軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三十八話 破壊の王者①

一時期、港都市ラダムは大混乱に陥っていた。

当然である。上空に現れた強大な球体が、突如無差別石化魔法を放ったのだから。

俺が素知らぬ振りをしてすぐさまその場を離れたこともあり、結局シムの正体は分からず仕舞いとなっている。

一種の謎の悪魔の襲来として大騒ぎになったものの、実害がほとんど皆無であったことと、商人達の利益に大きく関わることであったことから、船の出航はたったのニ時間遅れで決行されることとなった。

「……来てくれたのに、悪いな、シビィ、それから、リルちゃん。俺はそろそろ行くよ」

マーレン族の占術師の家系のリルが、ぶすっとした顔で俺を睨んでいた。

……元々面識はなかったはずだが、あまり快くは思われていないようだった。

シビィもはぁぁあと深い溜め息を吐く。

「事情はわかりましたけど……ジゼルちゃんが起きたら、なんて言い訳したらいいんですか……」

「仕方がないだろ? さっきも言った通り、今の俺はこの国を牛耳ってるペテロと、守護神のクゥドルと、あっちこっちに政治干渉してるジュレム伯爵から目をつけられてるんだ。悪いが、ほとぼりが冷めるまではこの国から離れさせてもらう」

「……その人たち自体は知りませんけど、アベルさんがいつも通り全方位に火の球ぶつけたことはわかりましたよ。ああ……集落の中ならカルコ家だけで済んだのに、外に出て変なところに喧嘩を売るから……」

シビィがうんざりとした目で俺を見る。

べ、別に、俺が余計なことしたわけではないからな?

向こうから来てこっちを追い込んでいった結果、というだけだ。

「一応……護衛オーテム三つ置いておくから、なるべく離れないようにしておいてくれ。また、ジュレム伯爵の一派が来るかもしれない」

俺はシム石を軽く宙に投げて手遊びしながら答える。

石を手に取り、ポケットに仕舞った。

正直なところ砕いて捨ててしまってもいいのだが、何かに使えるかもしれないので一応持っておこう。

「……改めて、二回目になっちゃいましたけど、エリアさん、ありがとうございました」

エリアに、二度目となる別れの挨拶をした。

シェイムにもしたかったのだが……謎の悪魔騒動の中で、気がついたらいつの間にかいなくなっていたのだ。

捜してみたのだが、まったく手掛かりもなく、先にジゼルとの話し合いをしている間に姿を見せるかと思っていたのだが、結局最後まで現れなかったのだ。

あの人もあの人で不思議な人だった。

急用でもできたのだろうか?

何か、妙なことに巻き込まれていなければいいのだが……。

船の中から、そろそろ出発するぞ、という声が聞こえて来る。

俺は少し背伸びをして街の方を見た。

「……アベルさん、ジゼルお姉ちゃんなら、宿で休んでいるから来ませんよ。あたしも、挨拶はしたのでもう戻りますから」

リルが目を細めて言う。

「あ、ああ……」

……船が出航するまでのニ時間の間に、面と向かってジゼルに、俺の考えと置かれた状況を話したのだ。

ついていく、とごねられるかもしれないと覚悟していたのだが……ジゼルは自分がシムに利用されたせいで俺を殺しかけたと考えているらしく、そのことが尾を引いているのか、あっさりと身を引いてくれた。

だが、俺の口からはっきりとジゼルの願いを否定したことと、シムの裏切りによる傷心もあってか随分と精神的に疲労しているらしく、すぐに宿のベッドで休むと言い、見送りにも出てこなかった。

「辛いから見送りには出ないと、ジゼルお姉ちゃんははっきりと言っていましたから」

リルの声が冷たい。

「そ、そっか……ご、ごめんな」

「いえ、別にあたしに謝られても何がって感じですけどね」

「そ、そうだよな……」

この子、怖い……。

いや、だいたい俺のせいなのはわかってはいるのだけれども。

メアもエリアも、恐ろしく気まずそうな顔を浮かべている。

船に乗り込もうとしたとき、離れたところから、ジゼルが壁に半身を隠しながらこちらの様子を窺っているのが見えた。

「ジ、ジゼル!」

俺は思わず走って、ジゼルのところへと駆けた。

リルが凄まじい顔で俺を睨んでいた。

「に、兄様……」

ジゼルが泣き腫らした目で俺を見る。

俺はそっとジゼルの頭に手を置いた。

「……ごめんな、ジゼル。そう遠くない間には、きっと帰ってこれるからさ」

「…………はい、兄様。私、ずっとお待ちしていますから」

少し、沈黙が生まれる。

「その……本当に、ついてこなくていいのか?」

連れて行きたいわけではないが、ジゼルの性格ならきっと食い下がってくると思ったのだ。

「……後で、そう後悔するかもしれませんね。ですが、今は、割り切れそうにありませんので」

ジゼルが俺の背後を見る。

少し離れたところから、不安そうに俺を見るメアの姿があった。

「そ、そうだよな、悪い……」

俺は頭を下げる。

船へと乗り込もうとしたとき、シビィがぐっと親指を突き出し、俺に腕を向けた。

「大丈夫ですよ、アベルさん! ジゼルちゃんは、俺が幸せにしますから!」

「シビィ……」

俺は少し考えてから、そっと腕で十字を切った。

「……ごめん、シビィが義弟はやっぱり嫌だわ」

「なんでですかぁ! 断る流れじゃなかったのに! なんでですかぁ!」

「……あたしも、シビィさんがジゼルお姉ちゃんとくっ付くのは、イヤっていうかムリ」

「リッ、リルちゃん!?」

――こうして俺は、港都市ラダムを後にした。

後はこのまま船に乗り、ガルシャード王国まで向かうだけだ。

あそこならばペテロの手は届かないし、クゥドルも下手には動けない。

……問題なのは、ジュレム伯爵だが。

シムはガルシャード王国でジレメイムの研究が行われていると零していた。

それどころではなかったのであまりしっかりとは聞いておらず、今思えば惜しいことをしたが……ともかく、連中がガルシャード王国にも根を張っていることは、間違いないだろう。

とはいえど、そこまでは事前に想定したことだ。

ジュレム伯爵の仲間らしい大精霊シムは倒したことで、これで俺に関わるのを損と見て手を引いてくれるのか、それとも余計にマークしてしつこく攻撃に出てくるのかはわからない。

海原を見ようとメアと並んで甲板を歩いていると、横から声を掛けられた。

「メアちゃん、アベルちゃん」

顔を見れば、デッキの手すりに背を預けるシェイムの姿があった。

「やほっ」

「なんだ、シェイムか」

俺は笑って流した後、ふと彼女とは都市ラダムで別れることになっていたという当たり前のことを思い出した。

「な、なんでシェイムがここに!?」

「シェイムさん、見つからないと思ってたらどこにいっていたんですか!?」

俺もメアもさすがに驚いた。

急に消えたと思っていたが、まさか先に船に乗り込んでいたとは考えもしなかった。

「ふふ~ん、驚かそうと思って。アタシもこっそり話し通して、入れてもらえることにしたんだ。国外行ってみたかったし、アベルちゃんが外で何するのかも不安だしね~」

シェイムが意味深な笑みを浮かべて俺を見る。

べ、別に俺は、そんな妙な行動を起こすつもりはないんだけどな。

「でも、よかったんですか? シェイムさん、魔術そんなに使えるとは言ってませんでしたし、護衛枠から外れるから凄くお金取られたんじゃ……」

「だいじょーぶ、結構お金持ってたから。それに、アタシはアタシのやりたいようにやるだけだからね」

シェイムが得意気に笑う。