ジームは身体の関節を鳴らし、深く呼吸を行い、掌を前に出して構えを取る。

彼の全身に、びっしりと細かい、植物の根の様な筋繊維が浮かび上がった。

全身の精霊体を魔力で強化した際の姿である。

この異形の間、ジームはあらゆる方向から受けた衝撃を好きな場所へと返す、『龍流し』が可能となるのだ。

「わらわらと、雑魚共が寄って来よるわ。兵器の前で、あまり暴れたくはなかったのだが、仕方あるまい。なに、すぐに片づけてやる」

ジームが前に出たのに合わせ、収集家も前へと跳んだ。

宙で、収集家の剣とジームの手が交差する。

収集家の振るった刃を、ジームは伸ばした人差し指の爪先で止めていた。

それだけで収集家は容易く力負けし、地上へと背から叩き落された。

その上からジームが、収集家の胸部へと手刀を叩き込もうとする。

収集家は咄嗟に腕を伸ばして拳での反撃を行い、見事ジームの頬をカウンター気味に捉えた。

だが、殴った側であるはずの、収集家の拳が砕けた。

皮が裂けて派手に血が舞い、勢いよく横へと弾かれ、関節を破壊する方向へと捻じ曲げられる。

ジームは、植物の根の走る不気味な顔に、満面の笑みを浮かべていた。

頬に受けた殴打の衝撃を、そのまま収集家の拳へとお返ししたのだ。

ジームはそのまま膝を曲げ、収集家の腹部を踏み抜こうとする。

収集家は咄嗟に身体を捻じってそれを回避した。

ジームの膝を起点に地面が裂け、辺りに振動が走る。

収集家は牽制気味に刃を振るいながら起き上がり、背後へ跳んでジームから距離を取り直す。

「随分と脅えておるではないか? ん? 先程までの威勢はどうしたというのだ?」

笑うジームに対し、収集家は無言で剣を構える。

「剣じゃ通らないわよ! 私が魔弾で攻撃するから、気を引いておいてちょうだい!」

アルタミアの周囲に、十二の炎球が浮かぶ。

「邪魔だ魔女、下がっておれ! 貴様などでは話にならんわ!」

収集家がアルタミアを恫喝する。

アルタミアはそれを無視し、腕を降ろした。

十二の火の球が、次々にジームへと殺到していく。

ジームが地を蹴って跳ぶ。

一瞬の間に、大きく離れた所へと位置を変えていた。

火の球は、彼から大きく離れたところへと落ち、地面を削っていく。

「は、速……!」

これではいくら隙を突こうが、当たるわけがない。

アルタミアだけではなく、収集家の目線もジームの動きに対応しきれず、遅れていた。

収集家の眉間に脂汗が垂れる。

「アルタミアよ、お前に見せたのが、私の限界だとでも思ったのか? どうだ? これがこの私の、最高速度だ」

もう一度ジームが地面を蹴る。

次は、アルタミアの背後へと移動していた。

掌底が、アルタミアの背へと迫っていた。

「えっ……」

寸前のところで、横から跳んできた収集家の肩がジームの掌底を受け止めた。

だが、肩が抉れ、血だけではなく肉片が飛んだ。

収集家は激痛に歯を食い縛る。

手にしていた剣が、地面へと落ちた。

「収集家、アンタ……!」

「バカめ! 邪魔をするなと言ったであろうが!」

収集家はその体勢から器用に腰を捻り、自身の肩の関節を外して曲げ、ジームの腰を両手でがっしりと掴んだ。

「ぬ……剣はこのために、敢えて落としたのか?」

「ハアアアアッ!」

収集家は、とにかく遠くへとジームをぶん投げた。

投げ技であれば、自身へ衝撃を返される心配はない。

豪速で一直線に投げられたジームは、崖壁へと、顔面より身体を打ち付けた。

崖が崩れ、土砂の塊がジームへと落ち、轟音が響いた。

「お、終わった……?」

アルタミアが呟いた正にその直後、土砂が割れて中からジームが姿を現した。

「ヒホホホホホホホホホホホ! 今更この私が、こんなもので死ぬとでも、本気で思ったのか? しかし、思ったよりやるではないか収集家ァ!」

ジームが狂笑を上げながら、再び収集家の許へと豪速で駆けて来る。

距離があるからこそ、ジームの異様な足の速さが明白にわかった。

「邪魔だ魔女、とっとと失せよ。貴様は場違いだ」

アルタミアは何かを言いたげに口を動かしたが、結局は黙って頭を下げた。

実力不足なのは明らかであった。

「……アンタ、思ってたよりいい奴ね。死ぬんじゃないわよ」

「勘違いするな。我は、半端が嫌いなだけだ」

アルタミアは宙を舞い、ジームとは反対方向へと逃げていく。

収集家は地面に刺さった剣を掴んで引き抜き、ジームへと向き直る。

「……あの村の者は守ってやってもよいかと、頭を掠めたところだったのでな。ここで引けば、我にその力がないと認めたことになる」

一人零し、迫ってくるジームへと剣を構えた。