軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三十一話 ジゼル襲来②

メア、シェイム、エリアと共にファージ領を離れた俺は、港都市ラダムへと無事に辿り着いていた。

到着した日にシェイムの協力もあり、目的の明日出航の商船の責任者に話を通し、護衛の魔術師の一人という枠で入れてもらうことができた。

シェイムから聞いていた話通り、航海は長期に及ぶため、厄介な魔獣と出会うリスクが高いにも拘らず護衛の魔術師はいつも最低人数ぎりぎりになってしまうらしい。

喜んで枠に入れてくれた。

一応実力が水準に達しているのか知りたいので冒険者支援所の証明書の様なものがないかと言われたが、残念ながら俺はロマーヌの街で冒険者をしていた頃にはガストンに功績を流し、ファージ領ではどちらかといえば管理側のラルクについていたので、その手の便利な証明書は持っていなかった。

少し拗れそうになったが、最終的には海にアベル球を撃ち込んでいるところを見てもらい、無事に乗船許可を勝ち取ることができた。

無事に許可が降りてからはガルシャード王国への出航に備えてしっかり休み、翌日はせっかくなので港を回って観光し、海岸では今世初の釣りを楽しんでみた。

前世では一応中学生の頃に釣りの経験がある。

アマゾンで半魚人の様なUMAが釣れたと聞き、土日に付け焼刃で釣りの基礎を調べ、学校に無断で一か月近く旅行に向かったのだ。

現地では父親の友人だったらしい人の世話になった。

あのときは毎日釣り漬けだったが、結局半魚人もカッパも釣ることはできなかった。

以降、釣りを行ったことは一度もない。

エリアの釣った海フォーグにメアの護衛オーテムが反応し、海フォーグが水平線の彼方まで蹴飛ばされる事件が起きたが、まぁそれを除けば平和な一幕であった。

ラダムにあるレストラン『海見鳥亭』にて釣った魚で料理を作ってもらい、ディンラート王国最後の食事を堪能してから港へと向かった。

まだ出航まで時間は大分あったが、余裕を見て動いておいた方がいい。

「これでしばらく、メアちゃんとアベルちゃん見なくなっちゃうのかー、あー、アタシ、寂しいなぁー」

シェイムがからからと笑いながら言い、メアの背に抱き着いていた。

「んぎゅーっ!」

「シェッ、シェイムさん! 放してください!」

ぱたぱたとメアが手をもがかせる。

「なにー? メアちゃん恥ずかしがっちゃって! うりうりうり! これで最後だから堪能していくもーん!」

「い、いえその、アベルからもらったメアについてる護衛オーテムが、反応するかもしれなくて……!」

シェイムがばっとメアから距離を置き、手を前に突き出して構えた。

「……その二つの木偶人形、やっぱりそんなに危険なの?」

「大丈夫だ、メアに害意を向けていなければ反応しないはずだ」

「あれ、今なんだかアタシにはめっちゃざっくりしてるように聞こえたんだけど!? アベルちゃんが複雑な状況らしいのは薄々わかってるから、余計なことは言わないけどさぁ!」

シェイムががしがしと髪を掻き、溜め息を吐いた。

「いや、凶器や速度、魔力の流れから判断していて、信憑性は高いはずだ!」

「こんなに小っちゃい、小型種の海フォーグに誤作動してなかった!?」

シェイムが二本の指をくいくいと動かす。

しかし、シェイムなら、他の国でもあっさりと再会したりしそうで怖い。

彼女の行動力が尋常ではない。

シェイムは最近ようやく冒険者で一番下から一つ昇級したと喜んでいたが、彼女ならもっと他に向いている仕事がありそうな気がする。

「お客さん達がいなくなるのは寂しい」

エリアは無表情な顔の眉根を僅かに寄せる。

「エリアさん……」

「数歩下がったところから眺めているのは面白かったから」

「そ、その言い方は酷くありません?」

エリアは俺の顔を見て口元を隠し、肩を僅かに震わせて笑う。

この人は最初に会ったときは冷淡な雰囲気の人だと思っていたが、少し話せば、顔に出ずやや口下手なだけで、長話や冗談が好きなのだとわかる。

俺はマイゼンとゼシュム遺跡に向かう際に、彼女の馬車に乗せてもらったときのことをぼんやりと思い出す。

余裕があれば、マイゼンとも顔を合わせたかった。

またいつか機会はあるのだろうか?

「……ただ、王都から移動したときみたいに、馬車ごと怖い人に追いかけられるのはもう勘弁してほしい」

完全な真顔だった。これは冗談ではない方の奴だ。

俺も真顔になった。

「あっ、はい、すいませんでした……」

俺はあのときの追跡者、ダルドワーフの末裔、騎士ブライアンの黒い岩塊の様な姿を思い出す。

あの人ならばタックル一つで馬車を粉砕できただろう。

恰好がつかなくなったので、俺は咳払いを挟む。

「……それじゃあ、顔合わせがまだの人も多いから、俺達はそろそろ船に行こうと思う。シェイム、エリアさん、本当に今までありがとう。またどこかで会えたら、そのときに改めてお礼がしたい」

最後に握手を交わしあった。

シェイムがメアと手を握る際に護衛オーテムを注視していたのを笑ったら、腹に重めの手刀をくらってしまった。

……しかし、去ると思うと、寂寥感が増してくる。

ディンラート王国に俺が帰るためには、クゥドルとジュレム伯爵の争いが終わっていることが必須条件だ。

争いの最中ならば、クゥドルはメアを処分したがるだろうし、ジュレム伯爵は何かに利用しようとするだろう。

クゥドルがあっさりとジュレム伯爵を片付けてくれて、なおかつ俺にそんなに恨みを抱いていなければいいのだが。

ロマーヌにも、ファージ領にも、またいつか顔を合わせたい人がたくさんいる。

それに俺が不甲斐ないばかりにペン爺も囚われたままだ。

ペテロは狡猾だが馬鹿ではない。

例えジュレム伯爵の騒動が落ち着いたとしても、ペン爺を牢で捕え続けるより、俺との交渉で持ち札にすることを選ぶはずだ。

ペン爺を助ける機会は必ずある。

それに俺が面白半分で考えなしに突っ走った結果、余計な騒動を起こしてしまい、未だに王女の騎士、もとい望まぬ宮廷道化と化してしまったガストンも、ガストンも……。

「いや、ガストンはいいか」

「アベル、何か言いました?」

「なんでもない」

一番引っ掛かっているのはマーレン族の皆だ。

そろそろ一度帰れるかもしれないと思っていたのだが、こんな結果になってしまった。

だが、いつかはきっと帰る。

手紙にもそう書いたし、フィロとも改めてそう約束したのだ。

ジゼルは今頃、何をしているだろうか?

ジゼルには本当に酷いことをした。国外へ向かう前に一度会って、しっかり話しておきたかった。

「……兄様、ですよね。間に合って本当によかったです」

ふと、ジゼルの声が聞こえた気がした。

いや他人の空似という奴だろう。或いは、ジゼルのことを考えていたせいで、脳が勝手に似ているふうに捉えてしまったのかもしれない。

声の方を見る。

ジゼルと、その横にマーレン族の少女が一人、後ろにジゼルから見えない位置でしゃっしゃと忙しなく十字を切るシビィの姿があった。

ジゼルの大きな目が、しっかりと俺を捕らえていた。

俺は咄嗟にメアの手を取り、反対方向へと逃げた。

「お、お客さん、船あっち! そっちじゃない!」