軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五十三話 火の国からの来訪者③(side:ジーム)

アルタミアが腕を振るう。

彼女の背後に聳える二つの金属製の十字架は、上に乗った意識のない僧兵をその場に振るい落とし、大きな球体と三角錐へとそれぞれ形を変えた。

「ほう、 幻の銅(オレイカルコス) の塊を操るとは、面白い。さすがは魔女アルタミアよ」

ジームが笑う。

アルタミアの操る球と三角錐の二つの金属の塊は宙を舞い、ジームを間に挟んで大きな円を描く様に回る。

「下っ端とアンタの恰好を見るに、マハラウン王国の魔術師かしら? どういうつもりでここに攻め込んできたのかは知らないけど、私の魔力波塔をどうこうするつもりなら、生きて帰れるとは思わないことね!」

二つの金属塊がジームへと飛来していく。

「……ふむ、あの円塔を持ち帰るには、少々時間が惜しいな」

ジームは呟くと指を鳴らし、地を脚で強く踏んで両の手のひらを左右に向けて構えを取る。

彼の全身に、びっしりと細かい、植物の根の様な筋繊維が浮かび上がった。

両側から挟み込んだ二つの金属塊は、ジームと接触した瞬間、それぞれに向きを逆にし、来た方向へと跳ね飛ばされて行った。

球と三角錐は地面を削り、木をなぎ倒して突き進む。

「グロ……アンタそれ、魔力の身体強化の一種よね? どう身体を弄ったらそうなったの?」

アルタミアは軽口を叩きながらも、内心動揺を覚えていた。

幻の銅(オレイカルコス) の比重は、数存在する魔金属の中でも最上クラスに入る。

この球と三角錐はどちらも全長三メートル程度の大きさではあるが、この大きさで、全長五十メートルの大型ドラゴンにも迫る重量を有している。

動作が直線的になりやすい分、通常の戦士の反応限界を超えた速度で動くことができ、最高速度での運動量は大型ドラゴンの一撃をも超える。

例え魔力で肉体を強化したとしても、易々と弾けるものではないはずなのだ。

リーヴァラス王国からの刺客であったラスブートは、呪術で強化した肉体を用いて力押しで軌道を逸らす離れ業を見せたが、ジームはそんな次元ではない。

両側から接近させた二つの 幻の銅(オレイカルコス) 塊を弾き飛ばすとなると、武術という枠をとっくに超えている。

「……アンタ、ペルテール卿が警戒してた、ジュレム伯爵の関係者ね?」

ラスブートも人間の域を脱した化け物であったが、ジームはそんな生温いものではない。

こんな桁外れな人間が、そう何人といるはずがない。

だとすれば、出自はおのずと限られてくる。

マーレン族ではないので、アベルの親族だとも思えない。

「驚いたか? 我が完成させた武術の極みは。本来は貴様程度には使うまでもないのだが、ありがたく思うがよい。時間もないのでな、全力で相手をしてやろう」

ジームは異様な外見を保ったまま、こきりと首を鳴らし、アルタミアへと近付いていく。

「さすがに、力だけで押しきれたわけがない……。あの妙な軌道といい、何か、カラクリが……」

そう考えたとき、アルタミアの脳裏に過ぎるものがあった。

百年近く前、アルタミアが自身を人工精霊化するよりも以前に、マハラウン王国の僧兵と戦う機会があった。

その際に『鬼流し』という、自身の受けた打撃衝撃の一部を、壁や地面に逃がしてダメージを軽減する技を用いる僧兵がいたのだ。

仮にジームの使った技が『鬼流し』の上位に当たるものであり、自身の受けた衝撃を完全に他の物体へと移すことができるのだとすれば、 幻の銅(オレイカルコス) 塊の飛んでいった軌道にも納得がいく。

ちょうど、飛来していた方向とは正反対の同等の力を受けた様な動き方だったのだ。

通常ならば荒唐無稽な考えではあるが、それ以外に説明がつかない。

「……でも、そんなことをしたら、衝撃が駆け巡って身体の中の骨や内臓がグチャグチャになるはず。複雑な動物の体内で、衝撃の分散を完全にゼロにするなんてできるわけがない。人間だったら、ね」

アルタミアの言葉に、ジームが口端を吊り上げた。

「……アンタ、私と同じ人工精霊ね」

精霊体の塊であれば、受けた衝撃に応じて体内を自在に作り変えることができるのは不思議ではない。

アルタミアには緻密な内部構造の変形による衝撃の運搬などという離れ業は全く再現できないが、理屈としては納得ができる。

ジームの異様な姿も、単なる魔力による身体強化ではなく、人間の武術を強引に模して魔力で精霊体を活性化させたものだと考えれば筋が通っていた。

アルタミアの言葉に、ジームは顔を醜く歪ませ、猿の様な顔で笑う。

「ヒホホホホホ! 人工精霊とは、笑わせてくれる。私を人外と見抜いたのはさすがだが、その様な歪な存在と間違えられるのは、あまりに不快!」

ジームが地を蹴り、アルタミアへと迫ってくる。

アルタミアは周囲に十二の炎の球を浮かべ、腕を前へと突き出した。

十二の炎の球がジームへと向かう。

「でも、さすがに熱量は返せないでしょう!」

ジームは右へ左へと跳びながら前進し、あっさりと炎の球の連弾を躱していく。

まるで当たらない。動きが素早過ぎて、フェイントや駆け引きでどうにかなるレベルを大きく超えている。

「うっ……」

アルタミアが後ろへ浮遊してその場を離れようとしたとき、ジームが彼女の視界から姿を消した。

アルタミアが周囲に視界を走らせてジームの姿を捜したそのとき、彼女の後頭部を何者かが鷲掴みにし、そのまま一気に下降して地面へと叩きつけた。

「残念であったな、橙の魔女。ただの火の球でこの私を仕留められると思ったか?」

アルタミアの頭を掴んでいたジームが、顔を近づけて彼女の顔を覗き込む。

「ちょうどいい人材が手に入ったわい、ヒホホホ。ああ、私はついておるぞ。あの魔術狂いより、塔のことを聞いておるのだろう? ちょいとこの私に、案内してもらえぬか?」

「……馬鹿なのね、アンタ。あんな爆弾下手に動かしたら、アンタ達が欲しがってるこの星丸ごと、時空の歪みに落としかねないわよ」

「抵抗するのはよいが……実は私は部下を、あと二人ほど村に向かわせている。果たして村に、私の部下と戦える者はいらっしゃるのですかなぁ? 早く戻らねば、ファージ領は死体の転がる地になりますぞ? んん?」

ジームはアルタミアの耳に顔を近づけ、わざとらしい猫撫で声でそう言った。

「アンタッ……! 天然の精霊を自称する割には、随分と狡い真似をするのね! だから、この塔はまともに触っていい代物じゃあなくて……!」

「それを決めるのは、私だ。さあ、早く私が満足する様に案内すればよい。塔の理論さえ手に入れば、貴様を解放してやろうといっておるのだよ私は」