作品タイトル不明
三十話 ジゼル襲来①
「アベルちゃんも思い切ったことしたね~。メアちゃんを守るために、築いてきた成果と地位を捨てるなんて、男らしいとこあったんだ。アベルちゃん、団長の座とあの領地にあった変な塔にもっと固執してると思ってたもん」
シェイムがからからと笑って俺をからかう。
「メアちゃんも幸せ者だね~」
シェイムがうりうりとメアを肘で突く。
「ちゃっ、茶化さないでください……シェイムさん」
メアが顔を赤らめて蹲る。
俺はその様子を苦笑いしながら眺めていた。
俺はエリアに馬車を動かしてもらい、メア、シェイムと共にファージ領を後にしていた。
……誰が信頼できるのかわからなかったし、相談相手がペテロやアルタミア、ラルクに行き先を伝えてしまう可能性を考えて、本当は誰にも明かさないつもりだった。
ただ、俺が移動に魔術を使おうとすればどうしても大掛かりになってしまうし、ペテロが前々から危惧していた通りに最悪戦争の引き金となりかねない。
そのため国内の移動には馬車が、国外への移動には船が必要だった。
エリアに頼んで港都市まで移動して、その先でどうにか行き先を見繕うつもりだったのだが……運が良かったのか悪かったのか、俺がこそこそ隠れて準備を進めているところを世話焼きのシェイムに気取られてしまったのだ。
シェイムは地理にも詳しく、向かう先やルート、どこを出ればどこの国に行けるのかを詳しく教えてくれた上に、他の用事があったにも拘らず、俺達へと同行を申し出てくれた。
今はシェイムの案で、港都市ラダムより、ガルシャード王国へと向かうことになっている。
最初に想定していた都市よりも少し遠いが、一日都市で休めば翌日に出向する商船があるそうだ。
腕の立つ魔術師ならば、護衛として手放しで受け入れてもらえるだろうとのことだった。
ガルシャード王国は土の神ガルーシャを国教としており、長く他の国とも対立したことのない、温厚な地であるという。
……ペテロはガルシャード王国がジュレム伯爵の手先の傀儡国家になっている可能性を危惧していたが、それを考慮すれば五大国のすべてがきな臭くなってしまう。
ディンラート王国も、国を牛耳るペテロが必死に動いた挙句、ジュレム伯爵から思い通りに動いてくれてありがとうと煽られる始末であったのだから、実質奴の傀儡であったといえる。
そういった面では既に事件が終わったリーヴァラス教国も候補ではあったのだが、俺が今あちらの国へ亡命すれば余計に事態が拗れかねないという危惧があった。
陸続きである上に、恐らくあの国に俺が行けば、何かしらの理由で悪目立ちしてしまう。
「…………」
考えごとをしている俺を、シェイムがじっと観察していた。
「どうしたんだ?」
「……でも、本当に、あの地を出てよかったの?」
「え……」
普段、忠言も茶化した様にしか口にしないシェイムが、硬い表情で俺に問う。
「領地を出るルートの助言をしたのはアタシだったけど、あんな兵器をいくつも用意していたんだから、何か、大事な理由があったんじゃあないの? 離れてよかったの?」
……魔力波塔を見学しているシェイムはただ燥いでいるだけの様に見えたが、俺も色々と話してしまっていたし、さすがに気が付いていたか。
彼女が察しが良すぎるのは前々から知っていたが、周囲の不安を煽らないようにするためにも、もう少し隠すなり偽装した方がよかったかもしれない。
最悪の場合、ラルクが謀反扱いされ……は、しないか。
ペテロがついているのでいくらでも握り潰してくれるだろう。
「……それに関しては、あんまり俺から勝手に口出しできないんだ。ただ……その、引き継ぎはきっちりと残したから、他の奴がいつか形にしてくれるはずだ」
木偶竜ケツァルコアトルの機動魔法陣もしっかりと残している。
アルタミア辺りなら多分動かせるだろう。
あれなら十全に動かせれば、魔法を縛りプレイした状態のクゥドル相手ならば長時間戦い続けられるだけの戦力にはなるはずだ。
少なくとも、龍脈ありの偽リーヴァイくらいなら時間を掛ければ倒すことができるし、龍脈なしの偽リーヴァイなら三分掛からず消し炭にしてやれる想定である。
ジュレムが隠し玉の戦力をぶつけてきても、クゥドルと手を組めばまず負けることはないだろう。
「引き継ぎ、きっちり……?」
シェイムが眉間に皺を寄せる。
「そうですよ! アベルはしっかり考えた上で動いてるんです!」
メアが俺に追従する。
そうだ。俺だって、考えなしにジュレム伯爵を野放しにするつもりではない。
ただ、いつ裏切られるかわからない状態で、ペテロやクゥドルに身を預けることはできなかった。
クゥドルもペテロも、いざとなればメアを殺して解決しようとするだろう。
俺の残した兵器さえあれば、充分借りは返したことになるはずだ。
木偶竜ケツァルコアトルは、クゥドルの様な奴さえいなければ、その気になれば世界を統一できる代物である。
あれをクゥドル、ペテロの制御下に残した時点で十分な貢献である。
「そ、そう……そっか、それならいいんじゃない? アタシは詳しく知らないから首突っ込むのもなんなんだって話だしね」
シェイムがやや引き攣った顔を横に逸らした。
「……それに結局メイン戦力に考えていた、あの前に見せた奴が、やっぱり倫理的観点から造れないかなって答えになっちゃってな」
「倫理的……観点?」
シェイムが訝しむ様に俺を見る。
メア、言ってやれ。俺だってそのくらいは持ち合わせている。
「アベル、それを理由に開発を中止したんですか? 他の理由があったんじゃないんですか?」
メアが俺の身体を揺すり、心配そうに問いかけてくる。
お、俺はいつも倫理を鑑みて『まぁここまではセーフだろう』というところで抑えているつもりなんだけどな……。
魔力波塔は途中の必要な実験を全て熟すためには、どう被害を抑えようとしても、ディンラート王国を百回以上消滅の危機に晒すことになるのだ。
無論、一回一回の可能性は限りなくゼロに近いはずだが、俺も全ての王国民の命をベットに絶対に見落としがないとは言い切れない。
十回くらいなら突っ込んでみるかとも思えるのだが、流石にこの数は俺も悩んでしまう。
あの塔には既に色々と仕込んではいたが、諦めてただの 魔導電話(マギ・フォン) の補助に徹するしかないだろう。